皆は可溶化という現象を知っているか?少し馴染みのない言葉かもしれないが、実は自然界や身の回りのいろいろな製品で見ることができる身近な現象なんです。
今回は可溶化の原理やその利用について、理系出身でさまざまな材料の性質に詳しいライターふっくらブラウスと一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身WEBライター。力学や制御工学といった分野のほか、材料の物性などの化学分野についても大学で学んだ。塾講師として理系文系問わず各教科を教えていた経験から、各種雑学を収集するのが趣味。

可溶化って何?

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皆さんは可溶化という現象について耳にしたことはあるでしょうか。おそらくあまり馴染みのない言葉かもしれません。しかし、私たちは可溶化を利用した商品に日常的に触れているんです。

可溶化というのは、本来分離して混ざり合わない二つの液体が完全に溶解する現象のことをいいます。一般的には水と油が分離せず一つの液体として溶け込んでいる状態を指すことが多いです。

そんなことありえるの?と思う方もいるかもしれませんが、可溶化の知識は私たちの生活に広く活用されています。それでは、可溶化はどんなメカニズムで起きているのか、どのように利用されているのか解説しましょう。

可溶化の原理とは?

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水と油はどれだけ撹拌しても分離したままで、そのままでは溶け合うことはありません。水に油を溶かす、もしくは油に水を溶かし可溶化させるためには、界面活性剤の手助けが必要です。

界面活性剤という言葉は聞いたことがあっても、どのようなものなのかはよく知らない方もいるのではないかと思います。まずは界面活性剤という物質について見ていきましょう。

可溶化のカギを握る界面活性剤

そもそも、水と油のように物質が分離している状況とはどのような状態なのでしょうか。

混ざらず分離している物質には2つの物質の間に境界があり、その境界のことを界面と呼びます。そして、界面にはその表面積を小さくしようとする性質があることが特徴です。身近な例では、空気中の水滴が表面張力で丸くなる現象が一番わかりやすいと思います。

界面活性剤は、これらの界面に吸着し、層を形作る物質の張力を低下させる物質の総称です。界面活性剤は水分と結合しやすい親水基と油分と結合しやすい親油基(疎水基とも呼ぶ)がくっついた分子構造をしています。

界面活性剤が水に入ると、条件によってミセルと言う粒子を形成することがあるのですが、実はこのミセル粒子が可溶化において重要な要素となっているのです。

それでは、界面活性剤が水に入るとどのように反応するのか解説していきます。

\次のページで「可溶化を引き起こすミセル粒子とは?」を解説!/

可溶化を引き起こすミセル粒子とは?

可溶化を引き起こすミセル粒子とは?

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画像は界面活性剤の構造および水中での反応を示したものです。

水に界面活性剤を加えると初めは水面に集まりますが、濃度が高くなり水面全体が覆われると吸着できない界面活性剤があぶれてしまいます。こうしてあぶれた界面活性剤のうち、水と結合しにくい親油基どうしが水から離れようと集まり、親水基を外側、親油基を内側とした球状のミセル粒子を形成するのです

ミセルの内側は親油性(疎水性)であるため、本来水に不溶である油溶性の物質を取り込むことができます。これを利用して、ミセル粒子により油分を取り込み水溶液中に拡散させた状態が、可溶化という現象の正体です。

可溶化と乳化との違いは?

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界面活性剤は水分にも油分にもなじみやすい性質から様々な現象を起こし、幅広く使われている物質です。

そんな界面活性剤が関係する現象に乳化というものがあります。料理をしている人なら乳化のほうが馴染みのある言葉かもしれませんね。

実は可溶化も乳化も、どちらも水と油を分離させず混ぜ合わせるという現象であり、原理にも本質的な違いはありません。これらは溶液中のミセル粒子の粒子径、つまり大きさによって区別されています。

可溶化は粒子が小さく安定している

可溶化は水中に形成されたミセル粒子に油分が取り込まれる現象なので、溶ける油分の量も少なく粒子の大きさも小さいです。可溶化によって作られた溶液は、外見上無色透明もしくは僅かに白みがかった色となります。

また、可溶化した溶液は安定しており時間がたってもまた水と油に分離することはありません。このような状態の溶液をマイクロエマルションと呼びます。

乳化は粒子が大きく不安定

一方で乳化は、分離している水と油に界面活性剤が加わり、一様に混ざった溶液(エマルション)を形作る現象のことを指します。粒子が比較的大きく、溶液が不透明もしくは白濁色をしているのが特徴です。

また、乳化した溶液の中には不安定なものがあり、時間経過や温度などの条件により水と油に再分離してしまうことがあります。

\次のページで「身近な可溶化・乳化の例」を解説!/

身近な可溶化・乳化の例

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界面活性剤や乳化という言葉が一般的に知られているように、可溶化および乳化が関係している事例は私たちの生活の中で頻繁に見ることができます。

