突然ですが、皆は熱可塑性、熱硬化性という言葉を聞いたことがあるか?これらはプラスチックの性質を表す言葉です。

プラスチック材料は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分けることができる。今回はこれらの違いについて、理系出身で機械材料の特性について詳しいライター、ふっくらブラウスと一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

国立理系単科大学で機械系を専攻した理系ライター。材料の性質や加工法、機械制御など様々な分野を学習した。塾講師時代の経験を活かした「シンプルでわかりやすい解説」がモットー。

熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂って何?

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私たちが普段使っているプラスチック。大きく2種類に分けられることを知っていましたか?

プラスチック材料は加熱した時の反応により、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の2つに分けることができます。それでは、それぞれのプラスチックについて、一体どのようなものなのか一緒に見ていきましょう。

そもそも樹脂とは?

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初めに、そもそも樹脂とはどんなものなのかおさらいしましょう。

樹脂は元々松脂や漆といった、樹液が冷えて固まった物質を指す言葉でした。これら天然で採れる樹脂は天然樹脂と呼ばれています。

一方で、天然樹脂は貴重でコストが高いので、性質を人工的に再現した物質が次第に開発されていきました。石油を原料とした、これらの人工的な樹脂を合成樹脂と呼びます。

合成樹脂の大きな特徴は、熱や力によって変形する可塑性という性質です実はこの可塑性をもった物質のことを英語でプラスチック(Plastic)と呼び、日本でも同じ言葉で呼ばれるようになりました

続いて、熱可塑性、熱硬化性とは何なのか解説します。

熱可塑性とは加熱により変形する性質のこと

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熱可塑性については、チョコレートをイメージするとわかりやすいと思います。チョコレートは常温では固形ですが、熱が加わると溶けてドロドロの液体となってしまい再び冷却しないと固体になりません。

熱可塑性樹脂もチョコレートと同じように硬い状態から加熱により軟化、変形するタイプのプラスチックのことを指します。熱可塑性樹脂の熱可塑性とは、熱により可塑性を得る、つまり変形する性質という意味です。

熱可塑性樹脂はその性質から様々な形状に成形、加工しやすく繰り返し再使用も向いています。よって、ポリ袋やペットボトルなど日常でよく手に取っている製品に用いられるのが一般的です。

熱硬化性とは加熱により硬化する性質のこと

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熱硬化性はクッキーになぞらえて考えると理解しやすいです。クッキーは初めはトロトロした状態の生地で、熱が加わることで固まり固体となります。また、クッキーはその後冷えたとしても固体のままで、元の生地の状態には戻りません。

熱硬化性樹脂はクッキーと同じように、加熱によって軟らかい状態から硬化するタイプのプラスチックを指します。また、一度熱が加わって硬化すると再び軟化することはありません。

熱硬化性樹脂は熱可塑性樹脂と比べて耐熱性、強度に優れている分、リサイクルに向かないなどの特徴があります。このため、航空機の構造材など強度が必要で、大量に生産する必要のない製品に用いられることが多いです。

\次のページで「熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂の構造的な違いは?」を解説!/

熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂の構造的な違いは?

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プラスチック材料には熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の2種類があること、それぞれ熱を加えた時の反応が違っていることがわかりました。しかし、なぜ反応が異なるのでしょうか?

この疑問に答えるには、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の化学構造を読み解くことが必要です。

プラスチック含め、樹脂はモノマーと呼ばれる基本となる分子構造が数百~数千個単位で結合している構造をとっています。熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂では、この結合の仕方が異なるため性質が違っているんです。では、それぞれの化学構造について見てみましょう。

熱可塑性樹脂の構造は鎖状

熱可塑性樹脂の構造は鎖状

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例として、ポリプロピレンの場合を考えてみましょう。ポリプロピレンはプロピレンが鎖状に結合した構造をとる熱可塑性樹脂です。

この鎖状の構造、実は結合の強さが場所によって異なっており、モノマーを鎖状に繋げる結合の強さは他の部分と比べてかなり弱くなっています。よって熱が加わると、熱エネルギーによりやがて結合の弱い部分が切れてしまうのです。モノマー間の結合が切れた状態が軟化、変形として目に見える形で現れているんですね。

