「フォッサマグナ」という言葉を聞いたことがあるか? 日本列島の成り立ちに関わる重要な言葉ですが、きっちり理解している人は少ないようです。一体、フォッサマグナとは何なのか、そしてどこにあるのかを地学にも詳しい元米国理科教師のサイエンスライター、チロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

フォッサマグナは大きな溝!?

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明治時代、近代化を急ぐ政府は世界各国から優秀な人材を日本に招きました。「ナウマン象」で有名なドイツ人科学者ハインリヒ・ナウマン氏もその一人。東京帝国大学(現東京大学)の地質学教授として雇われた彼は日本全国を歩き回り、まだ誰も知らなかった日本の地質をくまなく調査したのです。

任期を終え、ドイツに帰国した彼は驚くべき仮説を発表しました。それは日本列島の中央には巨大な大地の溝があるというもの。ナウマン氏によってラテン語で「大きな溝(みぞ)」を意味するフォッサマグナ(Fossa Magna)と命名されたその溝の幅は100km、深さは6,000mを超えると言うから驚きです。

「え? 日本列島の中心に深さ6,000mの溝? そんなのあるわけないじゃん!」と思うかもしれませんが、それもそのはず。実はこの溝は大量の土砂や火山噴出物で完全に埋められているので、実際に見ることはできません。しかし、その存在を裏付ける証拠はその後たくさん見つかっています。一体、こんな巨大な溝がなんで日本のど真ん中にあるのでしょうか?

地図で見てみよう

Tectonic map of southwest Japan.png
CC 表示-継承 3.0, リンク

まずは日本のどこにフォッサマグナにあるのかを、地図で確認してみましょう。上の地図中でオレンジ色に塗られた部分。それがフォッサマグナです。新潟県から中央山地や関東平野を通って静岡〜千葉の太平洋沿岸までの広大なエリアを、南北に貫いているのが分かるかと思います。この部分の地下に深さ6,000mの溝があるなんて、ちょっと信じられませんね。

フォッサマグナは人口密集地帯の関東平野や太平洋沿岸部を含むので、なんと日本の総人口の約1/3がその上で暮らしているのだそうです。

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糸魚川静岡構造線との関係

Himekawa-onsen Itoigawa.JPG
Triglav - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

先ほどの地図でフォッサマグナの一番西の端にある青い線。これは新潟県糸魚川市から静岡県静岡市を結ぶ大断層、糸魚川静岡構造線(通称糸静線)です。「糸静線=フォッサマグナ」と勘違いされることが多いのですが、糸静線はフォッサマグナの西の端になります。

糸静線の東西で地質が大きく異なるため、モグラやホタルなどの生物もここが東日本に生息する種と西日本型に生息する種の境界線。さらにこの断層上はなだらかな勾配の谷地になるので、昔は日本海沿岸から信州へ塩を運ぶ街道として、現代でも国道や鉄道のルートとして使われています。

フォッサマグナは巨大地震を引き起こす?

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フォッサマグナは「溝」なので、フォッサマグナという構造自体が地震の原因になることはありません。しかしフォッサマグナ内にはいくつも地震を引き起こす可能性のある活断層が見つかっており、特にフォッサマグナ西縁の糸魚川静岡構造線は地震の原因となる活断層を数多く含むため注意が必要です。

またフォッサマグナでは地殻が薄くなっているためマグマの上昇が起こりやすく、富士山・浅間山・箱根山などの日本を代表する火山がずらりと並んでいます。フォッサマグナ内では火山性の地震が起きる可能性もあるのです。

フォッサマグナの歴史

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フォッサマグナの6,000mにも達する沈み込みはいつ、どうやって生まれたのでしょうか? 今もまだ沈み込み続けているのでしょうか? そしていつか日本列島は沈没してしまうのでしょうか? 

フォッサマグナはいつ出来た?

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フォッサマグナが誕生したのは2,000万年前から1,500万年前の「中新世」と言う時代だった考えられています。この時代は、我々の先祖がチンパンジーやゴリラはおろかテナガザルの先祖と分岐するより前。アフリカの森で樹上生活をしていた頃です。

フォッサマグナはどうやって出来た?

フォッサマグナはどうやって出来た?

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フォッサマグナ誕生のメカニズムを、時系列順に見ていきましょう。

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1. 遠い昔、日本列島は現在のアンデス山脈のようなユーラシア大陸の東の端にある山脈でした。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む際に加わる力によって形成されたと考えられています。

2. 今から約2,000万年前、大陸の縁で起きたマントルの上昇によって山脈が太平洋側に押し出され、将来日本海になる湖が形成され始めました。

3. 約1,500万年前、拡大を続けた湖は太平洋とつながって、日本海に。そして押し出された山脈は日本列島になりました。この時、山脈の真ん中がポッキリと折れ、折れ目に位置していた地盤が陥没したのです。

4. その後マントルの上昇は止まり、山脈の移動も終了しました。この時までに地盤の陥没はなんと水面から6,000m以上の深さに達していたと考えられます。そう、これこそがフォッサマグナです!フォッサマグナは周囲から流れ込んだ土砂や活発に起きた火山の活動によって徐々に埋められ、私たちが知る現在の日本列島の姿になりました。

中央構造線との関係

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BehBeh - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

日本列島にはフォッサマグナ以外にもう一つ、ユニークな地質構造があります。それは日本列島を東西に貫く大断層「中央構造線」。フォッサマグナができる遥か昔、日本列島がまだ大陸の一部だった時にできた大地のズレです。九州から四国、紀伊半島を通過し愛知県あたりから北向きに進みます。そして長野県でフォッサマグナ西縁の糸静線とぶつかるのです!

