骨や歯の主な成分であるカルシウムは人体に不可欠な元素ですが、どのような性質を持つのかはあまり知られていない。実はカルシウムは骨や歯を作るだけでなく様々な身体機能に不可欠であり、身の回りの様々な場面でも用いられている物質なのです。
カルシウムは一体どんな物質かについて化学に詳しいライター、元米国科学教師チロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

カルシウムってどんな物質?

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骨や歯を作ったり、牛乳に含まれているのは「リン酸カルシウム」というカルシウム化合物。では「カルシウム」そのものは一体どんな物質なのでしょう? そして他にはどのようなカルシウム化合物があるのでしょう?

カルシウムはアルカリ土類金属

Calcium unter Argon Schutzgasatmosphäre.jpg
By Matthias Zepper - Self-photographed, Public Domain, Link

上の写真を見て驚いた人もいるかもしれませんが、これが「カルシウム」そのものです。学術的に言うとカルシウムはアルカリ土類金属という金属の一種で、鉄やアルミニウムなどの他の金属と同様に金属光沢があり電気も通します。しかし自然界にこの金属は存在していません。なぜならとても反応性が高く、水や空気中の酸素と反応してすぐに化合物になってしまうのです。

牛乳や小魚のカルシウムはリン酸カルシウム

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日常生活で使われている「カルシウム」という言葉が示すのは、ほとんどの場合「リン酸カルシウム」という物質のことです。リン酸カルシウムはカルシウムイオンとリン酸イオンが結びついた化合物で、非常に硬いのが特徴。しかし酸には弱く、酸性環境下では溶けてしまいます。甘いものを食べた後に歯磨きをしないと虫歯になるのは、口の中にいる細菌が糖分を分解してできる「乳酸」がリン酸カルシウムを溶かしてしまうからなのです。

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カルシウムで出来た建物がある

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カルシウムの化合物はリン酸カルシウム以外にも沢山あります。雪の多い地方で道路に撒く融雪剤は「塩化カルシウム」ですし、グラウンドに白線を引く消石灰は「水酸化カルシウム」です。サンゴや貝がらは「炭酸カルシウム」という物質で出来ており、それらが堆積して出来た石灰岩や大理石は建築材として古代から使われていますね。

また現代建築にとって最も重要な材料であるセメントやコンクリートも、「ケイ酸二カルシウム」や「ケイ酸二カルシウム」が主な成分です。私たちが普段目にする建物のほとんどがカルシウムで出来ているなんて驚きですね。

カルシウムと健康

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健康のためにカルシウムを摂らないといけないとよく聞きますが、どんな食品をどのくらい摂取しないといけないのでしょう?また、なぜカルシウムの摂取が必要なのでしょうか?

99%のカルシウムは骨と歯

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人間の体内にあるカルシウム総量のうち、99%は骨と歯に「リン酸カルシウム」の形で存在しています。残りの1%が存在するのは主に血液中。血中のカルシウムは筋肉や神経を正常に作動させたり、ホルモン分泌を行うために不可欠なのです。骨はこのカルシウムの貯蔵庫としての役割も果たしており、血液中のカルシウム濃度が低下すると骨が溶けてカルシウムを供給します。

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カルシウムが不足するとどうなる?

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巷でよく聞く「カルシウムが不足するとイライラする」という説に科学的な根拠はありません。なぜなら神経の働きに関わる血中のカルシウム濃度は、骨が溶け出ることによって一定に保たれるからです。問題はむしろカルシウム不足の状態が長期間続くと、骨のカルシウムがどんどん使われてしまうということ。その結果、骨粗鬆症になるリスクが高まるのです。

カルシウムを多く含む食品

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十分にカルシウムを摂取するには、どのような食品を食べるのが良いのでしょう? カルシウムを多く含む食品の代表はやはり乳製品。牛乳、ヨーグルト、チーズなどにはリン酸カルシウムが体に吸収しやすい「カゼインミセル」という粒子の形で存在しています。小魚や白菜・ケール・ブロッコリーなどの野菜にもカルシウムは含まれていますが、乳製品と比べると吸収率は低いようです。一日に必要なカルシウムの目安量は大人で600~800mg。牛乳に換算するとコップ3〜4杯ほどなので、その他の食品とも組み合わせ意識して摂取する必要がありますね。

カルシウムの吸収にはビタミンDが重要な役割を果たしているので、カルシウムと共にビタミンDを多く含む干し椎茸や魚の干物などを摂取するのが有効だと考えられています。

体を動かすカルシウム

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動物は筋肉を収縮させることによって、体を動かしています。そのために不可欠なのが、カルシウム。筋小胞体という場所に保存されていたカルシウムイオンが放出されると、アクチンというタンパク質がミオシンというタンパク質の間に滑り込み筋肉が収縮するのです。つまり、カルシウムは体を動かす「スイッチ」になっているのですね。

カルシウムが必要なのは骨や歯だけじゃない!?

