みんなは、畜産動物というと、ウシ、ブタ、ニワトリなどを思い浮かべるかもしれないけど、ミツバチも家畜なんです。農林水産系バイオ研究機関の元研究員で生物に詳しいライターAgriFishと一緒に解説していきます。

ライター/Agri Fish

国立大学農林水産生物系学部を卒業。産業用生物・医薬・バイオ系研究機関に研究職員として勤務した後、現在は、個人事業主として、農林水産業の自営(自分の実験フィールドとしても利用)、農林水産生物に関する講師・技術者の派遣、食品衛生・労働安全衛生に関する相談業務などを営業。海外の研究機関で勤務した経験あり。

家畜動物とは?

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家畜動物」とは、英語では、「ドメスティケイティド・アニマル(domesticated animal)」と呼ばれますが、主に食用とするために、人間によって野生動物を飼いならしたものです。

「野生種(原種)」をそのまま飼育する場合もありますが、品種改良交配を行い、「畜産種」として「野生種」とは異なる形質を持った「品種」として登録されている場合もあります。

畜産動物の定義

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家畜動物」は、家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)に基づき定められています。

対象となる動物は、ウシスイギュウシカメンヨウヒツジ)、ヤギウマブタミニブタイノブタ含む)、イノシシニワトリ(鶏卵肉用・卵肉兼用種)(ウコッケイチャボシャモを含む)、ウズラアヒルアイガモを含む)、キジダチョウホロホロチョウシチメンチョウです。

これらの動物を1頭(羽)以上飼っている人は、畜産業、愛玩、学校、展示、研究等、その飼養目的にかかわらず同法第12条の3に基づく「飼養衛生管理基準」を守らなければなりません。

飼養衛生管理基準(抜粋)

1. 畜舎及び器具の清掃又は消毒を定期的に行うとともに、家畜及び作業衣、作業靴等を清潔に保つこと。

 2. 畜舎に出入りする場合には、手指、作業衣、作業靴等について、家畜の伝染性疾病の病原体がひろがるのを防止するために必要な消毒その他の措置をとること。

 3. 飼料及び水に家畜及びねずみ、野鳥等の野生動物の排せつ物等が混入しないよう努めること。

 4. 他の農場等から家畜を導入する場合には、当該家畜を導入することにより家畜の伝染性疾病の病原体がひろがるのを防止するため、当該家畜に異常がないことを確認するまでの間他の家畜と接触させないようにすること。

 5. 他の農場等に立ち入つた者がみだりに畜舎に立ち入らないようにするとともに、他の農場等に立ち入つた車両が農場に出入りする場合には、当該車両の消毒に努めること。

 6. 畜舎の屋根又は壁面に破損がある場合には、遅滞なく修繕を行うとともに、窓、出入口等の開口部にネットその他の設備を設けることにより、ねずみ、野鳥等の野生動物及びはえ、蚊等の害虫の侵入の防止に努め、必要に応じて駆除すること。

 7. 家畜を他の農場等に出荷する場合には、当該家畜が移動することにより家畜の伝染性疾病の病原体がひろがるのを防止するため、当該家畜の健康状態を確認すること。

 8. 家畜の異常をできるだけ早期に発見することができるよう、家畜の健康管理に努め、異常が認められた場合その他必要な場合には、獣医師の診療を受け、又は指導を求めること。

 9. 家畜の健康に悪影響を及ぼすような過密な状態で家畜を飼養しないこと。

10. 家畜の伝染性疾病の発生の予防に関する知識の習得に努めること。

(参考URL:農林水産省(https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_shiyou/))

\次のページで「畜産の歴史」を解説!/

畜産の歴史

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畜産」の歴史は古く、紀元前から行われていたという記録があり、絶滅人類であるネアンデルタール人既に「家」を飼育していたという学説を唱える研究者もいます。

日本には、ウシウマブタニワトリなどは、既に「家畜化」されたものが、大陸から持ち込まれたということが定説です。

ブタやニワトリを「家畜」として飼育する「養豚業」や「養鶏業」は、「古事記」や「日本書紀」に、それに関する記述がありますので、大陸から来た渡来人によって伝わってきたものと考えられています。

 しかし、仏教伝来により肉食禁止令が出されると衰退していったようです。ウシやウマは、農耕用動物として扱われ、食用とする習慣はなかったようでした。

 その後、文明開化明治時代になると、国策として「畜産業」が振興されるようになり、欧米の技術を導入し、全国各地に広がっていきました。

 その後も効率的な生産体制を確立するために、品種改良や飼育技術の改善が進められ、ウシ、ブタ、ニワトリなどを含めた「畜産業」が発展していきましたが、豚肉の輸入自由化や、畜産業者の高齢化と後継者・担い手の不足などの問題があり、近年では生産量はほぼ横這いですが、畜産農家数が減少しています。

 これまでは、生産効率を高めることに重点が置かれてきましたが、消費者ニーズの変化により、量よりも品質を求められる時代となり、現在の「畜産業」は転換期を迎えているといわれています(参考URL:一般社団法人日本養豚協会(https://jppa.biz/story/history/)、農林水産省(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1612/pdf/1612_03.pdf))

ミツバチも家畜!?

