今回は水銀がテーマです。

皆は水銀を見たことはあるか?以前は体温計や水銀灯などそこそこ身近だった水銀。金属なのに常温で液体と言う変わった金属。しかし、水銀には毒性があり、現在その取扱いは厳しい。日本では水銀による世界的にも重大な公害も起きている。

そんな水銀の性質や利用方法について解説する。担当は化学系科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

水や環境に関する講義を受け、公害の歴史を調べたこともある化学系科学館職員。毒劇物や登録販売者の資格を持つ。地球の環境に役立つ研究がしたいと、化石燃料に替わるエネルギーについて研究していた。

水銀てどんなもの?

image by PIXTA / 66555925

水銀は元素番号80番、原子記号はHgです。どろっとした見た目で水の銀と書く水銀。銀のような光沢があるため、このように命名されました。ちなみに水銀は英語でmercury、水星のことです。

果たして水銀は金属でしょうか、それとも非金属でしょうか?

水銀は金属元素の一種

水銀は金属元素です。金属というと鉄、金など硬いイメージですね。しかし水銀は常温常圧で唯一、金属の元素なのです。なぜ液体なのか。それは水銀の融点、つまり固体になる温度が低いからです。ではなぜ融点が低いのでしょうか。

金属は価電子を共有する金属結合で原子同士がつながっています。水銀の場合、この金属結合をするエネルギーが小さいため液体となるのです。

水銀ほどじゃないけど融点が低い金属としてGa(ガリウム・30℃)、K(カリウム・63℃)、Sn(スズ・232℃)、Pb(鉛・327℃)、Zn(亜鉛・420℃)があります。

そもそも常温で単体で液体の形態をしている元素が珍しく、水銀の他には臭素しかありません。臭素は融点-7.3℃、沸点58.8°のため、常温では液体となります。

その他水銀の性質は次のようになっています。

密度 13.6g/cm3

融点 -39℃

沸点 357℃

水銀は密度は大きく、持ってみると意外にずっしりと重たいです。

水銀はどこで産出されているの?

Mercury-element.jpg
パブリック・ドメイン, リンク

世界的に有名な水銀の産地と言えば、スペインにあるアルマデン鉱山です。

日本では佐世保市、北海道の留辺蘂町のイトムカ鉱山で産出されていました。イトムカ鉱山は良質な水銀が採掘され、その名の由来もアイヌ語で「光り輝く水」と言われています。この鉱山では水のように自然水銀が噴出し、採掘されていました。しかし、他の水銀鉱山では辰砂という硫化水銀(HgS)の鉱石として採掘がおこなわれています。この辰砂を600まで加熱すると、液体の水銀を得ることができるのです。

水銀はこんなところで使われていた

水銀電池

現在はほとんど利用されていない水銀電池。酸化水銀を使ったか電池です。小型で軽量という利点から、写真機や時計、補聴器などで使われていました。しかし、環境に配慮して1996年頃から世界中で使用が禁止となり現在はほとんど使われていません。

\次のページで「体温計」を解説!/

体温計

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水銀の熱膨張を用いた体温計は1866年に開発されました。体温が伝わった水銀は、膨張します。体温計には目盛がふられており、体温に合わせて水銀が膨張して体温を読むことができるのです。

時間はかかるものの正確に測れる水銀体温計は、日本でもすぐに販売使われるようになりました。しかし水銀体温計は破損した場合、気化した水銀を吸ってしまうと体調に異変が出る恐れがあります。そのため、精度は劣るものの同じ原理でアルコールや灯油を使った体温計が登場しました。しかしこの体温計も、デジタルタイプの体温計の登場によって現在はほとんど使用されていません。

奈良の大仏

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水銀と他の金属からできた合金をアマルガムと言います。

奈良の東大寺にある大仏の金メッキにも、アマルガムが用いられていました。水銀と金を混ぜて塗り、この水神を蒸発させるという手法です。この作業をした人々が水銀の蒸気を吸い、水銀中毒になったと言われています。

トリチェリの実験

トリチェリの実験

image by Study-Z編集部

気体が圧力を持つと発見したのはイタリアの物理学者、エヴァンジェリスタ・トリチェリ(1608~1647)です。トリチェリは、一端を閉じたガラス管を水銀で満たした水槽の中にいれ、ガラス管に水銀を満たしました。そしてこれを倒立させると、水銀柱の高さは76㎝となったのです。

これは水銀面に空気中の気体分子が衝突し、76㎝の高さまで水銀を押し上げるからで、この水銀を押し上げる力が「大気圧」になります。そしてこの時の気圧は760㎜Hgというのです。

水銀の毒性

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水銀の摂取経路として口や皮膚からが考えられます。蒸気を吸ったり水銀を摂取した生物を食べることで人間は、水銀を体内に入れてしまうのです。また、水銀はゆっくりとですが皮膚からも吸収されます。水銀の蒸気に長時間さらされると、脳にダメージが与えるのです。

猛毒である水銀。特に体の小さな幼児に対して強い毒性を発揮します。水銀によって公害が起きた時は、特に毒性の強いジメチル水銀によって数時間で子供が死に至ることもありました。また妊娠中の女性が被ばくすることで、胎児が障害を持つこともあったのです。

