君たちは「托卵」という言葉を知っているか?托卵(たくらん)とは、他の生き物の巣に自分の卵を産み付けて子育てをしてもらう行動です。「そんなことしたら相手にバレてしまわないの?」と思ってしまうが、バレないようにするためにたくさんの工夫をしているんです。今回はそんな托卵について、学生時代、獣医学部で動物について勉強していたライターみんちが詳しく解説します。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

托卵とは?

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托卵とは、子育てを他の生物に任せる行動のことを言います。自分の子供をを他人に育てさせるなんて普通できないですよね。托卵は鳥類でみられることが多く、巣作りから卵を温める抱卵、ヒナの世話までを他の鳥に丸投げしてしまうのです。

托卵される鳥は「仮親」と呼ばれます。托卵する鳥の数はごくわずかで、世界の鳥類全体の約1%程度です。日本では、托卵をする鳥としてカッコウやツツドリ、ホトトギスなどがいます。

托卵する理由

「子育てを人任せにするなんてあんまりだ」と思う方もいるかもしれません。ですが、托卵をする鳥にはちゃんと托卵しなければいけない“3つの理由”があるんです。

第一に、産卵に集中するため。托卵をする鳥の特徴に、1度の繁殖で産む卵の数が多いという習性があります。普通、鳥が産む卵の数は4つ程度ですが、なんとカッコウは10個近く産むのです。様々な鳥の巣に托卵していくことで、自分はたくさんの卵を産むことができるんですね。

 

第二に、他のことに時間と体力を使うため。これは言うまでもありませんね。子育てにかける労力を、自分に費やすのです。食事は自分の分だけ狩りをすればいいですし、子育てのための巣作りの必要もありません。それにカッコウやホトトギスの場合は渡り鳥だからという理由もあります。渡り鳥は長距離を移動しなければならないため、自分は子育てに時間と労力をかけられないのです。

 

第三に、卵を温めることが難しいから。カッコウは恒温性があまり発達していません。恒温性とは、自分の体温を維持するための身体機能のことです。自分の体温を維持するのが難しければ、当然卵を温めるのも難しいに決まっていますよね。そのため、抱卵を他の鳥に任せることしかできないのです。

托卵には様々な種類がある

托卵には様々な種類がある

image by Study-Z編集部

托卵と言ってもそのやり方は様々です。

カッコウのようにほかの種に対して行う場合を種間托卵、一方で同じ種類の鳥同士が托卵しあう場合を種内托卵といいます。種内托卵をする鳥はダチョウやムクドリなど。托卵をする鳥の中でも、"巣作りをするもの、しないもの”や、”仮親の卵に色や模様を似せることができるもの”、”自分の卵の大きさに似た卵を判断して産みこむもの”など、そのやり方は様々です。一概に「托卵」と言っても、住む環境や鳥ごとの性質によって托卵の仕方を工夫しているんですね。

カッコウの托卵

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托卵する鳥で有名なのがカッコウです。ずる賢いと言われるカッコウの托卵ですが、実際にどのように行われているのか詳しく見ていきましょう。

托卵相手を決める条件とは?

カッコウは誰彼構わず托卵をしているわけではありません。托卵をする相手にはちゃんと条件があるのです。

1つ目は同じ食性であること。もし、自分のヒナと仮親の食べるものが違っていたらヒナは育つことができませんよね。ですのでカッコウは自分と同じ、昆虫を主食とする鳥をターゲットにする必要があるのです。

2つ目は、托卵相手が自分よりも体が小さいこと。その理由は托卵する巣をたくさん見つけられるからです。一体どういうことでしょうか。動物は体が大きければ大きいほどその種の個体数は少なくなります。アリとゾウを想像してみてください。世界中にいるアリとゾウの数を比べたら、圧倒的にアリのほうが多いですよね。それは鳥の世界でも同じことです。体が小さい鳥はそれだけたくさん生息しています。その分、巣をたくさん見つけられて、托卵のチャンスが増えるというわけです。

