そっくりの名前で呼ばれる芍薬(しゃくやく)と石楠花(しゃくなげ)。二種類の花の見分けがつかずに困ることはないか?それぞれの違いを理解すれば、簡単に見分けれられるようになるんです。芍薬(シャクヤク)には薬効、石楠花(シャクナゲ)には毒性があるという点も注意すべきポイントです。元華道部で生薬学を学んだ、アラノるかと一緒に解説していきます。

ライター/アラノるか

薬局の店頭に立つ現役薬剤師ライター。高校時代は華道部で花に親しみ、大学では薬用植物を扱う生薬学研究室に所属。患者さまへの説明同様、わかりやすい解説を心がけている。

1.名前はそっくり!芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の違いって?

シャクヤクシャクナゲは名前がそっくり。どちらがどちらか、分かりづらいこともあるのではないでしょうか?この記事では両者の特徴を比較し、違いを明らかにしていきます。

1-1.芍薬(シャクヤク)はボタン科の多年草

シャクヤクは草の仲間。植え付けから何年も根が残り、冬に地上部が枯れても春に芽を出す、ボタン科の宿根草です。枝分かれはせず、一本に一輪の花がつきます。

1-2.石楠花(シャクナゲ)はツツジ科の花木

シャクナゲはツツジ科で、常緑の広葉樹。背丈は低いことが多いのですが、高木となるものもあります。数輪から十数輪の大きな花が、まとまって咲くのが特徴です。

2.花の形に違いあり!芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の見分け方

品種によっては花の色合いが同じだったり、背丈が似通っているものもあるシャクヤクとシャクナゲ。遠目には似て見える場合もありますが、近づくと違いが分かります。

2-1.芍薬(シャクヤク)の写真と花の特徴

image by iStockphoto

シャクヤク緑色ですっと伸びた茎、ツヤのある葉っぱをしています。高さは60cmから120cmで、バラに似た甘い香りがあり、花の色はピンクの他、赤、白、黄色など。開花時期は5月~6月です。多年草である芍薬は、冬になると根だけを残して枯れてしまい、翌春になると再び土から新芽を出します。

大輪で立派な、一輪咲きの花が綺麗です。

\次のページで「2-2.石楠花(シャクナゲ)の写真と花の特徴」を解説!/

2-2.石楠花(シャクナゲ)の写真と花の特徴

image by iStockphoto

木であるシャクナゲ幹は茶色。若い枝は緑色ですが、時間が経つと茶色くなります。高さは50cmから5m。もともとは高山性の植物で耐寒性に優れ、低木として楽しめるものから高木に育つものまで幅広いです。花の色は赤、白、黄、ピンク、紫やオレンジ、茶色などもあります。開花時期は4月~6月

花は遠目にはひと固まりに見えることもありますが、近づくと別々の花が集まっているものと分かります。

3.芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の名前の由来は?どうして似た名に?

シャクヤクとシャクナゲ。二つの花の名の由来は、元々は全くの別物でした。特に互いの名を意識するような語源もありませんので、こんなにも似た読みの名前がついてしまったのは、奇妙な偶然と言えるでしょう。

3-1.芍薬(シャクヤク)の名前の由来

中国やモンゴルなどの、アジア北東部が原産地のシャクヤク。名前の由来にも漢字が関係しています。「芍」という漢字には、「鮮やか」「はっきり目立つ」「抜きんでて美しい」といった意味があり、「薬」は文字の通り、シャクヤクが薬草として用いられることを表すのです。両者を合わせると、「抜きんでて美しい薬草」という意味になりますね。

また、たおやかで優しげな姿を意味する「綽約(しゃくやく)」という語が転じて花の呼び名になったという説もあります。

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」などと言われるように、美人の例えにも使われる華やかなシャクヤクの花。どちらの説にも説得力を感じます。

3-2.石楠花(シャクナゲ)の名前の由来

漢字では石楠花、もしくは石南花と書くシャクナゲ。高山植物であるシャクナゲは、「の間に生える」「向きを好む」ことから、「石南花/石楠花」という字が定着します。それを「しゃくなんげ」と読んだことから、転じてシャクナゲという名で呼ばれるようになっていった、というのが有力な説です。ただし、中国でいう「石南」は、バラ科のオオカナメモチという別の常緑樹を指しており、その漢字が誤ってシャクナゲに使われて定着してしまったとされています。

他にあるのが、信憑性の低い俗説と見なされている二説。丈が低いものが多いことから「尺(しゃく)なし」が転じて「しゃくなげ」になったというものと、シャクナゲの木の箸を使うと子供の癪(しゃく)に効く、という迷信から名付けられたというものです。

4.石楠花(シャクナゲ)の葉は有毒!石南(オオカナメモチ)との間違いに注意

上の項目で触れた、石南(オオカナメモチ)という植物。これは漢方薬になる植物なのですが、字が似ていることでシャクナゲと混同され、シャクナゲにも薬効があると誤解されている場合があります。

しかし、シャクナゲにあるのは毒性で、誤って摂取するときわめて危険です。薬効があるものと間違えて、シャクナゲの葉をお茶のようにして飲んでいる例があるようですが、絶対に飲まないでください

