大麻と聞くと違法薬物をイメージする人が多いでしょうな。ですが一方で、大麻草は繊維としても利用されているんです。麻ひもで作るヘンプアクセサリーを知っている人も多いでしょうが、実は「ヘンプ」とは大麻草の繊維を指している。では、いわゆる「麻」はみんな大麻草から出来ているのでしょうか?麻と大麻の違いについて、大麻取締法に詳しい現役薬剤師ライター、アラノるかと一緒にみていこう。

ライター/アラノるか

現役薬剤師ライター。日々の業務で麻薬処方せんも調剤する。大学では薬用植物を扱う生薬学研究室に所属。患者さまへの説明同様、わかりやすい解説を心がけている。

1.「麻」には大麻も含まれる?主な麻の種類を解説

さらりとした風合いで、夏場に心地よい麻の衣料。実は「麻」とは一種類の植物から取れるのではなく、植物に含まれる繊維の総称です。

一口に麻といっても、原料となっている植物は20種近くあり、それぞれ性質も異なっています。よく使われる麻としては、リネンラミージュートヘンプなどがありますが、そのうちのヘンプが大麻草から取れるものです。

つまり、「麻」の一部分には大麻も含まれていると言えます。

1-1.亜麻(リネン)について

image by iStockphoto

リネンとは、アマ科の一年草の亜麻(アマ)の茎から取れる繊維や織物のこと。この項目で引用した写真には、可憐な亜麻の花も添えられています。実は、現在の日本で流通している麻製品のほとんどは、亜麻から作られたリネンなのです。

亜麻は繊維以外にも利用されており、種子から取れる油は亜麻仁油(アマニ油)として使われるほか、花を楽しむための園芸種もあります。リネンの織物は吸水・発散性に優れている上、汚れが落ちやすく、丈夫で洗濯にも強い素材です。

1-2.苧麻(ラミー)について

ラミーは、イラクサ科の多年生草本の苧麻(チョマ、別名カラムシとも)の茎の皮から取れる繊維。

ラミーは非常に丈夫な繊維で、天然植物繊維の中では最高レベルの強度です。ラミーの織物は清涼感に優れ、美しい光沢を持っています。

1-3.黄麻(ジュート)について

ジュートは、アオイ科の一年草の黄麻(コウマ、別名インド麻とも)の茎から取れる繊維。

ジュートは耐久性にはやや欠けますが、毛羽があるため保温性が高く、伸びにくいため導火線やカーペット等に使われます。

なお、近縁種のシマツナソも繊維原料になり、海外では同じく「ジュート」と呼ばれるのですが、若葉が食用の「モロヘイヤ」として流通しており、日本では野菜としてなじみ深いです。

1-4.大麻(ヘンプ)について

ヘンプは、アサ科で雄株と雌株に分かれる、一年草の麻(アサ、大麻草とも)の茎の皮から取れる繊維です。

ヘンプは繊維が固く、チクチクとした刺激がありますが、通気性・吸水性に優れます。

日本でもヘンプは古くから使われてきましたが、大麻取締法によって繊維用の大麻栽培が激減。現在の国内での使用は限られ、天皇即位の大嘗祭に献上される衣服であったり、神道の祓い具の大麻(おおぬさ)やしめ縄等の材料として、伝統があり替えの利かない分野で使用されています。

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2.薬用型大麻と繊維型大麻は同じ植物?違いはあるの?