\次のページで「バレないように夫婦で協力」を解説!/

バレないように夫婦で協力

托卵を行う際、主役はメスだけではありません。仮親に托卵を気づかれないよう、オスも協力するんです。

托卵できそうな仮親(ここではモズとしましょう)を決めたら、托卵の姿がばれないようにオスとメスで交代で見張りをします。カッコウがモズの巣に卵を産み落とせるタイミングは、モズの産卵後です。モズは産卵を終えると卵を温め始めますが、時々エサを食べるために巣から離れる時があります。カッコウ夫婦はまさにその瞬間を狙っているのです。

見張りの仕方も面白いんですよ。カッコウは少しでもモズに姿がバレてしまうと警戒されてしまうため、少し離れたところから見張りをします。そして、相手が巣から離れた瞬間に「カッコウ!カッコウ!」とオスが鳴き声を上げてメスに知らせます。するとメスは親鳥のいなくなった巣で素早く産卵をするのです。

10秒ほどで産卵完了!

相手が留守にしている時間もそう長くはありません。ですのでカッコウのメスは急いで産卵を終えなければなりませんね。まず、モズの巣に降り立ったカッコウのメスは相手の卵を1つ加えます。こうするのは、間違えて自分の卵を排除してしまうのを避けるためなんです。そして産卵を終え、加えていた仮親の卵を食べて証拠を隠滅します。これらすべての工程をほんの10秒ほどで終わらせてしまうんです。間違いを防ぐための工夫といい、産卵の速さといい、これぞスゴ技ですね。

恐るべきヒナの生態

カッコウの卵はあらかじめ体内で抱卵されていることで、仮親の卵よりも早く孵化しますカッコウのヒナは本能的に自分の背中に当たったものを排除しようとする性質があり、後から生まれてくる仮親のヒナたちを巣から放り出してしまいます。カッコウのヒナは仮親のヒナよりも体が大きいため、エサを独り占めしないと十分に育つことができないんです。

仮親が絶滅しない理由は?

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こんなに計算高く行われる托卵ですが、実際のところ成功率はあまり高くありません。

その理由は、仮親たちも騙されまいと必死の攻防をしているからなんです。信州大学の研究では、托卵され続けた鳥は托卵する鳥を見破れるようになることがわかりました。10年以上カッコウに托卵され続けてきたホオジロは、カッコウの卵を見破れるようになったおかげで、カッコウの托卵は失敗するようになったと言います。長年の失敗を学びに変える力はすごいですね。

また、種が絶滅しないように生態系が絶妙なバランスを保っているという理由もあります。もし、カッコウが托卵ばかりしていたら仮親のヒナは排除され、仮親の種は絶滅してしまいますよね。しかし、仮親がいなくなると、カッコウが托卵できる巣もなくなってしまいます。するとカッコウは托卵のチャンスが減ることで、今度はカッコウの数が少なくなってしまうんです。こうして種の数が減ったり増えたりすることで、生態系は保たれているんですね。

鳥類以外の托卵動物

最後に鳥類以外の托卵をする動物たちを紹介しますね。

まずはフロリダアカハラガメというアメリカに生息するカメ。体長30センチメートルもあるなかなか大きな亀で、甲羅が大きなドーム状の形になっています。このカメの托卵相手はなんと、同じ地域に住んでいるアメリカアリゲイターというワニ。ワニの巣に産み付けられた卵は発酵熱によって早く孵化できるんです。甲羅の形はワニに襲われても大丈夫なようにこの形になっていると言われています。

次はシノドンティスというナマズの仲間。こちらはアフリカに生息しています。この魚はシクリッドという魚の口の中に自分の卵を産み付けるんですよ。我が子を他人の口の中で育てさせるなんて、すごい勇気ですね。

\次のページで「子孫を残すための戦略」を解説!/

子孫を残すための戦略

ここまで読んでいただきありがとうございました。今回は、「托卵」についてお話ししました。托卵をする理由や、カッコウの例をもとに托卵する鳥と仮親との攻防戦の様子なども紹介しましたね。「ずる賢い」「残酷だ」などと言われているカッコウですが、これも生物として子孫をつなぐための大切なやり方の1つなんです。普段、何気なく目にする鳥たちも実はライバルとの攻防戦を繰り返している最中かもしれません。今回の記事を読んで、そんな風に鳥類の行動に少しでも疑問や興味を持ってもらえたら嬉しいです。

画像使用元:いらすとや

" /> 子育てを他の鳥に丸投げ?!「托卵」って何?カッコウの例をもとに獣医学部卒ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
理科生き物・植物生態系生物

