今回は「花の蜜」というキーワードについて学習していこう。
小さいころ、野原で花を摘んで花の蜜を吸った経験がある人も多いのではないでしょうか。花はどうして蜜を作って出すのでしょう?花の蜜と受粉の関係、我々も恩恵にあやかっているハチミツについても、これを機に学んで行こうじゃないか。
大学で生物を学び、現在は食品メーカーの研究員であるライター、ハナイグチに解説してもらおう。

ライター/ハナイグチ

大学で生物学を学び、現在は食品メーカーの研究員として勤務している。

サプリメントの広告を見るとついつい有効成分の含有量や作用機序を調べてしまう。

なぜ花は蜜を作るの?

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小さいころ、野原でムラサキツメクサなどの花びらをちぎって蜜を吸った経験はありませんか?私はよく花の蜜をおやつがわりに吸いながら遊びまわっていました。ですが甘い花の蜜は決して私たちが美味しい思いをするために存在するわけではありません。

花の蜜は離れたところに咲いている花同士が受粉するために必要なのです。それでは花の蜜について詳しく説明したいと思います。

花粉を運んでくれる生物への対価

花粉を運んでくれる生物への対価

image by Study-Z編集部

お花は子孫を増やすために受粉する必要があります。受粉は雌しべ(めしべ)に雄しべ(おしべ)の花粉がつくことです。花は自分で移動することができないので、離れたところにある花同士で受粉するためには虫に運んでもらったり、風に運んでもらったりする必要がありますよね。

それぞれ虫に花粉を運ばせる花を虫媒花、風に花粉を運ばせる花を風媒花と呼びます。

花の蜜は花粉を運んでくれる生き物をおびき寄せるために使っているので、風媒花は蜜をださない場合が多いです。

\次のページで「なんでそこから出すの?葉や枝から蜜をだす植物」を解説!/

はい。同じ花の中の雄しべと雌しべで受粉することもあり、これを自家受粉と言います。たしかに自家受粉は受粉しやすいというメリットがありますが、反対にデメリットもあるのです。大きなデメリットとしては近くにしか子孫を残すことができない遺伝子の組み合わせの多様性が低くなってしまう、などですね。

人間でも近親婚をかさねると体の弱い子供が生まれるということを耳にしますよね?植物も同様で自家受粉を繰り返すと有害な遺伝子の影響が大々的に現れてしまったり幅広い環境に適応できなくなったりします。だからこそ、別の花との間で受粉を行う他家受粉が必要となるのです。

花の蜜や花の香、花の模様などは虫などの他の生き物に他家受粉を手伝ってもらうために必要なアイテムというわけですね。

ちなみにポケモンのモデルにもなっているラフレシアという花は蜜を出さないかわりにものすごくクサイ臭いをだすことでハエをおびき寄せて受粉しています。「トイレの臭い」や「死肉の臭い」と表現されるほど人間にとっては耐えがたい臭いなのですが、ハエにとっては近寄りたくなる良い香りなのでしょう…。

なんでそこから出すの?葉や枝から蜜をだす植物

蜜は蜜腺というところから分泌されます。蜜は花粉を運んでくれる虫などの生き物をおびき寄せるために分泌されている、と先ほど解説しましたよね?なので、蜜腺は普通花の内側に存在し、虫が蜜を吸おうとすると体に花粉が付着するわけです。

ところが、なぜだか花以外のところに存在する蜜腺もあるから不思議。例えばサクラ属やアカメガシワなどの葉柄には蜜腺があり、蜜が分泌されています。これらの植物にはアリが集まっていることから、一説にはアリを誘引して植物に有害な他の昆虫を排除する役割があるのではないか、と考えられているそうです。

花の蜜を吸う生物たち

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ここの章では具体的な花の蜜を吸う生物たちを紹介したいと思います。

どんな生き物が蜜をすうの?

花の蜜を吸い、花粉を運ぶ生き物はいろいろいます。モンシロチョウ、アゲハ蝶、ベニシジミなどのチョウチョ。ミツバチ などのハチなどがあげられます。花の蜜を吸っている様子が絵になりますよね。

ちなみに花の蜜を吸う生き物は昆虫だけではありません。ハチドリやメジロなどのコウモリなんかも花の蜜を吸う代わりに花粉を運ぶことで受粉を手伝っています。

なぜ青虫は蜜を吸わないのか

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チョウチョは花の蜜を吸うことで有名ですが、チョウチョになる前のイモムシの段階では花の蜜は吸いません。どうしてなのか不思議に思ったことはありませんか?

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これはその時その時の成長段階において、重視するポイントが異なるからなんです。

イモムシのときに最も重要なことは、たくさん食べて大きくなること。だから自分の近くにある葉っぱを手あたり次第にムシャムシャと食べます。

一方、チョウチョになってから重要なことは子孫をのこすことです。そのためには遠くまで飛んで行って、パートナーを探し回らなければなりません。そんなときに葉っぱは必要なカロリー分食べるのにとても時間がかかりますし、エネルギー効率も悪いです。おまけにそんなにたくさんたべてはお腹が重くて飛べなくなってしまいます。だからチョウチョにとって葉っぱは主食に向かないんですよ。

それに比べて花の蜜は主成分がショ糖が主成分なので少量でも栄養をたくさん摂取することができるます。人間でいうところのエナジードリンクですね。

このような理由からイモムシは葉っぱ、チョウチョは花の蜜を主食にしています。

盗人!?受粉をせずに蜜を吸う生物

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本来、蜜を吸う生物と花は持ちつ持たれつの共生関係にあります。しかし中には受粉を手伝わずに蜜だけ持っていく、まるで盗人のようなけしからん輩がいるのです。

このように昆虫や鳥などの動物が受粉を行わず花蜜のみを奪うことを盗蜜と言います。鳥の例ではスズメが有名ですね。桜の花を根こそぎちぎって蜜を吸ってしまうので、花粉は運搬されません。

また、盗蜜を行う虫の中で以外なものとしてチョウが挙げられます。これは意外ですよね。チョウの口は花の蜜を吸いやすいように細長くストローのような形状になっています。そのため、花粉に触らずに蜜だけ吸えてしまうというわけです。

\次のページで「おいしいハチミツの不思議」を解説!/

おいしいハチミツの不思議

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私たちも日常において蜂蜜という形で間接的に花の蜜を摂取しています。花蜜の主成分は先ほども述べた通りショ糖です。しかし蜂蜜の主成分はブドウ糖や果糖などの糖類で、他にも栄養素がたくさん含まれています。

さらに面白いことに、どの花の蜜でつくった蜂蜜なのかによって味が違うのです。スーパーなどでよくみられるのがレンゲソウの花の蜜から作られた蜂蜜ですが、他にも北海道にしか咲かない花、沖縄にしか咲かない花など産地や植物によって色々な味の蜂蜜があります。ぜひ自分好みの蜂蜜を見つけてみてください。

どうして花の種類を分けて蜂蜜がとれるの?

野原には様々な花が咲いています。ではなぜ花の種類ごとに蜂蜜をわけることができるのでしょうか?それは養蜂家の方々の職人技なのです。蜂を買っている場所、花が咲く時期を見極めて他の花の蜜が交らないタイミングを見計らって蜂蜜を回収します。その年の天候によっても開花時期は左右されますからなかなか難しいようです。

蜜は動けない花同士が受粉するためのアイテム!

生物にとって重要なことは、より様々な個体と交配し、幅広い範囲に子孫を残すことです。動けない植物がそれを達成するためには誰かに花粉を運んでもらわなければなりません。花粉の運搬を行ってくれる生物をおびき寄せるために使うアイテムが花の蜜というわけですね。生物の器官について「何のためにこんなものを持っているのか?」ということを考えながら勉強するとより楽しく学ぶことができると思います。

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理科生物

なぜ花は蜜を作るの?花の蜜の役割やハチミツの雑学について食品メーカー研究員がわかりやすく解説

今回は「花の蜜」というキーワードについて学習していこう。
小さいころ、野原で花を摘んで花の蜜を吸った経験がある人も多いのではないでしょうか。花はどうして蜜を作って出すのでしょう?花の蜜と受粉の関係、我々も恩恵にあやかっているハチミツについても、これを機に学んで行こうじゃないか。
大学で生物を学び、現在は食品メーカーの研究員であるライター、ハナイグチに解説してもらおう。

ライター/ハナイグチ

大学で生物学を学び、現在は食品メーカーの研究員として勤務している。

サプリメントの広告を見るとついつい有効成分の含有量や作用機序を調べてしまう。

なぜ花は蜜を作るの?

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小さいころ、野原でムラサキツメクサなどの花びらをちぎって蜜を吸った経験はありませんか?私はよく花の蜜をおやつがわりに吸いながら遊びまわっていました。ですが甘い花の蜜は決して私たちが美味しい思いをするために存在するわけではありません。

花の蜜は離れたところに咲いている花同士が受粉するために必要なのです。それでは花の蜜について詳しく説明したいと思います。

花粉を運んでくれる生物への対価

花粉を運んでくれる生物への対価

image by Study-Z編集部

お花は子孫を増やすために受粉する必要があります。受粉は雌しべ(めしべ)に雄しべ(おしべ)の花粉がつくことです。花は自分で移動することができないので、離れたところにある花同士で受粉するためには虫に運んでもらったり、風に運んでもらったりする必要がありますよね。

それぞれ虫に花粉を運ばせる花を虫媒花、風に花粉を運ばせる花を風媒花と呼びます。

花の蜜は花粉を運んでくれる生き物をおびき寄せるために使っているので、風媒花は蜜をださない場合が多いです。

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