最後に、それらの中からいくつかピックアップし、可溶化・乳化がどのように利用されているのか見てみましょう。

食品における可溶化・乳化の利用

可溶化や乳化による溶液のことをエマルションと呼ぶことは既に触れましたが、実はこれはナッツなどから抽出した乳液を指す言葉でした。このように、天然由来でも水と油が混ざり合ったものがあり、特に牛乳はその代表的なものです。

また、アイスクリームやバターはなめらかな食感を出すために、食品にも使えるもしくは卵などの天然の界面活性剤で乳化させて製造します。

化粧品における可溶化・乳化の利用

肌に触れる化粧品などの製品にも可溶化・乳化が利用されています。化粧品はかなりの種類がありますが、可溶化および乳化の技術が使われているものが大半です。

エマルションは、水中に油滴が分散している水連続型と油中に水滴が分散している油連続型に分かれます。水分が多くみずみずしい使用感の化粧品には水連続型、油分が多くしっとりと水をはじく化粧品には油連続型と使い分けているんですね。

また、香り付けとして水に香料などの成分を添加する際に可溶化の技術が使われることがあります。

洗剤における可溶化・乳化の利用

界面活性剤が使われている製品として、第一に声が挙がるのは洗濯洗剤などの洗剤でしょう。洗剤は界面活性剤の性質をフル活用した製品になっています。

洗剤のメカニズムは、界面活性剤が食器の油汚れや衣服の皮脂汚れなどに吸着して表面張力を弱め、汚れを内側、親水基を外側にした粒子となり水で流れるようになるというものです。このプロセスは、汚れを可溶化もしくは乳化して流水に溶けるような形にするとそのまま言い換えることができます。

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可溶化とは本来液体に溶けない物質が溶けるようになる現象のこと!

可溶化は、水と油のように、本体溶け合わない物質どうしが界面活性剤の力で完全に溶けて混ざり合う現象を指します。

水と反応する部分を外側、油と反応する部分を内側とする粒子を構成することで、その内部に親油性の成分を溶かすことが可能です。また、同じようなメカニズムで水と油が溶ける現象に乳化があります。

可溶化および乳化は日常の様々な部分で見ることができ、食品や化粧品などその利用範囲は広大です。

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化学原子・元素有機化合物物質の状態・構成・変化理科生活と物質

可溶化とはどんな現象?原理やどんなものに利用されているか理系出身ライターが5分でわかりやすく解説!

皆は可溶化という現象を知っているか?少し馴染みのない言葉かもしれないが、実は自然界や身の回りのいろいろな製品で見ることができる身近な現象なんです。
今回は可溶化の原理やその利用について、理系出身でさまざまな材料の性質に詳しいライターふっくらブラウスと一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身WEBライター。力学や制御工学といった分野のほか、材料の物性などの化学分野についても大学で学んだ。塾講師として理系文系問わず各教科を教えていた経験から、各種雑学を収集するのが趣味。

可溶化って何?

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皆さんは可溶化という現象について耳にしたことはあるでしょうか。おそらくあまり馴染みのない言葉かもしれません。しかし、私たちは可溶化を利用した商品に日常的に触れているんです。

可溶化というのは、本来分離して混ざり合わない二つの液体が完全に溶解する現象のことをいいます。一般的には水と油が分離せず一つの液体として溶け込んでいる状態を指すことが多いです。

そんなことありえるの?と思う方もいるかもしれませんが、可溶化の知識は私たちの生活に広く活用されています。それでは、可溶化はどんなメカニズムで起きているのか、どのように利用されているのか解説しましょう。

可溶化の原理とは?

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水と油はどれだけ撹拌しても分離したままで、そのままでは溶け合うことはありません。水に油を溶かす、もしくは油に水を溶かし可溶化させるためには、界面活性剤の手助けが必要です。

界面活性剤という言葉は聞いたことがあっても、どのようなものなのかはよく知らない方もいるのではないかと思います。まずは界面活性剤という物質について見ていきましょう。

可溶化のカギを握る界面活性剤

そもそも、水と油のように物質が分離している状況とはどのような状態なのでしょうか。

混ざらず分離している物質には2つの物質の間に境界があり、その境界のことを界面と呼びます。そして、界面にはその表面積を小さくしようとする性質があることが特徴です。身近な例では、空気中の水滴が表面張力で丸くなる現象が一番わかりやすいと思います。

界面活性剤は、これらの界面に吸着し、層を形作る物質の張力を低下させる物質の総称です。界面活性剤は水分と結合しやすい親水基と油分と結合しやすい親油基(疎水基とも呼ぶ)がくっついた分子構造をしています。

界面活性剤が水に入ると、条件によってミセルと言う粒子を形成することがあるのですが、実はこのミセル粒子が可溶化において重要な要素となっているのです。

それでは、界面活性剤が水に入るとどのように反応するのか解説していきます。

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