また、驚くべきことに、我々のゲノムの中に、少なくとも1%はレトロウイルスの配列が含まれているんです。
この記事では、バイオサイエンスや生物学に詳しい理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。
ライター/tomato1121
大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。
レトロウイルスとは?
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レトロウイルスとは、遺伝情報である「RNA(リボ核酸)」と「逆転写酵素」をもつウイルスです。カプシドタンパク質という外殻で囲まれており、さらにその外側をエンベロープという脂質の膜で包まれている構造をとっています。
レトロウイルスの分類
レトロウイルス科のウイルスはスプマウイルス亜科、オルトレトロウイルス亜科の2つに分類されます。亜科というのは科と属の間にある分類階級のことです。
このオルトウイルス亜科にはエイズの原因となる「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」や、白血病の原因となる「ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)」も含まれます。また、マウスの乳腺腫瘍を引き起こす「マウス乳がんウイルス(MMTV)」もオルトウイルス亜科です。
レトロウイルスの増殖方法
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他のウイルス同様、レトロウイルスも宿主細胞に感染して、宿主の代謝系を利用して増殖します。まず宿主の細胞膜にある受容体に、レトロウイルスのエンベロープが結合。レトロウイルスのエンベロープと宿主細胞の細胞膜が融合します。するとレトロウイルスがもつRNAと逆転写酵素が宿主の細胞内に入るのです。
ただし、このレトロウイルスが持っているのがDNA(デオキシリボ核酸)ではなくRNA(リボ核酸)。このRNAを元にDNAを合成するプロセスをとります。この通常の転写とは逆のプロセスをとるために必要なのが「逆転写酵素」なのです。逆転写酵素により合成されたDNAを宿主のDNAに組込み、宿主の遺伝子と一緒にウイルス粒子を作るために必要なタンパク質を合成してもらう。このようにして子孫を残すのがレトロウイルスです。
そして、この逆転写するときに複製エラーを起こす頻度が高いため、変異をもつウイルスができる確率が高くなります。変異によっては治療薬の効果が低くなったり、免疫系の攻撃を免れたりする場合も。複製エラーが生じることはレトロウイルスにとって好都合なのです。
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