今回は「バイオテクノロジー」について学んでいこう。
バイオテクノロジーは難しい技術で、自分には関係ないと思う人もいるかもしれない。しかし我々の生活を豊かにするための技術です。これから様々な場面で関わってくるでしょう。
この機会にバイオテクノロジーが食品や環境問題、医療の分野で、どのように利用されているかを整理しておこう。
この記事ではバイオサイエンスや生物学に詳しい理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

バイオテクノロジーとは何か?

バイオテクノロジーとは、バイオサイエンス(生物学)とテクノロジー(技術)を合わせて作られた造語です。生物工学とも呼ばれており、生物の持つ能力を利用して、人間社会に役立つものを作る技術のことをいいます。

食品、環境、医薬品の分野と広く利用されているバイオテクノロジー。今後研究が進むにつれて、より発展していく技術といえるでしょう。

バイオテクノロジーは古くから利用されていた

意外に思われるかもしれませんが、昔からバイオテクノロジーは私たちの生活に密接して関与していた技術なのです。知らない間に恩恵を受けているものもありますよ。

例えば微生物による発酵を利用した発酵食品、品種改良(育種)、抗生物質の発見などが挙げられるでしょう。特に青かびが合成する抗生物質である「ペニシリン」。ペニシリンは最初に発見された抗生物質であり、20世紀最大の発明とも言われています。今でも多くの治療に役立てられていますね。

バイオテクノロジーの主役は遺伝子

現在のバイオテクノロジーにおいて欠かせない存在は、DNA(デオキシリボ核酸)が持つ遺伝子です。DNAとは「その生物が生きるために必要なタンパク質を合成するための大きな設計図」というイメージをもってください。1つのタンパク質をつくるために必要なDNAの領域のことを遺伝子といいます。

食料、農業、農作物に活かされるバイオテクノロジー

食料、農業、農作物に活かされるバイオテクノロジー

image by Study-Z編集部

最初に農業関連で利用されているバイオテクノロジーについて解説していきましょう。代表的なものとして遺伝子組換え技術があります。遺伝子組換え作物は、その植物の持つDNAの中に、目的の遺伝子を導入することで作られるもの。

古くから行われてきた品種改良は、優れた品種が作られるまでに長い年月がかかりました。しかし遺伝子組換えの技術により、遺伝子を導入することで比較的早く目的の作物を作ることが可能になります。また、自然には獲得できないような形質をもつ植物を生み出すこともできるのです。遺伝子組換え作物の例をご紹介しましょう。

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Btタンパク質を持つトウモロコシ

遺伝子組換えトウモロコシについて解説していきましょう。トウモロコシはヨーロッパアワノメイガという害虫によって、食害の被害を受けてきました。

そこで利用されたのが「Btタンパク質」。このタンパク質はバチルス・チューリンゲンシスという微生物がもつタンパク質です。このタンパク質を作る遺伝子をトウモロコシに導入することで、Btタンパク質をもつトウモロコシが生産できるようになりました。

Btタンパク質はアルカリ性で活性化する性質があります。人間や家畜の消化管は酸性ですが、特定の昆虫の消化管はアルカリ性。さらに、人間や家畜の消化管にはBtタンパク質の受容体は存在しませんが、昆虫の消化管にはBtタンパク質の受容体が存在します。

よって昆虫の消化管だけで「活性化したBtタンパク質が受容体に結合し、細胞を破壊する」という現象が起こるのです。このように人間や家畜には害を与えず、特定の害虫のみを駆除するトウモロコシが作られました。

青いバラ

当初、青いバラの花ことばは「不可能」でした。バラは青い色素をもっていないため、交配などで青いバラをつくることは不可能だったのです。この青いバラの制作に成功したのがサントリー。1990年から様々な花から青色の色素を合成する遺伝子(青色遺伝子)を取り出し、バラに導入する実験が行われました。

そして2002年、100%近く青い色素が蓄積したバラを咲かせることに成功したのです。その後青いバラは販売され、花ことばは「夢かなう」になりました。

環境問題やエネルギー産業

次に、微生物や植物の持つ力を利用して、環境問題の解決やエネルギー生産を行う例を解説していきましょう。

バイオレメディエーション/ファイトレメディレーション

バイオレメディエーションは微生物で(ファイトレメディレーションは植物で)環境汚染を浄化することです。微生物には我々が想像できないような機能をもつ種類がいます。我々人類にとっては汚染物質でも、微生物によっては「エサ」として取り込む種類がいるのです。

化学物質を取り込む能力をもつ微生物を利用して、汚染物質を取り除く取り組みは実際に行われてきました。例えば、石油や有機溶剤による土壌汚染、石油タンカーの座礁による海洋汚染などニュースで取り上げられる問題にも活用されたことがありますよ。

バイオマス燃料

バイオマスとは、生物由来で再利用することができる資源(石油などの化学資源を除く)のことをいいます。バイオマス燃料の何が優れているかというと、燃焼させても大気中の二酸化炭素量を増加させないというところです。

植物は光合成をする過程で二酸化炭素を吸収して有機物を合成しますね。この有機物を燃焼させてエネルギー源として利用しても、放出された二酸化炭素は元々植物が成長過程で吸収したもの。結果的に大気中の二酸化炭素量は増加していないといえるのです。

また、バイオマス(トウモロコシやサトウキビ、木材など)を原料として発酵を行うことで、エタノールを製造する方法も。これがバイオエタノールです。ガソリンと混合して燃料として用いることで、二酸化炭素排出量の削減が期待されています。

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健康、医薬品

バイオテクノロジーが医療に活用されることによって、私たちの生命に直接影響するような治療法や治療薬が次々と開発されています。診断方法や治療薬の開発など研究が進んでおり、今後も発展が望まれている分野です。iPS細胞を用いた治療は臨床試験が行われていることでも知られていますね。再生医療への応用も期待されています。

バイオテクノロジーが医療分野で活用されている例を、いくつかご紹介していきましょう。

バイオ医薬品

バイオ医薬品とは、培養細胞の中に目的のタンパク質を発現する遺伝子を導入し、細胞内で目的のタンパク質を生産して製造された医薬品のことをいいます。タンパク質は大きくて複雑な構造をしており、人工的に合成することはできません。それを細胞が行っている転写・翻訳を経てタンパク質を合成するシステムを利用して製造しています。

タンパク質は生体内で重要な働きをしているものが多いです。このバイオ医薬品はタンパク質の合成量が低下することで発症する疾患に役立てられています。例えば糖尿病治療薬のインスリンや腎性貧血の治療薬であるエリスロポエチンなど、現在も多くの方の治療に使われていますね。

抗体医薬

抗体医薬とは、抗体を使って目的のタンパク質にのみ結合し、その働きを阻害する薬剤です。抗体は免疫システムで働くタンパク質で、ある抗原に特異的に結合する構造をもっています。この特性を利用して、疾患の原因となっているタンパク質にのみ結合する抗体医薬品を作製するのです。

例えば今までの抗がん剤は、がん細胞だけでなく通常の細胞にもダメージを与えていました。しかし抗体医薬によって、がん細胞特異的に攻撃することが可能となったため、副作用が少なくなり高い効果が得られるようになったのです。

オーダーメイド医療

薬の効き方や副作用の表れ方、病気になりやすさには個人差があります。この個人差が生じる理由として、DNAの塩基配列が人によってわずかに違うことが関係していると明らかになりました。そこで考えらえたのが、DNAの塩基配列を調べることで、個々人に合わせた治療薬を使う方法です。

現在では一部のがん患者さんにおいて、関連遺伝子の塩基配列を調べることで、治療薬の選択に役立てられています。治療薬を使用する前に効果を予測できるため、副作用を回避すること、治療期間を無駄にせず効率的な治療を行うことがでるのです。

新しい技術は自分でどんどん勉強していこう

この記事では食品、環境、医療においてバイオテクノロジーがどのように利用されているか解説いたしました。興味を持った分野があったら、是非詳しく調べてみてください。初心者向けに分かりやすく解説されているものから、専門家向けに情報を公開している文献まで色々な情報がありますよ。

新しい研究や臨床試験、実用化された技術は日々更新されていきます。私たちの生活に密接した技術だからこそ、情報を正しく取り入れ、自分で判断・選択できるようになるといいですね。

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理科生物

バイオテクノロジーってどんな技術?食品、環境、医療に利用されている例を理系院卒ライターがわかりやすく解説!

今回は「バイオテクノロジー」について学んでいこう。
バイオテクノロジーは難しい技術で、自分には関係ないと思う人もいるかもしれない。しかし我々の生活を豊かにするための技術です。これから様々な場面で関わってくるでしょう。
この機会にバイオテクノロジーが食品や環境問題、医療の分野で、どのように利用されているかを整理しておこう。
この記事ではバイオサイエンスや生物学に詳しい理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

バイオテクノロジーとは何か?

バイオテクノロジーとは、バイオサイエンス(生物学)とテクノロジー(技術)を合わせて作られた造語です。生物工学とも呼ばれており、生物の持つ能力を利用して、人間社会に役立つものを作る技術のことをいいます。

食品、環境、医薬品の分野と広く利用されているバイオテクノロジー。今後研究が進むにつれて、より発展していく技術といえるでしょう。

バイオテクノロジーは古くから利用されていた

意外に思われるかもしれませんが、昔からバイオテクノロジーは私たちの生活に密接して関与していた技術なのです。知らない間に恩恵を受けているものもありますよ。

例えば微生物による発酵を利用した発酵食品、品種改良(育種)、抗生物質の発見などが挙げられるでしょう。特に青かびが合成する抗生物質である「ペニシリン」。ペニシリンは最初に発見された抗生物質であり、20世紀最大の発明とも言われています。今でも多くの治療に役立てられていますね。

バイオテクノロジーの主役は遺伝子

現在のバイオテクノロジーにおいて欠かせない存在は、DNA(デオキシリボ核酸)が持つ遺伝子です。DNAとは「その生物が生きるために必要なタンパク質を合成するための大きな設計図」というイメージをもってください。1つのタンパク質をつくるために必要なDNAの領域のことを遺伝子といいます。

食料、農業、農作物に活かされるバイオテクノロジー

食料、農業、農作物に活かされるバイオテクノロジー

image by Study-Z編集部

最初に農業関連で利用されているバイオテクノロジーについて解説していきましょう。代表的なものとして遺伝子組換え技術があります。遺伝子組換え作物は、その植物の持つDNAの中に、目的の遺伝子を導入することで作られるもの。

古くから行われてきた品種改良は、優れた品種が作られるまでに長い年月がかかりました。しかし遺伝子組換えの技術により、遺伝子を導入することで比較的早く目的の作物を作ることが可能になります。また、自然には獲得できないような形質をもつ植物を生み出すこともできるのです。遺伝子組換え作物の例をご紹介しましょう。

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