今回のテーマは「鉄」です。

鉄が何かという解説は必要ないでしょう。鉄は人間が文明を築くうえで欠かせない元素であり、部屋や教室を見回せばいろんなところに鉄でできた製品がある。また、健康のためにも鉄分は欠かせない。

今回は鉄がどんなものかを学ぶ。解説は元素周期表好きの科学館職員、たかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

本と実験が好きな化学系科学館職員。普段から化学や工作の本を読んでいる。ページを自分の手でめくれる紙の本が好き。

鉄とは

image by PIXTA / 83032390

安価で加工しやすい金属である鉄。缶コーヒーが入ったスチール缶、自動車、机の脚など皆周りには鉄を使ったものがたくさんあります。鉄はリサイクルしやすく、何度でも生まれ変われるエコな資源なのです。スチール缶のリサイクル率は2020年度で94.0%でした(スチール缶リサイクル協会)。リサイクルによってスチール缶はまたスチール缶になる事もあれば、自動車や家電などいろいろなものに生まれ変わっています。

そんな鉄を人間はいつから使っているのでしょうか

鉄の歴史

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パブリック・ドメイン, リンク

地球上でもっとも豊富にある金属資源は鉄です。鉄の歴史は長く、メソポタミアでは紀元前3000年頃から使われていました。日本には青銅器と同じく弥生時代に入って来たと言われています。

デンマークの考古学者、クリスチャン・トムセン(1788~1865)は人間が主に使う道具の材料によって時代を分けました。それによると時代は石器時代、青銅器時代、そして鉄器時代の3つに分けることができ、これを三時代法と言います。

image by PIXTA / 72749772

弥生時代に鉄器が広まり始めた日本。鉄で作られた農機具が広まり、武器や馬具などとして使われるようになりました。

鉄を用いた発明には缶詰もあります。1800年頃、遠征のための長期保存として瓶が使われていました。ちなみに、瓶詰を生み出すきっかけとなったのはかの有名なナポレオンです。しかし、瓶詰には重たい、壊れやすいと言う欠点があります。そこで、さらに長期保存出来て持ち運びしやすいようにブリキ缶での缶詰ができた。初期は中身の発酵による破裂、容器に使用した鉛による鉛中毒などの課題がありましたが改善され、今のような缶詰となりました。

元素としての鉄

元素としての鉄

image by Study-Z編集部

原子番号26番の鉄は金属元素で、遷移元素の一種です。元素記号はFe、ラテン語のFerrumが由来となっています。

融点は1538℃、常温ではもちろん固体です。純粋鍛鉄は光沢があります。鉄はイオン化傾向が高く、さびやすい金属です。錆びた鉄は下の写真のように褐色になります。そのため、先ほど桜木先生が説明したように鉄は錆にくくするためにいろいろな工夫がされているのです。

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地殻中の鉄

実は地球の重さの3分の1は鉄。地球の中心にある核(コア)は鉄とニッケルからできています。鉄は地球の地殻にも多く含まれる元素で、地殻とは天体の表面の層のことです。この地殻に含まれる元素のことをクラーク数または地殻中の元素の存在度といいます。

地球の地殻は次のように構成されているので、確認しておいてくださいね。

O  酸素        49.5%

Si  ケイ素      25.8%

Al  アルミニウム   7.56%

Fe  鉄         4.70% 

鉄と言えば磁石!なんで?

