今回は「甲殻類」をキーワードにして生物の学習をすすめていこう。

甲殻類というと、多くの人はエビやカニのことを思い浮かべるのではないでしょうか。魚類や貝類に加えて食卓に上がることも多い生物でもある。このグループにどんな特徴があるのか、エビやカニ以外にどんな生物が含まれているのか…その全体像を概観していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

甲殻類とは

甲殻類(こうかくるい)とは、節足動物が属する節足動物門のなかでも、甲殻亜門という分類群にまとめられている動物のことを指します。

後ほど詳しくご紹介しますが、甲殻類にはエビカニなどの生物が含まれていますね。

その通り!”門”という非常に大きな分類階級ではありますが、昆虫類とエビやカニなどの甲殻類は、いずれも節足動物門のなかまなのです。

せっかくですので、節足動物門の分類について、少し確認しておきましょう。

節足動物門というグループ

研究者によって意見が異なる場合もありますが、現在の節足動物門は大きく4つの亜門に分ける考え方が提唱されています。

4つの亜門とは、六脚亜門(ろっきゃくあもん)、多足亜門(たそくあもん)、鋏角亜門(きょうかくあもん)、そして今回の主役である甲殻亜門です。それぞれの亜門に属する生物は、六脚類、多足類、鋏角類、甲殻類ともよばれます。

image by Study-Z編集部

六脚亜門には、おもに昆虫の仲間が属しています。名前の通り、6本の脚をもつのが大きな特徴です。

多足亜門はムカデのようなたくさんの脚をもつ節足動物。鋏角亜門には、クモやサソリなどの鋏角をもつ生物が属しているんです。

甲殻亜門?甲殻綱?

インターネットや本で甲殻類について調べると、「節足動物門の甲殻綱(こうかくこう)に属する生物が甲殻類」と説明されているものがあります。

上記の記述のように、以前は甲殻綱という分類群に含まれている生物を甲殻類とよんでいました。しかし近年になり、甲殻綱をより大きな分類階級である甲殻亜門に格上げする分類が提唱されたのです。

image by iStockphoto

ただし、この辺りは研究者によって異なる見解をもつこともあります。「甲殻類=甲殻綱の方が適切だ!」という意見もあるかもしれません。そのためここでは分類学上の断定を避け、以降は一般的な甲殻類の生物をご紹介するにとどめたいと思います。

\次のページで「甲殻類の特徴」を解説!/

甲殻類の特徴

それでは、甲殻類の生物にみられる代表的な特徴や共通点をご紹介していきたいとおもいます。

体の構造

甲殻類の体のつくりに注目してみましょう。甲殻類には「頭部、胸部、腹部」の3部からなるものが多くいます。種によっては、頭部と胸部がひとまとまりになり、「頭胸部、腹部」という2部構成になっているものもいますね。

体には節があり、これを体節(たいせつ)とよびます。甲殻類では、それぞれの体節に一対ずつの付属肢(ふぞくし)をもつのが基本です。

付属肢はそれぞれの場所で特有の形状、機能をもちます。頭部の付属肢は触角、胸部と腹部ではになっていたりしますね。

多くは水生

甲殻類の多くは水中で生活をする水性生物です。そのため、エラで呼吸をします。

エビやカニが海底を歩行している姿を、映像や写真で見ることがありますよね。そのような様子は水族館などでも観察が可能です。しかし、ほかの甲殻類を見ると遊泳生活をしているものもいるんですよ。

また、一部には陸上に生息する甲殻類も存在するので、覚えておきましょう。

甲殻類の例

では、ここから甲殻類にふくまれる具体的な生物の例を見ていきましょう。

前述の通り、甲殻類を分類学上「甲殻亜門」とするか、「甲殻綱」とするかは資料によって分かれるところです。なので、今回は分類群の形式にとらわれず、代表的な生物の名前やグループをピックアップして紹介していきたいと思います。

\次のページで「エビ」を解説!/

エビ

まずはエビ(海老)。「甲殻類といえばエビ!」という人も多いでしょう。

はじめからこんなお話をするのは気が引けるのですが…じつは”エビの仲間”というのは、分類上、少々扱いにくいグループです。なぜならば、一般的に認識される”エビの仲間”は側系統(そくけいとう)という、言ってしまえば「寄せ集め」のようなまとまりだから。

image by iStockphoto

エビの仲間に、後述するカニの仲間、ヤドカリの仲間を加えたグループは十脚目という分類群でまとめられることが多いです。その十脚目のうち、「カニの仲間でもヤドカリの仲間でもないもの」をまとめてエビの仲間とよんでいるような形になります。

分類学を少し勉強していると、これは言及しないわけにはいかないポイントなのですよ!

