今回は植物ホルモンについて学習していこう。植物ホルモンは何種類もあってなかなか覚えられないという人が多いと思うが、この記事では植物の成長過程に沿って学習していく形にしたので理解しやすいでしょう。
大学院で植物の研究をしていた理系ライターのannaと一緒に解説していきます。

ライター/Anna

大学で生物学について幅広く学び、大学院では植物の研究をしていた。生物学の楽しさをたくさんの人に広められるよう日々勉強中。

植物ホルモンはどのような働きをしているの?

image by iStockphoto

植物ホルモンは植物体内で作られ、種子が発芽して成長し、花を咲かせて果実をつくり、次世代の子孫を残すまでのほぼ全ての過程において植物の成長を調節して情報伝達を行う化学物質のことです。これまでにオーキシンジベレリンなど様々な植物ホルモンが発見されていて、植物が置かれた環境に応答しながら互いに調節し合い植物の成長や環境応答に働いています。

植物ホルモンは種類が多く、現在発見されている全ての植物ホルモンについて解説することはできませんが、植物の各成長段階でどのような植物ホルモンが中心的に働いて植物の成長を調節しているのか見ていきましょう。

植物の成長にはどんな植物ホルモンが関わっているのか?

植物の成長段階は「栄養成長期」と「生殖成長期」の大きく2つに分かれます。栄養成長期とは栄養器官である根・茎・葉を作る期間です。植物が花を咲かせて種子を作るまでには、栄養成長を行うことで体を作っておく必要があります。一方生殖成長期は花芽などの生殖器官を作り、花を咲かせて結実し、種子をつくる段階のことです。

ここでは栄養成長期に行われる種子の発芽、根・茎・葉の成長に関わる植物ホルモンと、栄養成長期に行われる花芽形成、果実の結実・成熟に関わる植物ホルモンについて解説していきます。他にも環境ストレス応答を行い、各成長段階で植物を食害や環境変化から守る役割を持つ植物ホルモンについても解説していきますね。

\次のページで「種子の発芽・休眠に関わる植物ホルモン」を解説!/

種子の発芽・休眠に関わる植物ホルモン

種子は発芽に必要な条件(水分、温度、酸素など)が揃うまでは休眠状態にあります。この休眠状態を維持している植物ホルモンはアブシシン酸です。アブシシン酸は植物に水分が足りない時や養分不足の時などの生育に適していない条件下になると生成量が増えます。

一方、種子の休眠打破を行い発芽を促す植物ホルモンはジベレリンです。ジベレリンは発芽を抑制するアブシシン酸とバランスを取りながら発芽のタイミングを制御しています。

根・茎・葉をつくる植物ホルモン

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植物の体を構成する根・茎・葉の形成にはたくさんの植物ホルモンが関わっていますが、特にオーキシン、ジベレリン、ブラシノステロイドが働いています。オーキシンは植物の成長には必要不可欠であり、植物の器官形成や細胞分裂の促進だけでなく、光や重力によって成長の方向を変える光屈性・重力屈性にも関わっているんですよ。

ジベレリンは先ほど解説したように種子の休眠打破も行っていますが、根や茎を伸長させるとても重要な働きがあります。イネではジベレリンが合成や受容ができなくなると背丈が低くなり、逆に過剰に合成や受容されると背丈が高くなるんですよ。根や茎の伸長以外にも「単為結実」といって、成長途中のブドウをジベレリン液に浸けることよって種なしブドウを作るなど身近なところでも利用されていますよね。

ブラシノステロイドはセイヨウアブラナの花粉から発見された植物ホルモンで、根・茎・葉の伸長成長や細胞の伸長成長にも働いています。ブラシノステロイドが合成されない変異体では茎が短くなり、葉の成長が抑制されて形態異常が起こるんですよ。

花芽形成に関わる植物ホルモン

フロリゲンは花芽形成を誘導する植物ホルモンです。フロリゲンは長年研究されてきましたが、近年になってようやく正体が分かり、高校生物の教科書でも取り上げられるようになりました。フロリゲンは葉で花芽形成に適した日長が認識されると合成され、師管を通って茎頂分裂組織(けいちょうぶんれつそしき)に運ばれて花芽形成を誘導します。茎頂分裂組織というのは植物の葉や花芽の元となる原基を作る成長点で、ここから植物の体ができていくんですよ。

果実の結実・成熟に関わる植物ホルモン

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果実の肥大成長や成熟はエチレンの働きによるものですエチレンは常温ではガスとして存在していて、植物ホルモンの中では唯一の気体です。リンゴとバナナを一緒に置いておくとリンゴから出るエチレンガスによってバナナが熟して柔らかくなることは有名ですよね。エチレンによって果実が柔らかくなるのはペクチンという細胞間物質が分解されるためです。他にも、エチレンはアブシジン酸と一緒に働き落葉・落果を促しています。

