今回は「刺胞動物」をテーマに学習していこうと思う。

自然界には多様ないきものが存在しますが、それを近縁なもの同士でまとめて考える学問が”分類学”や”系統学”です。生物の分類について知っておくと、生物同士の関係や進化についても思いを巡らせることができるようになる。分類学の一端をのぞいてみようじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

刺胞動物とは

刺胞動物(しほうどうぶつ)は、刺胞動物門とよばれる分類群に属する生物です。ほとんどが海水中に生息する無脊椎動物の仲間ですね。

このグループに属する生物は、いずれも刺胞とよばれる器官をもっています。名前の通り、ほかの生き物を「刺す」ような機能をもった器官です。

皆さんは「海に生息している”刺す”生き物」といわれたら、どんなものを思い浮かべるでしょうか?

そのとおりです!今桜木先生がおっしゃったクラゲやイソギンチャクは、この刺胞動物というグループの中でも、特にイメージしやすい生物ですね。

刺胞動物の特徴

では、刺胞動物に共通する特徴やポイントをご紹介していきたいと思います。

刺胞をもつ

前述の通り、刺胞動物の仲間はいずれも刺胞をもちます。刺胞は、ウニがもつ棘のような目立ったものではなく、細胞の中に存在している小さな袋状の構造物です。この刺胞を含んだ細胞は刺細胞とよばれます。

\次のページで「放射相称」を解説!/

刺胞の形は多様で、ひとつの種であっても複数のタイプの刺胞をもっていることがあるといいます。もっともよくある刺胞は、貫通刺胞(もしくは普通刺胞)とよばれるタイプのものです。

貫通刺胞には、その内部に中空の刺糸とよばれる糸のようなものが存在しています。なんらかの刺激があたえられると、この刺糸が細胞から飛び出し、その先に生物がいた場合には突き刺さるのです。

ただ刺さるだけではなく、中空の刺糸を通って毒液が注入されます。

image by iStockphoto

この刺胞による攻撃で、刺胞動物はその身を守ったり、エサをとることをします。我々人間にとっては、海水浴に行ったときに刺されてつらい思いをする…ありがたくない機能かもしれませんけどね。

毒液の種類や強さは刺胞動物の種の間でも異なりますが、ものによっては非常に激しい痛みを引き起こしたり、死亡事故に発展する場合もありますので、油断ができません。

放射相称

刺胞動物の仲間は、体のつくりが放射相称(ほうしゃそうしょう)となっています。相称というのは聞きなれない言葉かもしれませんが、これは生物の分類を考えるときに登場する基準の一つです。

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たとえば、私たち人間をはじめとする哺乳類の構造は”左右相称”です。右手と左手、右足と左足…体の真ん中に縦に線を引くと、その左右が鏡に映したような構造になっていますよね。これを左右相称といい、左右相称が確認できる体の真ん中のラインは相称面とよばれます。

image by Study-Z編集部

クラゲやイソギンチャクなどのからだを思い浮かべてみましょう。鏡に映したような構造に分けることができる相称面は、人間のように真ん中のただ一本ではなく、体の中心から放射線を描くように複数本想定することができるんです。そのような構造を放射相称といいます。

二胚葉性

こちらも体のつくりに関係しているキーワードです。

胚葉(はいよう)は、発生学の中で使われる言葉。胚の発生が進むと、細胞分裂によって増えたそれぞれの細胞が”将来何になるか”というのが決まってきます。その”将来何になるか”に基づいて、細胞を大きく1~3のグループに分けたのが胚葉です。

\次のページで「ポリプ」を解説!/

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私たち人間は、内胚葉、中胚葉、外胚葉の3つの胚葉から体ができていく三胚葉性(さんはいようせい)であると考えられています。

一方で、刺胞動物は内胚葉と外胚葉からなる二胚葉性(にはいようせい)なのです。体の構成が根本的なところから違う、といってしまってもいいかもしれません。

ポリプ

ほとんどの刺胞動物は、その生涯のうちにポリプとよばれる形態になっている期間があります。その形は、いわばイソギンチャクのような状態です。

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体の一端を岩場や海底などに固着させ、その反対側に口のある面(口盤)があります。口の周りには多数の触手が生えていて、エサをとらえるのに使うことができるのです。

刺胞動物の仲間には、生涯をポリプの形態で過ごすものもいます。若いときにはポリプの形態だったものが、付着していた場所から離れ、水中を漂うになったのがクラゲです。

刺胞動物以外にも、ヒトデやウニのような刺胞動物も放射相称(5放射相称)のからだをもちます。

一部には、ポリプの形態にならず生涯をクラゲのスタイルですごすものや、クラゲとポリプの中間のような形態になるものもいますが…大部分の刺胞動物にはポリプの時期がありますので、共通する特徴として覚えておくと良いでしょう。

刺胞動物をさらに細かく分類すると?

