緊急事態宣言が解除されたから、沖縄に旅行に行ってきたぜ。
沖縄の海はいつも行っている本土の海よりも塩辛い気がしたんですが、そんなことってあるんでしょうか?
大学で海洋学を専攻し沖縄とハワイで教員経験を持つサイエンスライター、チロに解説してもらおう。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など「科学」にまつわる職を経験した後、理科教員の道へ。教員生活10年を機に留学し、米国の教員免許を取得。現地の高校でもSTEM担当教員として勤務した。帰国後は「フシギ」を追求するサイエンスライターとして活躍中。

海水の塩分濃度の違いが生まれるワケ

image by iStockphoto

実は海水の塩分濃度は場所によって違っており、薄いところでは約3.1%、濃いところでは約3.9%になります。あまり大きな差は無いような感じがしますが、生き物にとってその差は意外と大きいのです。例えば海水魚のビンチョウマグロやカツオは塩分濃度3.6〜3.7%の環境でしか生きられません。我々人間もわずかな塩分濃度の差に敏感です。塩分濃度0.9%の塩水は人間にとって「ちょうど良い塩味」なのですが、それよりわずか0.3%濃度が上がって1.2%になるだけで「塩からい」と感じます。

でも全て繋がっているはずの海で、塩分濃度の差がなぜ生まれるのでしょう?それには「水分の蒸発」「水分の凍結」「淡水の流入」「海氷や氷山の融解」などの複数の要因があるのです。

水面からの「水分の蒸発」

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海水中の水分が蒸発し水蒸気になると、海水中には塩化ナトリウムなどの塩分が取り残され塩分濃度が高くなります。ではどのような場所で海水はたくさん蒸発するのでしょうか?

蒸発量が多くなるのは、海水の温度が高いところ大気の湿度が低いところです。地球上で最も海水温が高いのは赤道付近ですが、この地域は湿度が高いので蒸発量はそれほど多くありません。海水の蒸発量が多いのは「中緯度高圧帯」と呼ばれる緯度20〜30度の乾燥地帯です。この地域は高気圧が発達し雨がほとんど降らないので、陸上では砂漠が発達し海上では大量の海水が蒸発します。

極地方での「凍結」

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塩分の濃縮がおきるのは暖かい海だけではありません。ものすごく冷たい海では、海水が凍って海氷ができます。この時、水分だけが氷になり塩分は残されるので塩分濃度が上昇するのです。北大西洋や南極海でこの現象が起こるのが知られています。

淡水の「流入」

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反対に塩分濃度が低くなる要因はなんでしょうか?

それは淡水の流入です。大きな川の河口近くの海では塩分濃度が下がり、汽水域と呼ばれる特有の生態系を形成します。でも実は陸に降った雨が川になって海に流れ込む量よりも、直接海へ降水する量の方が多いのです。大気から海への直接の降水は、河川によって陸から海へ流れ込む淡水の約10倍にもなります。地球上で降水が最も多いのは赤道付近の熱帯地方です。

海氷や氷山の「融解」

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冬の間に凍った海氷や氷河が海に流れ出した氷山は夏になると溶け、淡水が海水中に流出します。極地方では海氷の形成と融解が繰り返し起こっているのですね。

\次のページで「どこの海が一番しょっぱいの?」を解説!/

どこの海が一番しょっぱいの?

上記の要因を踏まえて、一体どこの海が一番しょっぱいのかを見ていきましょう!

世界一しょっぱい海はどこ?

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Plumbago - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

世界で最も塩分濃度が高い海として知られているのは、イスラエルとヨルダンの国境に位置する「死海」です。塩分濃度は衝撃の33%。一般的な濃口醤油の濃度が15〜17%ですから、なんと「醤油の2倍しょっぱい」という驚愕の塩分濃度!しかし、実は死海は海ではなく「湖」です。乾燥地帯に位置しているため蒸発する水の量が多く、流入する河川はあるのに流出する河川がありません。そのため塩分がどんどん凝縮していき、33%という驚異的な塩分濃度になっています。ではちゃんとした「海」の中で、もっとも塩分濃度が高いところはどこでしょう?