結実にはエチレンだけでなくオーキシンやジベレリンも関わっていて、オーキシンは果実の肥大を促進しジベレリンは果実の形成を促進しているんですよ。

環境ストレスに応答して植物を守る植物ホルモン

環境ストレスに応答して植物を守る植物ホルモン

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植物ホルモンには成長を調節する役割だけでなく、植物を取り巻く様々な環境ストレスから身を守る役割もあります。特に植物は動物と違って自ら移動することができないため、気温や湿度が変化したり虫が来たりした場合でも耐える必要があるのです。ここでは主に乾燥ストレスや低温ストレスなどの環境ストレス、そして食害に対して応答する植物ホルモンを解説していきます。

乾燥ストレスに応答する「アブシシン酸」

植物は乾燥した環境に置かれると体内の水分を保持するために、気孔と呼ばれる水が出入りする穴を閉じます。この気孔を閉じて蒸散を押さえる役割を担っているのがアブシシン酸です。アブシシン酸は種子の発芽を抑制する働きがあると説明しましたが、茎の伸長など植物の成長を抑制する作用もあります。

食害に応答して合成される「ジャスモン酸」

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ジャスモン酸は植物の傷害に応答して合成されるホルモンです。植物が食害(虫などに食べられること)を受けるとジャスモン酸が合成され、ジャスモン酸がタンパク質分解酵素阻害物質の合成を誘導して食害を減少させます。また、ジャスモン酸と同様に食害時に合成されるジャスモン酸メチルは、食害を受けていない植物に傷害を伝えることで防御反応を引き起こす役割もあるんですよ。

\次のページで「農業分野で活躍する合成オーキシン」を解説!/

農業分野で活躍する合成オーキシン

植物ホルモンの中でもオーキシンは古くから研究されてきました。農業や園芸においてオーキシンは広く利用されていて、例えば合成オーキシンの2,4-Dなどは除草剤として用いられています。植物体内のオーキシン濃度は生合成や代謝などによって調節されていますが、外部からオーキシンを与えることによって過剰な濃度になると異常な細胞分裂や細胞伸長が阻害されるなどの異常が起こるのです。そしてオーキシンの感受性は植物種によって異なるため、育てたい作物には作用せず、取り除きたい雑草などには作用するようにすることで雑草のみ除草することができます。ぜひ植物ホルモンが利用されている身近な例とともに各植物ホルモンの働きを覚えてみてくださいね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 植物ホルモンって何?エチレンなど代表的な植物ホルモン7種類のメカニズムを成長過程に沿ってわかりやすく解説 – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

植物ホルモンって何?エチレンなど代表的な植物ホルモン7種類のメカニズムを成長過程に沿ってわかりやすく解説

今回は植物ホルモンについて学習していこう。植物ホルモンは何種類もあってなかなか覚えられないという人が多いと思うが、この記事では植物の成長過程に沿って学習していく形にしたので理解しやすいでしょう。
大学院で植物の研究をしていた理系ライターのannaと一緒に解説していきます。

ライター/Anna

大学で生物学について幅広く学び、大学院では植物の研究をしていた。生物学の楽しさをたくさんの人に広められるよう日々勉強中。

植物ホルモンはどのような働きをしているの?

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植物ホルモンは植物体内で作られ、種子が発芽して成長し、花を咲かせて果実をつくり、次世代の子孫を残すまでのほぼ全ての過程において植物の成長を調節して情報伝達を行う化学物質のことです。これまでにオーキシンジベレリンなど様々な植物ホルモンが発見されていて、植物が置かれた環境に応答しながら互いに調節し合い植物の成長や環境応答に働いています。

植物ホルモンは種類が多く、現在発見されている全ての植物ホルモンについて解説することはできませんが、植物の各成長段階でどのような植物ホルモンが中心的に働いて植物の成長を調節しているのか見ていきましょう。

植物の成長にはどんな植物ホルモンが関わっているのか?

植物の成長段階は「栄養成長期」と「生殖成長期」の大きく2つに分かれます。栄養成長期とは栄養器官である根・茎・葉を作る期間です。植物が花を咲かせて種子を作るまでには、栄養成長を行うことで体を作っておく必要があります。一方生殖成長期は花芽などの生殖器官を作り、花を咲かせて結実し、種子をつくる段階のことです。

ここでは栄養成長期に行われる種子の発芽、根・茎・葉の成長に関わる植物ホルモンと、栄養成長期に行われる花芽形成、果実の結実・成熟に関わる植物ホルモンについて解説していきます。他にも環境ストレス応答を行い、各成長段階で植物を食害や環境変化から守る役割を持つ植物ホルモンについても解説していきますね。

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