この記事では「山笑う」について解説する。

端的に言えば山笑うの意味は「春を迎えて草木が芽吹き山が明るくなる様子」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「山笑う」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。

「山笑う」の意味や語源・使い方まとめ

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今回は「山笑う(やまわらう。旧仮名遣いで「山笑ふ」とも)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「山笑う」は現在主に俳句の季語として使われている表現で、語源は中国の画家の言葉に由来します。「春を迎え、山の緑が一斉に芽吹き、花が咲いて山全体が明るい感じになる」という意味です。それでは早速この「山笑う」の語源や意味用法について迫っていきましょう。

「山笑う」の意味は?

それではまず、辞書の記述を検討していきましょう。引用するのは小学館の『精選版日本国語大辞典』です。辞典によると、「山笑う」には、次のような意味があります。

やま【山】 笑(わら)

新緑や花などによって山全体がもえるように明るいさまになる。《季・春》 〔俳諧・滑稽雑談(1713)〕
※俳諧・続俳家奇人談(1832)下「山笑ひ谷こたへたる雪解かな」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「山笑う」

春の訪れという季節の変化を、山の草木の芽吹きや花が咲くという風物の動きに着目しつつ、「山が笑う」という擬人法を用いて表現しています。俳句の世界では面白味のある季語としても位置付けられているようです。

「山笑う」の語源は?

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次に「山笑う」の語源を確認しておきましょう。「山笑う」は中国の宋代の画家、 郭煕による画論『臥遊録』の一説「春山淡冶而如笑」(春山淡冶(たんや)にして笑うが如く)からきているという説が一般的のようです。また、の文章には続きがあり、四季の山の自然をさまざまな比喩表現を用いて表現しています。以下に引用しますのでご覧ください。ここから俳句世界で「山笑う」、「山滴る」、「山粧う」、「山眠る」の4つの季語が生まれたといわれています。

\次のページで「「山笑う」の使い方・例文」を解説!/

春山淡冶而如笑  春山淡冶にして笑うが如く
夏山蒼翠而如滴  夏山蒼翠にして滴るが如く

秋山明浄而如粧  秋山明浄にして粧うが如く
冬山惨淡而如睡  冬山惨淡として眠るが如し

郭煕『臥遊録』より

「山笑う」の使い方・例文

「山笑う」の使い方を例文を使って見ていきましょう。俳句を2句、それからそれ以外の文例を1つご紹介していきます。

1.故郷やどちらを見ても山笑ふ 高浜虚子
2.筆取てむかへば山の笑ひけり 大島蓼太
3.山笑う候、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます……。

1と2は俳句の用例です。

1.の俳句は「山笑う」を用いた俳句の中で最も知られている句といってよいのではないでしょうか。著名な俳人である高浜虚子の作です。「どちらを見ても山笑う」と、ふるさとが春を迎え、その春の明るい様子が周囲を取り巻いている様子が情感たっぷりに伝わってきますね。

2.も俳句の用例で、大島蓼太という江戸時代の俳諧の大家の作です。この句では「山笑う」が定型の5拍で使われておらず、「山の笑ひけり」(山が笑っていることだ)と、活用をさせて句の中に用いていることにお気づきになるでしょう。このように、2語以上で構成されている季語は間に助詞を入れたり、動詞を活用させても季語として成立し、俳句の中に組み込むことができます。

話変わって3.の用例ですが、これは手紙の書き出し、時候の挨拶に出てくる「山笑う」です。俳句の季語のほかに手紙の時候のあいさつでもこのように「山笑う」が使われています。時候の挨拶に俳句の季語を用いるのは書き手、読み手双方の理解が必要になるため、少し知的、もしくはお洒落な印象になるかもしれません。時期としては「春たけなわ(春真っ盛り)」の少し前、3月中旬ごろに使える時候の挨拶です。

「山笑う」の類義語は?違いは?

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「山笑う」は春の訪れを表す季語です。語源のところでも触れましたが、中国の画家郭煕は山の四季の表情をそれぞれに表現しており、それに対応する形で俳句の世界には同じ構成で季節が異なる表現があります。春が「山笑う」、夏が「山滴る」、秋が「山粧う(やまよそおう)」、そして冬が「山眠る」です。今回は類義語として秋の季語である「山粧う」、対義語として冬の季語である「山眠る」についてご紹介していきたいと思います。

\次のページで「「山粧う」」を解説!/

「山粧う」

「山粧う」、化粧の「粧」と書いて「よそおう」と読みます。郭煕の「秋山明浄にして粧うが如く」が語源であることは前述のとおりです。「明浄」とは、「澄みきっていて、清らかであること」という意味を持っていて、具体的に何を指してというわけではなさそうですね。ちなみに、「よそおう」という言葉にも外観や身なりを整えるという意味もあります。

一方で「よそおう」には「美しく飾る」という意味もあり、日本の俳句ではこちらの意味で解釈されているのでしょう。もちろん秋の季語ということで、山の木々が紅葉して色づいているさまを表します。

寂莫と滝かけて山粧へり 永作火童

「山笑う」の対義語は?

対義語として、同様の構成の冬の季語である「山眠る」をご紹介します。「山眠る」も郭煕の『臥遊録』の一説が由来となっている言葉です。

「山眠る」

「山眠る」は冬の季語で、郭煕の「冬山惨淡として眠るが如し」が由来といわれています。「惨淡」とは、「薄暗く、物寂しい」という意味を持っていて、冬の山の枯れ木ばかりの風景が目に浮かぶようです。日本の俳句の季語としての「山眠る」は冬山の静まり返った様子を表します。

山眠るまばゆき鳥を放ちては  山田みづえ

\次のページで「「山笑う」を使いこなそう」を解説!/

「山笑う」を使いこなそう

この記事では「山笑う」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「山笑う」は俳句の世界で春の季語として用いられるのが主な用法のことばです。春が訪れて草木の若芽が芽吹き、花が咲くことによって一斉に山が明るくなるという光景を表現しています。時期でいうと春真っ盛りになる前、春がやってくる、季節の変化の時期に用いられることが多いようです。

もともと中国の画論の一説が由来のことばでそこから取り上げられて俳句の季語になったというストーリーを持った言葉でしたね。桜木先生のコメントにもありましたが、「山笑う」のような言葉は「春の季語」という知識を持っておくだけではもったいない表現であるといえます。もちろん俳句をひねる際の参考になればよいです。ただそれだけでなく、手紙の冒頭に使ったり、ちょっとした挨拶の中に入れたりと、応用をすることによって表現の可能性を広げていくことが豊かな言語生活への第一歩になると考えます。

今回ご紹介した「山笑う」、「山滴る」、「山粧う」、「山眠る」を生活のことばの中にちょっとひと足しするのはいかがでしょうか。

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国語言葉の意味

【俳句・季語】「山笑う」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「山笑う」について解説する。

端的に言えば山笑うの意味は「春を迎えて草木が芽吹き山が明るくなる様子」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「山笑う」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。

「山笑う」の意味や語源・使い方まとめ

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今回は「山笑う(やまわらう。旧仮名遣いで「山笑ふ」とも)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「山笑う」は現在主に俳句の季語として使われている表現で、語源は中国の画家の言葉に由来します。「春を迎え、山の緑が一斉に芽吹き、花が咲いて山全体が明るい感じになる」という意味です。それでは早速この「山笑う」の語源や意味用法について迫っていきましょう。

「山笑う」の意味は?

それではまず、辞書の記述を検討していきましょう。引用するのは小学館の『精選版日本国語大辞典』です。辞典によると、「山笑う」には、次のような意味があります。

やま【山】 笑(わら)

新緑や花などによって山全体がもえるように明るいさまになる。《季・春》 〔俳諧・滑稽雑談(1713)〕
※俳諧・続俳家奇人談(1832)下「山笑ひ谷こたへたる雪解かな」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「山笑う」

春の訪れという季節の変化を、山の草木の芽吹きや花が咲くという風物の動きに着目しつつ、「山が笑う」という擬人法を用いて表現しています。俳句の世界では面白味のある季語としても位置付けられているようです。

「山笑う」の語源は?

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次に「山笑う」の語源を確認しておきましょう。「山笑う」は中国の宋代の画家、 郭煕による画論『臥遊録』の一説「春山淡冶而如笑」(春山淡冶(たんや)にして笑うが如く)からきているという説が一般的のようです。また、の文章には続きがあり、四季の山の自然をさまざまな比喩表現を用いて表現しています。以下に引用しますのでご覧ください。ここから俳句世界で「山笑う」、「山滴る」、「山粧う」、「山眠る」の4つの季語が生まれたといわれています。

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