突然ですが、牛のげっぷが地球温暖化の原因になっていることは知っているか?耳を疑ってしまうような内容ですが、実はこれはまぎれもない事実です。牛のげっぷには温室効果ガスのひとつである「メタン」が多く含まれている。今回は、牛からメタンが生成される仕組みや、メタンの影響力、その対策法などを学習していこう。大学で獣医学を学んできたminmin1027と一緒に解説していきます。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の専門知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

牛のゲップが温暖化を加速させる

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牛のゲップが地球温暖化の原因になっているという話は実は本当のこと。なぜ温暖化につながるのかというと牛のゲップに含まれる「メタン」という物質が要因になっています。メタンは温室効果ガスのひとつで、なんと二酸化炭素の20倍以上の温室効果があると言われているんです。そのため、世界中でメタンの排出量を削減するための研究が行われています。

牛のゲップに含まれるメタンとは?

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メタン(CH4)は炭素原子と水素原子からなる非常に引火性の強い物質で、無職無臭の空気よりも軽い気体です。大気中のメタンの量は二酸化炭素に比べると少ないですが、その温室効果はなんと、二酸化炭素の20倍以上。そのため、大変強力な温室効果ガスとして問題視されています。

牛のゲップ以外では、中国での天然ガスの採掘時や水田による農業などが排出原因です。

メタンの生成

メタンの生成

image by Study-Z編集部

メタンは牛の体内でどのようにして作られるのでしょう?牛は反芻動物に分類されています。反芻とは、一度飲み込んだ食物を再び口の中に戻し、よく噛んでからまた飲み込むことです。牧場などでずっと口をモグモグしている動物を見かけたことはありませんか。まさにあれが反芻の最中なんです。牛の他に例を挙げると、山羊や羊などがいますね。

反芻動物には胃が4つあり、その中にはたくさんの微生物が住んでいます。牛が食べた植物は胃の中で微生物によって発酵・分解され、エネルギーに変換されるのです。そのときに副産物として水素(H2)が生成されますが、それをメタン細菌という菌が水素をメタン(CH4)に変換してしまいます。

こうしてメタンはゲップやおならとして排出されるのです。

ゲップを解決するメリット

ここでは、なぜ牛のゲップを減らす必要があるのかもっと詳しく見ていきましょう。

\次のページで「温暖化対策」を解説!/

温暖化対策

先ほど紹介したように、牛のゲップに含まれるメタンは強力な温室効果をもっています。2007年ごろから、大気中のメタン濃度は上昇傾向にあり、なんと総排出量の3分の2が牛の飼育によるものなんです。そのため牛由来のメタン排出を削減することは温暖化対策の大きな後押しとなるでしょう。

食糧不足対策

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現在、世界の飢餓人口は8億7千人もいると言われています。牛肉1kgの生産には、6~20kgもの穀物が必要であり、世界の穀物の3分の1は家畜のえさに回されてしまうのです。しかし、ゲップを減らすことで、従来よりも少ない飼料で効率的に牛を生産可能になります。一体どういうことかというと、牛が食べたえさは体の中に栄養として吸収され、エネルギーとなりますよね。でも、食べたえさの全てがエネルギーになるわけではありません。一部はゲップやおなら、糞として排出されてしまいます。このように無駄に排出されてしまうエネルギーを減らすことができれば、全体の必要となるエサの量も少なくできるはずです。牛に与える穀物量が減れば、世界の食糧不足問題の解決にもつながるでしょう。

食文化の維持

現在、地球上で飼育されている牛の数はなんと15億頭以上。そのほとんどが肉牛や乳牛などの家畜として人に飼育されていますね。特に最近は東南アジア・南アジアでの人口爆発による畜産業の拡大の影響で、家畜から排出されるメタンの量もどんどん増えています。そのため、世界的には畜産を縮小していくべきだという声も上がってるのも事実です。ですが、肉食の需要が高まっている中で畜産を縮小していくことは現実的ではありませんよね。また、発展途上国の畜産業を縮小してしまうとと先進国との「食事の差」が生じてしまうこともまた問題になっています。将来、メタンの排出量を抑えた畜産業が実現可能になれば、肉食の需要を残したまま豊かな食文化を維持することができるでしょう。

 

これらの理由から、牛のゲップによるメタン排出を削減するための動き「減ガス化」が重要になっています。

メタン排出削減のための取り組み

ここでは「減ガス化」に向けた最新の研究例などを見ていきましょう。

飼料の改良

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まず注目されているのは、カギケノリと呼ばれる海藻です。海藻の中に含まれるブロモフォルムという物質がメタン細菌の働きを抑える効果があることがわかっています。オーストラリアのジェームズクック大学の研究によると、2%のカギケノリを飼料に加えると、牛の胃内での発酵や消化機能を保ったまま、メタンのは発生を完全に防ぐことができるそうです。

しかし、世界中の牛たちにカギケノリを供給しようとすると20億トンも必要になり、それだけの量のカギケノリを確保するのは簡単ではありません。そのため、効率的なカギケノリの生産を目指し、遺伝的特徴や生育の研究が行われています。

カギケノリの養殖が現実になれば、環境にも利点がもたらされるでしょう。なぜなら、海藻は太陽光から光を吸収することによりCO2を吸収して酸素を放出する「光合成」を行うためです。

遺伝子の改良

一方で、「牛の身体にカギケノリに対する耐性ができたら、しばらくたつとまたゲップを出し始めるのではないか」と指摘する研究者も。

スコットランド農業大学で動物遺伝学教授を務めるレイナー・ローエさんは「メタン生成量は遺伝学的に決定されており、個体によって異なる」と言います。人でも遺伝子によって顔つきや体格が違うように、牛でも遺伝子によって個体ごとにメタンの排出量が違うのですね。メタン排出量の少ない牛を繁殖して多く残していくためには、遺伝学的に個体を選別していくことが重要です。メタン排出量の少ない遺伝子をもつ牛が増えていけば全体のメタン排出量低下につながるということですね。ローエさんはこの方法で、メタン生成量を年間3%削減できるといいます。牛の繁殖は長期的な視点で取り組むもの。5年あれば大きく変えられるといいます。

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牛用マスクやカシューナッツの研究も?

北海道大学の小林教授は出光興産との共同開発によってカシューナッツの殻液が牛のゲップを抑制する効果があることを発見しました。これは現在、ルミナップという商品名で発売され、大規模農場を中心に導入されています。

また、こんなユニークな研究も。イギリスのZelpという企業が開発した牛用マスクです。これは牛の顔になじむように作られており、ベルトで装着します。牛の吐き出したメタンは、マスクの中でCO2と水に分解されるという優れものです。

温暖化対策を進めるために

今回の記事では、牛のゲップが温暖化を加速させるメカニズムについてお話を進めてきました。牛からゲップができる仕組みや、ゲップを減らすための対策例などを紹介しましたね。

「牛のゲップ」という動物の何気ない行動が、将来の温暖化に関わっているなんて驚きですよね。このように地球温暖化の問題を、より身近な存在から考えてもらえると嬉しいです。牧場などで牛を見かけた際には今回の記事を思い出してみてくださいね。

画像引用元:いらすとや

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地球理科環境と生物の反応生き物・植物生態系生物社会雑学

牛のゲップが温暖化の原因に?!メタン生成のメカニズムや最新の対策例などを獣医学部卒ライターがわかりやすく解説!

突然ですが、牛のげっぷが地球温暖化の原因になっていることは知っているか?耳を疑ってしまうような内容ですが、実はこれはまぎれもない事実です。牛のげっぷには温室効果ガスのひとつである「メタン」が多く含まれている。今回は、牛からメタンが生成される仕組みや、メタンの影響力、その対策法などを学習していこう。大学で獣医学を学んできたminmin1027と一緒に解説していきます。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の専門知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

牛のゲップが温暖化を加速させる

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牛のゲップが地球温暖化の原因になっているという話は実は本当のこと。なぜ温暖化につながるのかというと牛のゲップに含まれる「メタン」という物質が要因になっています。メタンは温室効果ガスのひとつで、なんと二酸化炭素の20倍以上の温室効果があると言われているんです。そのため、世界中でメタンの排出量を削減するための研究が行われています。

牛のゲップに含まれるメタンとは?

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メタン(CH4)は炭素原子と水素原子からなる非常に引火性の強い物質で、無職無臭の空気よりも軽い気体です。大気中のメタンの量は二酸化炭素に比べると少ないですが、その温室効果はなんと、二酸化炭素の20倍以上。そのため、大変強力な温室効果ガスとして問題視されています。

牛のゲップ以外では、中国での天然ガスの採掘時や水田による農業などが排出原因です。

メタンの生成

メタンの生成

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メタンは牛の体内でどのようにして作られるのでしょう?牛は反芻動物に分類されています。反芻とは、一度飲み込んだ食物を再び口の中に戻し、よく噛んでからまた飲み込むことです。牧場などでずっと口をモグモグしている動物を見かけたことはありませんか。まさにあれが反芻の最中なんです。牛の他に例を挙げると、山羊や羊などがいますね。

反芻動物には胃が4つあり、その中にはたくさんの微生物が住んでいます。牛が食べた植物は胃の中で微生物によって発酵・分解され、エネルギーに変換されるのです。そのときに副産物として水素(H2)が生成されますが、それをメタン細菌という菌が水素をメタン(CH4)に変換してしまいます。

こうしてメタンはゲップやおならとして排出されるのです。

ゲップを解決するメリット

ここでは、なぜ牛のゲップを減らす必要があるのかもっと詳しく見ていきましょう。

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