
エイズ(AIDS)
Thomas Splettstoesser (www.scistyle.com) – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)はレトロウイルスの一種であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染によって引き起こされます。HIVが感染する細胞はCD4という糖タンパク質を細胞表面にもつ(CD4陽性)リンパ球。
HIVは宿主のリンパ球で自身の子孫を製造し、リンパ球を破壊して細胞外に放出します。免疫システムを担っている細胞が次々と破壊されることで、免疫不全を引き起こすのです。その結果、感染症やがんに罹患しやすくなるのがこの疾患の特徴となります。
治療薬として用いられているものは、「ウイルスの宿主への侵入を阻害する薬剤」「逆転写の阻害剤」「逆転写されたDNAが宿主のDNAに組込まれるのを阻害する薬剤」「増殖したウイルスの放出を阻害する薬剤」。薬剤耐性ウイルスが生じる可能性があるため、飲み忘れのないように継続して服薬する必要があります。また、複数薬剤を組み合わせる治療法が一般的です。
成人T細胞白血病(ATL)
成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって引き起こされる疾患です。この疾患は日本では九州や沖縄に多いと知られています。
感染する細胞はHIVと同様にCD4陽性T細胞。このT細胞は体内に非自己が侵入してきた時に抗原提示を受けて活性化し、異物の排除のために働く細胞です。役割を終えたT細胞は一部を残して細胞死する運命になります。
しかし、HTLV-1が感染するとT細胞は過剰に活性化して増殖し、制御できない状態に。がん化した状態のATL細胞になってしまうのです。
ATLはくすぶり型、慢性型、リンパ腫型、急性型と分類されています。この臨床病型や年齢、生化学検査の結果より治療法を決定。その治療法は化学療法や造血幹細胞の移植、経過観察などが行われます。
内在性レトロウイルス

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レトロウイルスが生殖細胞に感染し、宿主DNAに組込まれると、そのまま宿主のゲノムの一部となってしまいます。この配列は一緒に子孫に受け継がれるのです。この配列を内在性レトロウイルスといいます。
ヒトゲノムのうち、少なくとも約1%が内在性レトロウイルスとのこと。私たちの祖先は多くのレトロウイルスに感染してきたことが分かりますね。ほとんどは変異が入りウイルスを生産する能力を失った配列が多いようです。しかし中には生体内で機能をもち、私たちの生命現象に影響している配列もあります。
胎盤の進化
ほ乳類の胎盤の進化に内在性レトロウイルスが関係していることが研究されています。
京都大学の宮沢准教授は胎盤の進化と内在性レトロウイルスとの関係を研究されている研究者の一人。研究の結果、ウシの胎盤で特徴的な細胞において、内在性レトロウイルスが発現していることが分かりました。さらにその細胞の成り立ちに、内在性レトロウイルスの発現が必要であることも明らかになっています。
長い生物の歴史を考えると、胎盤をもつ生物は比較的最近誕生した生物です。胎盤は生物種によって異なる構造をとっており、内在性レトロウイルスによって進化がもたらされたことが示唆されています。
出典:京都大学ウイルス・再生医科学研究所 宮沢研究室 https://paleovirology.jimdofree.com/%E4%B8%BB%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%A0%85%E7%9B%AE/
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