高校生物の教科書にも載っている「短日植物」について詳しく学習していこう。短日植物は日照時間が短い時期に花を咲かせるが、そもそも植物はどこで、どのような物質が光を感じているか知っているか?また日長を認識した後どのような仕組みで花を咲かせるかについても理解しているでしょうか?
大学院で植物の研究していた、生物に詳しいライターAnnaと一緒に解説していきます。

ライター/Anna

大学で生物学について幅広く学び、大学院では植物の研究をしていた。生物学の楽しさをたくさんの人に広められるよう日々勉強中。

短日植物ってどんな植物?

image by iStockphoto

短日植物とは簡単に言うと日照時間が短い時に花をつける植物のことです。もう少し厳密に説明すると、「夜の暗い時間(暗期)がある一定の時間より長くなるような条件で花芽の形成が促進される植物」を短日植物と言います。

一般的に日照時間が短い夏至を過ぎた後〜秋頃に開花するものの多くは短日植物です。短日植物とは逆に日照時間が長い期間に花をつける植物は「長日植物」と呼ばれていて、短日植物や長日植物のように昼の長さ(明期)と夜の長さ(暗期)によって物質の代謝や発育が変化する性質を「光周性(こうしゅうせい)」と言います。光周性は植物だけでなく動物にもあるんですよ。

短日植物の例:アサガオ、コスモス、イネ

image by iStockphoto

先ほど説明したとおり日照時間が短くなる夏至を過ぎた頃から秋頃に花を咲かせる植物は短日植物であることが多いです。夏の朝に花を咲かせるアサガオや、秋に花を咲かせるコスモスは短日植物なんですよ。また、私たちが普段よく食べるお米はイネから収穫できますがイネも短日植物です。特にイネはモデル植物と言って実験で扱いやすいことからよく生物学の研究に使われていて、日照時間の変化によってどのような遺伝子が働いているのか、といった研究にも使われています。

ここで紹介した3種類の植物は代表的な短日植物ですが、ここでは紹介しきれないくらいたくさんの植物が短日植物として知られているので、ぜひ自分の身近な植物が短日植物かどうか調べてみてくださいね。

短日植物や長日植物に重要な「光周期」とは?

植物が昼や夜の長さ、つまり明期や暗期の長さに応じて花芽を形成する性質を光周性と言いましたが、光周期とは1日の明期と暗期のサイクルのことです。

植物の光周性が発見された当時は光周期のうち明期の長さが重要であると言われていましたが、様々な研究から現在では「連続した暗期の長さ」が重要であると言われています。花芽の形成に必要な連続した暗期の長さを「限界暗期」と言い、短日植物の場合、暗期の長さが限界暗期より長くなると花芽を形成するということです。つまり花芽を形成するかしないかの分かれ目となるわけですね。

ちなみに暗期の途中で光が照射されて連続した暗期でなくなってしまうことを「光中断」と言い、光中断があると花芽の形成が阻害されてしまいます。よって、単純に「暗期の長さ」ではなく「連続した暗期の長さ」が重要となるのです。

\次のページで「植物が光を感じて花芽形成を制御する仕組みとは?」を解説!/

植物が光を感じて花芽形成を制御する仕組みとは?

image by iStockphoto

ここまで短日植物の特徴や光周性について解説しましたが植物は一体どのような仕組みで光を感じているのでしょうか?そして花芽形成に適した光周期であると認識した際に花成を促進している物質はなにか、それぞれ詳しく学習しましょう。

光受容体「フィトクロム」が光を感じている!

光受容体「フィトクロム」が光を感じている!

image by Study-Z編集部

植物が自然環境で光環境を認識する時には光受容体を用いています。植物の光受容体は数種類ありますが、その中で最も有名なのは赤色の光を受容する「フィトクロム」です。フィトクロムは赤色の光の波長を区別して認識していて、赤色光と遠赤色光をそれぞれ認識できます。そしてフィトクロムは赤色光を吸収するとPfr型(活性型)、遠赤色光を吸収するとPr型(不活性型)に変化するという特徴を持っているんです。

太陽光には赤色光も遠赤色光も含まれていますが、光合成に必要なのは赤色光で遠赤色光は使われません。すなわち太陽光が当たっている葉では赤色光を吸収してフィトクロムがPfr型になり、反射された遠赤色光は光が当たっていない(=陰になっている)葉のフィトクロムに吸収されるためPr型になります。このような仕組みで植物は光を感じているのです。

植物ホルモン「フロリゲン」が花芽形成を誘導している!