それは死海のすぐ近くにある「紅海」です。紅海も死海と同じように乾燥地帯に位置しているため蒸発量が多く、流入する河川もありません。また紅海とインド洋と繋ぐ海峡は幅が30kmほどしかないので、海水の出入りもあまり無いのです。そのため海水が「煮詰まる」状態になり、塩分濃度は3.6〜3.8%と平均的な海水より0.1〜0.3%高くなっています。

五大洋を比べてみよう!

五大洋を比べてみよう!

image by Study-Z編集部

五大洋である太平洋・大西洋・インド洋・北極海・南極海を比較すると大西洋が最もしょっぱい海です。これは蒸発した水分がアフリカ大陸やユーラシア大陸を超えてインド洋や太平洋側で降水してしまうからだと考えられています。一方太平洋で蒸発した水分はロッキー山脈やアンデス山脈で降水し、再び太平洋に戻るので、塩分濃度は上昇しないのです。

黒潮と親潮しょっぱいのはどっち?

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では日本付近の海ではどこの海がしょっぱいのでしょうか?

日本周辺の海域には黒潮親潮というふたつの大きな海流が存在しています。黒潮は蒸発量が多く降水量が少ない亜熱帯地方から流れて来るので、親潮よりも塩分濃度が高く「しょっぱい」海水の流れです。したがって塩分濃度が高いのは、沿岸を親潮が流れる北日本の太平洋側ではなく、黒潮や黒潮の分流である対馬海流沿岸の西日本側

また日本国内で最も塩分濃度が高いのは、黒潮の流れのど真ん中にある琉球列島周辺になります。夏季の塩分濃度を比較すると関東近海が約3.35%なのに対し、沖縄周辺の海域は約3.45%です。桜木先生が「沖縄の海がしょっぱい」と感じたのは、かなり鋭い指摘だと言えます!

\次のページで「海水は上下方向にも移動している!「海洋深層水」とは」を解説!/

海水は上下方向にも移動している!「海洋深層水」とは

Thermohaline Circulation 2.png
By Robert Simmon, NASA. Minor modifications by Robert A. Rohde also released to the public domain - NASA Earth Observatory, Public Domain, Link

今まで見てきたのは南の海において蒸発によって塩分濃度が濃くなるケース。では北の海も海水の凍結によって塩分濃度が高くなるのでしょうか?実は極地方の塩分濃度はかなり低いです。たしかに海水が凍結すると、水だけが凍るので塩分濃度の高い海水ができます。しかし冷たく濃いこの海水は周囲よりも密度が高くなり、海底に向かって沈んでいってしまうのです。一方、塩分をほとんど含まない氷は夏になると溶け表層の海水を薄めるので、極地方の海水は塩分濃度が低いのですね。

沈み込んだ海水は上の図でも示した通りベルトコンベアのように世界中の深海底を循環して、インド洋と太平洋で再び表面に上がってきます。水深が深い場所にある海水は海洋深層水と言われ、近年多方面から注目を集めているようです。栄養塩が豊富に含まれていることから、陸のすぐ近くに深い海がある富山県や高知県では汲み上げて海水魚の養殖をはじめとする様々な産業に使用しています。また農業分野でも海洋深層水の温度の低さを利用して土壌を冷やし、夏に冬野菜を作る試みもなされているそうです。飲料用としても販売されていますが、もちろん塩分は除去されていますよ!

海水を飲んではいけない理由とは?

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ここまで海水のしょっぱさについて述べてきたので、もしかしたら「ちょっと飲んでみようかな」と考える人がいるかも知れませんね。でもちょっと待ってください!海水は人体に悪影響があるので飲んではいけません。いったい、どんな悪影響があるのでしょうか?

塩分の人体への影響

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人間の体は体液で満たされており、その塩分濃度は0.9%です。もし3.5%の海水を飲むと、浸透圧によって体液中の水分が海水の中に吸い取られてしまいます。つまり海水を飲むと、脱水症状に陥るのです。体重60kgの人の場合、約5リットル飲むと命に関わる状態になることも。またすぐに影響がなくても、塩分の過剰摂取は腎臓に大きな負担をかけてしまいます。

有害物質も含まれている?

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海水に含まれているのは塩分だけではありません。人類が排出した汚染物質のほとんどが最終的には海に流れ込みます。その結果、海水には様々な人体に有害な物質が含まれてしまっているのです。もちろん場所によってその濃度は大きく異なりますが、有機水銀殺虫剤などの化学物質のほか、下水由来の大腸菌マイクロプラスチックなどを含んでいる可能性があります。

たしかに沖縄の海はしょっぱかった!