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ところで、鉄といえば磁石にくっつくとイメージする人も多いでしょう。なぜ鉄は磁石にくっつくのでしょうか。

そもそも磁石も鉄でできています。鉄が磁石となるのは、原子核の周りにある電子のおかげです。鉄は他の金属に比べて電子がそろいやすいと言う性質があります。磁石となった鉄は、電子の回転方向がそろい磁力を持つのです。そして、磁石が近づけられた鉄は、一時的に鉄の中で電子の向きがそろい、一時的に磁石となってくっつきます。

磁石についてはこちらの記事を参考にして下さい。

鉄の利用

鉄は用途に合わせて加工されています。

\次のページで「鋼板」を解説!/

鋼板

板状に加工された鋼のことを鋼板と言います。鋼板はその厚さによって用途が異なるのです。

鋼板

  薄板(鋼帯)  厚さ3㎜未満

   家電や自動車の部品に使用

  中板  厚さ3㎜以上6㎜

  厚板  厚さ6㎜以上

   建築物、橋梁、船舶、鉄道など幅広く使用されている

建築物には型鋼が使われています。型鋼とは用途に合わせてH形鋼、山形鋼、I形鋼などの形に作られた鋼材です。

健康と鉄分

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鉄は工業としてだけでなく、栄養として人間の体にも必要なものです。

体内の鉄の3分の2はヘモグロビンに含まれています。ヘモグロビンとは赤血球の中にあるタンパク質のことです。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っています。血液が赤いのはこのヘモグロビンの影響なのです。

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鉄分が不足すると何が起こるのでしょうか。ヘモグロビンの役割は先ほど説明したように酸素を運ぶことです。鉄分が不足すると体内に十分な酸素を運ぶことができなくなります。すると、頭痛や倦怠感などの異常が体に起きてしまうのです。鉄分が不足することで起きる貧血を鉄欠乏性貧血と言います。特に妊娠中には鉄分が欠かせません。

鉄分をたくさん含む食べ物といえば小松菜、ほうれん草、レバー、赤身肉、のり、ひじきなどがあります。十分な鉄分が取れるよう、食事に気を付けなければなりませんね。ただし、何事も過剰は厳禁。鉄分を取りすぎると、心鉄中毒や鉄過剰症となり心臓や肝臓が損傷することもあります。

\次のページで「鉄の精製」を解説!/

鉄の精製

鉄の原材料は鉄鉱石です。鉄鉱石の主成分は酸化鉄で、鉄鉱石に含まれた酸素を取り除いて鉄を作ります。製鉄の流れは次の通りです。

1 鉄鉱石と石灰石を焼き固め(1400℃)焼結鉱を作る

2 高炉に焼結鉱とコークス(燃料)を入れる

3 熱風を送り込み、酸素を取り除く

上記の流れでできたのが銑鉄で、製鉄とはこの銑鉄を作ることです。銑鉄とは鉄に炭素が2~4.5%ほど含まれているもののこですが、銑鉄はもろく叩いたり曲げたりすると壊れてしまいます。そこで、この銑鉄を銑鉄を今度は転炉に入れ、不要な炭素や不純物を取り除き粘り気があり加工しやすい鋼(はがね)にするのです。鋼の炭素含有量は0.001~2%程度になります。世界の金属材料生産の95%以上が鋼という事で、鋼がいかに産業に必要なものかわかりますね。

鉄に何かを加えると?

先程登場した鋼。炭素のみ含有しているものを炭素鋼といい、ニッケルやクロムも加えられたものを特殊鋼と言います。

鉄から作られた素材と言えばステンレスも有名ですね。ステンレスは鉄にクロムを10.5%以上、炭素を1.2%以下混ぜたものです。錆にくいため、食器やキッチンの素材とし使われています。

人間に身近な金属、鉄

地球上に豊富にあり、人間の生活に欠かせない鉄。リサイクルしやすいのも鉄の魅力です。一言で鉄と言っても、炭素の含有量で銑鉄と鋼に分類されています。鉄は炭素が多いと脆く、炭素が少ないと粘り気を持つのです。そのため、炭素を適度に含んだ鋼は世界中で用いられる、重要な金属素材となっています。

実はとても身近な素材である鉄。これを機に性質や製造方法をを覚えるのもいいですね。

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化学理科

鉄とは?血液に含まれる鉄分って何?特徴や電子などを周期表マニアの科学館職員が分かりやすくわかりやすく解説

今回のテーマは「鉄」です。

鉄が何かという解説は必要ないでしょう。鉄は人間が文明を築くうえで欠かせない元素であり、部屋や教室を見回せばいろんなところに鉄でできた製品がある。また、健康のためにも鉄分は欠かせない。

