俺たちの身の回りには金属製品が溢れているが、素材についてまで考えたことがあるやつは少ないんじゃないか?
今回は鉄鋼、非鉄金属の2つの分野の金属材料について、機械系専攻で金属材料に詳しいライター、ふっくらブラウスと一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系を専攻した理系ライター。力学をはじめとした四力学のほか、金属材料や樹脂材料の特性、加工法なども学習した。塾講師時代の経験を活かした「シンプルでわかりやすい解説」がモットー。

非鉄金属という分類の意味

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皆さんは非鉄金属という金属の分類に見覚えはあるでしょうか?

金属材料を扱う産業、業界の方などでなければ、おそらくは聞き覚えのない言葉かと思います。

非鉄金属とは鉄以外の金属すべてという言葉そのままの意味なのですが、この分類自体には学術的な意味はありません。ではなぜこのような大雑把な分類が存在するのかといえば、工業分野での鉄鋼材料の取り扱いが圧倒的に多いことが理由です。

鉄鋼材料が年間数十億トン単位で生産されているなか、非鉄金属材料は1億トン程度しか生産されていません。しかし、非鉄金属は鉄が持っていない様々な工業的メリットがあり、ハイテク分野でも使われています

そこで、今回は鉄鋼材料と非鉄金属材料からいくつかピックアップして、特性や用途などについて見ていきましょう。

鉄と鉄鋼の違いって何?

鉄鋼材料の解説に入る前に、まず鉄鋼とは何なのか確認しましょう。

鉄鋼と鉄の違いはなんでしょうか?

実は純粋な鉄(純鉄)というのはやわらかいうえすぐに錆びてボロボロになってしまいます。そこで、鉄に炭素を混ぜることで、加工に耐えられる硬度、強度を確保したものが鉄鋼です。炭素含有量が2%までの鉄を鋼、炭素含有量が2%以上の鉄を鋳鉄と呼びます。

これで鉄鋼とはどんなものかおさらいできたので、引き続き代表的な鉄鋼材料である炭素鋼、ステンレス鋼について見ていきましょう。

鉄鋼材料その1:炭素鋼

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鉄鋼の中でも最もメジャーな素材といえるのが、炭素鋼です。鉄鋼の中でも炭素以外の成分が添加されていないものになります。

炭素鋼の大きな特徴は、熱処理により幅広い特性の材料が得られることです。

鉄は高い温度下では結晶構造および性質が変化するのですが、炭素鋼では結晶構造が変化するときに炭素が作用します。そのため炭素鋼は炭素含有量や加熱温度・速度を調整することにより、結晶構造や硬さ、加工性といった性質を変化させることが可能です。

この利点から、ビルや橋などの構造材やバイト・ドリルなどの機械工具、旋盤・フライス盤といった加工機そのものの構成部品と幅広い用途に用いられています。

\次のページで「鉄鋼材料その2:ステンレス鋼」を解説!/

鉄鋼材料その2:ステンレス鋼

鉄鋼材料その2:ステンレス鋼

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鉄鋼の中でも使用量が増えてきているものに、ステンレス鋼があります。ステンレス鋼は英語だとStainless steelで、サビ(stain)の少ない(less)鋼という意味です。

ステンレス鋼は炭素鋼に成分としてクロムを10.5%以上添加した鉄鋼で、高い耐蝕性や耐熱性があり、加工しやすい特徴があります。またきれいな光沢を持っているので、食器や家庭用設備としての用途も一般的です。

ステンレス鋼がさびにくい理由は、添加物のクロムが酸化してステンレス鋼の表面に被膜をつくる作用によります。この被膜が鉄が酸素とふれて酸化する(さびる)現象を防いでいるんですね。

酸化クロムの被膜はナノメートルサイズでたいへん薄いですが、強度が高く、周囲に酸素があれば再生する優れた機能を持っています。

非鉄金属の種類と特徴

ここまで、鉄が主原料である鉄鋼材料について解説してきました。ここからは鉄以外の金属、非鉄金属を使用した金属材料について見ていきましょう。

非鉄金属の特徴は、鉄と比較して比重が低い(軽い)ことです。また、耐熱性や電気の伝導率など鉄とは違う個性的な特徴を持っています。そのため、軽量化や鉄では再現できない特性を活用した製品への利用が一般的です。

