今回は金属元素のひとつ「クロム」をテーマに紹介していきます。
クロムは錆びにくく使いやすいステンレス鋼の原料として使われている。
工業的にも重要なクロムは、テストでも時々出題される元素でもあるぞ!

今回は「クロム」の特徴とテストで出題されるポイントを化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

クロムとはどんな金属?

image by iStockphoto

クロムは原子番号24の遷移金属元素で、元素記号はCrと書きます。酸化すると様々な色を呈色することから、ギリシャ語の「chroma、色」にちなんで名づけられました。単体のクロムは銀白色の金属で硬く、融点は1907℃、沸点は2671℃です。工業的に非常に重要な金属元素で、私たちの生活になくてはならないステンレス鋼の原料として使われています。

国内で使われる金属クロムのうち95%は鉄鋼分野(ステンレス鋼)の原料として使われているそうです。「どうしてステンレス鋼にクロムが必要なのか」と疑問に思うかもしれませんが、その答えは後から紹介していきます。

まずは、ステンレス鋼の原料のクロムがどこで産出されているんでしょうか。日本でも生産しているんでしょうか?次は、クロムの産出国をチェックしていきましょう。

クロムはここで産出されている

Chromium crystals and 1cm3 cube.jpg
Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) - 投稿者自身による作品, FAL, リンクによる

ここからは、クロムの産出国をチェックしていきましょう。クロムの産出国は世界で見ると、非常に偏りがあります。2019年の国別クロム産出量を見てみると、1位は南アフリカ、2位はトルコ、3位はカザフスタンでした。しかし、南アフリカの生産量が圧倒的に多く、トルコとカザフスタンの生産量をあわせても南アフリカの生産量に届きません。

南アフリカ1ヵ国だけで、世界の生産量の50%以上を占めているんです。

そのため、クロムは「産業上重要性が高いが、産出地に偏りがあり、供給構造が脆弱である」とされ、レアメタルに分類されています。ちなみに、クロムは日本では産出されておらず、100%輸入に頼っている状態です。南アフリカとカザフスタンが主な輸入先となっています。

クロムの用途をご紹介

ここからは、クロムの用途をご紹介していきます。そのあと、代表的な用途を詳しくご紹介していきますね。

・ ステンレス鋼の材料

・ ルビー、エメラルドの原料

・ 色を付けるための顔料

・ 生体に必須なミネラル

ステンレス鋼の原料に使われるクロム

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クロムの重要用途がステンレス鋼の素材でした。そもそもステンレス鋼とは、どのような材料かご紹介していきますね。ステンレス鋼はwikipwdiaでは次のように紹介されています。

\次のページで「クロムを混ぜると錆にくい?」を解説!/

ステンレス鋼(ステンレスこう、英: stainless steel)とは、鉄に一定量以上のクロムを含ませた、腐食に対する耐性を持つ合金鋼である。規格などでは、クロム含有量が 10.5 %(質量パーセント濃度)以上、炭素含有量が 1.2 % 以下の鋼と定義される。

 

クロム以外にもニッケルやマンガンを混ぜる、各元素の含有量を調整することで様々な物性を持つステンレス鋼が開発されていますが、鉄にクロムを混ぜることがステンレス鋼のベースです。

どうしてクロムを混ぜることがそれほど大切なのか、疑問に思いませんか。その理由は、錆びにくい特徴を発現させるためにクロムが必要だからです。

クロムを混ぜると錆にくい?

クロムを混ぜると錆にくい?

image by Study-Z編集部

クロムは酸化すると、酸化クロムを生じます。酸化クロムがステンレス鋼を錆にくくさせるポイントです。酸化クロムは安定な膜を形成する特徴を持ち、この膜を不動態被膜と呼びます。ステンレス鋼は酸化クロムの被膜が全体を覆っているため、内側の鉄が錆びにくいんです。

実はステンレス鋼が錆びにくいのにはさらに理由があります。注目してほしいのは、不動態被膜が傷つきはがれてしまった時。ステンレス鋼内部にはクロムが混ざっていましたよね。傷ついた部分の表面にあるクロムが空気中の酸素で酸化することで、不動態被膜を修復できます

これが、ステンレス鋼最大の特徴の錆にくいを発現するための方法であり、ステンレス鋼にクロムが必要な理由です。

あの宝石にもクロムが含まれる!

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実は、鉱石がクロムが含有することで、キレイな宝石になることもあります。その宝石が「ルビー」と「エメラルド」です。ルビーは酸化アルミニウムの結晶構造中に0.5~1%のクロムが入り込むことで鮮やかな赤色に発色します。また、エメラルドも緑柱石(Be3Al2Si6O18)の結晶構造中にクロムやバナジウムが1%程度含まれると、鮮やかな緑色に発色するんです。

鉱物の結晶構造中に遷移金属元素が含有すると、様々な色に発色します。今回はルビーとエメラルドを例にして紹介しましたが、ほかの宝石でも含有する遷移金属元素が変わるだけで、原理は同じ。遷移金属元素が結晶構造中に含有されることで、結晶内のエネルギー値が変化し、可視光線を吸収するんです。吸収されなかった光が私たちの目に届き、色がついて見えます。

ルビーは赤色以外の光を吸収するため、赤色に見え、エメラルドは緑色以外の光が吸収されるので、鉱石は緑色に見得るんです。

テストでよく出る?クロムに関する出題ポイントを紹介

無機化学を勉強している高校生なら必ず見たことがある「定性分析」。実はクロム(Ⅲ)イオンも時々、定性分析の陽イオンとして問題に出題されることがあります。頻出の元素ではないですが、たまに出題されるので、どのタイミングでどうやって分離するのか。しっかりチェックしておいてください!

