今回は「生物と無生物の違い」について学んでいきます。

突然ですが、「生物と無生物の違い」について説明できるか?改めて説明しようとすると、言葉に詰まる人もいるかと思う。
生物の定義をきちんと理解しておくことで、生物と無生物の境界についても理解することができるぞ。「ウイルスは生物か無生物か」という議論についても考えていこう。

大学や大学院で細胞生物学について学んだtomato1121と一緒に解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

生物の定義とは?

image by iStockphoto

まず生物学において「生物」はどのように定義づけられているか、解説していきましょう。生物の定義については様々な意見がありますが、多くの科学者が挙げているものとして以下のような条件があります。

定義1:細胞からなり、遺伝情報としてDNA(デオキシリボ核酸)を有している。

定義2:生殖を行って増殖する。

定義3:代謝をしてエネルギーを生産し、ATPにそのエネルギーを蓄える。

定義1:細胞からなり、遺伝情報としてDNAを有している

生物を定義する上で最も基本的なことは、どのような生物も細胞で構成されているということです。細胞は細胞膜で覆われており、細胞膜はリン脂質とタンパク質でできています。

そして細胞の内部には、二重らせん構造をしたDNAを持っていることが重要なポイントです。DNAには遺伝子が含まれており、生命活動を行う上で必要となるタンパク質を作ることができます。いわば生物の設計図のようなものがDNAですね。

定義2:生殖を行って増殖する

生物は子孫を残すために生殖を行って増殖する、という特徴があります。生殖には無性生殖または有性生殖がありますね。無性生殖は分裂や出芽などによって、有性生殖は2つの配偶子が接合することによって新個体が作られる方法です。

無性生殖で増殖するとき、また有性生殖で配偶子を作るときには必ず細胞分裂を伴います。細胞分裂を行うために必要なのが、DNAを複製して分配するといった作業。DNAの複製などには多くのタンパク質が関与していますが、それらのタンパク質を合成する情報もDNAに含まれているのです。

つまり、自分自身の力で次世代に遺伝情報を受け継いでいくことができる、それが生物の特徴といえます。

定義3:代謝をしてエネルギーを生産する

生物は自身の生命活動に必要なエネルギーを、自分の力で生産しているという特徴もあります。生命活動、例えば物質の輸送や合成、筋肉の収縮などを行う際はエネルギーが必要です。

エネルギー源であるATPの合成ために有機物を分解する反応(異化)である「呼吸」、ATPを用いて有機物などの複雑な物質を合成する反応(同化)である「光合成」など、代謝を行うことで生命活動を維持しています。

\次のページで「無生物とは何か?」を解説!/

無生物とは何か?

image by iStockphoto

無生物に関しては生物とは異なり、生物学上で明確に定義はありまません。無生物に関して、漠然と「動かないもの」や「生命がないもの」といったイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。そうすると、「大半の植物は動かないので、無生物になってしまう?」「生命とは何?」という疑問も出てきてしまいます。

生物と無生物の境界とは?

image by iStockphoto

それでは生物と無生物の境界ついて、生物学上ではどのように考えられているのかを解説していきましょう。無生物は「生物では無い」という意味であると捉えると、生物の定義に1つでも当てはまらないものは「無生物」に該当すると考えられます。

従って、生物のと無生物の境界とは、「生物の定義」を基準にすることで導き出せるというのが現在の生物学での見解です。

生物と無生物の例をご紹介

それでは、「生物の定義」を基準にして、生物と無生物について具体的な例を挙げてご紹介していきたいと思います。

動物、植物、菌類、細菌類などは生物!

生物に該当するのは、例えば動物や植物がありますね。では肉眼で観察できない微生物はどうでしょうか。細菌類も細胞でできており、生殖を行って増殖し、代謝をしてエネルギーを生産する立派な生物であると言えます。菌類も同様に生物の定義を満たしており、生物に該当するといえるでしょう。

ロボット、石、机などは無生物!

ロボットは細胞もDNAも持たず、生殖も代謝を行わないため、無生物といえるでしょう。同様に考えて、石やプラスチックなどの無機物も無生物に該当しますね。

では木製の机はどうでしょう。材料である木材は元々は植物であり生物でした。しかし伐採されて木材となった状態では、既に生殖も代謝も行われていません。よって木製の机は無生物といえます。

\次のページで「ウイルスは生物?無生物?」を解説!/

ウイルスは生物?無生物?

ウイルスは生物か無生物かについては、議論されることが多いのです。一度ウイルスの特徴を整理し、生物の定義に当てはまる存在なのか考えていきましょう。

ウイルスの特徴1: 構造

Basic Scheme of Virus en.svg
DEXi - File:Basic Scheme of Virus fa.svg, CC0, リンクによる

ウイルスは種類によって様々な形状をしていますが、とてもシンプルな構造であると知られています。外殻はカプシドと呼ばれるタンパク質の殻でできており、その内部にDNAもしくはRNAのどちらか一方だけを持っているのが特徴です。

また、カプシドの周りをエンベロープという脂質二重膜に包まれ、そのエンベロープにスパイクタンパク質と呼ばれるタンパク質が存在する場合もあります。

ウイルスは細胞で構成されておらず、細胞膜とは異なる成分の殻を持っているといえますね。

ウイルスの特徴2:増殖方法

ウイルスは生殖を行わず、自身の力で増殖できないという特徴があります。ウイルスの持つ遺伝情報には最小限の情報しかなく、自身のDNAやRNAを複製したり、タンパク質を合成したりというシステムが備わっていないのです。

ではウイルスはどのように増殖しているかというと、「他の細胞に感染して代わりにウイルスを増殖してもらう」という手段を取っています。感染する細胞のことを宿主といいますね。ウイルスは宿主のDNAの中に自身の遺伝情報をこっそり組み込み、ウイルスの遺伝情報やタンパク質を合成してもらうことで、大量に子孫を増殖するのです。

生殖による増殖方法とは全く異なることが分かりますね。

ウイルスの特徴3:代謝を行わず、エネルギーも必要としない

ウイルスは代謝を一切行わない、というのも大きな特徴です。タンパク質の合成やエネルギーの生産、消費などの生命活動を全く行いません。必要最低限の遺伝子のみを持ち、まるで子孫を増やすことだけに専念しているようですね。

ウイルスは生物とはいえない?

ウイルスは生物とはいえない?

image by Study-Z編集部

ここまでウイルスの特徴について解説してきました。このようにウイルスは生物の定義に当てはまらない部分が多くありますね。このことから、生物学上ではウイルスは無生物であるという見方ができます。

\次のページで「ウイルスが生物かどうかは議論が分かれている」を解説!/

ウイルスが生物かどうかは議論が分かれている

しかし「ウイルスは宿主を利用するとはいえ、増殖して子孫に遺伝情報を受け継いでいることからも生物といえるのではないか」という意見の専門家も多くいます。アカデミックの間でもウイルスが生物かどうかは未だに議論が分かれているのです。

生物か無生物かは科学者が便宜上定義したもので、自然界では線引きが難しい部分もあります。今後新たな生物の発見などによって、生物と無生物の境界はより曖昧になっていくかもしれませんね。

細菌とウイルスの治療薬の違い

image by iStockphoto

生物とウイルスは構造や増殖方法に違いがあるため、細菌とウイルスによる感染症では異なる作用機序の治療薬が開発されています。医療の場では、どのような医薬品が使われているのかを解説していきましょう。

細菌に対する治療薬

細菌に対する治療薬として処方されるものに、抗生物質(抗菌薬)があります。様々な種類がある抗生物質。治療薬として用いられている抗生物質には「細菌の細胞壁の合成阻害」「DNAの複製阻害」「RNA合成阻害」「タンパク質合成阻害」などの作用があります。

つまり、細菌の代謝を阻害することで増殖を抑制する薬剤なのです。

ウイルスに対する治療薬

ウイルスは構造がシンプルであり代謝も行わないことから、治療薬の開発においてターゲットとなる部分が少なく、開発が難しいとされています。数少ないウイルスの治療薬として世に出ているものは、ウイルスの特徴をうまく利用して開発されているものです。

例えば、インフルエンザの治療薬。インフルエンザウイルスは宿主細胞で増殖して細胞外に放出される際、ノイラミニダーゼという酵素が必要になります。インフルエンザの治療薬は、このノイラミニダーゼを阻害することで、増殖したウイルスの放出を阻止する作用があるのです。

「生物」について考えてみよう

この記事では、生物と無生物の違いについて解説いたしました。

一言で生物と言っても様々な種類がありますが、細胞構造や生体内で行われている反応には共通する部分があります。そして私たち人間も生物です。普段意識していませんが、生体内ではDNAの複製やタンパク質の合成、呼吸などの代謝が絶えず行われていると思うと不思議ですよね。

また、多くの研究者が研究しているのもかかわらず、生物か無生物かで未だに議論が分かれているウイルス。自然界には人間が定義づけできないことや、未解明なことがたくさんあると思うとワクワクしますね。

" /> 生物と無生物の違い、説明できる?定義や例、境界、ウイルスは生物?理系院卒ライターが5分でわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物

生物と無生物の違い、説明できる?定義や例、境界、ウイルスは生物?理系院卒ライターが5分でわかりやすく解説!

今回は「生物と無生物の違い」について学んでいきます。

突然ですが、「生物と無生物の違い」について説明できるか?改めて説明しようとすると、言葉に詰まる人もいるかと思う。
生物の定義をきちんと理解しておくことで、生物と無生物の境界についても理解することができるぞ。「ウイルスは生物か無生物か」という議論についても考えていこう。

大学や大学院で細胞生物学について学んだtomato1121と一緒に解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

生物の定義とは?

image by iStockphoto

まず生物学において「生物」はどのように定義づけられているか、解説していきましょう。生物の定義については様々な意見がありますが、多くの科学者が挙げているものとして以下のような条件があります。

定義1:細胞からなり、遺伝情報としてDNA(デオキシリボ核酸)を有している。

定義2:生殖を行って増殖する。

定義3:代謝をしてエネルギーを生産し、ATPにそのエネルギーを蓄える。

定義1:細胞からなり、遺伝情報としてDNAを有している

生物を定義する上で最も基本的なことは、どのような生物も細胞で構成されているということです。細胞は細胞膜で覆われており、細胞膜はリン脂質とタンパク質でできています。

そして細胞の内部には、二重らせん構造をしたDNAを持っていることが重要なポイントです。DNAには遺伝子が含まれており、生命活動を行う上で必要となるタンパク質を作ることができます。いわば生物の設計図のようなものがDNAですね。

定義2:生殖を行って増殖する

生物は子孫を残すために生殖を行って増殖する、という特徴があります。生殖には無性生殖または有性生殖がありますね。無性生殖は分裂や出芽などによって、有性生殖は2つの配偶子が接合することによって新個体が作られる方法です。

無性生殖で増殖するとき、また有性生殖で配偶子を作るときには必ず細胞分裂を伴います。細胞分裂を行うために必要なのが、DNAを複製して分配するといった作業。DNAの複製などには多くのタンパク質が関与していますが、それらのタンパク質を合成する情報もDNAに含まれているのです。

つまり、自分自身の力で次世代に遺伝情報を受け継いでいくことができる、それが生物の特徴といえます。

定義3:代謝をしてエネルギーを生産する

生物は自身の生命活動に必要なエネルギーを、自分の力で生産しているという特徴もあります。生命活動、例えば物質の輸送や合成、筋肉の収縮などを行う際はエネルギーが必要です。

エネルギー源であるATPの合成ために有機物を分解する反応(異化)である「呼吸」、ATPを用いて有機物などの複雑な物質を合成する反応(同化)である「光合成」など、代謝を行うことで生命活動を維持しています。

\次のページで「無生物とは何か?」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: