今回のテーマは「A10神経系」というキーワードについて学習していこう。
A10神経系は脳にある神経系です。このA10神経系はどのような役割を果たしているのでしょうか?これを機会にA10神経系の働きを、やる気や依存症との関係性も含めて学んで行こうじゃないか。
大学で生物を学び、現在は食品メーカーの研究員であるライター、ハナイグチに解説してもらおう。

ライター/ハナイグチ

大学で生物学を学び、現在は食品メーカーの研究員として勤務している。

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A10神経系がやる気や集中力を左右している!

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「A10神経」という名前を「新世紀エヴァンゲリオン」の作中で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。実はこれ、実在する神経なんです。そしてこのA10神経系はやる気や集中力を左右する、とても重要な神経系なんですよ。

それではA10神経系とはいったい何なのか見ていきましょう。

A10神経系とは?

A10神経系は脳内に存在する神経系で、快楽物質であるドーパミンを放出します。「難しい問題を解くことができた」、「毎日頑張って練習に励んだ結果、試合に勝つことができた」このようなとき心地よい幸福感につつまれたことはありませんか?このような幸福感や快感を感じさせる神経回路のことを報酬系と呼びます。

このA10神経系は報酬系の中心となる神経なのです。

\次のページで「A10神経系はどこにあるの?」を解説!/

A10神経系はどこにあるの?

Dopamine Pathways.png
NIDA - NIDA Research Report Series - Methamphetamine Abuse and Addiction[1], パブリック・ドメイン, リンクによる

A10神経系が存在するのは中脳辺縁系の腹側被蓋野(VTA)というところです。そこから伸びて脳の様々なとこに繋がっています。

前頭連合野をはじめ偏桃体、側坐核、帯状回、視床下部、海馬に伸びています。これらは報酬系のメンバーです。A10神経系が興奮すると神経細胞(ニューロン)同士をつなぐシナプスを介して神経伝達物質であるドーパミン(ドパミン)が放出され、報酬系が活性化することで快楽を感じるということになります。

やる気・集中力につながる自己報酬系

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好きな事なら何時間でも続けられるのに、嫌いな勉強はやる気も起きなければ集中もできない、というのはよくあることですよね。これは脳の仕組みから言って仕方のないことなんです。そして、そこにはA10神経系が関係しています。

まず、前頭連合野という知的活動の中枢となる場所で「面白そう/つまんない」や「好き/嫌い」などの感情を判別します。このときポジティブな気持ちであった場合には神経伝達物質としてグルタミン酸が放出されA10神経系を興奮させるのです。そこからは快感を感じる報酬系が活性化する、というのは先ほど述べた通りですね。

この自己報酬系の活性化はやる気や集中力などのモチベーションのアップに繋がります。だから好きなことであればA10神経系によって脳が活性化され、やる気が向上すんですよ。

どうしたら「やる気」がでるの?やる気を出す秘訣

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A10神経系が「やる気」に深く関係していることが分かったところで、「やる気」をだすためには具体的にどうするのが有効なのでしょうか。A10神経活性化の観点から考える、やる気を出す秘訣について見ていきましょう。

目標設定を工夫する

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A10神経系を活性化させるために有効な手段の1つは「これを達成すると楽しいこと・良いことがある!」と思わせることです。例えばこの課題を終わらせたらご褒美にお菓子を食べよう!この試験に合格したら楽しいキャンパスライフが待っている!などの達成後のご褒美のイメージを持つと良いでしょう。

その他にも、A10神経系を含む報酬系の特徴として「もう少しで達成できそう」というときに強く活性化することが挙げられます。なので、果てしなく通い目標を目指すよりも、すこし頑張れば達成できそうなところを目標として設定していくと「やる気」を出しやすいですね。

エクササイズする

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運動もやる気をだすために有効な手段です。運動をするとドーパミンの分泌が増えるということが報告されています。デスクに座りっぱなしでいるよりも、適度に散歩などの運動を取り入れた方がかえってやる気が出て効率が上がるでしょう。

音楽を聞く

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音楽によってA10神経系が活性化することが知られています。とくにクラッシックはその効果が大きいということが科学的に証明されているんですよ。ある企業でクラッシク音楽を流した状態で業務を行ったところ、業務効率が向上したという報告がある程なので勉強中にクラッシック聞いてみてはいかがでしょうか。

A10神経系は依存症とも関わりあり!