\次のページで「4-1.石楠花(シャクナゲ)の毒性」を解説!/

4-1.石楠花(シャクナゲ)の毒性

シャクナゲには有毒成分グラヤノトキシン(ロドトキシン)類が含まれ、嘔吐、下痢、けいれんといった中毒症状を引き起こします。自然種のシャクナゲばかりでなく、園芸種にも有毒成分は含まれるので注意が必要です。

日本においては、ハクサンシャクナゲの葉をお茶として飲んでしまい、血圧低下の急性中毒を起こした例がありました。グラヤノトキシンはシャクナゲに限らず、レンゲツツジやアセビ、ネジキ等のツツジ科植物の全草に含まれるため、これらの花に由来する蜂蜜を食べたことによる健康被害も報告されています。

4-2.薬用植物の石南(オオカナメモチ)について

image by iStockphoto

オオカナメモチは、バラ科の常緑樹。漢字では大要黐とも書き、写真のような白色の花を多数つけるのが特徴です。

オオカナメモチの葉は石南葉(セキナンヨウ)と呼ばれ、鎮痛、利尿、筋力向上や運動改善などの作用があるとされます。漢方処方に配合され、痛風やリウマチの痛み、腎臓病などに応用されますが、生薬としてはややマイナーな存在。

ネット上には「石南花の葉」であるシャクナゲの葉と混同して紹介する記事も見られますが、これは誤りですので覚えておいてくださいね。

5.薬用植物として使われるのは芍薬(シャクヤク)

シャクヤクは生薬「芍薬」として根が利用され、薬用植物としても有用です。薬用品種のシャクヤクは、根を充実させるための品種改良が進んでいます。園芸用と比べると花も小ぶりで、ごくわずかしか付きません。

5-1.芍薬(シャクヤク)の薬効

芍薬鎮痛鎮痙(けいれんを抑える)薬として有名なほか、血液の循環を改善する効果があるため婦人科系の疾患にも用いられます。60種以上の漢方処方に配合され、広く漢方薬として用いられているのです。

5-2.芍薬(シャクヤク)を使った漢方薬

芍薬を用いた代表的な処方は、痛み止めやこむら返りに用いられる芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)や、月経困難や冷え性、不妊や産前産後・妊娠中の体調維持に用いられる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などです。

\次のページで「名はそっくりでも別の花!もう間違えない、シャクヤクとシャクナゲ」を解説!/

名はそっくりでも別の花!もう間違えない、シャクヤクとシャクナゲ

草で一輪咲きのシャクヤクと、木で複数の花がまとまって咲くシャクナゲ。この点を押さえておけば、見分けることは難しくありません。シャクヤクには薬効があり、シャクナゲは有毒であるというのも重要な違いです。

いずれも春から初夏を彩る美しい花。シャクナゲがやや先に盛りとなり、その後にシャクヤクが満開となります。ぜひ、植物園などで美の競演を見てみてくださいね。

" /> 芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の違い、見分け方は?名前の由来から薬効・毒性まで、元華道部の薬剤師がわかりやすく解説 – Study-Z
生き物・植物雑学

芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の違い、見分け方は?名前の由来から薬効・毒性まで、元華道部の薬剤師がわかりやすく解説

そっくりの名前で呼ばれる芍薬(しゃくやく)と石楠花(しゃくなげ)。二種類の花の見分けがつかずに困ることはないか?それぞれの違いを理解すれば、簡単に見分けれられるようになるんです。芍薬(シャクヤク)には薬効、石楠花(シャクナゲ)には毒性があるという点も注意すべきポイントです。元華道部で生薬学を学んだ、アラノるかと一緒に解説していきます。

ライター/アラノるか

薬局の店頭に立つ現役薬剤師ライター。高校時代は華道部で花に親しみ、大学では薬用植物を扱う生薬学研究室に所属。患者さまへの説明同様、わかりやすい解説を心がけている。

1.名前はそっくり!芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の違いって?

シャクヤクシャクナゲは名前がそっくり。どちらがどちらか、分かりづらいこともあるのではないでしょうか?この記事では両者の特徴を比較し、違いを明らかにしていきます。

1-1.芍薬(シャクヤク)はボタン科の多年草

シャクヤクは草の仲間。植え付けから何年も根が残り、冬に地上部が枯れても春に芽を出す、ボタン科の宿根草です。枝分かれはせず、一本に一輪の花がつきます。

1-2.石楠花(シャクナゲ)はツツジ科の花木

シャクナゲはツツジ科で、常緑の広葉樹。背丈は低いことが多いのですが、高木となるものもあります。数輪から十数輪の大きな花が、まとまって咲くのが特徴です。

2.花の形に違いあり!芍薬(シャクヤク)と石楠花(シャクナゲ)の見分け方

品種によっては花の色合いが同じだったり、背丈が似通っているものもあるシャクヤクとシャクナゲ。遠目には似て見える場合もありますが、近づくと違いが分かります。

2-1.芍薬(シャクヤク)の写真と花の特徴

image by iStockphoto

シャクヤク緑色ですっと伸びた茎、ツヤのある葉っぱをしています。高さは60cmから120cmで、バラに似た甘い香りがあり、花の色はピンクの他、赤、白、黄色など。開花時期は5月~6月です。多年草である芍薬は、冬になると根だけを残して枯れてしまい、翌春になると再び土から新芽を出します。

大輪で立派な、一輪咲きの花が綺麗です。

\次のページで「2-2.石楠花(シャクナゲ)の写真と花の特徴」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: