ガソリンや灯油のような燃料は日常的に使っているものですが、それらがどのように燃えているのか考えたことがあるか?燃料が燃えるためには燃焼範囲という条件を満たしている必要がある。
今回は機械系出身で熱機関や燃料に詳しいライター「ふっくらブラウス」が、燃料範囲について、燃焼という現象自体にもふれながら解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身の理系ライター。熱力学含む四力学のほか、エンジンなどの熱機関や物質の特性についても学習した。塾講師時代の経験をいかし、シンプルでわかりやすい説明を心がけている。

そもそも燃焼ってどういう現象?

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皆さんが日常的に使用しているガソリンや灯油。これらの燃料がどうして燃えるのか考えたことがあるでしょうか?

燃料が燃える条件には燃焼範囲というものが密接に関わっています。今回は燃焼範囲について解説していきますが、まず手始めにそもそも燃焼とは何なのか考えてみましょう。

焚き火に土をかぶせると消えてしまうように、ものが燃えるためには酸素(O2)の供給が必要です。また、ものが燃えると二酸化炭素(CO2)や水蒸気(H2O)などが発生します。

また、紙や木材、燃料といった身の回りの燃えるものは主に炭素(C)や水素(H2)から構成されている物質です。炭素、酸素、二酸化炭素…という流れをみてピンときた方もいるかもしれませんね。

実は、燃焼とは物質を構成する原子が酸素と結びつく現象の一種なんです。このように原子の結びつきが変わる反応を化学反応といい、特に原子が酸素と結合する反応を酸化反応といいます。

10円玉などの金属がさびる現象も酸化反応によるものです。しかし、10円玉がさびる様子はどう見ても燃えているようには見えません。そこで、燃焼という現象をさらに深掘りして見ていきましょう。

燃焼の持続と発熱反応

燃焼の持続と発熱反応

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燃焼は酸化反応の中でも、炎をともなう急激な反応となります。

炎とは気体が燃焼している状態です。紙や木材、燃料といった炎があがる物体は、それそのものではなく、熱によって分解・蒸発した気体が反応しているんですね。

では、その炎を形づくる熱や光はどこからやってくるのでしょうか。

これらの熱や光は化学反応により生成されています。実は、物質はそれぞれエネルギーを持っており、化学反応の前後で生じる物質のエネルギーの差が、熱や光として現れているんです。

図のように、反応前よりも反応後の方がエネルギーが低ければ、余分なエネルギーが放出され熱や光となります。反対に、反応後の方がエネルギーが高いときは、周りのエネルギーや熱が吸収される反応です。前者の反応を発熱反応、後者の反応を吸熱反応といいます。

また化学反応には、原子を移動、組み換えさせるためのエネルギーが必要です。そのため、可燃性ガスと酸素を混合しただけでは燃焼せず、反応のきっかけとなる高熱源・点火源が必要となるんですね。

一度反応が起こると、そのとき生じる発熱を点火源として、別の可燃物分子も酸素と結合していきますこのように酸化・発熱反応が素早く連鎖的に起こる現象が燃焼の正体です。

燃焼範囲とは?

燃焼範囲とは?

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燃焼範囲とは、可燃性気体と空気が燃焼可能な混合比率範囲のことで、体積の割合を示す単位vol%で表します酸素との比率ではなく、空気との比率であることに注意してください

燃焼範囲は爆発範囲、爆発限界、可燃性限界とも呼ばれており、燃焼範囲の上限・下限はそれぞれ爆発上限界、爆発下限界といいます。

燃焼できる濃度に上限・下限がある理由は、さまざまな化学反応が複数同時に絡んでいるからです。

実際の燃焼では、物質の蒸発・気化、酸素との結合だけでなく、逆に酸化した物質が熱を奪って元の状態に戻る反応などさまざまな反応が絡んでいます。これらの反応にともなう発熱・吸熱のバランスがととのって初めて、燃焼が継続するんです。

燃焼範囲が変化する条件

燃焼範囲はいつでも一定なわけではなく、可燃物の種類、また周囲の環境から影響を受け変動するものです。主に温度、圧力、周辺の酸素濃度が変動の原因となります

可燃物はそれぞれ分子構造が異なるため、燃焼中の発熱・吸熱反応はさまざまです。また、物質ごとに熱量に対する温度上昇(比熱)もそれぞれ異なるので燃焼範囲も個別の値をとります。

可燃物の温度が高いときは、粒子が熱運動は激しく高いエネルギーを持っている状態です。そのため、反応を継続させるための発熱も通常より少なくて済むので、高温下では燃焼範囲の下限も下がります

一方、圧力による燃焼範囲の影響はバラバラで、範囲が広くなったり狭くなったりと安定しません。

また、酸素濃度による影響はほかの要因よりも大きく、酸素濃度が高くなると発熱反応である酸化が起きやすく燃焼しやすいです。逆に酸素濃度が低くなると燃焼しにくくなり、16%を下回ると燃焼しなくなります

\次のページで「燃焼範囲の計算方法」を解説!/

燃焼範囲の計算方法

燃焼範囲の計算方法

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燃焼範囲の計算では、下限、つまり爆発下限界を計算する機会の方が多いです。これは、日常では空気濃度の方が高い状況が多いうえ、爆発上限界はより反応が活発で誤差が出やすいことが理由となります。

単一の可燃性気体の濃度を求めたい場合は、単純に可燃性気体の体積を気体全体の体積で割り、百分率に変換する計算でOKです。この計算で求められる濃度[vol%]が燃焼範囲に収まっているとき、燃焼させることができます。

一方で、複数の可燃性気体が混ざった混合気体の爆発下限界は、上の画像の式で計算が可能です。少し分かりにくい式なので、簡単に解説していきます。

この式に右辺において、ある気体の濃度が爆発下限界を超えていれば(このときC/Lは1以上になる)、その気体は燃焼範囲に入っていることになりますね。この数値を合計し逆数にすると、逆に燃焼範囲をみたす気体濃度の目安となります。最後に100をかけてパーセントに変換するという流れの計算です。

引火と発火について

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現実の燃料に火がつくプロセスは、引火と発火の2つに分かれています

これらの違いは、点火源の有無です。

「燃焼の持続と発熱反応」の項で、燃焼を起こすにはエネルギーが必要になると説明しました。このエネルギーを外部の点火源からもらう燃焼が引火、温度が高すぎて自然に反応が起きて燃焼するのが発火です。

これらは燃料の温度によって引き起こされる現象で、燃料が引火する温度を引火点、燃料が発火する温度を発火点と呼びます。これら引火点、発火点についてもう少し掘り下げて見てみましょう。

引火点とは燃料が引火を引き起こす最低温度のこと

液体燃料は周囲の熱を受けて気化、蒸発しています。そして、蒸発した可燃物蒸気と空気の量が燃焼範囲に入っている場合、点火源を使って引火させることが可能です。

また一般的に、液温が上がるほど液体は蒸発しやすくなります。

これらの内容をふまえると、燃料の液温が低いと蒸発した可燃性蒸気が少ない、つまり蒸気の濃度が燃焼範囲に到達しないため燃焼することがありません。

つまり、引火点とは最低限燃焼できる分の蒸気が生じる液温、言いかえると燃焼範囲の下限をみたす燃料の温度となります。気温ではなく燃料の温度であることに注意が必要です。

引火点が低い燃料は室温でも燃焼範囲をみたす、つまり引火する条件が揃っていることになるので、扱いに注意が必要となります。

発火点とは燃料が点火源なしで自発的に燃焼する温度のこと

一方で発火とは、点火源なしに燃料が自然発火する現象のことを指します。

外部からエネルギーをもらうことなく、内部のエネルギーのみで起こる反応であるぶん、引火よりも高い温度が必要となるのが一般的です。

発火が起こる燃料の温度を発火点といいます

日常的に使っている食用油の引火点はおよそ300℃、発火点は330~350℃程度です。そのため、火災原因でよくあるコンロに天ぷら油を長時間放置してというのは発火が起こったことが原因といえます。

代表的な燃料の燃焼範囲と危険性

物質によって、燃焼範囲や引火点、発火点はそれぞれ異なります。最後に、代表的な燃料についてどのような特徴および危険性があるか見てみましょう。

\次のページで「燃焼範囲は可燃性気体が燃焼できる濃度範囲のこと!」を解説!/

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表の燃料のうち、ガソリン、エタノール、灯油、食用油は液体燃料、メタンおよびプロパンは気体燃料です。一見メタンとプロパンの引火点がかなり低く見えますが、そもそも沸点が低く常温ではすべて気化してしまっているので影響はないでしょう。

燃料の危険性という観点では、燃焼範囲の下限および引火点が重要なポイントです。燃焼範囲の下限が低い燃焼は、蒸発して空気中にわずかでも含まれると引火してしまう危険性があります。また、引火点が低い燃料は引火の準備が整いやすく、燃焼までのハードルが低い燃料です。

この点を踏まえると、液体燃料の中でも最も危険なのはガソリンとなるでしょう。引火点が-40℃と低く常温でも気化してしまううえ、少しでも蒸発すると引火する燃料となります。ガソリンスタンドで、静電気などの火花が気化したガソリンに引火する火災は、実際に起こり得る実例です。

また、このご時世では消毒液のエタノール類にも注意が必要となります。消毒液として使われる、純度100%でないエタノールでも20~25℃程度で引火してしまうため、気温が高い夏は特に取り扱い注意の品物です。

燃焼範囲は可燃性気体が燃焼できる濃度範囲のこと!

物体の燃焼は、気化した成分が発熱をともなう反応を繰り返す現象です。

燃焼が発生する可燃性気体の濃度を燃焼範囲といい、可燃性気体と空気の体積比で表されます。

燃焼範囲に達する量の蒸気が蒸発する液温を引火点といい、引火点が低い燃料は危険性が高いです。また、引火点とは別に、熱を加えられたことで自然発火してしまう温度を発火点といいます。

燃焼範囲が広いもしくは下限が低い燃料は特に危険であり、とりわけガソリンは室温で蒸発し燃焼範囲に入ってしまうため、取り扱いに注意が必要です。

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化学有機化合物物質の状態・構成・変化理科生活と物質

燃焼範囲とは?引火点と発火点って何?原理や計算方法を機械系出身ライターが5分でわかりやすく解説!

燃焼範囲の計算方法

燃焼範囲の計算方法

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燃焼範囲の計算では、下限、つまり爆発下限界を計算する機会の方が多いです。これは、日常では空気濃度の方が高い状況が多いうえ、爆発上限界はより反応が活発で誤差が出やすいことが理由となります。

単一の可燃性気体の濃度を求めたい場合は、単純に可燃性気体の体積を気体全体の体積で割り、百分率に変換する計算でOKです。この計算で求められる濃度[vol%]が燃焼範囲に収まっているとき、燃焼させることができます。

一方で、複数の可燃性気体が混ざった混合気体の爆発下限界は、上の画像の式で計算が可能です。少し分かりにくい式なので、簡単に解説していきます。

この式に右辺において、ある気体の濃度が爆発下限界を超えていれば(このときC/Lは1以上になる)、その気体は燃焼範囲に入っていることになりますね。この数値を合計し逆数にすると、逆に燃焼範囲をみたす気体濃度の目安となります。最後に100をかけてパーセントに変換するという流れの計算です。

引火と発火について

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現実の燃料に火がつくプロセスは、引火と発火の2つに分かれています

これらの違いは、点火源の有無です。

「燃焼の持続と発熱反応」の項で、燃焼を起こすにはエネルギーが必要になると説明しました。このエネルギーを外部の点火源からもらう燃焼が引火、温度が高すぎて自然に反応が起きて燃焼するのが発火です。

これらは燃料の温度によって引き起こされる現象で、燃料が引火する温度を引火点、燃料が発火する温度を発火点と呼びます。これら引火点、発火点についてもう少し掘り下げて見てみましょう。

引火点とは燃料が引火を引き起こす最低温度のこと

液体燃料は周囲の熱を受けて気化、蒸発しています。そして、蒸発した可燃物蒸気と空気の量が燃焼範囲に入っている場合、点火源を使って引火させることが可能です。

また一般的に、液温が上がるほど液体は蒸発しやすくなります。

これらの内容をふまえると、燃料の液温が低いと蒸発した可燃性蒸気が少ない、つまり蒸気の濃度が燃焼範囲に到達しないため燃焼することがありません。

つまり、引火点とは最低限燃焼できる分の蒸気が生じる液温、言いかえると燃焼範囲の下限をみたす燃料の温度となります。気温ではなく燃料の温度であることに注意が必要です。

引火点が低い燃料は室温でも燃焼範囲をみたす、つまり引火する条件が揃っていることになるので、扱いに注意が必要となります。

発火点とは燃料が点火源なしで自発的に燃焼する温度のこと

一方で発火とは、点火源なしに燃料が自然発火する現象のことを指します。

外部からエネルギーをもらうことなく、内部のエネルギーのみで起こる反応であるぶん、引火よりも高い温度が必要となるのが一般的です。

発火が起こる燃料の温度を発火点といいます

日常的に使っている食用油の引火点はおよそ300℃、発火点は330~350℃程度です。そのため、火災原因でよくあるコンロに天ぷら油を長時間放置してというのは発火が起こったことが原因といえます。

代表的な燃料の燃焼範囲と危険性

物質によって、燃焼範囲や引火点、発火点はそれぞれ異なります。最後に、代表的な燃料についてどのような特徴および危険性があるか見てみましょう。

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