では、刺胞動物(刺胞動物門)にまとめられている生物を、さらに細かく分類するとどうなるのでしょうか?

今回は、刺胞動物を「ヒドロ虫綱」「鉢虫綱」「箱虫綱」「花虫綱」の4つの分類群に細分する考え方をご紹介します。

ヒドロ虫綱

ヒドロ虫綱には、刺胞動物のなかでも比較的構造が単純なものがまとめられています。生涯をポリプ型で過ごすものも、クラゲ型になるものもいて、形態は多様性に富んでいるようです。

カツオノエボシやハナガサクラゲ、ニチリンクラゲ、オワンクラゲなど、「クラゲ」の名をもった種も多くいます。

ヒドラやマミズクラゲなど、淡水に生息する珍しい刺胞動物がふくまれているのもこのグループです。

鉢虫綱

鉢虫綱(はちむしこう)に分類されるのは、私たちがよく知る一般的なクラゲのなかまです。

ミズクラゲやタコクラゲのようなかわいらしいクラゲもいれば、エチゼンクラゲなどの大型の種もいます。水族館などにも展示されているクラゲにも、鉢虫綱のものが多くいますね。

\次のページで「箱虫綱」を解説!/

箱虫綱

箱虫綱(はこむしこう)にはアンドンクラゲやハブクラゲといった種が含まれます。「箱」の名が付くように、立方体に近いような箱状の体をもつクラゲの仲間です。

以前には鉢虫綱に含まれていましたが、研究が進み、独立したグループとして扱われるようになったといいます。

花虫綱

花虫綱(かちゅうこう)には、イソギンチャクやサンゴの仲間がふくまれています。

そうなんです。サンゴはよく植物の仲間と勘違いされるのですが、刺胞動物門に分類される立派な動物なんですよ。

枝のようなもの、板のようなもの…その姿は様々ですが、生きているサンゴの表面を拡大して観察すると、小さなポリプが生えているのです。それぞれのサンゴは、小さなポリプからなる群体といえます。光合成をするのは、褐虫藻という藻類が共生しているためです。

生物の共通点と相違点について考えてみよう

クラゲやイソギンチャクは、海の生物としておなじみのもの。ですが、体のつくりや特徴に着目すると多くの共通点がみられ、刺胞動物という一つのグループにまとめることができるのです。

「クラゲとイソギンチャクは近い生物」ということを知っているだけで、それらの生物を見る目が変わります。色々な生物同士の共通点や相違点について考えることは、分類学の基本であると同時に、地球上の生物をより楽しく観察できるようになる技術なのです。

イラスト提供元:いらすとや

" /> 「刺胞動物」とはどんな分類群?無脊椎動物との関係は?クラゲやサンゴなど具体例を含めて現役講師がご紹介します – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

「刺胞動物」とはどんな分類群?無脊椎動物との関係は?クラゲやサンゴなど具体例を含めて現役講師がご紹介します

今回は「刺胞動物」をテーマに学習していこうと思う。

自然界には多様ないきものが存在しますが、それを近縁なもの同士でまとめて考える学問が”分類学”や”系統学”です。生物の分類について知っておくと、生物同士の関係や進化についても思いを巡らせることができるようになる。分類学の一端をのぞいてみようじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

刺胞動物とは

刺胞動物(しほうどうぶつ)は、刺胞動物門とよばれる分類群に属する生物です。ほとんどが海水中に生息する無脊椎動物の仲間ですね。

このグループに属する生物は、いずれも刺胞とよばれる器官をもっています。名前の通り、ほかの生き物を「刺す」ような機能をもった器官です。

皆さんは「海に生息している”刺す”生き物」といわれたら、どんなものを思い浮かべるでしょうか?

そのとおりです!今桜木先生がおっしゃったクラゲやイソギンチャクは、この刺胞動物というグループの中でも、特にイメージしやすい生物ですね。

刺胞動物の特徴

では、刺胞動物に共通する特徴やポイントをご紹介していきたいと思います。

刺胞をもつ

前述の通り、刺胞動物の仲間はいずれも刺胞をもちます。刺胞は、ウニがもつ棘のような目立ったものではなく、細胞の中に存在している小さな袋状の構造物です。この刺胞を含んだ細胞は刺細胞とよばれます。

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