この記事では「床を上げる」について解説する。

端的に言えば「床を上げる」の意味は「病気が良くなること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「床を上げる」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「床を上げる」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「床を上げる」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「床を上げる」の意味は?

「床を上げる(とこをあげる)」には、次のような意味があります。

敷いていた布団などの寝具を片付ける。また特に、病気がよくなって寝具を片付ける。
[類語]床上げ・床払い・床離れ

出典:デジタル大辞泉(小学館)「床を上げる」

この言葉は主に「病気が良くなる」ということを意味して使われる慣用表現です。「寝具を片付ける」という意味もあるのですが、これは表現そのまま過ぎるので問題として問われることはないでしょう。

「床」については次の語源の項で解説しますが、寝たきりの人が重い体を起こして布団を片付ける様子を想像してみてください。病気が良くなって、ようやく動けるようになった感じがわかるのではないでしょうか。

そのため、この表現が用いられた場合にはその後、事態が好転したり前向きな展開になっていくことも予想できます。大きな場面転換を示唆する言葉でもありますので、見かけた場合は注意して読み込むようにしてくださいね。

「床を上げる」の語源は?

次に「床を上げる」の語源を確認しておきましょう。「床」とは、「寝るための場所」のこと。「寝床(ねどこ)」とも言いますね。現代ではベッドが多くて馴染みが無い人も多いかもしれませんが、布団で想像してみるとわかりやすいでしょう。

動詞「上げる」には「敷いてあるものを取り除ける」という意味があります。布団以外なら「畳を上げる」などの言い方も。湿度の多い日本では、そうして床に敷いていたものを干すことで、風や日光に当ててカビなどを防いでいたのです。

布団も、ずっと敷かれたままだったら清潔とは言えませんね。片付けられることがない寝床のことを「万年床(まんねんどこ)」と言ったりもしますが、そんな「床が上げ」られて綺麗に・元気になるイメージから、慣用表現としても使われるようになったのがこの言葉なのです。

\次のページで「「床を上げる」の使い方・例文」を解説!/

「床を上げる」の使い方・例文

「床を上げる」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・倉庫工事の塗装現場で働いていた叔父は長らく病気で臥せっていたが、長い療養の末に床をあげて、今は屋根の上で身軽に働いている。

・コールセンター勤務の彼女は出産後あまり体の状態が良くなかったが、稼働時間を調整し環境を改善したことで、今は床を上げてすっかり元気になった。

・雑誌編集の仕事についていたが、あまりの激務に定休も取れず体を壊してしまい、すぐに床を上げて製作現場に戻るのは難しいだろうと医者に言われてしまった。

「病気から回復して良くなる」というニュアンスが伝わりますでしょうか。寝床がずっと敷かれていたイメージからか、慣用句自体にはありませんが「病気が長引いていた」「重い病気だった」という意味合いが裏側に示されていることも多くあります。

そのためこの表現が使われた場合は「やっと良くなった」とか「よくなって安心した」のように、長時間の経過、またそれに伴う発言者の安心した気持ちが読み取れることが多いでしょう。

たとえば「妹は昨日フラれて寝込んでいたが、今日は床を上げて元気になった」となどと言うのはちょっと大げさかもしれませんし、あるいはそれくらい深刻だったということをコミカルに表現していることになるかもしれません。適切な用法かどうかにも注意してください。

また、もともとは「病気」が治った時に限定されていましたが、現代では広く「寝込んでいたところからの回復」の意味でも使えるようです。原因が「怪我」などの場合もありますので、文脈から読み取るようにしましょう。

「床を上げる」の類義語は?違いは?

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「床を上げる」の類義語は「息を吹き返す」を紹介します。

「息を吹き返す」

「息を吹き返す」は「もとの良い状態に回復すること」を意味する慣用表現です。言葉そのままに「仮死状態から生き返る」の意味もありますが、慣用句として使った場合は「精神的」や「比喩的」な意味合いで使われることが多いでしょう。

たとえばスポーツなどで調子の悪かった選手が「あいつは息を吹き返した」と言われれば、何かがきっかけで気持ちなどが前向きに戻り、また良いプレイができるようになったことが想像できます。

「床を上げる」とは違い「病気からの回復」にはまず使われませんので、この違いも押さえておきましょう。

\次のページで「「床を上げる」の対義語は?」を解説!/

売上が下がる一方だった地方支店だが、本店からの応援が来てくれたおかげでなんとか息を吹き返した。

「床を上げる」の対義語は?