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ミツバチは、家畜伝染病予防法に定められてはいませんが、養蜂振興法(昭和30年法律第180号)で、「家畜」と同様の扱いになっており、蜜蜂を飼育する際は、蜜蜂飼育届の提出が義務づけられています(趣味での飼育も対象になります)。

また、ミツバチが感染する法定伝染病である腐蛆病の検査は,都道府県の家畜保健衛生所の獣医師が担当します。

牧畜と環境問題

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中南米やアフリカなどでは、先進国へ「畜産物」を輸出するため、森林伐採して、牧畜場や家畜の餌となるトウモロコシや大豆を栽培する農地転換されています。

特にアマゾンの熱帯雨林は、既に20%程度が失われました。温室効果ガスである二酸化炭素の吸収量が減り、地球温暖化に拍車がかかっているだけでなく、そこに生息していた生物が絶滅の危機に瀕するなどの影響が出ています。

EU欧州委員会では、2021年11月に森林破壊が進む地域からの資源輸入を禁止することを目的としたデューディリジェンス義務化規則案を発表しました。

また、WWFでは、企業や地域の生産者とも協力しながら、環境や野生生物に配慮した持続可能な森林の利用を推進しています。地域の人々が森林を損なうような開発に頼らず生活できる社会をつくることを世界に広げる取り組みを行なってきました。

先進国が畜産物を大量生産するために、開発国を中心に森林破壊が進行していることは事実です。

先進国の消費者である私たちも週に1日だけ肉を食べない日をつくるとか、牛乳を豆乳に代えるとか、動物性たんぱく質の消費を減らす食生活に変えることで、森林保護に協力できるものと思います。

(参考URL:公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(https://www.wwf.or.jp/))

人工肉製造工場

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World Economic Forum - File:The Meat Revolution Mark Post.webm (7:48), CC 表示 3.0, リンクによる

世界中で動物細胞培養技術を応用して、「人工肉」の製造が始まっています。既にシンガポールでは「培養鶏肉」を販売していますが、2021年7月にイスラエルで稼働した工場では、従来の20倍の生産速度で、鶏肉のほか、豚肉牛肉ラム肉が生産できるということです。

その工場では、1日500kgの「人工肉(ハンバーガーで換算すると5,000個に相当)」を生産することができ、2022年にはアメリカでの販売を計画しています。

近い将来、マクドナルドなどのファストフード店でも「人工肉」のハンバーガーが食べられるようになるかもしれません。

また、中国マレーシアでは、スイス系食品大手企業ネスレが植物を原料とする「人工肉」の工場に開設しています。

国連の発表では、世界の人口は、2050年までに90億人を突破するといわれており、食糧を増産することが喫緊の課題ですが、耕作可能な土地が限られていたり、近年では、環境問題や動物福祉といったことにまで配慮しなければなりません。

人工肉」は、この喫緊の課題の解決策として注目されています。

\次のページで「臓器牧場」を解説!/

臓器牧場

2022年1月にアメリカヒトの遺伝子をブタに組み込み、拒絶反応の起こらない移殖用の臓器をつくり、ヒトブタ異種移植心臓で成功したというニュースがありました。

ドナー不足を補うために、以前から研究はされてきており、心臓以外の臓器での事例はありましたが、心臓移植では初めての報告です。

これから、さらに研究が進み、臓器移植用の「畜産動物」を飼育する「臓器牧場」が設立されていくかもしれません。

 

動物福祉

欧州議会では、欧州グリーンディールの目標達成の一環として、「EU域外国で生産された『畜産製品』の域内流通は、EUが定めた『動物福祉』の基準を満たした製品のみ承認する」ことを欧州委員会に求めています(参考URL:独立行政法人農畜産業振興機構(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003087.html)。

動物福祉アニマルウェルフェア Animal welfare)」とは、公益社団法人日本動物福祉協会(https://www.jaws.or.jp/)のホームページには、「【動物福祉】とは一言でいえば、『動物が精神的・肉体的に充分健康で、幸福であり、環境とも調和していること』です。自分の気持ちの思うままに、気の向いたときだけかわいがることは、動物福祉が満たされているとは言えず、『かわいがっている=福祉に配慮している」とは言い切れないのです』と記載されています。

また、特定非営利活動法人アニマルライツセンター(https://arcj.org/)(https://www.hopeforanimals.org/)のホームページには、「すべての動物に思いやりを」「わたしたちは、工場畜産や動物搾取がもたらす動物たちの苦痛や苦悩、弱者への暴力や差別、環境問題をなくすために力を尽くします」と記載されています。

なお、日本では、昭和62(1987)年10月9日付け総理府告示第 22 号で「産業動物の飼養及び保管に関する基準」が出されていますが、「動物福祉」については、記載がありません。

「いただきます」の意味

私たちは、食事の前に、「いただきます」といいますが、これは「これから食べる動物の生命をいただきます」という感謝と畏敬の想いがこもった素晴らしい日本語の表現だと思います。

私たちヒトは、他の生物を食べていかなければ、生命活動を維持できません。そのために、他の生物の命をもらうことになりますので、「食べ残し残食)」や「食品ロス」がないように「畜産動物」も大切にいただきましょう

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理科生物

ミツバチも家畜なの!?畜産動物について産業用生物・バイオ研究機関の元研究員がわかりやすく解説

みんなは、畜産動物というと、ウシ、ブタ、ニワトリなどを思い浮かべるかもしれないけど、ミツバチも家畜なんです。農林水産系バイオ研究機関の元研究員で生物に詳しいライターAgriFishと一緒に解説していきます。

ライター/Agri Fish

国立大学農林水産生物系学部を卒業。産業用生物・医薬・バイオ系研究機関に研究職員として勤務した後、現在は、個人事業主として、農林水産業の自営(自分の実験フィールドとしても利用)、農林水産生物に関する講師・技術者の派遣、食品衛生・労働安全衛生に関する相談業務などを営業。海外の研究機関で勤務した経験あり。

家畜動物とは?

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家畜動物」とは、英語では、「ドメスティケイティド・アニマル(domesticated animal)」と呼ばれますが、主に食用とするために、人間によって野生動物を飼いならしたものです。

「野生種(原種)」をそのまま飼育する場合もありますが、品種改良交配を行い、「畜産種」として「野生種」とは異なる形質を持った「品種」として登録されている場合もあります。

畜産動物の定義

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家畜動物」は、家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)に基づき定められています。

対象となる動物は、ウシスイギュウシカメンヨウヒツジ)、ヤギウマブタミニブタイノブタ含む)、イノシシニワトリ(鶏卵肉用・卵肉兼用種)(ウコッケイチャボシャモを含む)、ウズラアヒルアイガモを含む)、キジダチョウホロホロチョウシチメンチョウです。

これらの動物を1頭(羽)以上飼っている人は、畜産業、愛玩、学校、展示、研究等、その飼養目的にかかわらず同法第12条の3に基づく「飼養衛生管理基準」を守らなければなりません。

飼養衛生管理基準(抜粋)

1. 畜舎及び器具の清掃又は消毒を定期的に行うとともに、家畜及び作業衣、作業靴等を清潔に保つこと。

 2. 畜舎に出入りする場合には、手指、作業衣、作業靴等について、家畜の伝染性疾病の病原体がひろがるのを防止するために必要な消毒その他の措置をとること。

 3. 飼料及び水に家畜及びねずみ、野鳥等の野生動物の排せつ物等が混入しないよう努めること。

 4. 他の農場等から家畜を導入する場合には、当該家畜を導入することにより家畜の伝染性疾病の病原体がひろがるのを防止するため、当該家畜に異常がないことを確認するまでの間他の家畜と接触させないようにすること。

 5. 他の農場等に立ち入つた者がみだりに畜舎に立ち入らないようにするとともに、他の農場等に立ち入つた車両が農場に出入りする場合には、当該車両の消毒に努めること。

 6. 畜舎の屋根又は壁面に破損がある場合には、遅滞なく修繕を行うとともに、窓、出入口等の開口部にネットその他の設備を設けることにより、ねずみ、野鳥等の野生動物及びはえ、蚊等の害虫の侵入の防止に努め、必要に応じて駆除すること。

 7. 家畜を他の農場等に出荷する場合には、当該家畜が移動することにより家畜の伝染性疾病の病原体がひろがるのを防止するため、当該家畜の健康状態を確認すること。

 8. 家畜の異常をできるだけ早期に発見することができるよう、家畜の健康管理に努め、異常が認められた場合その他必要な場合には、獣医師の診療を受け、又は指導を求めること。

 9. 家畜の健康に悪影響を及ぼすような過密な状態で家畜を飼養しないこと。

10. 家畜の伝染性疾病の発生の予防に関する知識の習得に努めること。

(参考URL:農林水産省(https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_shiyou/))

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