住んでいる我々は普段あまり意識しないが、日本は世界的に見て大変ユニークな気象の特徴を持つ国なのです。確かに北は北海道から南は沖縄まで南北に長く、標高差も大きい日本では毎日のように驚くような気象現象のニュースが報じられているな。そして日本の天気予報の技術・システムも非常に優れており気象情報大国とも言われている。
日本の気象の特徴や天気予報のシステムについて、地学に詳しいサイエンスライター、チロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

日本の気象の特徴とは?

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はっきりした4つの季節を持つことが日本の気象の最大の特徴だと思っている人が多いですが、実は日本ではそれ以外の非常に珍しい気象現象も体感できます。一体どういった気象現象なのでしょうか?

降雪量が多い

降雪量が多い

image by Study-Z編集部

意外に思うかもしれませんが、日本は世界一の豪雪地。カナダやロシアなんて目じゃないほどの大雪が毎年降ります。ギネスブック公認の世界最大積雪記録は1972年に滋賀県の伊吹山で観測された11.82m。4階建てのビルに匹敵するほどの積雪量です。でも一体なぜ日本には大雪が降るのでしょうか?

日本海には、黒潮の分流である対馬海流という暖流が流れています。対馬海流の海水は温度が高く蒸発量も多いので、大気中に大量の水蒸気を供給するのです。さらに冬になるとユーラシア大陸上にはシベリア高気圧という高気圧が発達し、太平洋上の低気圧へと猛烈な風が吹き込みます。いわゆる「西高東低の気圧配置」です。この風が日本海の上を吹き抜けるとき、対馬海流が供給した大量の水蒸気を吸収し、日本列島にぶつかります。するとその風が上昇気流になり雲が発生、大量の雪を降らせるのです。まるで天然の雪製造マシーンのような仕組みになっているんですね。

湿度が高い

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日本は湿度が高い国としても有名です。その主な原因は太平洋上に発達する小笠原気団によってもたらされるジメジメした梅雨と、蒸し暑い夏。小笠原気団は夏になると太平洋上に発達する太平高高気圧の一部で、温度と湿度が高いのが特徴です。発達した小笠原気団とオホーツク海気団がぶつかって生み出されるのが、梅雨の原因となる梅雨前線。停滞前線なので日本列島上に長期間留まり、長い雨の季節をもたらすのです。

本格的な夏になると小笠原気団が優勢となり、オホーツク海気団を北に押し上げます。すると日本列島は気温と湿度が高い小笠原気団にすっぽり包まれることになり特有のムシムシと暑い夏になるのです。国際的にも悪名高い日本の夏の暑さですが、この気候が風通しのいい和服や草履、そして裸足で畳の上で生活するという世界に誇る日本の伝統文化を生み出したと考えられています。

台風の襲来数が桁違いに多い

Global tropical cyclone tracks-edit2.jpg
By Background image: NASA this version: Nilfanion - Created using User:jdorje/Tracks by Nilfanion on 2006-08-05. Background image from File:Whole_world_-_land_and_oceans.jpg (NASA). Tracking data for storms within the Atlantic and Eastern Pacific basins is taken from the National Hurricane Center and the Central Pacific Hurricane Center's Northeast and North Central Pacific hurricane database. The tracking data for storms within the Indian Ocean, the Northwest Pacific and the Southern Pacific is from the Joint Typhoon Warning Center. Tracking data for Cyclone Catarina in the South Atlantic was published in Gary Padgett's April 2004 Monthly Tropical Cyclone Summary and was originally produced by Roger Edson of the University of Guam., Public Domain, Link

上の図は1985年から2005年までに発生した熱帯低気圧の経路を地図上に示したものです。青い色で示されたものは勢力が弱く、黄〜赤となるにつれ勢力が強く表現されています。日本周辺の北西太平洋地域で、勢力の大きな台風が沢山発生しているのが分かりますね。ほとんどの台風は赤道付近で発生した後、太平洋高気圧のヘリを北上します。そこに位置しているのが日本列島。まるで回転をかけたボーリングの球のように、日本を狙って台風がやってくるのです。上陸数の統計で世界1位は国土面積の広い中国ですが、猛烈な勢力を保ったままピンポイントで台風に狙われるのは日本だと言えるでしょう。

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気象庁と気象協会って違うもの?

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日本の天気予報の技術は世界でもトップレベルだと言われています。その中核を担っているのは気象庁と気象協会。名前の似ているこの2つの機関の違いとは一体何なのでしょうか?

