
諸本が数多く存在する保元物語
たくさんの系統の諸本があるのも保元物語の特徴。分類の仕方もさまざま。第1類は文保本系統、第2類は鎌倉本系統、第3類は京図本系統、第4類は金刀比羅本系統、題5類は京師本系統、第6類は正木本系統、第7類は須原本、第8類・流布本系統、第9類はその他の諸本および宮内庁書陵部蔵本などに分けられました。あらすじも本によって違うので、入り混じった登場人物を理解するのも一苦労です。
これほどたくさんの系統の本があると、どの本が後世のどの作品に影響を与えたのか判断するのは不可能。「平治物語」「平家物語」との関係も不明な所が多数あります。はっきりしていることは、鎌倉本の「平家物語」が「保元物語」とほぼ同じ文体を採用していること。ここから原典に近いと推測することもできます。
『保元物語』のあらすじ
Utagawa Yoshitsuya (same artist with the name Ichieisai Yoshitsuya) – 1. Japaneseprints.net [1], 2. Mesosyn.com [2], パブリック・ドメイン, リンクによる
保元物語では、天皇家、藤原摂関家、源氏、平氏が入り乱れ、よく似た名前の人物が数多く登場。そのため、あらすじを一言で解説するのはとても困難。それを踏まえて簡単なあらすじを解説します。
保元物語の前半は藤原頼長の自害まで
保元物語の上巻は鳥羽法皇の治世。鳥羽は、息子の近衛を天皇にしますが、近衛は父より早く亡くなります。そこで、父である鳥羽に疎まれていた崇徳は、自分の息子を天皇に就けようとするものの、自分の弟が即位。後白河天皇となりました。鳥羽が亡くなったあと、崇徳は皇位を奪還しようと画策。そこに藤原頼長、源為義、平忠正たちが加わり、後白河川側には、源為朝・平清盛などが付きました。
中巻は、崇徳が立て籠もった白河殿に、後白河側が夜討ちするところからスタート。一夜で決着がつきます。崇徳は出家。仁和寺に隠れましたが、後白河側の武士にとらえられました。義朝と清盛は崇徳の御所を焼き払い、勝利した後白河から恩賞を受けます。一方、藤原頼長は自害しました。
後半は敗者である源為朝を賛美
崇徳に付いた武士たちが信西の考えで死罪となるあたりから下巻が始まります。源氏に対する処罰は厳しく、女性や子供まで殺されました。ここから親子兄弟の殺し合いが開始。延々と続きます。崇徳は讃岐に流されて讃岐で憤死。怨霊になったと噂されました。
崇徳に付いた貴族や藤原家の人たちも流罪。それでも戦乱は治まらず殺し合いが続きます。そして物語は、源為朝以上の武士はいないと賛美して幕を下ろしました。
『保元物語』を理解するためのポイント

保元物語は、平安時代の終焉、つまり今までの世界が終わったことを示す物語です。世紀末を描く物語と言ってもいいでしょう。そんな保元物語の深く複雑な物語を、原典ですべて読破することはなかなかできません。そこで、保元物語を理解するためのポイントをまとめます。
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