大麻草の花穂や葉を乾燥させたり、樹脂化、液体化させたものがいわゆる「大麻(マリファナ)」。ヘンプの繊維を採取できるのも、違法薬物の大麻の原料となるのも、同じ大麻草です。

ただし、大麻草は含まれる化合物の割合によって、薬用型中間型繊維型3つの品種に分かれます。向精神作用のない繊維型の品種は、海外では産業用ヘンプと呼ばれ、合法的に栽培・利用できる国もあるのです。

2-1.薬用型大麻に含まれる化合物と、大麻の薬効

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大麻草が向精神作用を持つかどうかは、大麻草に含まれる物質群カンナビノイドのうち、THC(テトラヒドロカンナビノール)CBD(カンナビジオール)2つの成分の割合や濃度で決まります。大麻草の品種によって持っている酵素が違うため、含まれる化合物も変わってくるのです。

向精神作用の中心となる成分がTHCで、薬用型にはTHCが2~25%含まれ、CBDはあまり含まれません中間型にはTHCとCBDが同程度含まれますが、THCの作用の方が強く出るため、少ないながらも向精神作用を示します。

大麻の乱用では、一般的に気分が爽快になったり多幸感が得られるようです。一方で、感覚過敏による体調不良を起こしたり、集中力が低下します。常用で暴力的になったり、幻覚・妄想が生じたり無気力になることも。こういった特徴のために、大麻は違法薬物として取り締まりの対象になっています。

2-2.繊維型大麻にも向精神作用はある?

繊維型の大麻草はCBDがTHCよりも多く、THC含有量も0.25%未満と少ない品種です。CBDにはTHCの向精神作用を打ち消す働きがあるため、もし繊維型の大麻の花穂や葉を吸引しても効果は得られません

なお、CBD製剤には鎮痛、抗不安、抗炎症、免疫抑制などの有用な薬理作用が認められ、アメリカをはじめとする複数の国において、医薬品として利用されています。大麻利用を厳しく取り締まる日本でも、CBD自体は取り締まりの対象ではありません。

3.麻と大麻、法律上の扱いは?

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古来より、日本ではヘンプを麻繊維として多用してきました。日本の在来品種は繊維型に近かったとみられ、大麻吸引の習慣はなかったのです。海外の薬用型大麻、およびその向精神作用が知られるに従い、日本でも昭和5年(1930年)より大麻の規制が始まります。第二次世界大戦後の昭和23年(1948年)、GHQからの要請もあり、現行法の大麻取締法が定められました。

下駄の緒や畳の糸、漁網など身近に広く用いられていたヘンプでしたが、法整備に加えて生活スタイルの変化もあり、国内の利用は激減。麻繊維としての需要は、法規制のないリネンやラミーに取って代わられることとなります。

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3-1.家庭用品品質表示法における「麻」とは?

日本で売られる繊維製品には、「綿」「ナイロン」等、繊維の名称表示が付いています。この記載内容は家庭用品品質表示法で決められており、ここでの「麻」は、亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)のみを指すのです。

繊維型の大麻から取れるヘンプは、「指定外繊維(ヘンプ)」と表記しなければなりません。この法律上では、「麻」と大麻は違うものとして扱われていますね。

3-2.大麻取締法について

大麻取締法とは、大麻の所持、栽培、譲渡等に関する法律です。

大麻の栽培、輸出入、所持、譲受・譲渡等は原則禁止とされ、都道府県知事の免許を受けた大麻取扱者のみに許されています。違反すると懲役および罰金刑の対象に。大麻から製造された医薬品の施用も禁止とされ、研究目的でも許可されません(大麻由来でない、化学合成したTHC等の有効成分の研究は可能です)。

大麻取締法の規制対象は大麻草全体ではなく、成熟した茎や種子は規制対象から除外されています。向精神作用を示すTHCは花穂や葉に多く含まれ、成熟した茎や種子にはほとんど含まれていません。「麻の実」として七味の原料や小鳥のエサになる種子同様、茎から取れるヘンプも規制対象外です。

現代の日本では、大麻取扱者の免許を受けたごく少数の生産者が、限られた場所で伝統的な麻産業を担っています。国内で主に栽培されている改良品種の「トチギシロ」は、ほとんどTHCを含まない繊維型大麻です。

大麻は「麻」の一部と言えるが、家庭用品品質表示法での「麻」には大麻は入らない

大麻と麻は、同じものなのでしょうか。それとも違うものなのでしょうか?