気象庁は政府の機関

JMA Toranomon office 2020-11-24.jpg
Europeans1145 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

気象庁は国土交通省の外局である行政機関。つまり日本政府により運営されているのです。かつては官公庁の集中する東京都千代田区大手町に立地していましたが、2020年に千代田区虎ノ門に移転しました。札幌・仙台・東京・大阪・福岡・沖縄の各地には下部組織である気象台が置かれています。主な業務は天気予報に関わるデータを集め、解析し、その情報を提供すること。民間会社が行う天気予報も、気象庁から提供される情報が元に行われています。また国民の生命・財産を守るための気象警報・注意報を発表することも大事な業務の一つです。国民の安全・安心のため、無くてはならない機関ですね。

気象協会は民間の会社

日本気象協会が入居するサンシャイン60
Kakidai - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

一方、気象協会は民間の機関です。かつては運輸省(現・国土交通省)所管の財団法人でしたが、2009年に民営化されました。主な業務は気象情報の提供や気象情報に基づく商品需要予測の提供など。民間での天気予報が自由化された後でもNHKをはじめとするテレビ局やYahoo!などのウェブメディア、NTTの天気予報(117)そして電車内で流れる天気予報は気象協会の気象情報を使用しているなど、シェアは圧倒的。さらには自社でもtenki.jpというウェブサイトやアプリを運営しており、近年情報収集の主流となっている携帯電話やスマートフォンからのアクセスにも対応しています。

気象衛星・気象レーダー・アメダスの違いって?

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天気予報の基本となっているのはスーパーコンピュータによるデータ解析。現在、日本では気象衛星・気象レーダー・アメダスの組み合わせによってその基となるデータを収集しています。気象衛星・気象レーダー・アメダスの違いとは一体何なのでしょうか?

気象衛星は宇宙から雲の動きを見ている

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日本が所有する気象衛星は「ひまわり」。1977年代に打ち上げられた初代から数え、2021年現在は8代目および9代目のひまわり8号9号が高度35,786kmの静止軌道上にあり、気象観測に用いられています。

フルカラーの可視画像に加え、赤外線領域のセンサーも搭載しているため、夜間の観測も可能です。気象衛星の役割は、天気予報に不可欠な広範囲の雲の動きを把握すること。ひまわりは日本周辺だけでなく、広く東アジア・西太平洋の広範囲をカバーしているため、台風の進路のような長期の予測には必須のテクノロジーなのです。

\次のページで「気象レーダーは雨や雪の降り方を調べている」を解説!/

気象レーダーは雨や雪の降り方を調べている

気象レーダーは雨や雪の降り方を調べている

image by Study-Z編集部

実際にどれくらいの規模の雨雲がどこにあるのかを知るために用いられるのが、気象レーダーです。回転するアンテナから電波を360°に照射し、跳ね返ってきた電波を解析することで雨や雪の位置に加え、その場所の風速まで知ることができるというスグレモノ。日本列島全体をカバーするため、札幌から石垣島まで全国20箇所に設置されています。

最も有名だったのは富士山の山頂に設置された富士山レーダーですが、近隣の長野や静岡にもレーダーが設置されたためその役割を終え、1999年に運用が停止されました。現在は富士山のふもと、山梨県富士吉田市の富士山レーダードーム館で展示されています。

アメダスは地上の状態を調べている

Expo AMeDAS-2005-7-22.jpg
Photo by Syohei Arai(talk) - Photo by Syohei Arai(talk), CC 表示-継承 3.0, リンクによる

アメダスは「Automated Meteorological Data Acquisition System(自動気象データ収集システム)」の略で、日本名は「地域気象観測システム」です。気象衛星や気象レーダーは「離れた場所から見る」ものですが、アメダスは各地域における降水量・風向風速・気温・湿度を自動観測するシステム。日本全国に約17km間隔で、約1,300箇所も設置されています。予報というよりも、現在の状態を知るために必要な設備なのです。テレビなどの天気予報では、「現在の雨の状況」としてアメダスのデータが表示されることが多いですね。

雨や雪は貴重な水資源を生み出すが、時に被害ももたらす。上手な付き合いのためには、日本のハイレベルな気象予報が不可欠。

ユーラシア大陸の東の海上に浮かぶ島国という立地条件は、日本列島に多くの雨や雪を降らせ、豊富な水資源を与えてくれます。しかし時に牙を剥き、災害を引き起こすのが大自然。気象現象をコントロールすることができない我々人類に出来ることは、災害の発生を「予測」し防災・減災する事だけです。しかし未来を正確に予測することなど不可能。その不可能な課題に、日々果敢に挑むことが「気象予報」だと言えるでしょう。毎日何気なく目にしている天気予報には、そんな熱いドラマが隠されているんですね。

" /> 日本の気象の特徴から気象庁と気象協会の違いまで、気象にまつわる様々な疑問に元米国科学教諭チロが答えます! – Study-Z
地学理科

日本の気象の特徴から気象庁と気象協会の違いまで、気象にまつわる様々な疑問に元米国科学教諭チロが答えます!