今回は鉄がどんなものかを学ぶ。解説は元素周期表好きの科学館職員、たかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

本と実験が好きな化学系科学館職員。普段から化学や工作の本を読んでいる。ページを自分の手でめくれる紙の本が好き。

鉄とは

image by PIXTA / 83032390

安価で加工しやすい金属である鉄。缶コーヒーが入ったスチール缶、自動車、机の脚など皆周りには鉄を使ったものがたくさんあります。鉄はリサイクルしやすく、何度でも生まれ変われるエコな資源なのです。スチール缶のリサイクル率は2020年度で94.0%でした(スチール缶リサイクル協会)。リサイクルによってスチール缶はまたスチール缶になる事もあれば、自動車や家電などいろいろなものに生まれ変わっています。

そんな鉄を人間はいつから使っているのでしょうか

鉄の歴史

Christianjürgensenthomsen.png
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地球上でもっとも豊富にある金属資源は鉄です。鉄の歴史は長く、メソポタミアでは紀元前3000年頃から使われていました。日本には青銅器と同じく弥生時代に入って来たと言われています。

デンマークの考古学者、クリスチャン・トムセン(1788~1865)は人間が主に使う道具の材料によって時代を分けました。それによると時代は石器時代、青銅器時代、そして鉄器時代の3つに分けることができ、これを三時代法と言います。

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弥生時代に鉄器が広まり始めた日本。鉄で作られた農機具が広まり、武器や馬具などとして使われるようになりました。

鉄を用いた発明には缶詰もあります。1800年頃、遠征のための長期保存として瓶が使われていました。ちなみに、瓶詰を生み出すきっかけとなったのはかの有名なナポレオンです。しかし、瓶詰には重たい、壊れやすいと言う欠点があります。そこで、さらに長期保存出来て持ち運びしやすいようにブリキ缶での缶詰ができた。初期は中身の発酵による破裂、容器に使用した鉛による鉛中毒などの課題がありましたが改善され、今のような缶詰となりました。

元素としての鉄

元素としての鉄

image by Study-Z編集部

原子番号26番の鉄は金属元素で、遷移元素の一種です。元素記号はFe、ラテン語のFerrumが由来となっています。

融点は1538℃、常温ではもちろん固体です。純粋鍛鉄は光沢があります。鉄はイオン化傾向が高く、さびやすい金属です。錆びた鉄は下の写真のように褐色になります。そのため、先ほど桜木先生が説明したように鉄は錆にくくするためにいろいろな工夫がされているのです。

地殻中の鉄

実は地球の重さの3分の1は鉄。地球の中心にある核(コア)は鉄とニッケルからできています。鉄は地球の地殻にも多く含まれる元素で、地殻とは天体の表面の層のことです。この地殻に含まれる元素のことをクラーク数または地殻中の元素の存在度といいます。

地球の地殻は次のように構成されているので、確認しておいてくださいね。

O  酸素        49.5%

Si  ケイ素      25.8%

Al  アルミニウム   7.56%

Fe  鉄         4.70% 

鉄と言えば磁石!なんで?

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ところで、鉄といえば磁石にくっつくとイメージする人も多いでしょう。なぜ鉄は磁石にくっつくのでしょうか。

そもそも磁石も鉄でできています。鉄が磁石となるのは、原子核の周りにある電子のおかげです。鉄は他の金属に比べて電子がそろいやすいと言う性質があります。磁石となった鉄は、電子の回転方向がそろい磁力を持つのです。そして、磁石が近づけられた鉄は、一時的に鉄の中で電子の向きがそろい、一時的に磁石となってくっつきます。

磁石についてはこちらの記事を参考にして下さい。

鉄の利用

鉄は用途に合わせて加工されています。

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