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カルシウムは体内で果たす役割はまだまだあります。出血したときに血液を凝固させ、血を止めるためにもカルシウムは不可欠。また脳内の神経細胞の働きをコントロールしたり正常な心拍リズムを維持する役割も担っています。動物だけではなく、植物にとってもカルシウムは生命維持に欠かせない物質。そのため多くの農家は畑へ定期的に石灰(水酸化カルシウム)をまき、失われたカルシウムを補填するのと同時に土壌のpHも調整しています。

足りないのに多すぎる?カルシウムパラドックスとは

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このように人体に不可欠なカルシウム。血液中のカルシウム濃度が不足すると、骨を溶かして補充する仕組みになっています。そしてカルシウムが不足した状態が続くと、骨がどんどん溶かされ血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎてしまうのです。血液中のカルシウム濃度が高くなると、血管の壁が収縮し血圧が上がったり、動脈硬化の原因になることも。カルシウムの不足がかえって血液中のカルシウム濃度を高めてしまうことから、この現象はカルシウム・パラドックスと言われています。

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カルシウム拮抗薬はカルシウムのはたらきを抑える

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カルシウムは血管の筋肉を収縮させる働きがあります。したがってカルシウムの働きを抑えると、血管が拡張し血圧が下がるのです。この作用を利用した血圧を下げる薬がカルシウム拮抗薬。心臓を流れる血液量も増えるので、狭心症の予防にも使われています。体にいいイメージのあるカルシウムですが、その働きを抑える薬もあるんですね。

カルシウムは毎日十分に摂ろう

乳製品を食べる伝統がない日本では、慢性的なカルシウム不足に陥っている人が多いと言われています。カルシウムの不足は骨粗鬆症を招くだけでなく「カルシウム・パラドックス」によって血中カルシウム濃度を高め、高血圧の原因になることも。カルシウムは体内に溜めておくことができないので、毎日しっかりと摂取しましょう。

" /> カルシウムって結局何?豊富な食品は?歯や体との関係を元米国科学教師チロがわかりやすく解説! – Study-Z
化学理科

カルシウムって結局何?豊富な食品は?歯や体との関係を元米国科学教師チロがわかりやすく解説!


骨や歯の主な成分であるカルシウムは人体に不可欠な元素ですが、どのような性質を持つのかはあまり知られていない。実はカルシウムは骨や歯を作るだけでなく様々な身体機能に不可欠であり、身の回りの様々な場面でも用いられている物質なのです。
カルシウムは一体どんな物質かについて化学に詳しいライター、元米国科学教師チロと一緒に解説していきます。
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放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

カルシウムってどんな物質?

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骨や歯を作ったり、牛乳に含まれているのは「リン酸カルシウム」というカルシウム化合物。では「カルシウム」そのものは一体どんな物質なのでしょう? そして他にはどのようなカルシウム化合物があるのでしょう?

カルシウムはアルカリ土類金属

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By Matthias Zepper – Self-photographed, Public Domain, Link

上の写真を見て驚いた人もいるかもしれませんが、これが「カルシウム」そのものです。学術的に言うとカルシウムはアルカリ土類金属という金属の一種で、鉄やアルミニウムなどの他の金属と同様に金属光沢があり電気も通します。しかし自然界にこの金属は存在していません。なぜならとても反応性が高く、水や空気中の酸素と反応してすぐに化合物になってしまうのです。

牛乳や小魚のカルシウムはリン酸カルシウム

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日常生活で使われている「カルシウム」という言葉が示すのは、ほとんどの場合「リン酸カルシウム」という物質のことです。リン酸カルシウムはカルシウムイオンとリン酸イオンが結びついた化合物で、非常に硬いのが特徴。しかし酸には弱く、酸性環境下では溶けてしまいます。甘いものを食べた後に歯磨きをしないと虫歯になるのは、口の中にいる細菌が糖分を分解してできる「乳酸」がリン酸カルシウムを溶かしてしまうからなのです。

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