この記事では「海水の塩分濃度が場所によって違う理由」を解説しました。

海水の塩分濃度は蒸発によって高まるので、乾燥地帯にあって蒸発量の多い「紅海」の海が世界一塩分濃度が高く「しょっぱい」海です。日本国内では黒潮の流れの中にある「沖縄周辺の海」がもっともしょっぱいと考えられます。

あなたも沖縄に行く機会があったら、ちょっと舐めてたしかめてみては??でも「飲む」のは控えてくださいね!

" /> 海水の塩分濃度って場所によって違うの? 世界一しょっぱい海はどこ?飲んではいけない理由などを元米国理科教師が徹底わかりやすく解説! – Study-Z
地学大気・海洋理科

海水の塩分濃度って場所によって違うの? 世界一しょっぱい海はどこ?飲んではいけない理由などを元米国理科教師が徹底わかりやすく解説!


緊急事態宣言が解除されたから、沖縄に旅行に行ってきたぜ。
沖縄の海はいつも行っている本土の海よりも塩辛い気がしたんですが、そんなことってあるんでしょうか?
大学で海洋学を専攻し沖縄とハワイで教員経験を持つサイエンスライター、チロに解説してもらおう。
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放射能調査員や電気工事士など「科学」にまつわる職を経験した後、理科教員の道へ。教員生活10年を機に留学し、米国の教員免許を取得。現地の高校でもSTEM担当教員として勤務した。帰国後は「フシギ」を追求するサイエンスライターとして活躍中。

海水の塩分濃度の違いが生まれるワケ

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実は海水の塩分濃度は場所によって違っており、薄いところでは約3.1%、濃いところでは約3.9%になります。あまり大きな差は無いような感じがしますが、生き物にとってその差は意外と大きいのです。例えば海水魚のビンチョウマグロやカツオは塩分濃度3.6〜3.7%の環境でしか生きられません。我々人間もわずかな塩分濃度の差に敏感です。塩分濃度0.9%の塩水は人間にとって「ちょうど良い塩味」なのですが、それよりわずか0.3%濃度が上がって1.2%になるだけで「塩からい」と感じます。

でも全て繋がっているはずの海で、塩分濃度の差がなぜ生まれるのでしょう?それには「水分の蒸発」「水分の凍結」「淡水の流入」「海氷や氷山の融解」などの複数の要因があるのです。

水面からの「水分の蒸発」

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海水中の水分が蒸発し水蒸気になると、海水中には塩化ナトリウムなどの塩分が取り残され塩分濃度が高くなります。ではどのような場所で海水はたくさん蒸発するのでしょうか?

蒸発量が多くなるのは、海水の温度が高いところ大気の湿度が低いところです。地球上で最も海水温が高いのは赤道付近ですが、この地域は湿度が高いので蒸発量はそれほど多くありません。海水の蒸発量が多いのは「中緯度高圧帯」と呼ばれる緯度20〜30度の乾燥地帯です。この地域は高気圧が発達し雨がほとんど降らないので、陸上では砂漠が発達し海上では大量の海水が蒸発します。

極地方での「凍結」

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塩分の濃縮がおきるのは暖かい海だけではありません。ものすごく冷たい海では、海水が凍って海氷ができます。この時、水分だけが氷になり塩分は残されるので塩分濃度が上昇するのです。北大西洋や南極海でこの現象が起こるのが知られています。

淡水の「流入」

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反対に塩分濃度が低くなる要因はなんでしょうか?

それは淡水の流入です。大きな川の河口近くの海では塩分濃度が下がり、汽水域と呼ばれる特有の生態系を形成します。でも実は陸に降った雨が川になって海に流れ込む量よりも、直接海へ降水する量の方が多いのです。大気から海への直接の降水は、河川によって陸から海へ流れ込む淡水の約10倍にもなります。地球上で降水が最も多いのは赤道付近の熱帯地方です。

海氷や氷山の「融解」

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冬の間に凍った海氷や氷河が海に流れ出した氷山は夏になると溶け、淡水が海水中に流出します。極地方では海氷の形成と融解が繰り返し起こっているのですね。

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