\次のページで「水銀と公害」を解説!/

水銀と公害

最も甚大な被害が出た水銀の公害といえば水俣病です。1932~1968年頃、熊本県水俣市周辺の海域にメチル水銀を含む工場排水が流されていました。このメチル水銀を魚が摂取して人が食べるという食物濃縮が起こり、1000人以上の人が亡くなりその他の人々も重い障害を負ったのです。

また、1960年代には新潟県の阿賀野川周辺でもメチル水銀が流され、甚大な被害が出ています。こちらは「第二水俣病」「新潟水俣病」と呼ばれ、歴史の授業で習った人もいるでしょう。

メチル水銀とは

水銀よりも水銀の有機化合物の方が、強い毒性を持ています。特にジメチル水銀は0.0001mlでも死に至るという恐ろしい猛毒です。そのため水銀は毒物として、法律に則って管理しなくてはなりません。

メチル水銀とは水銀とメチル基からできた化合物の総称で、ジメチル水銀や、メチルエチル水銀も含まれます。生物濃縮されやすく、水俣病の原因となったメチル水銀。メチル水銀は中枢神経に影響を与え、視野狭窄や運動失調が起こります。

生物濃縮と水銀

ここで、生物濃縮(生態濃縮)のおさらいをしましょう。

生物濃縮とは水銀を摂取したプランクトンを小型生物が食べ、その小型生物を大型生物が食べ、それを人間が食べる、というように化学物質が食物連鎖の末、体内に蓄積されていくことです。生物濃縮されやすいのは水に溶けにくく代謝されにくい重金属や放射性物質、環境ホルモンなどで、体外に排出されにくいため体内にどんどんたまってしまいます。

水銀に関する水俣条約

2013年に採択された水銀および水銀を使用した製品の製造と輸出入を規制する国際条約を「水銀に関する水俣条約」といいます。これは人間による水銀及び水銀化合物の排出やそれによる人の健康と環境を保護するための条約です。この条約は2019年までに100か国以上が締結しています。

いかに水銀の公害と水俣病との関係が深いかわかりますね。

水銀はとっても不思議な金属

液体の金属という変わった特性の金属、水銀。銀色でどろっとした見た目で、持ってみると意外と重たいものです。

最近では水銀の活用方法よりも、有害性の方が目に付くかもしれません。以前は電池、体温計なので使われていました。しかし水俣病のような公害が起こり、今ではあまり表舞台に姿を現しません。

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化学理科

水銀とは固体それとも液体?金属なの?知ってるようで知らない水銀の謎を科学館職員がわかりやすく解説

今回は水銀がテーマです。

皆は水銀を見たことはあるか?以前は体温計や水銀灯などそこそこ身近だった水銀。金属なのに常温で液体と言う変わった金属。しかし、水銀には毒性があり、現在その取扱いは厳しい。日本では水銀による世界的にも重大な公害も起きている。

そんな水銀の性質や利用方法について解説する。担当は化学系科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

水や環境に関する講義を受け、公害の歴史を調べたこともある化学系科学館職員。毒劇物や登録販売者の資格を持つ。地球の環境に役立つ研究がしたいと、化石燃料に替わるエネルギーについて研究していた。

水銀てどんなもの?

image by PIXTA / 66555925

水銀は元素番号80番、原子記号はHgです。どろっとした見た目で水の銀と書く水銀。銀のような光沢があるため、このように命名されました。ちなみに水銀は英語でmercury、水星のことです。

果たして水銀は金属でしょうか、それとも非金属でしょうか?

水銀は金属元素の一種

水銀は金属元素です。金属というと鉄、金など硬いイメージですね。しかし水銀は常温常圧で唯一、金属の元素なのです。なぜ液体なのか。それは水銀の融点、つまり固体になる温度が低いからです。ではなぜ融点が低いのでしょうか。

金属は価電子を共有する金属結合で原子同士がつながっています。水銀の場合、この金属結合をするエネルギーが小さいため液体となるのです。

水銀ほどじゃないけど融点が低い金属としてGa(ガリウム・30℃)、K(カリウム・63℃)、Sn(スズ・232℃)、Pb(鉛・327℃)、Zn(亜鉛・420℃)があります。

そもそも常温で単体で液体の形態をしている元素が珍しく、水銀の他には臭素しかありません。臭素は融点-7.3℃、沸点58.8°のため、常温では液体となります。

その他水銀の性質は次のようになっています。

密度 13.6g/cm3

融点 -39℃

沸点 357℃

水銀は密度は大きく、持ってみると意外にずっしりと重たいです。

水銀はどこで産出されているの?

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世界的に有名な水銀の産地と言えば、スペインにあるアルマデン鉱山です。

日本では佐世保市、北海道の留辺蘂町のイトムカ鉱山で産出されていました。イトムカ鉱山は良質な水銀が採掘され、その名の由来もアイヌ語で「光り輝く水」と言われています。この鉱山では水のように自然水銀が噴出し、採掘されていました。しかし、他の水銀鉱山では辰砂という硫化水銀(HgS)の鉱石として採掘がおこなわれています。この辰砂を600まで加熱すると、液体の水銀を得ることができるのです。

水銀はこんなところで使われていた

水銀電池

現在はほとんど利用されていない水銀電池。酸化水銀を使ったか電池です。小型で軽量という利点から、写真機や時計、補聴器などで使われていました。しかし、環境に配慮して1996年頃から世界中で使用が禁止となり現在はほとんど使われていません。

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