熱可塑性樹脂はモノマーが鎖状に連結したシンプルな構造をとっており、その部分はほかと比べて結合が弱くなっています。そのため、どの熱可塑性樹脂でも加熱すると同様の反応になるんです。

熱硬化性樹脂の構造は網目状

熱硬化性樹脂の構造は網目状

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一方で、熱硬化性樹脂はもっと複雑な構造をしています。画像例として、熱硬化性樹脂であるシリコーン樹脂を加熱した後の構造を示しました。わかりやすく平面で表示していますが、実際はより立体的な構造です。

画像から、網目状の構造になっていることがわかりますか?このような橋かけ構造は架橋構造と呼ばれ、加熱による化学反応で形成されます。架橋構造を形作る結合はほかの結合部分と比べても十分強いため、熱が加えられて分子が振動しても、切れずに硬化した状態を保てるわけなんです。

熱硬化性樹脂に該当するプラスチックは架橋構造を形成する部分を持っており、熱を加えられると同じメカニズムで硬化します。

熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂の見分け方は?

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熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違いはそれぞれの化学構造からくるものだというのはもう大丈夫ですね。では、実際のプラスチックがどちらになるのか分類する方法はあるのでしょうか?

結論として、材質や見た目からはほとんど判別できません

しかし、製品の形であれば用途から用途からある程度推測が可能です。ブレーカーや食器など電気や熱が伝わるものや、自動車のボディなど軽さと強度が必要なものは熱硬化性樹脂が使用されます。一方、成形のしやすさやコストの安さから、ボトル容器などの大量生産が必要なものは熱可塑性樹脂が使われるのが一般的です。

また、化学式がわかっている場合は、構造の基本となるモノマーが何箇所で結合するかに着目しましょう。2箇所の場合は直線的な結合になり、熱可塑性樹脂となります。一方、3箇所以上に渡って結合する場合は、熱硬化性樹脂に見られる架橋構造となり判別可能です。

代表的な熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂

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これまでで、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂がどんな点で違いがあるのか解説してきました。最後に、それぞれ代表的な素材の例をいくつか紹介します。

\次のページで「1.ポリエチレン(PE)」を解説!/

1.ポリエチレン(PE)

身の回りで非常に使われているプラスチック材料で、分類は熱可塑性樹脂です。エチレンが多数鎖状に結合してできた構造で、製法によって低密度ポリエチレン(LDPE)と高密度ポリエチレン(HDPE)に分かれています。

低密度の方は透明で柔らかく、逆に高密度の方は不透明で強度や耐熱性が比較的高いのが特徴です。その性質から、低密度ポリエチレンは透明のポリ袋やラップフィルムなどに、高密度ポリエチレンはポリバケツなどに使用されています。

2.ポリ塩化ビニル(PVC)

一般的に塩ビと略して呼ばれているプラスチック材料で、熱可塑性樹脂の一つです。塩化ビニルが鎖状に連結した構造をとり、添加剤の割合により軟質と硬質に分かれます。

軟質、硬質とも熱可塑性樹脂の中ではかなり硬い方で、燃えにくく、耐水性があることが特徴です。軟質の方はビニールハウスなどのシートや消しゴムなどに、硬質の方は水道管などに用いられます。

3.ポリカーボネート(PC)

ポリエチレン、ポリ塩化ビニルと比べて複雑な構造をとる熱可塑性樹脂です。

ポリエチレンやポリ塩化ビニルは日用品など強度を必要としない製品に使われることが多く、汎用プラスチックと呼ばれています。一方で、ポリカーボネートは汎用プラスチックより強度が強化され、工業的な用途に使われるエンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれるものの一つです。

ポリカーボネートは透明性や耐火性、プラスチック中でもトップの耐衝撃性を持っているため、ヘルメットや建物の建材など強度が重要な場面で使われます。

4.メラミン樹脂

最後に、熱硬化性樹脂の代表例としてメラミン樹脂を取り上げます。メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドを原料とするプラスチック材料です。

高い強度や耐熱性、耐水性に優れているほか、きれいな光沢を持っているという珍しい特徴があります。その特徴から、食器や家具、化粧板としての用途が一般的です。

熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂の違いは加熱したときの反応の違い!

