今回は「地衣類」というキーワードに焦点を当て、学習していこう。

地衣類というのは非常に面白い存在で、生物同士の関係や生態系を研究するうえで忘れてはいけない生物です。生育場所も樹上から地面、コンクリート場まで多岐にわたり、意外と我々の身近にみることもできる。興味深い地衣類という存在について知っておくと、自然観や生物観が変わるかもしれませんね。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

地衣類とは?

地衣類(ちいるい)とは、菌類と藻類が共生している存在を指す言葉です。

見かけが少し似ているため、よくコケ(苔)と混同されます。また、まれに「コケのなかま」と紹介されてしまうこともあるんです。実際、地衣類のなかまには「〇〇ゴケ」という名前が付けられているものが少なくないのですが、コケ植物とは全く異なる生物なんですよ。

地衣類の”菌類”

地衣類は、簡単にいってしまえば「菌類の体内に藻類が住み着いている」ような状態です。ここでいう”菌類”というのは、キノコの仲間などが含まれている菌界の生物。その中でもおもに子嚢菌(しのうきん)とよばれる菌類のグループに、地衣類を構成するものが多いです。

では、ここでなんでもいいですからキノコの姿を思い浮かべてみましょう。私たちの食卓に並ぶキノコ=菌類には、緑色のものは基本的にないですよね。一般的に、菌類は光合成をおこなわず、体外からの栄養を吸収して生きる従属栄養生物です。

image by iStockphoto

ところが菌類の中に、光合成のできる微生物と共生するようになったものが現れました。「光合成でつくられた光合成産物をもらう代わりに、住みかを提供する」といった感じでしょうか。それが地衣類なのです。

\次のページで「地衣類の”藻類”」を解説!/

とはいえ、基本的には菌類の体がベースですから、地衣類の名前は基本的に菌類につけられた名前になっています。

地衣類の”藻類”

では、菌類に共生して地衣類を構成している”藻類”とはどんなものなのでしょうか?

地衣類を構成する藻類は、緑藻シアノバクテリアです。住み着く藻類の種類によって、地衣類の色は大きく変化します。緑色っぽいものもあれば、黄色やオレンジ色になるものもあるんですよ。

緑藻とシアノバクテリアの間には大きな違いがありますから、それぞれについて少し詳しく解説しましょう。

緑藻

緑藻は緑色植物のうち、陸上植物以外のものを指します。緑色植物というのは、文字通り緑色をした植物。なぜ緑色かといえば、光合成をするため緑色の色素をもっているからです。

陸上には維管束植物やコケ植物、シダ植物などがありますが、それ以外がすべて緑藻とよばれるのですから、ものすごく大ざっぱな総称だと思って間違いありません。

そうですね…中学校の理科の教科書に載っているようなものであれば、ミドリムシ、ミカヅキモ、イカダモ、ボルボックスなどはどうでしょう?いわゆる植物プランクトンですが、しっかり緑色ですよね。ほかにも、海藻のなかまであるアオサなんかは大型ですが、緑藻類に含まれます。

そのような緑藻のなかまが、菌類の体に住み着き、光合成をおこなっているのです。

\次のページで「シアノバクテリア」を解説!/

シアノバクテリア

シアノバクテリアは、日本語で藍藻(らんそう)とも書かれます。”藍”という色を表す言葉が入っていますが、こちらはやや青みのある緑色をしたものが多いのです。

image by Study-Z編集部

先ほども少し述べたように、緑藻とシアノバクテリアは、似ているようで全く違う生物です。シアノバクテリアは”バクテリア”…つまり”細菌”のなかま。真核生物ではなく原核生物です。

シアノバクテリアは葉緑体をもっていませんが、光合成のための色素はあります。光合成をおこない栄養を得る生物です。

このような、緑藻やシアノバクテリアと菌類が共に暮らしているのが地衣類ということですね。

地衣類が生息している場所

地衣類が生息している場所は実に様々。木の枝といった樹木の表面や、岩の表面、地表、コンクリートの上など、色々な場所で見ることができます。ただし、水流があるところや成長の早すぎる植物上などでは、地衣類が成長する前に流されてしまったりするので、あまり見られません。

ちなみに、地衣類が生息するためにくっついている場所を”基質”や”着生基物”といいます。

image by iStockphoto

乾燥に強く、貧栄養の環境でも生育できるものが多いのも、地衣類の特徴。寒さや暑さの厳しい場所でも見られる可能性のある、貴重な生物です。

また、土壌が形成されていないような場所に入り込むことができる、パイオニア植物としての一面もあります。

地衣類の分類

地衣類は、その形態に基づいていくつかのグループに分けられることがあります。葉状地衣類(ようじょうちいるい)、痂状地衣類(かじょうちいるい)、樹状地衣類(じゅじょうちいるい)の3つのグループをご紹介しましょう。

\次のページで「葉状地衣類」を解説!/

葉状地衣類

葉っぱのような薄い膜状になる地衣類は、まとめて葉状地衣類とよばれます。

image by iStockphoto

全体的に平らで、表面には菌類の菌糸からなる層があり、その下に藻類が多く見られる層があります。一番下には偽根とよばれる根のような構造があり、体を固定する役割があるのです。

ウメノキゴケやマツゲコケなどが、この葉状地衣類にふくまれます。

痂状地衣類

つづいては痂状地衣類。体全体が基質にべったりとくっつき、ものによっては”とけこんでいる”ようにも見える地衣類です。

”痂”という漢字は難しいですが、”かさぶた”を意味しています。

これにふくまれるのは、モジゴケやチャシブゴケなどの種です。

樹状地衣類

上の2つは基質上に薄く広がるような地衣類ですが、樹状地衣類はかなり見た目が異なります。まるで木の枝のように、立体的にひろがるのです。

樹状地衣類 ヤマヒコノリ.jpg
あおもりくま(aomorikuma) - Sony Cyber-shot DSC-H3, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ハナゴケやサルオガセといった種がふくまれますね。

図鑑を見てほしい!

今回は地衣類という存在について、基本的なポイントをご紹介してきました。この記事を最後までお読みいただいたみなさんにぜひお伝えしたいのが、「地衣類の図鑑を見てほしい!」という点です。

一見地味な存在に見える地衣類ですが、図鑑などを見るとその多様性に驚かされます。以外にもカラフルだったり、非常に目立つ種もいたり…なかには「あ、これ見たことあるな」というものもあるはずです。

動物の中には地衣類を食べるものもいます。また、人の生活に利用されている地衣類もあるんです。奥深い地衣類の世界にぜひ興味を持っていただきたいと思います。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 複数の生物が一緒に暮らす「地衣類」っていったい何?どんな生物がいる?生息地は?現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

複数の生物が一緒に暮らす「地衣類」っていったい何?どんな生物がいる?生息地は?現役講師がわかりやすく解説します

今回は「地衣類」というキーワードに焦点を当て、学習していこう。

地衣類というのは非常に面白い存在で、生物同士の関係や生態系を研究するうえで忘れてはいけない生物です。生育場所も樹上から地面、コンクリート場まで多岐にわたり、意外と我々の身近にみることもできる。興味深い地衣類という存在について知っておくと、自然観や生物観が変わるかもしれませんね。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

地衣類とは?

地衣類(ちいるい)とは、菌類と藻類が共生している存在を指す言葉です。

見かけが少し似ているため、よくコケ(苔)と混同されます。また、まれに「コケのなかま」と紹介されてしまうこともあるんです。実際、地衣類のなかまには「〇〇ゴケ」という名前が付けられているものが少なくないのですが、コケ植物とは全く異なる生物なんですよ。

地衣類の”菌類”

地衣類は、簡単にいってしまえば「菌類の体内に藻類が住み着いている」ような状態です。ここでいう”菌類”というのは、キノコの仲間などが含まれている菌界の生物。その中でもおもに子嚢菌(しのうきん)とよばれる菌類のグループに、地衣類を構成するものが多いです。

では、ここでなんでもいいですからキノコの姿を思い浮かべてみましょう。私たちの食卓に並ぶキノコ=菌類には、緑色のものは基本的にないですよね。一般的に、菌類は光合成をおこなわず、体外からの栄養を吸収して生きる従属栄養生物です。

image by iStockphoto

ところが菌類の中に、光合成のできる微生物と共生するようになったものが現れました。「光合成でつくられた光合成産物をもらう代わりに、住みかを提供する」といった感じでしょうか。それが地衣類なのです。

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