この交差地点が諏訪湖。大地の割れ目が二つぶつかって出来た窪地に水がたまったものです。この地に古来から信仰を集める諏訪大社が鎮座しているのは、荒ぶる大地を鎮めるためだったのかもしれないですね。

フォッサマグナが見れる場所

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ここまで記事を読んでくれた人の中には「フォッサマグナをこの目で見たい」と思う人もいるでしょう。しかし冒頭でも述べたとおり、フォッサマグナという「溝」自体は厚い堆積物の底にあり、実際に目にすることはできません。では一体どこに行けばフォッサマグナの存在を実感できるのでしょうか?

フォッサマグナミュージアム

Fossa Magna Museum.JPG
Triglav - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

フォッサマグナ西縁の境界線「糸魚川静岡構造線」の名前にもなっている新潟県糸魚川市にはフォッサマグナをテーマにした博物館フォッサマグナミュージアムがあります。

どのようにフォッサマグナが生成され、日本列島が誕生したのかを分かりやすく学べる展示に加え、化石採集体験や石の鑑定(要予約)なども行なっているので親子でのお出かけにもおすすめ。JR大糸線糸魚川駅からバスで10分の場所にあります。入館料は大人500円、高校生以下無料。事前にコンビニで入館券を購入すると、100円割引になるそうですよ。臨時休館や開館時間の変更もありますので、訪問する際は事前に公式ウェブサイト(https://fmm.geo-itoigawa.com)を確認してくださいね。

フォッサマグナパーク

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Saigen Jiro - 投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

実際にフォッサマグナの存在を証明する現場をこの目で見たい!という人にはフォッサマグナミュージアムから車で15分のところにあるフォッサマグナパークがおすすめ。フォッサマグナ西縁の糸魚川静岡構造線を人工的に露出してあり、この断層を挟んで西側と東側で地質が全く異なることが一目でわかります。

公共の公園なので入場は無料で、駐車場もあるんです。駐車場から遊歩道を20分ほど歩いた場所にあるのが断層露頭。上の写真でも分かるとおり、向かって左側(西側)にある灰色の部分が日本列島がまだユーラシア大陸の一部だった4億年前に生まれた古い岩石。右側(東側)にある赤茶色の部分が、フォッサマグナを埋めた1,600万年前の新しい岩石です。 遊歩道沿いでは、海底火山の噴火によってフォッサマグナの海底で生まれた枕状溶岩も観察できます。

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実はあちこちで見れる?

Arakura Fault of the Itoigawa-Shizuoka Tectonic Line.JPG
Sakaori (talk) - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

実は同様の露頭は糸魚川以外でも見ることができます。山梨県の早川町にあるのは国指定天然記念物に指定された「新倉の糸魚川静岡構造線」。見事な逆断層を観察することができます。

糸静線の南端である静岡県静岡市の清水区にも露頭があるのですが、こちらはあまり整備されていないようです。静岡市には徳川家康・糸魚川静岡構造線ミュージアムという民間の博物館もありますので、歴史にも興味がある人はこちらを訪れると一石二鳥かもしれませんね。

大きな溝は偉大なる溝だった

日本列島の中央部を南北に貫く大きな溝フォッサマグナは、日本列島そして地球の知られざる歴史を解き明かすためのカギになっています。フォッサマグナについての研究は現在進行形であり、専門家の間でも成因や範囲については意見が分かれているそうです。この記事は諸説ある中の一つを紹介したものとご理解ください。これから研究が進み、フォッサマグナの謎が解けていくことが楽しみですね!

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地学理科

フォッサマグナとは?どこにある?日本列島を作った大きな溝の秘密を元米国科学教師チロが詳しくわかりやすく解説!


「フォッサマグナ」という言葉を聞いたことがあるか? 日本列島の成り立ちに関わる重要な言葉ですが、きっちり理解している人は少ないようです。一体、フォッサマグナとは何なのか、そしてどこにあるのかを地学にも詳しい元米国理科教師のサイエンスライター、チロと一緒に解説していきます。
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ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

フォッサマグナは大きな溝!?

image by iStockphoto

明治時代、近代化を急ぐ政府は世界各国から優秀な人材を日本に招きました。「ナウマン象」で有名なドイツ人科学者ハインリヒ・ナウマン氏もその一人。東京帝国大学(現東京大学)の地質学教授として雇われた彼は日本全国を歩き回り、まだ誰も知らなかった日本の地質をくまなく調査したのです。

任期を終え、ドイツに帰国した彼は驚くべき仮説を発表しました。それは日本列島の中央には巨大な大地の溝があるというもの。ナウマン氏によってラテン語で「大きな溝(みぞ)」を意味するフォッサマグナ(Fossa Magna)と命名されたその溝の幅は100km、深さは6,000mを超えると言うから驚きです。

「え? 日本列島の中心に深さ6,000mの溝? そんなのあるわけないじゃん!」と思うかもしれませんが、それもそのはず。実はこの溝は大量の土砂や火山噴出物で完全に埋められているので、実際に見ることはできません。しかし、その存在を裏付ける証拠はその後たくさん見つかっています。一体、こんな巨大な溝がなんで日本のど真ん中にあるのでしょうか?

地図で見てみよう

まずは日本のどこにフォッサマグナにあるのかを、地図で確認してみましょう。上の地図中でオレンジ色に塗られた部分。それがフォッサマグナです。新潟県から中央山地や関東平野を通って静岡〜千葉の太平洋沿岸までの広大なエリアを、南北に貫いているのが分かるかと思います。この部分の地下に深さ6,000mの溝があるなんて、ちょっと信じられませんね。

フォッサマグナは人口密集地帯の関東平野や太平洋沿岸部を含むので、なんと日本の総人口の約1/3がその上で暮らしているのだそうです。

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