大麻繊維のヘンプは、確かに「麻」の一部であり、その意味では同じだと言えるかもしれません。しかし、家庭用品品質表示法で規定された「麻」からは、ヘンプは除外されています。さらに、「大麻」でイメージされる薬物型大麻と、「麻」の原料として用いられる繊維型大麻は、有効成分の割合が異なる別の品種です。そうしてみると違うものだとも言えますね。

大麻と麻の違いとは何か……さまざまな視点から両者を比較することで、答えも変わってくるのではないでしょうか。

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暮らし雑学

麻と大麻の違いや見分け方とは?ヘンプは違法?法律についても現役薬剤師がわかりやすく解説

大麻と聞くと違法薬物をイメージする人が多いでしょうな。ですが一方で、大麻草は繊維としても利用されているんです。麻ひもで作るヘンプアクセサリーを知っている人も多いでしょうが、実は「ヘンプ」とは大麻草の繊維を指している。では、いわゆる「麻」はみんな大麻草から出来ているのでしょうか?麻と大麻の違いについて、大麻取締法に詳しい現役薬剤師ライター、アラノるかと一緒にみていこう。

ライター/アラノるか

現役薬剤師ライター。日々の業務で麻薬処方せんも調剤する。大学では薬用植物を扱う生薬学研究室に所属。患者さまへの説明同様、わかりやすい解説を心がけている。

1.「麻」には大麻も含まれる?主な麻の種類を解説

さらりとした風合いで、夏場に心地よい麻の衣料。実は「麻」とは一種類の植物から取れるのではなく、植物に含まれる繊維の総称です。

一口に麻といっても、原料となっている植物は20種近くあり、それぞれ性質も異なっています。よく使われる麻としては、リネンラミージュートヘンプなどがありますが、そのうちのヘンプが大麻草から取れるものです。

つまり、「麻」の一部分には大麻も含まれていると言えます。

1-1.亜麻(リネン)について

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リネンとは、アマ科の一年草の亜麻(アマ)の茎から取れる繊維や織物のこと。この項目で引用した写真には、可憐な亜麻の花も添えられています。実は、現在の日本で流通している麻製品のほとんどは、亜麻から作られたリネンなのです。

亜麻は繊維以外にも利用されており、種子から取れる油は亜麻仁油(アマニ油)として使われるほか、花を楽しむための園芸種もあります。リネンの織物は吸水・発散性に優れている上、汚れが落ちやすく、丈夫で洗濯にも強い素材です。

1-2.苧麻(ラミー)について

ラミーは、イラクサ科の多年生草本の苧麻(チョマ、別名カラムシとも)の茎の皮から取れる繊維。

ラミーは非常に丈夫な繊維で、天然植物繊維の中では最高レベルの強度です。ラミーの織物は清涼感に優れ、美しい光沢を持っています。

1-3.黄麻(ジュート)について

ジュートは、アオイ科の一年草の黄麻(コウマ、別名インド麻とも)の茎から取れる繊維。

ジュートは耐久性にはやや欠けますが、毛羽があるため保温性が高く、伸びにくいため導火線やカーペット等に使われます。

なお、近縁種のシマツナソも繊維原料になり、海外では同じく「ジュート」と呼ばれるのですが、若葉が食用の「モロヘイヤ」として流通しており、日本では野菜としてなじみ深いです。

1-4.大麻(ヘンプ)について

ヘンプは、アサ科で雄株と雌株に分かれる、一年草の麻(アサ、大麻草とも)の茎の皮から取れる繊維です。

ヘンプは繊維が固く、チクチクとした刺激がありますが、通気性・吸水性に優れます。

日本でもヘンプは古くから使われてきましたが、大麻取締法によって繊維用の大麻栽培が激減。現在の国内での使用は限られ、天皇即位の大嘗祭に献上される衣服であったり、神道の祓い具の大麻(おおぬさ)やしめ縄等の材料として、伝統があり替えの利かない分野で使用されています。

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