image by iStockphoto

植物は花芽形成に適した光周期であると認識すると、葉で「フロリゲン」と呼ばれる植物ホルモンを合成します。フロリゲンは花芽形成を誘導する働きがあり、長日植物と短日植物のどちらにも存在しているんです。このフロリゲンが師管を通って茎頂分裂組織(けいちょうぶんれつそしき)と呼ばれる葉や茎や花など植物の地上部をつくり出す組織に運ばれ、花芽の形成が開始されます。実はフロリゲンは植物が花を咲かせる時期をどのように決めているのかを研究している過程で発見され、フロリゲンの量を調節することで花芽形成を早めたり遅くしたりすることで開花する時期をずらす研究も行われているんですよ。フロリゲンの研究は日本の研究者の活躍も大きく、花芽形成以外にも働くことが分かってきている非常に面白い植物ホルモンです。

人工的に日長を変えて開花時期を調整するキクの電照栽培

キクの電照栽培を知っていますか?電照栽培とは植物の光周性を利用して、光を当てる時間を人為的に調節して花芽の形成を促進したり抑制したりすることによって開花時期を調整する栽培方法です。

キクは通常は秋にしか花が咲きませんが、電照栽培を行うことで開花時期を調節し、年間を通して出荷することができます。具体的な方法としては花芽ができる前の時期の夕方〜夜にかけて光を当てることで、人工的に日照時間を長くして開花時期を遅らせるのです。このような処理をすることで、菊の需要が多いお正月などの冬の時期でもつぼみの状態で菊を出荷でき、購入者の元に届く時には花が咲いた状態となります。電照栽培はキク以外にもイチゴやレタスなどの果物や野菜に利用されていて、私たちが年間を通して美味しい野菜が食べられるよう植物の光周性を上手に使った栽培方法なのです。

" /> 「短日植物」の特徴とは?植物が光を感じる仕組みや開花に必要な植物ホルモンについても理系ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

「短日植物」の特徴とは?植物が光を感じる仕組みや開花に必要な植物ホルモンについても理系ライターがわかりやすく解説!

高校生物の教科書にも載っている「短日植物」について詳しく学習していこう。短日植物は日照時間が短い時期に花を咲かせるが、そもそも植物はどこで、どのような物質が光を感じているか知っているか?また日長を認識した後どのような仕組みで花を咲かせるかについても理解しているでしょうか?
大学院で植物の研究していた、生物に詳しいライターAnnaと一緒に解説していきます。

ライター/Anna

大学で生物学について幅広く学び、大学院では植物の研究をしていた。生物学の楽しさをたくさんの人に広められるよう日々勉強中。

短日植物ってどんな植物?

image by iStockphoto

短日植物とは簡単に言うと日照時間が短い時に花をつける植物のことです。もう少し厳密に説明すると、「夜の暗い時間(暗期)がある一定の時間より長くなるような条件で花芽の形成が促進される植物」を短日植物と言います。

一般的に日照時間が短い夏至を過ぎた後〜秋頃に開花するものの多くは短日植物です。短日植物とは逆に日照時間が長い期間に花をつける植物は「長日植物」と呼ばれていて、短日植物や長日植物のように昼の長さ(明期)と夜の長さ(暗期)によって物質の代謝や発育が変化する性質を「光周性(こうしゅうせい)」と言います。光周性は植物だけでなく動物にもあるんですよ。

短日植物の例:アサガオ、コスモス、イネ

image by iStockphoto

先ほど説明したとおり日照時間が短くなる夏至を過ぎた頃から秋頃に花を咲かせる植物は短日植物であることが多いです。夏の朝に花を咲かせるアサガオや、秋に花を咲かせるコスモスは短日植物なんですよ。また、私たちが普段よく食べるお米はイネから収穫できますがイネも短日植物です。特にイネはモデル植物と言って実験で扱いやすいことからよく生物学の研究に使われていて、日照時間の変化によってどのような遺伝子が働いているのか、といった研究にも使われています。

ここで紹介した3種類の植物は代表的な短日植物ですが、ここでは紹介しきれないくらいたくさんの植物が短日植物として知られているので、ぜひ自分の身近な植物が短日植物かどうか調べてみてくださいね。

短日植物や長日植物に重要な「光周期」とは?

植物が昼や夜の長さ、つまり明期や暗期の長さに応じて花芽を形成する性質を光周性と言いましたが、光周期とは1日の明期と暗期のサイクルのことです。

植物の光周性が発見された当時は光周期のうち明期の長さが重要であると言われていましたが、様々な研究から現在では「連続した暗期の長さ」が重要であると言われています。花芽の形成に必要な連続した暗期の長さを「限界暗期」と言い、短日植物の場合、暗期の長さが限界暗期より長くなると花芽を形成するということです。つまり花芽を形成するかしないかの分かれ目となるわけですね。

ちなみに暗期の途中で光が照射されて連続した暗期でなくなってしまうことを「光中断」と言い、光中断があると花芽の形成が阻害されてしまいます。よって、単純に「暗期の長さ」ではなく「連続した暗期の長さ」が重要となるのです。

\次のページで「植物が光を感じて花芽形成を制御する仕組みとは?」を解説!/

次のページを読む
1 2
Share: