今回は「有袋類」というキーワードをテーマに学習していこう。

有袋類は、哺乳類の中でも独特の子育てをすることで知られた動物のグループです。我々ヒトのような動物とどんな違いがあるのか、どんなところに生息しているのか…いろいろな視点でこの生物を学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

有袋類とは?

有袋類(ゆうたいるい)とは、哺乳類の動物の一グループです。哺乳類の中でも、育児嚢(いくじのう)で子どもを育てる動物が含まれます。

より正確な表現をすれば、有袋類は分類学上、哺乳綱の有袋上目(ゆうたいじょうもく)という分類群に属する生物、といえるでしょう。

文献によっては、「有袋類は有袋目という分類群に属する生物」と記してあるものもあるかもしれません。以前は有袋目という分類群で有袋類をまとめていたのです。

しかし近年、「有袋目でくくられた分類群の中に、あまりにいろいろな生物がいる」と問題提起され、有袋目を有袋上目に格上げする考え方が出てきました。そのため、「有袋類=有袋目の動物」と書かれていたり、「有袋類=有袋上目の動物」と書かれていたりします。

image by iStockphoto

とはいえ、分類群の階級が少し変わっただけで、有袋類に該当する動物の種類に変化があったわけではありません。この記事では有袋類の分類学的な位置付けはあまり気にせず、このグループを見ていきたいと思います。

有袋類の特徴

それでは、有袋類の動物にはどんな共通点や特徴があるのか、代表的なものをご紹介していきましょう。

育児嚢で子どもを育てる

有袋類の特徴の中で最もわかりやすいのが、雌が子どもを育てるための”袋”である育児嚢をもっていることでしょう。もちろん、有袋類の名前の由来もここからです。

育児嚢の内部には乳首があるので、子どもはここで乳を飲み、母親に守られながら成長することができます。

\次のページで「胎盤がない」を解説!/

一部の有袋類(フクロアリクイなど)では育児嚢が失われてしまい、痕跡程度しか確認できないものもいます。

また、有袋類以外にも育児嚢とよばれる器官をもっている生物もいるため、「有袋類=育児嚢」と決めつけ過ぎない方が良いですね。

さて、有袋類が上に述べた育児嚢で子育てをするのには大きな理由があります。子どもが発育の不完全な”未熟児”の状態で生まれてくるのです。

Joey in pouch.jpg
Geoff Shaw - Picture uploaded by en:User:Schutz, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

哺乳類の中には、生まれた時点で毛を身にまとい、出産後すぐに立ち上がることができるようなものも少なくありません。

その一方で、出産直後の有袋類の子どもは本当に未熟です。だからこそ、出生直後にすぐ育児嚢に入り、そこでしばらくの間成長します。そうでないとあっという間に死んでしまう可能性があるんですよ。

その理由は、一般的な哺乳類の雌がもつ”胎盤”にあります。

胎盤がない

私たち人間(ヒト)をふくむ多くの哺乳類は、雌が妊娠中、胎盤という器官を通しておなかの中の子どもに栄養などを与えます。ところが、有袋類ではこの胎盤がないか、あっても十分に胎児に栄養を与えることができません

そのため、有袋類の子どもは未熟な状態で生まれてくるのです。

哺乳類の中でも、妊娠時に雌が胎盤をもつものは有胎盤類というグループでまとめられています。

現生哺乳類の大部分は有胎盤類です。今回の主役である有袋類は、有胎盤類と進化の途中で分かれたグループといわれているのですが、それ以前に単孔類(たんこうるい)というが分岐したとみられています。

image by Study-Z編集部

単孔類は、カモノハシやハリモグラといった生物が含まれているグループです。この単孔類の生物は、胎盤の有無以前にという形で子どもを産みます。

\次のページで「有袋類のなかまたち」を解説!/

有袋類のなかまたち

ではここからは、有袋類の代表的な生物を見ていきましょう。

カンガルー

有袋類の中でもとくによく知られているのは、やはりカンガルーの仲間でしょう。カンガルーの子どもが育児嚢の中から顔を出している様子は、日本国内の動物園などでもみることができますよね。

カンガルーの仲間(カンガルー科の動物)は、世界でもオーストラリア大陸とタスマニア島、ニューギニア島に生息しています。後述する有袋類も、この地域に分布が限られているものが多いです。

コアラ

コアラは有袋類のなかでもコアラ科コアラ属に分類されます。コアラ科コアラ属には、ほかに現生の種はいません。つまり、コアラが唯一のコアラ科コアラ属の存在なのです。

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ご存じの通り、コアラはそのほとんどの時間を樹上で過ごします。食性も、ユーカリなどの限られた樹木の葉や芽です。地上を跳ね回るカンガルーとは大違いですね。

ウォンバット

丸くずんぐりとした姿がかわいらしいウォンバットも、有袋類の仲間です。やはりオーストラリア大陸の限られた地域に生息しています。

ウォンバットの育児嚢は、後ろ向き…おしりの方に向かって開いているんです。生まれた子どもは、そのおかげですぐに育児嚢に入ることができるのだそうですよ。

フクロモモンガ

モモンガのような外見ながら有袋類の仲間であるフクロモモンガ。近年はペットショップなどでも姿を見るようになりました。

フクロモモンガの体長は20cmほどですが、樹上を駆け回り、時に滑空するため、飼育ケージは大きめのものが必要だそうです。

フクロネコ

フクロモモンガのように、”フクロ(袋)”という言葉を名前にもつフクロネコも、やはり有袋類です。”ネコ”とありますが、その姿は私たちのよく知る”ネコ(猫)”とは大きく異なり、どちらかといえばネズミのように見えます。

人間の活動や外来種、感染症などの影響によってオーストラリア大陸では絶滅してしまいました。タスマニア島に生き残っていますが、こちらも絶滅の危険にあるといいます。

\次のページで「タスマニアデビル」を解説!/

タスマニアデビル

多くの固有種がみられるタスマニア島でも、よく名前を耳にするのがタスマニアデビルでしょう。じつは、タスマニアデビルは前述のフクロネコの仲間(フクロネコ科タスマニアデビル属)なんです。

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気性が荒く、肉食性ということもあってか”デビル”なんて名前が付けられてしまいましたが、自分より大きな動物には警戒心が強く逃げ出してしまうことが多いといいます。

近年、タスマニアデビルがかかる病気によってどんどん数を減らしていて、保護活動も盛んにおこなわれているんですよ。

オポッサム

最後にご紹介するのはオポッサムです。ここまで見てきた有袋類は、オーストラリア大陸とその周辺が分布域でしたが、オポッサムは南北アメリカ大陸に生息している有袋類となります。

実際のところ、オポッサムの仲間が属するオポッサム科が、有袋類のなかでも特に種数の多い分類群なんです。

絶滅した有袋類も多い

有袋類は哺乳類の中でも有胎盤類とは異なるグループを形成している動物でした。動物の進化を考える上では欠かすことのできない分類群だと言っても過言ではないでしょう。

化石などの情報から、過去にはより多くの種類の有袋類が地球上にいたことが分かっています。しかし、環境の変化や人間の活動の影響などで数を減らしてしまいました。現在生き残っている有袋類にも、絶滅が心配されているものがいくつもいます。ぜひ、多様な生物の保護にも興味を持っていただきたいところです。

イラスト提供元:いらすとや

" /> 袋がある動物何種類知っていますか?育児嚢がある!有袋類について現役講師が詳しくわかりやすく解説します – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

袋がある動物何種類知っていますか?育児嚢がある!有袋類について現役講師が詳しくわかりやすく解説します

今回は「有袋類」というキーワードをテーマに学習していこう。

有袋類は、哺乳類の中でも独特の子育てをすることで知られた動物のグループです。我々ヒトのような動物とどんな違いがあるのか、どんなところに生息しているのか…いろいろな視点でこの生物を学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

有袋類とは?

有袋類(ゆうたいるい)とは、哺乳類の動物の一グループです。哺乳類の中でも、育児嚢(いくじのう)で子どもを育てる動物が含まれます。

より正確な表現をすれば、有袋類は分類学上、哺乳綱の有袋上目(ゆうたいじょうもく)という分類群に属する生物、といえるでしょう。

文献によっては、「有袋類は有袋目という分類群に属する生物」と記してあるものもあるかもしれません。以前は有袋目という分類群で有袋類をまとめていたのです。

しかし近年、「有袋目でくくられた分類群の中に、あまりにいろいろな生物がいる」と問題提起され、有袋目を有袋上目に格上げする考え方が出てきました。そのため、「有袋類=有袋目の動物」と書かれていたり、「有袋類=有袋上目の動物」と書かれていたりします。

image by iStockphoto

とはいえ、分類群の階級が少し変わっただけで、有袋類に該当する動物の種類に変化があったわけではありません。この記事では有袋類の分類学的な位置付けはあまり気にせず、このグループを見ていきたいと思います。

有袋類の特徴

それでは、有袋類の動物にはどんな共通点や特徴があるのか、代表的なものをご紹介していきましょう。

育児嚢で子どもを育てる

有袋類の特徴の中で最もわかりやすいのが、雌が子どもを育てるための”袋”である育児嚢をもっていることでしょう。もちろん、有袋類の名前の由来もここからです。

育児嚢の内部には乳首があるので、子どもはここで乳を飲み、母親に守られながら成長することができます。

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