突然ですが皆は塩が水に溶ける理由を知っているか?
水が塩に溶ける現象にはイオンというものが関係している。今回は陽イオン、陰イオンという二つのイオンについて原理や考え方を、塾講師として化学を指導した経験がある理系ライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。四力学を中心に、情報科学や材料の物性といった分野についても学んだ。塾講師時代に化学教科の指導を多数経験しているため、化学に関する知識も深い。

そもそもイオンって何?

陽イオン・陰イオン。この言葉に聞き覚えはあっても、実際何なのかいまひとつパッとしない人もいるのではないでしょうか。そこで、陽イオン・陰イオンの解説に入る前に、まずイオンとは何なのか解説していきましょう。

原子や分子というのは、+の電気も-の電気も帯びていない中性の状態が普通です。しかし、何かしらの要因によって原子や分子に電気のバランスがかたよって、+もしくは-に帯電してしまうことがあります。イオンとは、このようにどちらかに帯電してしまった状態の粒子のことです。

イオンは+もしくは-に帯電しています。では、どのような流れで原子や分子が帯電してしまうのでしょうか。引き続き、原子や分子が帯電する理由について見ていきましょう。

イオンの発生と原子の構造の関係

image by iStockphoto

イオンができる原理について理解するためには、原子がどのような構造をしているのかについて理解が必要です。

原子は、+に帯電している陽子と帯電していない中性子からなる原子核の周りを、-に帯電している電子が飛び回っている構造をとります。原子が持つ陽子の数と電子の数は等しいので、原子全体で見ると帯電はしていません

電子は原子核に近い側から電子殻というグループごとにまとまっており、電子殻に入る電子の数は以下のように決まっています。

電子殻のルール

K殻(一番内側):電子数2個

L殻:電子数8個

M殻:電子数8個

以下N殻、O殻……と続いていく

\次のページで「陽イオン・陰イオンの違い」を解説!/

一番外側の電子殻の電子を最外殻電子とよび、実はこの最外殻電子がイオンができる理由につながっています

陽イオン・陰イオンの違い

原子の構造がおさらいできたところで、イオンのできる原理、また陽イオンと陰イオンの違いについて深く見ていきましょう。例として、ナトリウム原子および塩素原子がイオンになる過程を考えてみます。

image by Study-Z編集部

科学現象にはなるべく安定した状態を保とうとする傾向があり、原子においても例外ではありません。原子にとって安定した状態とは、最外殻電子が全て埋まっている状態であり、できる限りその状態に近づこうとします。

そのため、状況によってナトリウム原子は最外殻にある1個の電子を捨ててしまうことがあるんです。この状態では陽子11個に対し電子が10個となるため、1個分だけ+の電気が優勢になります。このように+の電荷を帯びた粒子が陽イオンです。

逆に塩素原子の場合、安定した状態には電子1個分足りていません。そのため、取りやすい電子があると1個奪い取ってしまい、1個分だけ-の電気が優勢になります。このように-の電荷を帯びた状態の粒子が陰イオンです。

陽イオン・陰イオンの表記のしかた

陽イオンおよび陰イオンは、原子や分子が元の状態から+もしくは-にいくら帯電しているか、式の右上に記す表記法をとり、この方法で書かれた式をイオン式といいます。

例として、ナトリウム原子Naがイオン化したナトリウムイオンは+の方に1個分優勢なのでNa+、塩素原子Clがイオン化した塩化物イオンは-の方に1個分優勢なのでCl-というかたちです。これらのイオン式の右上の数字をイオンの価数といい、+1および-1となったときの1は省略します。

今まで単一の原子のみからなるイオンのみ紹介しましたが、複数の原子から構成される多原子イオンも一般的です。アンモニアNH3に水素イオンH+が結合したアンモニウムイオンNH4+や、水素イオンH+と酸化物イオンZn2-が結合した水酸化物イオンなどがあります。

また価数でまとめて、○価の陽イオン(もしくは陰イオン)と表す方法もよく使われていますね。例えばナトリウムイオンNa+は1価の陽イオン、塩化物イオンCl-は1価の陰イオンとなります。

陽イオン・陰イオンの見分け方は?

イオンができる理由や原理についてはもうバッチリですね。しかし、具体的に各原子や分子がどれだけ帯電して陽イオンもしくは陰イオンになるか判断するのは難しいと思います。どの元素がどのようなイオンになるのか見分ける方法はあるのでしょうか。

\次のページで「陽イオン・陰イオンと周期表とのつながり」を解説!/

陽イオン・陰イオンと周期表とのつながり

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陽イオンや陰イオンの見分けるときには周期表が大活躍します。周期表とは元素を一覧で並べたものでよく理科の教科書の巻末などに載っているあの表ですね。

実は、周期表は右上から原子が持つ電子の数(=陽子の数)が多い順に元素が並んでいて、各元素の原子番号と電子数が対応しているんです。例えば右上の水素Hは電子数1、同じ段のヘリウムHeは電子数2、次の段のリチウムLiは電子数3、……と電子数が1個ずつ増えていきます。

さらに、周期表は電子殻毎に区切られていて、格段の右端は殻が電子で全て埋まった、つまり安定した状態の元素のグループなんです。これらヘリウムHeやネオンNeといった右端のグループは貴ガス(または希ガス)と呼ばれます。

貴ガスと陽イオン・陰イオン

貴ガスは最外殻が全て埋まっている元素です。そのため各原子がイオンになるときは、周期表上で自身から一番近い貴ガス元素を基準に電子数が増減します。

例としてナトリウムNaであれば、貴ガスのネオンNeと比べて電子が1個分多いので放出してNa+に、塩素Clは電子が1個分少ないので受け取ってCl-と変化するんですね。

このように、貴ガス元素と比べて、電子数がいくら多いのか、少ないのかを考えることで各原子がどのようなイオンになるか簡単に考えることが可能です。

ただし例外があり、周期表のちょうど中心あたりにある遷移元素というグループは価数が+1~+3のどれかとなります。遷移元素には金属が多く、遷移元素の代表的なイオンは亜鉛イオンZn2+や銀イオンAg+などです。

陽イオン・陰イオンの結合と分離

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ここまでで、陽イオンと陰イオンの原理や見分け方について解説してきました。しかし現実では、私たちはイオン単体の姿を見ることはほとんどできません。最後は陽イオンと陰イオンが、実際にはどのような形で存在しているのか見ていきましょう。

陽イオン・陰イオンとイオン結晶

陽イオンおよび陰イオンは、それぞれ+と-の電荷を持っているため、静電気力によって引きつけ合います。この性質により陽イオンと陰イオンが反応し、規則正しく格子状に配置されてできた物質がイオン結晶です。

イオン結晶について馴染みがないと感じている人もいるかもしれませんが、私たちの生活にとってかなり身近なものもあります。実は、私たちが普段口にしている食塩(=塩化ナトリウムNaCl)は、ナトリウムイオンNa+と塩化物イオンCl-が結合したイオン結晶なんです。

\次のページで「陽イオン・陰イオンの電離」を解説!/

陽イオン・陰イオンの電離

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食塩は水に溶けるように、イオン結晶は基本的には水に溶け水溶液となります。溶けるということはイオン結晶の結合が途切れてバラバラになるということですが、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

答えは水分子が持つある性質にあります。水分子単体で見ると、実は水素原子側がわずかに+に、酸素原子側がわずかに-に帯電している状態なんです。

水中には電気的に偏りがある水分子が無数に散らばっています。そのため+に帯電した陽イオンを酸素原子側が取り囲み、-に帯電した陰イオンを水素原子側が取り囲むかたちで、徐々に結晶からイオンを引き剥がしてしまうんです。

このようにイオン結晶が陽イオンと陰イオンに分かれる現象を電離、水に溶けたときに電離する物質を電解質と呼びます。

イオンとは電気的なバランスが崩れた粒子のこと!

イオンとは電気的に中性でなく、偏った状態の粒子のことです。イオンは、電子が安定した電子数に近づこうとして電子を捨てたり受け取ったりして、電気的なバランスが崩れることで発生します。

+の電荷を持っている粒子を陽イオン、-の電荷を持っている粒子を陰イオンと呼び、周期表の貴ガス元素を基準に考えることで、陽イオン・陰イオンどちらになるかやその価数の判断が可能です。

陽イオンと陰イオンが静電気力で引きつけ合ってできた物質がイオン結晶であり、ほぼ全てのイオン結晶は水中で元の陽イオンと陰イオンに電離していきます。

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化学原子・元素無機物質物質の状態・構成・変化理科

陽イオン・陰イオンって何?違いや原理、見分け方を理系ライターが5分で分かりやすくわかりやすく解説!

突然ですが皆は塩が水に溶ける理由を知っているか?
水が塩に溶ける現象にはイオンというものが関係している。今回は陽イオン、陰イオンという二つのイオンについて原理や考え方を、塾講師として化学を指導した経験がある理系ライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。四力学を中心に、情報科学や材料の物性といった分野についても学んだ。塾講師時代に化学教科の指導を多数経験しているため、化学に関する知識も深い。

そもそもイオンって何?

陽イオン・陰イオン。この言葉に聞き覚えはあっても、実際何なのかいまひとつパッとしない人もいるのではないでしょうか。そこで、陽イオン・陰イオンの解説に入る前に、まずイオンとは何なのか解説していきましょう。

原子や分子というのは、+の電気も-の電気も帯びていない中性の状態が普通です。しかし、何かしらの要因によって原子や分子に電気のバランスがかたよって、+もしくは-に帯電してしまうことがあります。イオンとは、このようにどちらかに帯電してしまった状態の粒子のことです。

イオンは+もしくは-に帯電しています。では、どのような流れで原子や分子が帯電してしまうのでしょうか。引き続き、原子や分子が帯電する理由について見ていきましょう。

イオンの発生と原子の構造の関係

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イオンができる原理について理解するためには、原子がどのような構造をしているのかについて理解が必要です。

原子は、+に帯電している陽子と帯電していない中性子からなる原子核の周りを、-に帯電している電子が飛び回っている構造をとります。原子が持つ陽子の数と電子の数は等しいので、原子全体で見ると帯電はしていません

電子は原子核に近い側から電子殻というグループごとにまとまっており、電子殻に入る電子の数は以下のように決まっています。

電子殻のルール

K殻(一番内側):電子数2個

L殻:電子数8個

M殻:電子数8個

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