「硫黄」と聞くと何を想像するでしょうか…「温泉の臭い」「卵の腐った臭い」などいい匂いを想像する人はいないでしょう。
硫黄は人の生活に深くかかわっている元素で、便利な元素でもあり、公害の原因にもなった元素です。

特に硫黄酸化物が原因で起きた公害はテストで出題されることもあるので、しっかりとチェックしてほしい。
今回はテストで頻出の重要元素「硫黄」について化学に詳しいリックと一緒に紹介していくぞ!

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

硫黄とは

硫黄とは

image by Study-Z編集部

今回は硫黄をテーマにご紹介していきます。硫黄は原子番号16番の元素です。原子量は32で、元素記号は「S」と書きます。硫黄は英語でサルファー(Sulfur)といい英語の頭文字をとって「S」と書くんです。元素周期表で見ると、「酸素」と同じ第16族元素に分類されます。単体では無臭の黄色い結晶で、融点は115℃、沸点は445℃で水には溶けません。

古くから知られ、使われていましが、硫黄を元素として正しく認識したのは、18世紀後半フランスの化学者「A・L・ラボアジエ」という人物です。実はこの人物、化学反応の前後では質量は変化しないという「質量保存の法則」を発見した人物で、近代化学の父と呼ばれているんです!

硫黄はこんなところで生産されています

image by iStockphoto

硫黄は世界各地で産出されていて、主な産出国はアメリカと中国、日本国内でも産出されています。

温泉の噴出口付近に黄色の石がくっついている光景をなんとなく見たことある方も多いんじゃないでしょうか。火山性ガスには「硫化水素」や「二酸化硫黄」が含まれ、そのガスが冷却されると硫黄が析出してきます。火山の多い日本ではこの手法を使って、古くから硫黄の産出がおこなわれてきました。

工業的には、石油燃料の脱硫工程で硫黄成分を取り除くときの副生成物として「硫黄」を分離することができます。石油は世界的にも需要がたくさんあり、燃料を精製する過程で硫黄も大量に産出できるので、現在日本で使われている硫黄のほとんどは脱硫工程で作られたものなんです。

硫黄成分を取り除く「脱硫」にもたくさんの種類があり、使う原料によって名前が変わります。重油を脱硫する装置を「重油水素脱硫装置」、軽油を脱硫する装置を「軽油脱硫装置」などあるんです。

硫黄と聞いて想像する臭いは硫黄ではない!?

硫黄と聞くとどんな臭いを想像しますか?多くの人は「温泉の臭い」や「卵の腐った臭い」を想像すると思います。ただ、その匂いは「硫黄」の臭いではなく、実は「硫化水素」という分子の臭いなんです。

硫化水素は硫黄原子に水素原子が2つ結合した化合物。常温で無色透明の気体で、目や粘膜を刺激する毒性があり、実は危険な気体なんですよ。火山地帯や温泉の噴き出し口で発生しやすく、空気よりも重いので火口や噴き出し口に溜まります。硫黄と聞いて想像する、あの独特のニオイは「孵卵臭」と表現され、まさに卵の腐った臭いなんです。

\次のページで「こんなところで使われる、硫黄の用途とは」を解説!/

こんなところで使われる、硫黄の用途とは

硫黄は工業的にたくさんの材料の原料として使われています。

花火に使われる黒色火薬や医薬品、農薬、ゴムなどの原料に使われているんですよ。さらに、化学の実験でよく使う「硫酸」の原料も硫黄なんです。さらにさらに、私たちの身体にも硫黄を含んだ化合物が使われています。

ゴムらしさを決める硫黄

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ゴムの原料は天然ゴムと呼ばれる「ポリイソプレン」という成分です。実はポリイソプレンだけではのび縮みするゴムにはなりません。硫黄はとっても大切な役割をしてくれているんです。

ポリイソプレンに硫黄を添加すると、硫黄とポリイソプレンが反応してポリイソプレンの繊維同士を架橋させることができます。この架橋ができることがポイントで、引っ張るとのびて、離すと縮むゴムの特徴を生み出すことができるんです!

ストレートかパーマかは硫黄できまる!?

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私たちの身体の中にも硫黄元素がたくさん使われています。その一つに髪の毛です。髪の毛は「ケラチン」と呼ばれるたんぱく質で作られていて、ケラチンの中にも硫黄元素が入っています。この硫黄同士がどうやって結合しているかで髪がストレートかパーマか決まるんです。ケラチンは高分子と呼ばれる大きな繊維状の分子で、ケラチン中の硫黄元素同士が架橋することで、髪の毛は作られていきます。

硫黄の結合がまっすぐ直線方向に向いていると、髪はストレートになり、結合の方向がゆがんでいると、パーマやくせのついた髪になるんです。美容院で縮毛矯正やパーマをかけるときは薬剤で髪内部の硫黄同士の結合を切断して、再度結合を作ることで、パーマの具合やストレートの具合を上手にコントロールしているんです!