「床を上げる」の対義語は「床に臥す(とこにふす)」がいいでしょう。

「床に臥す」

「床に臥す」は「病気になって寝込むこと」を意味する慣用表現です。「床を上げる」とはまさに反対の表現になりますので、セットで覚えてしまいましょう。

「臥す」はあまり使われない漢字ですが、「伏せる」と同じ。これだけで「病気で寝込む」という意味も持ちますが、「床に臥す」「病に臥せる」などの場合に用いられます。書きまで問われることは少ないでしょうが、読みは押さえておけるといいでしょう。

付き合いのある業者に外壁清掃の作業依頼をしようと思ったのだが、社長が歳で床に臥しているらしく、いつになるかわからないと電話で言われてしまった。

「床を上げる」の英訳は?

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「床を上げる」の英訳は「leave one's bed」で表すことができます。

「leave one's bed」

これは直訳すれば「ベッドを離れる」で「病床を離れる」、まさに「床を上げる」を表すことのできるフレーズです。「床」と「ベッド」で、日本語と英語の文化の違いが表れている面白い表現ともいえますね。

なお「bed」を「sickbed」と、「sick(病気)」を付けた単語にした形でも辞書に掲載されていました。はっきりと「病気からの回復」と言いたい場合はこちらを採用するのがいいでしょう。

「病気が良くなる・元気になる」は「get well」という使いやすい表現がありますが、「(長い間)寝込んでいた」意味合いを出したいのであれば、この表現がおすすめです。

\次のページで「「床を上げる」を使いこなそう」を解説!/

He was able to leave his bed after a long fight against illness.
彼は長い闘病の末、床を上げることができた。

「床を上げる」を使いこなそう

この記事では「床を上げる」の意味・使い方・類語などを説明しました。日本語「床」も英語「ベッド」のどちらにも「病気などで寝込む場所」としての慣用句があるのは面白いところですね。

昔は現代ほど医療が発達しておらず、病気の回復には長く寝ているしかなかったため、できた表現なのかもしれません。「床を上げる」が、そこからなんとか回復したことを表していると想像してみると、言葉の重みが少し増すのではないでしょうか。

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国語言葉の意味

【慣用句】「床を上げる」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「床を上げる」について解説する。

端的に言えば「床を上げる」の意味は「病気が良くなること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「床を上げる」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「床を上げる」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「床を上げる」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「床を上げる」の意味は?

「床を上げる(とこをあげる)」には、次のような意味があります。

敷いていた布団などの寝具を片付ける。また特に、病気がよくなって寝具を片付ける。
[類語]床上げ・床払い・床離れ

出典:デジタル大辞泉(小学館)「床を上げる」

この言葉は主に「病気が良くなる」ということを意味して使われる慣用表現です。「寝具を片付ける」という意味もあるのですが、これは表現そのまま過ぎるので問題として問われることはないでしょう。

「床」については次の語源の項で解説しますが、寝たきりの人が重い体を起こして布団を片付ける様子を想像してみてください。病気が良くなって、ようやく動けるようになった感じがわかるのではないでしょうか。

そのため、この表現が用いられた場合にはその後、事態が好転したり前向きな展開になっていくことも予想できます。大きな場面転換を示唆する言葉でもありますので、見かけた場合は注意して読み込むようにしてくださいね。

「床を上げる」の語源は?

次に「床を上げる」の語源を確認しておきましょう。「床」とは、「寝るための場所」のこと。「寝床(ねどこ)」とも言いますね。現代ではベッドが多くて馴染みが無い人も多いかもしれませんが、布団で想像してみるとわかりやすいでしょう。

動詞「上げる」には「敷いてあるものを取り除ける」という意味があります。布団以外なら「畳を上げる」などの言い方も。湿度の多い日本では、そうして床に敷いていたものを干すことで、風や日光に当ててカビなどを防いでいたのです。

布団も、ずっと敷かれたままだったら清潔とは言えませんね。片付けられることがない寝床のことを「万年床(まんねんどこ)」と言ったりもしますが、そんな「床が上げ」られて綺麗に・元気になるイメージから、慣用表現としても使われるようになったのがこの言葉なのです。

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