今回は定性分析がどんな分析方法でどんな操作を行うかは省略させていただきます。クロム(Ⅲ)イオンの分離方法と検出方法をご紹介していきますね!

クロム(Ⅲ)イオンはNH3由来の弱塩基性条件で水酸化物として沈澱します。同じタイミングで沈澱する金属元素はアルミニウムです。沈殿物は緑色の水酸化クロムとして分離することができます。

\次のページで「強力な酸化剤として使われる「ニクロム酸カリウム」とは?」を解説!/

強力な酸化剤として使われる「ニクロム酸カリウム」とは?

Potassium-dichromate-sample.jpg
Benjah-bmm27 - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

クロムは酸化剤としても使われます。それがニクロム酸カリウムです。カリウムとクロムの酸化物のニクロム酸カリウムは強力な酸化剤として出題されます。

酸化・還元について、詳しくは別の記事でご紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。ニクロム酸カリウムの半反応式はぜひ書けるようにしておいてください!六価のクロムが三価のクロムへ還元されることで反応が進んでいきます。

テストではよく出題されるニクロム酸カリウムですが、六価のクロムは環境への負荷が大きく、発がん性など人体にも有害なので、特別は場合を除き実験室でも使われません。

工業的に超重要金属「クロム」の特徴をチェック

今回はステンレス鋼の原料「クロム」の特徴をご紹介しました。クロムはステンレス鋼の特徴を発現させるためにも必須な元素で、レアメタルにも指定されている金属元素です。さらに、宝石のキレイな色もクロムが混じることで呈色しているものもあるんですよ。

テストで出題されることは少ない元素ですが、無機化学の定性分析の問題では、時々狙われる元素なので、ぜひチェックしておいてください!

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化学理科

クロムとはどんな金属?実はステンレスに必要な素材だった!理系ライターが詳しくわかりやすく解説!



今回は金属元素のひとつ「クロム」をテーマに紹介していきます。
クロムは錆びにくく使いやすいステンレス鋼の原料として使われている。
工業的にも重要なクロムは、テストでも時々出題される元素でもあるぞ!

今回は「クロム」の特徴とテストで出題されるポイントを化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

クロムとはどんな金属?

image by iStockphoto

クロムは原子番号24の遷移金属元素で、元素記号はCrと書きます。酸化すると様々な色を呈色することから、ギリシャ語の「chroma、色」にちなんで名づけられました。単体のクロムは銀白色の金属で硬く、融点は1907℃、沸点は2671℃です。工業的に非常に重要な金属元素で、私たちの生活になくてはならないステンレス鋼の原料として使われています。

国内で使われる金属クロムのうち95%は鉄鋼分野(ステンレス鋼)の原料として使われているそうです。「どうしてステンレス鋼にクロムが必要なのか」と疑問に思うかもしれませんが、その答えは後から紹介していきます。

まずは、ステンレス鋼の原料のクロムがどこで産出されているんでしょうか。日本でも生産しているんでしょうか?次は、クロムの産出国をチェックしていきましょう。

クロムはここで産出されている

Chromium crystals and 1cm3 cube.jpg
Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) – 投稿者自身による作品, FAL, リンクによる

ここからは、クロムの産出国をチェックしていきましょう。クロムの産出国は世界で見ると、非常に偏りがあります。2019年の国別クロム産出量を見てみると、1位は南アフリカ、2位はトルコ、3位はカザフスタンでした。しかし、南アフリカの生産量が圧倒的に多く、トルコとカザフスタンの生産量をあわせても南アフリカの生産量に届きません。

南アフリカ1ヵ国だけで、世界の生産量の50%以上を占めているんです。

そのため、クロムは「産業上重要性が高いが、産出地に偏りがあり、供給構造が脆弱である」とされ、レアメタルに分類されています。ちなみに、クロムは日本では産出されておらず、100%輸入に頼っている状態です。南アフリカとカザフスタンが主な輸入先となっています。

クロムの用途をご紹介

ここからは、クロムの用途をご紹介していきます。そのあと、代表的な用途を詳しくご紹介していきますね。

・ ステンレス鋼の材料

・ ルビー、エメラルドの原料

・ 色を付けるための顔料

・ 生体に必須なミネラル

ステンレス鋼の原料に使われるクロム

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クロムの重要用途がステンレス鋼の素材でした。そもそもステンレス鋼とは、どのような材料かご紹介していきますね。ステンレス鋼はwikipwdiaでは次のように紹介されています。

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