テストで頻出?硫黄が原因の公害とは

ここからは、硫黄が原因で発生してしまった 公害をご紹介していきます。こちらはテストでもよく出題される内容なので、ぜひチェックしてください。4大公害は「水俣病」「新潟水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」の4つですが、この中の四日市ぜんそくの原因は、「硫黄酸化物」による大気汚染といわれています。

\次のページで「四日市ぜんそくとは」を解説!/

四日市ぜんそくとは

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「四日市ぜんそく」は、高度経済成長期(1960年代)に発生した大気汚染による公害です。戦後の高度経済成長期に四日市周辺には多くの化学プラントが建設され、急速に工業化が進んでいきました。今でも四日市市には大きなコンビナートがありますよね。コンビナートが本格的に稼働し始めたころに、四日市市では気管支炎や気管支喘息の患者が急増しました。

原因はコンビナートで使われた石油でした。当時使われていた石油は脱硫されていない石油だったので、硫黄成分を含んでいたんです。硫黄成分は燃焼する過程で酸素と結合して「硫黄酸化物(SOx)」を作ります。それが空気中に放出され、周辺住民の気管支に入ったことで喘息の症状が現れてしまったんです。

四日市ぜんそくの改善には脱硫技術が必要不可欠だった

硫黄を産出するための技術に「脱硫」がありましたよね。四日市ぜんそくの改善に大きく貢献したのが、脱硫技術の進歩だったんです。脱硫技術が進歩することで、硫黄成分が入っていない石油を燃料に使えるようになり、空気中に放出される硫黄酸化物の量が大幅に改善されていきました。

今では硫黄酸化物は大気汚染防止法という法律で、環境基準が設定されています。技術の進歩で大気中の濃度は大幅に減少したんです。

生活に密接に関わる重要元素「硫黄」を学ぶ

今回は「硫黄」の特徴と用途をご紹介しました。硫黄は私たちの生活に欠かせない、重要な元素のひとつです。ゴムや薬の原料として私たちの生活を豊かにしてくれる半面、使い方次第では「毒」となり社会問題を引き起こすこともある物質なんですよ。

正しく使うためには、まずは正しい知識を身に着けることが重要です。この機会にぜひ「硫黄」について学んでみてください!

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化学理科

硫黄とはどんな物質?実は公害の原因にもなった?元理系学生が詳しくわかりやすく解説!


「硫黄」と聞くと何を想像するでしょうか…「温泉の臭い」「卵の腐った臭い」などいい匂いを想像する人はいないでしょう。
硫黄は人の生活に深くかかわっている元素で、便利な元素でもあり、公害の原因にもなった元素です。

特に硫黄酸化物が原因で起きた公害はテストで出題されることもあるので、しっかりとチェックしてほしい。
今回はテストで頻出の重要元素「硫黄」について化学に詳しいリックと一緒に紹介していくぞ!

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

硫黄とは

硫黄とは

image by Study-Z編集部

今回は硫黄をテーマにご紹介していきます。硫黄は原子番号16番の元素です。原子量は32で、元素記号は「S」と書きます。硫黄は英語でサルファー(Sulfur)といい英語の頭文字をとって「S」と書くんです。元素周期表で見ると、「酸素」と同じ第16族元素に分類されます。単体では無臭の黄色い結晶で、融点は115℃、沸点は445℃で水には溶けません。

古くから知られ、使われていましが、硫黄を元素として正しく認識したのは、18世紀後半フランスの化学者「A・L・ラボアジエ」という人物です。実はこの人物、化学反応の前後では質量は変化しないという「質量保存の法則」を発見した人物で、近代化学の父と呼ばれているんです!

硫黄はこんなところで生産されています

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硫黄は世界各地で産出されていて、主な産出国はアメリカと中国、日本国内でも産出されています。

温泉の噴出口付近に黄色の石がくっついている光景をなんとなく見たことある方も多いんじゃないでしょうか。火山性ガスには「硫化水素」や「二酸化硫黄」が含まれ、そのガスが冷却されると硫黄が析出してきます。火山の多い日本ではこの手法を使って、古くから硫黄の産出がおこなわれてきました。

工業的には、石油燃料の脱硫工程で硫黄成分を取り除くときの副生成物として「硫黄」を分離することができます。石油は世界的にも需要がたくさんあり、燃料を精製する過程で硫黄も大量に産出できるので、現在日本で使われている硫黄のほとんどは脱硫工程で作られたものなんです。

硫黄成分を取り除く「脱硫」にもたくさんの種類があり、使う原料によって名前が変わります。重油を脱硫する装置を「重油水素脱硫装置」、軽油を脱硫する装置を「軽油脱硫装置」などあるんです。

硫黄と聞いて想像する臭いは硫黄ではない!?

硫黄と聞くとどんな臭いを想像しますか?多くの人は「温泉の臭い」や「卵の腐った臭い」を想像すると思います。ただ、その匂いは「硫黄」の臭いではなく、実は「硫化水素」という分子の臭いなんです。

硫化水素は硫黄原子に水素原子が2つ結合した化合物。常温で無色透明の気体で、目や粘膜を刺激する毒性があり、実は危険な気体なんですよ。火山地帯や温泉の噴き出し口で発生しやすく、空気よりも重いので火口や噴き出し口に溜まります。硫黄と聞いて想像する、あの独特のニオイは「孵卵臭」と表現され、まさに卵の腐った臭いなんです。

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