皆は水と油がどうして混ざらないのか考えたことはあるか?
水と油が混ざらない理由はそれぞれの性質がかけ離れているためで、具体的には極性というものの有無が大きく関わっているぞ。今回は、そもそも物質が混ざるという現象のおさらいと共に、水と油の性質の違いを理系出身で化学に詳しいライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説する。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。力学をはじめとする四力学や材料の物性について学んだ。塾講師時代の経験から、物理や化学の指導経験を複数もつ。

そもそも物質が混ざるってどういうこと?

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水と油がなぜ混ざらないのかに考えていくまえに、そもそも物質が混ざるとは科学的にどんな現象なのかおさらいしていきましょう。

混ざる(混合)という現象とは、簡潔に言えばある物質内に別の物質が微粒子として分散している状況のことです。分散している微粒子の大きさが一定値以下になると、溶解という現象として扱われます。

一度混ざったコーヒーとミルクが分離しないように、異なる物質は基本的に混ざっている状態が安定的で、混ざらず分離しているのは特殊な状態なんです。このことを示した法則をエントロピー増大則と呼びます。

逆に物質が混ざっていない状況とは、物質が微粒子として分散せず、大きな塊としてまとまってしまっているイメージです。

水と油が混ざらないのは分子間力が異なるから!

もし異なる物質は混ざっている状態が普通なら、水と油はどうして分離してしまうのでしょうか?この疑問のを解く鍵は、分子間力というものにあります。

分子間力とは、分子や原子といった物質を形作る微粒子の間にはたらく力です。世の中の物質は分子間力をはじめさまざまな力により、分子や原子が引きつけ合ってまとまることで形成されています

すべての分子や原子の間にはたらいている引力は、分子間力の一要素です。引力はどんな物質でも誤差レベルの大きさなので、微粒子の分散にほぼ影響を与えず物質は混ざり合います。物質を形成する粒子は、自由に移動できる状態が一番安定するんです。

しかし、水と油の場合ではこのようにはいきません。実は、水分子の間には引力以外の力がはたらいており、水分子は互いに強く引きつけ合っています水と油が混ざらないのは、水分子が強く引きつけ合ってまとまり、結果油が隅に追いやられているためなんですね。

水と油の表面張力と分子間力の関係

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分子間力に差があるために、水と油は2層に分離してしまいます。この状態が水と油にとって一番安定しているわけなんですね。

ここで、水と油の層にできる境界について考えてみましょう。このような異なる物質間にできる境界面を界面、特に空気と液体や固体との境界面を表面と呼びます。

界面付近の水分子については、水分子は互いに引きつけ合い、油とは反応しないので内側に引きつけられる状況です。このように界面は可能な限り縮もうとするので、その表面積が小さくなっていくことになります。

分子間力の作用により、界面の面積を小さくしようとしてはたらく力が表面張力(界面張力)と呼ばれる力の正体です。

空気中の水滴や水中の油滴が球状になっている理由も、表面張力がはたらいていることによります。

\次のページで「水と油の違いはその極性にある」を解説!/

水と油の違いはその極性にある

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chris (vectorisation), Raimund Apfelbach - File:Wasserstoffbrückenbindungen Wasser.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

水と油では、水の分子間力が強い理由は、極性というものが関わっています。

極性とは分子全体で見た電荷のかたよりのことで、実は水分子は極性を持っているんです。より簡潔に言えば、水分子は局所的に帯電していると言い換えられます。逆に、油は基本的に極性を持っていません。

極性を持っている分子は静電気力で引きつけ合うため、分子間力が大きいです。

水分子が極性を持っている理由は、水分子の構造と電気陰性度というものが関わっています。引き続き、水分子について深堀りしていきましょう。

水分子の極性と水素結合

水分子の極性と水素結合

image by Study-Z編集部

水分子は酸素原子を中心とした折れ線形の構造をとっています。まずは折れ線形になる理由について軽くおさらいしましょう。

水分子は画像のような電子のセット(電子対)を4つ持っている電子配置です。ここで、電子対は全て-の電気を持っているので、最も離れた位置に移動していきます。そのため電子配置全体では正四面体をとっており、水素と酸素だけを見ると結果折れ線形になるんですね。

また、水素原子と酸素原子では、酸素原子の方が電子を引きつけやすく、水分子中の酸素原子は-の電気より、水素原子は+の電気よりにかたよっているんです。各元素の電子の引きつけやすさを電気陰性度と呼びます。

このように極性を持った水分子は、+の電荷を持った水素原子と-の電荷を持った酸素原子が引き合う水素結合という結合を取ることが可能です。水素結合は分子間力による結合よりかなり強いので、水分子どうしがまとまる原因となります。

どうすれば水と油は混ざるの?

水は極性を持っている物質であるため、極性を持っていない油とは相性が悪くほとんど混ざりません。逆に、アンモニアやアルコール類など、極性を持つ物質は水に溶けやすい性質を持ちます。

それでは、水と油を混ぜるにはどうすれば良いのでしょうか?それには、石鹸をはじめとする界面活性剤の作用が必要不可欠です。最後に、界面活性剤の構造とその効果について解説していきます。

水と油の間を取り持つ界面活性剤

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界面活性剤は、炭素と水素が直鎖状につながっている油に似た部分と、水分子のように極性を持つ部分が結合した構造をしています。そのため、油に似た部分は極性のない分子と反応しやすく、水に似た部分は極性のある分子と反応しやすいです。

このように、反応を起こしやすい物質の性質を親和性と呼び、界面活性剤の水に反応する部分は親水基、油に反応する部分は親油基(疎水基)と呼ばれています。

水と油が分離しているところに界面活性剤を加えることで、水と油の界面に界面活性剤が集まり、界面張力を弱めることが可能です。界面に作用する物質のため、界面活性剤と呼んでいるんですね。

界面張力が弱まると、界面活性剤に囲まれた形で油滴が水中に分散していき、水に油が溶け込んでいくことになります。ちなみに、料理のレシピなどで耳にする乳化とは、実はこの現象のことを指しているんです。

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水と油が混ざらない理由は水分子が互いに強く引きつけ合っているから!

物質は分子間力などの力により形成されていて、分子間力に差がない物質は基本混ざり合います。

水分子は極性を持っており、静電気力で互いに強く引きつけ合っているのが特徴です。そのため、極性を持たない油が追いやられる形で混ざることができません。

分子間力の違いにより、水分子はより内側に入り込もうとするので、その境界面(界面)の面積は小さくなります。表面張力とは、このような作用で界面の表面積を小さくしようとする力のことです。

水と油のような極性物質と非極性物質を混ぜるためには、水と油それぞれになじみやすい構造をもつ界面活性剤が必要となります。

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化学原子・元素有機化合物物質の状態・構成・変化理科生活と物質

どうして水と油は混ざらないの?理由や混ぜるための方法を理系ライターが5分で科学的にわかりやすく解説!

皆は水と油がどうして混ざらないのか考えたことはあるか?
水と油が混ざらない理由はそれぞれの性質がかけ離れているためで、具体的には極性というものの有無が大きく関わっているぞ。今回は、そもそも物質が混ざるという現象のおさらいと共に、水と油の性質の違いを理系出身で化学に詳しいライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説する。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。力学をはじめとする四力学や材料の物性について学んだ。塾講師時代の経験から、物理や化学の指導経験を複数もつ。

そもそも物質が混ざるってどういうこと?

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水と油がなぜ混ざらないのかに考えていくまえに、そもそも物質が混ざるとは科学的にどんな現象なのかおさらいしていきましょう。

混ざる(混合)という現象とは、簡潔に言えばある物質内に別の物質が微粒子として分散している状況のことです。分散している微粒子の大きさが一定値以下になると、溶解という現象として扱われます。

一度混ざったコーヒーとミルクが分離しないように、異なる物質は基本的に混ざっている状態が安定的で、混ざらず分離しているのは特殊な状態なんです。このことを示した法則をエントロピー増大則と呼びます。

逆に物質が混ざっていない状況とは、物質が微粒子として分散せず、大きな塊としてまとまってしまっているイメージです。

水と油が混ざらないのは分子間力が異なるから!

もし異なる物質は混ざっている状態が普通なら、水と油はどうして分離してしまうのでしょうか?この疑問のを解く鍵は、分子間力というものにあります。

分子間力とは、分子や原子といった物質を形作る微粒子の間にはたらく力です。世の中の物質は分子間力をはじめさまざまな力により、分子や原子が引きつけ合ってまとまることで形成されています

すべての分子や原子の間にはたらいている引力は、分子間力の一要素です。引力はどんな物質でも誤差レベルの大きさなので、微粒子の分散にほぼ影響を与えず物質は混ざり合います。物質を形成する粒子は、自由に移動できる状態が一番安定するんです。

しかし、水と油の場合ではこのようにはいきません。実は、水分子の間には引力以外の力がはたらいており、水分子は互いに強く引きつけ合っています水と油が混ざらないのは、水分子が強く引きつけ合ってまとまり、結果油が隅に追いやられているためなんですね。

水と油の表面張力と分子間力の関係

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分子間力に差があるために、水と油は2層に分離してしまいます。この状態が水と油にとって一番安定しているわけなんですね。

ここで、水と油の層にできる境界について考えてみましょう。このような異なる物質間にできる境界面を界面、特に空気と液体や固体との境界面を表面と呼びます。

界面付近の水分子については、水分子は互いに引きつけ合い、油とは反応しないので内側に引きつけられる状況です。このように界面は可能な限り縮もうとするので、その表面積が小さくなっていくことになります。

分子間力の作用により、界面の面積を小さくしようとしてはたらく力が表面張力(界面張力)と呼ばれる力の正体です。

空気中の水滴や水中の油滴が球状になっている理由も、表面張力がはたらいていることによります。

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