子育てを他の鳥に丸投げ?!「托卵」って何?カッコウの例をもとに獣医学部卒ライターがわかりやすく解説

君たちは「托卵」という言葉を知っているか?托卵(たくらん)とは、他の生き物の巣に自分の卵を産み付けて子育てをしてもらう行動です。「そんなことしたら相手にバレてしまわないの?」と思ってしまうが、バレないようにするためにたくさんの工夫をしているんです。今回はそんな托卵について、学生時代、獣医学部で動物について勉強していたライターみんちが詳しく解説します。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

托卵とは?

image by iStockphoto

托卵とは、子育てを他の生物に任せる行動のことを言います。自分の子供をを他人に育てさせるなんて普通できないですよね。托卵は鳥類でみられることが多く、巣作りから卵を温める抱卵、ヒナの世話までを他の鳥に丸投げしてしまうのです。

托卵される鳥は「仮親」と呼ばれます。托卵する鳥の数はごくわずかで、世界の鳥類全体の約1%程度です。日本では、托卵をする鳥としてカッコウやツツドリ、ホトトギスなどがいます。

托卵する理由

「子育てを人任せにするなんてあんまりだ」と思う方もいるかもしれません。ですが、托卵をする鳥にはちゃんと托卵しなければいけない“3つの理由”があるんです。

第一に、産卵に集中するため。托卵をする鳥の特徴に、1度の繁殖で産む卵の数が多いという習性があります。普通、鳥が産む卵の数は4つ程度ですが、なんとカッコウは10個近く産むのです。様々な鳥の巣に托卵していくことで、自分はたくさんの卵を産むことができるんですね。

 

第二に、他のことに時間と体力を使うため。これは言うまでもありませんね。子育てにかける労力を、自分に費やすのです。食事は自分の分だけ狩りをすればいいですし、子育てのための巣作りの必要もありません。それにカッコウやホトトギスの場合は渡り鳥だからという理由もあります。渡り鳥は長距離を移動しなければならないため、自分は子育てに時間と労力をかけられないのです。

 

第三に、卵を温めることが難しいから。カッコウは恒温性があまり発達していません。恒温性とは、自分の体温を維持するための身体機能のことです。自分の体温を維持するのが難しければ、当然卵を温めるのも難しいに決まっていますよね。そのため、抱卵を他の鳥に任せることしかできないのです。

托卵には様々な種類がある

托卵には様々な種類がある

image by Study-Z編集部

托卵と言ってもそのやり方は様々です。

カッコウのようにほかの種に対して行う場合を種間托卵、一方で同じ種類の鳥同士が托卵しあう場合を種内托卵といいます。種内托卵をする鳥はダチョウやムクドリなど。托卵をする鳥の中でも、”巣作りをするもの、しないもの”や、”仮親の卵に色や模様を似せることができるもの”、”自分の卵の大きさに似た卵を判断して産みこむもの”など、そのやり方は様々です。一概に「托卵」と言っても、住む環境や鳥ごとの性質によって托卵の仕方を工夫しているんですね。

カッコウの托卵

image by iStockphoto

托卵する鳥で有名なのがカッコウです。ずる賢いと言われるカッコウの托卵ですが、実際にどのように行われているのか詳しく見ていきましょう。

托卵相手を決める条件とは?

カッコウは誰彼構わず托卵をしているわけではありません。托卵をする相手にはちゃんと条件があるのです。

1つ目は同じ食性であること。もし、自分のヒナと仮親の食べるものが違っていたらヒナは育つことができませんよね。ですのでカッコウは自分と同じ、昆虫を主食とする鳥をターゲットにする必要があるのです。

2つ目は、托卵相手が自分よりも体が小さいこと。その理由は托卵する巣をたくさん見つけられるからです。一体どういうことでしょうか。動物は体が大きければ大きいほどその種の個体数は少なくなります。アリとゾウを想像してみてください。世界中にいるアリとゾウの数を比べたら、圧倒的にアリのほうが多いですよね。それは鳥の世界でも同じことです。体が小さい鳥はそれだけたくさん生息しています。その分、巣をたくさん見つけられて、托卵のチャンスが増えるというわけです。

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