住んでいる我々は普段あまり意識しないが、日本は世界的に見て大変ユニークな気象の特徴を持つ国なのです。確かに北は北海道から南は沖縄まで南北に長く、標高差も大きい日本では毎日のように驚くような気象現象のニュースが報じられているな。そして日本の天気予報の技術・システムも非常に優れており気象情報大国とも言われている。
日本の気象の特徴や天気予報のシステムについて、地学に詳しいサイエンスライター、チロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

日本の気象の特徴とは?

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はっきりした4つの季節を持つことが日本の気象の最大の特徴だと思っている人が多いですが、実は日本ではそれ以外の非常に珍しい気象現象も体感できます。一体どういった気象現象なのでしょうか?

降雪量が多い

降雪量が多い

image by Study-Z編集部

意外に思うかもしれませんが、日本は世界一の豪雪地。カナダやロシアなんて目じゃないほどの大雪が毎年降ります。ギネスブック公認の世界最大積雪記録は1972年に滋賀県の伊吹山で観測された11.82m。4階建てのビルに匹敵するほどの積雪量です。でも一体なぜ日本には大雪が降るのでしょうか?

日本海には、黒潮の分流である対馬海流という暖流が流れています。対馬海流の海水は温度が高く蒸発量も多いので、大気中に大量の水蒸気を供給するのです。さらに冬になるとユーラシア大陸上にはシベリア高気圧という高気圧が発達し、太平洋上の低気圧へと猛烈な風が吹き込みます。いわゆる「西高東低の気圧配置」です。この風が日本海の上を吹き抜けるとき、対馬海流が供給した大量の水蒸気を吸収し、日本列島にぶつかります。するとその風が上昇気流になり雲が発生、大量の雪を降らせるのです。まるで天然の雪製造マシーンのような仕組みになっているんですね。

湿度が高い

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日本は湿度が高い国としても有名です。その主な原因は太平洋上に発達する小笠原気団によってもたらされるジメジメした梅雨と、蒸し暑い夏。小笠原気団は夏になると太平洋上に発達する太平高高気圧の一部で、温度と湿度が高いのが特徴です。発達した小笠原気団とオホーツク海気団がぶつかって生み出されるのが、梅雨の原因となる梅雨前線。停滞前線なので日本列島上に長期間留まり、長い雨の季節をもたらすのです。

本格的な夏になると小笠原気団が優勢となり、オホーツク海気団を北に押し上げます。すると日本列島は気温と湿度が高い小笠原気団にすっぽり包まれることになり特有のムシムシと暑い夏になるのです。国際的にも悪名高い日本の夏の暑さですが、この気候が風通しのいい和服や草履、そして裸足で畳の上で生活するという世界に誇る日本の伝統文化を生み出したと考えられています。

台風の襲来数が桁違いに多い

Global tropical cyclone tracks-edit2.jpg
By Background image: NASA this version: Nilfanion – Created using User:jdorje/Tracks by Nilfanion on 2006-08-05. Background image from File:Whole_world_-_land_and_oceans.jpg (NASA). Tracking data for storms within the Atlantic and Eastern Pacific basins is taken from the National Hurricane Center and the Central Pacific Hurricane Center‘s Northeast and North Central Pacific hurricane database. The tracking data for storms within the Indian Ocean, the Northwest Pacific and the Southern Pacific is from the Joint Typhoon Warning Center. Tracking data for Cyclone Catarina in the South Atlantic was published in Gary Padgett’s April 2004 Monthly Tropical Cyclone Summary and was originally produced by Roger Edson of the University of Guam., Public Domain, Link

上の図は1985年から2005年までに発生した熱帯低気圧の経路を地図上に示したものです。青い色で示されたものは勢力が弱く、黄〜赤となるにつれ勢力が強く表現されています。日本周辺の北西太平洋地域で、勢力の大きな台風が沢山発生しているのが分かりますね。ほとんどの台風は赤道付近で発生した後、太平洋高気圧のヘリを北上します。そこに位置しているのが日本列島。まるで回転をかけたボーリングの球のように、日本を狙って台風がやってくるのです。上陸数の統計で世界1位は国土面積の広い中国ですが、猛烈な勢力を保ったままピンポイントで台風に狙われるのは日本だと言えるでしょう。

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