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ここまでA10神経系はやる気や集中力に関係しているというプラスの働きについて解説してきました。しかし、A10神経系は同時に依存症とも関係があることが報告されているんです。この章ではA10神経系を介して依存症となるメカニズムについて解説していきます。

\次のページで「アルコール依存症やギャンブル依存症の仕組み」を解説!/

アルコール依存症やギャンブル依存症の仕組み

世の中にはアルコール依存症やギャンブル依存症など様々な依存症が存在しますよね。お酒もギャンブルも適度に嗜む程度であれば楽しくリフレッシュできて良いのですが、度が過ぎると「もっと飲みたい」「次は勝てるかもしれない」「やめられない」といった具合に依存症になってしまいます。

この「もっと~したい」という感情はA10神経系を介して自己報酬系が活性化することで快楽がもたらされること、その良い気分を記憶・学習してしまうこと、が原因なのです

A10神経系から繋がる2つのルート

A10神経系から繋がる2つのルート

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それではもっと詳しく依存症になる仕組みを見ていきましょう。A10神経系から放出されたドーパミンは2つの経路で活性化させます。それは側坐核と前頭前野です。一つづつ説明しますね。

まずA10神経系から放出されたドーパミンを受け取って側坐核が活性化すると高揚感がもたらされます。さらにもう一つのルートである前頭前野というのは記憶・学習を司る場所なので側坐核で得られた高揚感を記憶し、「またあの感覚を得たい」と強く感じるようになります。これが依存のはじまりです。

依存症の脳はどんな状態?

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とは言え、自己報酬系が活性化するたびに依存症になってしまっては困ってしまいます。なので通常であれば放出されたドーパミンを再吸収する働きがあり、興奮は適度な状態で治まるため、お酒を飲んでも平気なのです。

しかし過剰の依存症の脳ではこのドーパミンの再吸収が起こらないことがわかっています。特にアルコールはドーパミンの再吸収を阻害する働きがあるのです。そうなると興奮が治まらず異常な状態、つまり依存状態になってしまいます。

さらに困ったことに、ドーパミンが過剰に分泌された状態ではドーパミン受容体の数が少なくなってしまうのです。そのため、ドーパミンの放出量に対して高揚感が少なく、「もっともっと」と衝動が強くなっていく悪循環に陥ってしまいます。

A10神経系に関係する病気

最後にA10神経系に関係する病気であるパーキンソン病についてご紹介します。

パーキンソン病はA10神経からのドーパミンの分泌量が異常に少なくなってしまう病気です。患者の数は10万人に100人~150人くらいで、高齢になるほど発症率が高いと言われています。発症の原因はよくわかっていません。

症状としては体が動かしにくくなったり表情がこわばったりします。身体的な症状以外だと鬱や幻覚などの精神症状や認知障害、自律神経系の症状など様々な症状があり、ドーパミンがいかに人間の生活に必要なものであるかがわかりますね

A10神経系を活性化して、楽しく勉強しよう!

やる気や集中力をアップさせるためにはA10神経系を活性化することが重要であることがわかりましたね。嫌々頑張って勉強するよりも、面白さを見出したり達成感を一度味わい、その高揚感を覚えておくことのが重要なんです。皆さんも自分の脳の仕組みを理解して、上手にやる気を引き出しましょう!

一方で、くれぐれもA10神経系を暴走させて依存症になってしまうことのないように気を付けてくださいね。

イラスト引用元:いらすとや

" /> A10神経系を知ることでやる気アップ!集中力や依存症とも関係あり!食品メーカー研究員がわかりやすく解説 – Study-Z
体の仕組み・器官理科生物

A10神経系を知ることでやる気アップ!集中力や依存症とも関係あり!食品メーカー研究員がわかりやすく解説

今回のテーマは「A10神経系」というキーワードについて学習していこう。
A10神経系は脳にある神経系です。このA10神経系はどのような役割を果たしているのでしょうか?これを機会にA10神経系の働きを、やる気や依存症との関係性も含めて学んで行こうじゃないか。
大学で生物を学び、現在は食品メーカーの研究員であるライター、ハナイグチに解説してもらおう。

ライター/ハナイグチ

大学で生物学を学び、現在は食品メーカーの研究員として勤務している。

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A10神経系がやる気や集中力を左右している!

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「A10神経」という名前を「新世紀エヴァンゲリオン」の作中で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。実はこれ、実在する神経なんです。そしてこのA10神経系はやる気や集中力を左右する、とても重要な神経系なんですよ。

それではA10神経系とはいったい何なのか見ていきましょう。

A10神経系とは?

A10神経系は脳内に存在する神経系で、快楽物質であるドーパミンを放出します。「難しい問題を解くことができた」、「毎日頑張って練習に励んだ結果、試合に勝つことができた」このようなとき心地よい幸福感につつまれたことはありませんか?このような幸福感や快感を感じさせる神経回路のことを報酬系と呼びます。

このA10神経系は報酬系の中心となる神経なのです。

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