とはいえ、確かに普段私たちが生活したり、甲殻類を食品としていただくときには、分類学上のポイントなんて、なんの支障にもならないのが事実ですよね。

世界には数千種の”エビの仲間”がいます。その中でも、日本人が食用として利用しているのはわずか20種類程度なのだそうです。

カニ

カニ(蟹)のなかまも、甲殻類の中でも代表的な存在です。こちらも、海産物に恵まれた日本では、おいしい食材の一つとして認識されることが多いでしょう。

食用にするものには、ズワイガニやタカアシガニ、淡水のサワガニなどがあります。

ヤドカリ

ヤドカリは、巻貝などにからだを収めて生きる甲殻類です。その生態のため、体は巻貝の形に合うようにらせん状になっていることが多いですね。

さて、前述のように、ここまでご紹介したエビ、カニ、ヤドカリの仲間を十脚目という分類群でくくることが多いです。

そうです。エビの仲間は腹部が長く、ヤドカリの仲間はその腹部がぐっと曲がっている、カニの仲間は腹部が著しく退化した姿、と考えてみてください。それ以外の体のつくり(足の数や付き方など)には共通点が多いのです。

一般的に「甲殻類」と言ったときに思い浮かぶ主要な種は、ほとんどがこの十脚目に含まれる生物だと思います。

\次のページで「シャコ」を解説!/

シャコ

ときに”エビの仲間”として認識される甲殻類の一つにシャコがいます。形態も似ており、たしかにエビとはよく似ているのですが、分類上は前述の十脚目ではなく、口脚目という別の分類群に属する生物です。

よく観察すると、確かに十脚目のエビ類とは体のつくりが違う点があります。

ミジンコ

理科の教科書などにも登場するプランクトンのなかま、ミジンコも、実はこの甲殻類に含まれる生物です。

image by iStockphoto

いずれの種も体長がせいぜい数ミリメートルであり、なかなか”甲殻類らしさ”を感じるのが難しいかもしれません。しかし、そのからだは背甲とよばれるしっかりとした組織で覆われています。なかには、甲の一部を棘のように変化させる個体もいるんです。

フジツボ

海に行くと、岩や防波堤の壁などに硬いフジツボが張り付いている様子が見られます。よく貝類と間違われるのですが、このフジツボも立派な甲殻類です。

エビやカニのように歩き回ることもなく、ミジンコのように泳ぎ回ることもないため、ほかの甲殻類とは体のつくりがかなり大きく異なります。

ダンゴムシ

最後にご紹介するのはダンゴムシです。

image by iStockphoto

ふしぎなことに、甲殻類の仲間なんですよね。

ダンゴムシやワラジムシ、フナムシなどはワラジムシ目という分類群にまとめられます。小型のものが多いですが、近年、水族館での飼育などのニュースで有名になったダイオウグソクムシなんていう生物もふくまれますね。

甲殻類は「おいしい食材」ばかりじゃない

海に囲まれた日本という国に住む私たちにとって、甲殻類というとどうしても「エビ、カニ」「おいしい食材」のイメージが強くなってしまいます。それもあながち間違いではないのですが、エビやカニ以外の甲殻類や、他の節足動物との関係についても、もっと広く知られてほしいですね。

甲殻類のなかにも多種多様な生物がいます。興味を持った方はぜひ、図鑑なども使用して調べてみてください。

イラスト提供元:いらすとや

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理科生物生物の分類・進化

いくつわかる?「甲殻類」の特徴や種類、節足動物についてを現役講師がわかりやすく解説します

今回は「甲殻類」をキーワードにして生物の学習をすすめていこう。

甲殻類というと、多くの人はエビやカニのことを思い浮かべるのではないでしょうか。魚類や貝類に加えて食卓に上がることも多い生物でもある。このグループにどんな特徴があるのか、エビやカニ以外にどんな生物が含まれているのか…その全体像を概観していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

甲殻類とは

甲殻類(こうかくるい)とは、節足動物が属する節足動物門のなかでも、甲殻亜門という分類群にまとめられている動物のことを指します。

後ほど詳しくご紹介しますが、甲殻類にはエビカニなどの生物が含まれていますね。

その通り!”門”という非常に大きな分類階級ではありますが、昆虫類とエビやカニなどの甲殻類は、いずれも節足動物門のなかまなのです。

せっかくですので、節足動物門の分類について、少し確認しておきましょう。

節足動物門というグループ

研究者によって意見が異なる場合もありますが、現在の節足動物門は大きく4つの亜門に分ける考え方が提唱されています。

4つの亜門とは、六脚亜門(ろっきゃくあもん)、多足亜門(たそくあもん)、鋏角亜門(きょうかくあもん)、そして今回の主役である甲殻亜門です。それぞれの亜門に属する生物は、六脚類、多足類、鋏角類、甲殻類ともよばれます。

image by Study-Z編集部

六脚亜門には、おもに昆虫の仲間が属しています。名前の通り、6本の脚をもつのが大きな特徴です。

多足亜門はムカデのようなたくさんの脚をもつ節足動物。鋏角亜門には、クモやサソリなどの鋏角をもつ生物が属しているんです。

甲殻亜門?甲殻綱?

インターネットや本で甲殻類について調べると、「節足動物門の甲殻綱(こうかくこう)に属する生物が甲殻類」と説明されているものがあります。

上記の記述のように、以前は甲殻綱という分類群に含まれている生物を甲殻類とよんでいました。しかし近年になり、甲殻綱をより大きな分類階級である甲殻亜門に格上げする分類が提唱されたのです。

image by iStockphoto

ただし、この辺りは研究者によって異なる見解をもつこともあります。「甲殻類=甲殻綱の方が適切だ!」という意見もあるかもしれません。そのためここでは分類学上の断定を避け、以降は一般的な甲殻類の生物をご紹介するにとどめたいと思います。

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