非鉄金属は、埋蔵量が多くよく使われる「ベースメタル」、希少性が高く特殊な性質をもつ「レアメタル」、貴金属とも呼ばれ希少性の高い「プレシャスメタル」とより細かく分類されています。これら非鉄金属は現在日本国内では生産されておらず、大半が海外からの輸入品です。

これで非鉄金属の概要を解説し終えたので、続いて代表的な非鉄金属をいくつかピックアップして具体的に見てみましょう。

非鉄金属材料その1:アルミニウム

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アルミニウムはベースメタルに含まれ、非鉄金属の中でも非常に多く使用されています。

アルミニウムはアルマイトという処理により、ステンレス鋼と同じように酸化被膜を作ることができ、高い耐蝕性を持つのが特徴です。毒性もなく光を反射するので、食品や医薬品の包装などにも使われています。

また、軽さに対して強度が高いうえに融点が低く、薄く伸びやすいので、鋳造やプレス加工などさまざまな加工に向いている優れた金属です。

これらの性質から、純アルミニウムおよびその合金は、装飾品や工業用タンク、自動車のエンジン部品などさまざまな用途で使われています。その中でも特に有名な合金について更に見ていきましょう。

\次のページで「代表的なアルミニウム合金」を解説!/

代表的なアルミニウム合金

アルミニウム合金の中でも特に有名なものとして、ジュラルミンがあります。

アルミニウムに銅を4%、マンガンを0.7%、マグネシウムを0.5%添加するとジュラルミンとなり、炭素鋼と同様に熱処理が可能で高い強度をほこる合金です。

また、加工性もよく切削加工に向いているので、飛行機の機材や建物の構造材など、軽さと強度が必要なものに利用されます。

また、添加物の種類や割合を調整しより強度を高めた超ジュラルミン、超々ジュラルミンという強化版合金もよく用いられている印象です。

非鉄金属材料その2:銅

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アルミニウムと同様ベースメタルに含まれているのが銅です。はるか昔の太古の青銅器時代から使われている金属で、一節では人類が一番初めに発見した金属だとされています。

伸びやすく加工しやすいほか、熱や電気の伝導率が極めて高いことが特徴です。そのため、プレス加工や圧延加工に向いており、導線や回路部品などの電子機器部品として広く利用されています

また、水などに溶け出した微量の銅イオンが細菌の繁殖をさまたげることから、抗菌性を示すことも銅の特徴です。そのため、水を入れるような容器や各種配管、靴下など衣服の繊維に銅を使用した製品も出回っています。

代表的な銅合金

代表的な銅合金に真鍮(黄銅)があります。

真鍮は銅と亜鉛からできた合金で、銅65%、亜鉛35%の配合が一般的です。銅よりも更に加工性に優れているためより複雑な形状をした製品に強く、一般で使用されている銅製品の大半が純銅製もしくは真鍮製となっています。

真鍮は英語でbrassであり、ブラスバンドでおなじみの金管楽器は真鍮製の製品です。銅と同じく電気を通しやすいため回路の接続端子といった電子機器の部品にも用いられています。

また、真鍮に鉛を微量加えると切削しやすい快削黄銅と呼ばれる合金となり、時計の部品や歯車など切削加工が必要な製品にも使われるようになるんです。

非鉄金属材料その3:チタン

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レアメタルにはニッケルやマンガンといったさまざまな希少金属が含まれますが、その中でも特に有名なのはチタンではないでしょうか。

チタンは比較的軽い上に強度が極めて高く、これまでに登場した鉄鋼、アルミニウム、銅と比べても断トツです。空気中では表面に酸化被膜ができるうえ、海水にも強く、アルミニウム以上の耐蝕性も持っています。その強度や安定性から、戦闘機含む飛行機のフレームや自動車のエンジン部品といった強度が重要な製品への使用が多いです。

更に、生体に対して無害であり、人体とも相性がいいことが大きな特徴となります。そのため、アクセサリーやメガネフレームといった体に触れる製品だけでなく、人工関節など直接体に埋め込むものへの利用も一般的です。

ただし、チタンは強度が高く安定した金属であるぶん、加工難易度がかなり高いため運用コストがかさみがちなのが弱点となります。

非鉄金属材料その4:金

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プレシャスメタル(貴金属)は銀や白金(プラチナ)、パラジウムなど8種類の金属が含まれています。その中でも代表的な金属として金について見ていきましょう。

金を含む貴金属に共通する特徴は、その化学的な安定性の高さです。通常の金属と違い、通常の環境では全く酸化する(さびる)ことがなく、さまざまな酸・アルカリとも反応しません。この安定性の高さと希少性から、貴金属が昔からお金や装飾品として利用されてきたことも納得できますね。

金自体の性質は、極めて伸びやすいため加工が簡単で、熱や電気の伝導性が高いことです。貴金属特有の高い耐蝕性も相まって、装飾品としての使用のほか、接続端子などの電気回路部品の表面に金メッキとして使用されることがあります。

鉄と非鉄金属という分け方は工業分野における分類

鉄とそれ以外の非鉄金属という分け方は、工業分野特有の分類であり学術的な意味はありません。

金属産業では鉄鋼の利用が圧倒的ですが、鉄が持っていない特性をそなえた非鉄金属も数多くあり、ピンポイントな製品、状況で利用されます。鉄鋼は炭素鋼、ステンレス鋼などさまざまな種類の合金があり、用途も広いです。

非鉄金属の中で、比較的生産量が多く用途の多いものをベースメタルといい、アルミニウムや銅などが属します。非鉄金属の中でも希少なレアメタルはユニークな特性を持つものが多く、ニッケルやチタンが有名です。

非鉄金属には、希少性と高い化学的安定性を持つプレシャスメタルという金属があり、金や銀、白金などが該当します。

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非鉄金属とは?アルミニウムや銅など金属材料の種類や特徴を機械系出身ライターが5分でわかりやすく解説!

俺たちの身の回りには金属製品が溢れているが、素材についてまで考えたことがあるやつは少ないんじゃないか?
今回は鉄鋼、非鉄金属の2つの分野の金属材料について、機械系専攻で金属材料に詳しいライター、ふっくらブラウスと一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系を専攻した理系ライター。力学をはじめとした四力学のほか、金属材料や樹脂材料の特性、加工法なども学習した。塾講師時代の経験を活かした「シンプルでわかりやすい解説」がモットー。

非鉄金属という分類の意味

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皆さんは非鉄金属という金属の分類に見覚えはあるでしょうか?

金属材料を扱う産業、業界の方などでなければ、おそらくは聞き覚えのない言葉かと思います。

非鉄金属とは鉄以外の金属すべてという言葉そのままの意味なのですが、この分類自体には学術的な意味はありません。ではなぜこのような大雑把な分類が存在するのかといえば、工業分野での鉄鋼材料の取り扱いが圧倒的に多いことが理由です。

鉄鋼材料が年間数十億トン単位で生産されているなか、非鉄金属材料は1億トン程度しか生産されていません。しかし、非鉄金属は鉄が持っていない様々な工業的メリットがあり、ハイテク分野でも使われています

そこで、今回は鉄鋼材料と非鉄金属材料からいくつかピックアップして、特性や用途などについて見ていきましょう。

鉄と鉄鋼の違いって何?

鉄鋼材料の解説に入る前に、まず鉄鋼とは何なのか確認しましょう。

鉄鋼と鉄の違いはなんでしょうか?

実は純粋な鉄(純鉄)というのはやわらかいうえすぐに錆びてボロボロになってしまいます。そこで、鉄に炭素を混ぜることで、加工に耐えられる硬度、強度を確保したものが鉄鋼です。炭素含有量が2%までの鉄を鋼、炭素含有量が2%以上の鉄を鋳鉄と呼びます。

これで鉄鋼とはどんなものかおさらいできたので、引き続き代表的な鉄鋼材料である炭素鋼、ステンレス鋼について見ていきましょう。

鉄鋼材料その1:炭素鋼

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鉄鋼の中でも最もメジャーな素材といえるのが、炭素鋼です。鉄鋼の中でも炭素以外の成分が添加されていないものになります。

炭素鋼の大きな特徴は、熱処理により幅広い特性の材料が得られることです。

鉄は高い温度下では結晶構造および性質が変化するのですが、炭素鋼では結晶構造が変化するときに炭素が作用します。そのため炭素鋼は炭素含有量や加熱温度・速度を調整することにより、結晶構造や硬さ、加工性といった性質を変化させることが可能です。

この利点から、ビルや橋などの構造材やバイト・ドリルなどの機械工具、旋盤・フライス盤といった加工機そのものの構成部品と幅広い用途に用いられています。

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