プラスチックは加熱した時の反応から、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の2つに分かれます。

熱可塑性樹脂は加熱により軟化するので、成形が簡単で広く使われているプラスチックです。一方で、熱硬化性樹脂は加熱により硬化し、高い強度や耐熱性を持つぶん加工が簡単ではありません。そのため、構造材など強度が必要で大量生産の必要がない製品への使用が主です。

2つの違いはそれぞれの化学構造の違いによるもので、熱可塑性樹脂は鎖状、熱硬化性樹脂は網目状の構造をしています。

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化学有機化合物物質の状態・構成・変化理科生活と物質高分子化合物

3分で簡単熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違い!構造や見分け方は?代表的なプラスチックについて理系出身ライターがわかりやすく解説

突然ですが、皆は熱可塑性、熱硬化性という言葉を聞いたことがあるか?これらはプラスチックの性質を表す言葉です。

プラスチック材料は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分けることができる。今回はこれらの違いについて、理系出身で機械材料の特性について詳しいライター、ふっくらブラウスと一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

国立理系単科大学で機械系を専攻した理系ライター。材料の性質や加工法、機械制御など様々な分野を学習した。塾講師時代の経験を活かした「シンプルでわかりやすい解説」がモットー。

熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂って何?

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私たちが普段使っているプラスチック。大きく2種類に分けられることを知っていましたか?

プラスチック材料は加熱した時の反応により、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の2つに分けることができます。それでは、それぞれのプラスチックについて、一体どのようなものなのか一緒に見ていきましょう。

そもそも樹脂とは?

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初めに、そもそも樹脂とはどんなものなのかおさらいしましょう。

樹脂は元々松脂や漆といった、樹液が冷えて固まった物質を指す言葉でした。これら天然で採れる樹脂は天然樹脂と呼ばれています。

一方で、天然樹脂は貴重でコストが高いので、性質を人工的に再現した物質が次第に開発されていきました。石油を原料とした、これらの人工的な樹脂を合成樹脂と呼びます。

合成樹脂の大きな特徴は、熱や力によって変形する可塑性という性質です実はこの可塑性をもった物質のことを英語でプラスチック(Plastic)と呼び、日本でも同じ言葉で呼ばれるようになりました

続いて、熱可塑性、熱硬化性とは何なのか解説します。

熱可塑性とは加熱により変形する性質のこと

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熱可塑性については、チョコレートをイメージするとわかりやすいと思います。チョコレートは常温では固形ですが、熱が加わると溶けてドロドロの液体となってしまい再び冷却しないと固体になりません。

熱可塑性樹脂もチョコレートと同じように硬い状態から加熱により軟化、変形するタイプのプラスチックのことを指します。熱可塑性樹脂の熱可塑性とは、熱により可塑性を得る、つまり変形する性質という意味です。

熱可塑性樹脂はその性質から様々な形状に成形、加工しやすく繰り返し再使用も向いています。よって、ポリ袋やペットボトルなど日常でよく手に取っている製品に用いられるのが一般的です。

熱硬化性とは加熱により硬化する性質のこと

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熱硬化性はクッキーになぞらえて考えると理解しやすいです。クッキーは初めはトロトロした状態の生地で、熱が加わることで固まり固体となります。また、クッキーはその後冷えたとしても固体のままで、元の生地の状態には戻りません。

熱硬化性樹脂はクッキーと同じように、加熱によって軟らかい状態から硬化するタイプのプラスチックを指します。また、一度熱が加わって硬化すると再び軟化することはありません。

熱硬化性樹脂は熱可塑性樹脂と比べて耐熱性、強度に優れている分、リサイクルに向かないなどの特徴があります。このため、航空機の構造材など強度が必要で、大量に生産する必要のない製品に用いられることが多いです。

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