イースト菌と言ったら、真っ先にパン生地の発酵を思い浮かべるのではないでしょうか。他にもビール、ワインを製造する際に欠かせないぞ。身近にありふれているイースト菌ですが、イースト菌がどのようなものか詳しく説明することはできるでしょうか。今回は、イースト菌について、生物に詳しいライター、mimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

イースト菌とは

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イースト菌=パン生地の発酵がまず思いつくかと思います。ビールを製造する時の発酵の過程でも必要ですよね。おうちでパンをつくるときに市販のもので、自然発酵する時間が短縮できる、ドライイースト(イースト菌を乾燥させたもの)も活用できますよ。ドライイーストは専門のショップに行かなくても、スーパーでも入手可能な商品ですよ。

適切に保管すれば日持ちもします。パン生地に加えるだけなので、パンづくり初心者でも割と簡単に自宅などでつくれますよ。

イースト菌はどのような菌なのか

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イースト菌とは何か。「菌」が名前につくから微生物ではあります。イースト菌=酵母菌です。酵母菌は聞いたことがある人は多いでしょう。酵母菌はいろいろなものに使われています。菌と言っても、細菌、真菌、古細菌、粘菌などがあるのですが、酵母菌は、酵母菌という1つのカテゴリーになりますよ。

天然の酵母菌は、樹液、花蜜、果実になど、環境中に多く存在していますよ。

酵母菌の種類

酵母菌についてお話しする前に、他の微生物の違いについて簡単にまとめておきますね。

細菌は、バクテリアとも呼ばれていて、原核生物です。原核生物は1つの細胞で生きていますよ。細菌には、乳酸菌、納豆菌、大腸菌などがいます。分裂して増えますよ。

真菌は、菌類とも言われていて、カビやキノコのことであり、胞子で増えます。こちらは真核生物になりますよ。

酵母菌は、菌類の仲間ではあります。分裂して増えたりするものもあれば、母細胞から出芽して増えるものもありますよ。(出芽酵母)

一口に酵母菌と言っても、さまざまな種類がありますよ。どのような種類があるか見てみましょうね。

出芽酵母

出芽酵母

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酵母には、出芽酵母分裂酵母カンジダアルカン資化酵母などがありますよ。出芽酵母は糖を代謝しアルコール発酵を行うので、それを利用して、パンやワイン造りに使用されます。出芽酵母はSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)とも呼ばれますよ。

そして、出芽酵母の細胞周期には、一組の染色体をもつ1倍体と二組の染色体を持つ2倍体の世代があります。この周期のことを生活環と言いますよ。

細胞周期と連動して出芽します。出芽する際、もとの細胞(母細胞)から出芽した新しい細胞(娘細胞)が大きくなって、母細胞と同じ大きさになったら、分裂しますよ。

上の図の細胞周期は、好条件下ではなんと2時間くらいで一周してしまうのですよ。

 

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発酵食品(パン、ワイン)の歴史

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酵母菌を利用した食品製造は遠い昔から行われていましたよ。ワインとパンについてお話しますね。

 

パンのはじまり

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イースト菌を用いた発酵食品と言えば、まず、パンが思いつくでしょうか。パンはどこが発祥なのでしょうか。ヨーロッパのイメージがありますが、実はエジプトが最初なのですよ。古代エジプト文明の頃ですよ。パンと言っても、現在のパンとは違っていて、小麦粉を水で練って薄く延ばして焼いたものでした。

B.C 5000年ごろには現在のようなふっくらとしたパンができていました。きっかけは、偶然、こねたパン生地を放置していたところ、暑さと放置している間に自然のイースト菌がついて膨らんだということですよ。

当然まだその時はイースト菌の存在は知られていませんでしたので、なぜパン生地が膨らんだのか理由はわかりませんでした。

発酵の原理

パン生地を膨らませるためには、生地をこねて発酵させる必要がありますが、発酵はどのようにして行われているのでしょうか。それは、酵母が生地の糖分をアルコール分解することによって、炭酸ガスが発生し、生地が膨らむということです。

アルコール発酵の化学式は、C6H12O6(ブドウ糖) → 2C2H5OH(アルコール) + 2CO2ですよ。グルコースが分解してエチルアルコールと二酸化炭素(炭酸ガス)が発生しますよ。

ワインのはじまり

そもそもまず、どうやって、アルコールができたのかというところですが、自生するブドウが実り、鳥などにつつかれて地面に落ち、もともと土壌にいた酵母菌がそれを発酵させて、どうにか飲用したものがワインのルーツですよ。

紀元前5000年ごろのメソポタミア文明の遺跡からワイン造りのために使われたであろう道具が発掘されていますので、古代からワインを製造し嗜む文化があったのですね。それからエジプト、古代ギリシャに伝わっていきました。

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イースト菌の発見

イースト菌の発見は、パンづくりがなされてからずっと先の17世紀。微生物学の父と呼ばれている、レーウェンフックによって発見されました。発酵中のビールを顕微鏡で観察中、中に微粒子状のものを発見し、それが酵母とされていますよ。

また、酵母菌は、ビール以外でもパンの製造過程でも観察されたので、やっと、酵母が発酵させているのでは、と理論づけられ、パスツールによって、酵母菌が嫌気下でアルコール発酵をしていることを発見しました。これはもっと最近の話で、1861年のことです。また、彼は酵母菌の純粋培養にも成功しているのですよ。

酵母菌を使用しない食べ物

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今までイースト菌による発酵食品を見てきましたが、他の菌を使わない食品の製造過程について見ていきましょう。

クッキー、ケーキなどのふわふわ生地はどうやってつくるのか

パンと近しいのがクッキーやケーキかと思います。クッキーやケーキもパンと同じように生地がふっくらしていますが、菌による発酵ではありません。菌によって発酵させなくてもふっくらしているのは、ベーキングパウダーを使っているからです。ベーキングパウダーには主に重曹が含まれていますよ。重曹は炭酸水素ナトリウムともいわれますね。お掃除をするときに使ったことがある人が多いのではないでしょうか。

重曹の他にも酸化剤やグルテン(中和剤)が含まれています。

ベーキングパウダーはなぜ生地が膨らむのか

ベーキングパウダーを使って炭酸水素ナトリウムは化学式でNaHCO₃です。ベーキングパウダーに含まれている重曹に酸性のものを加えると、炭酸ガス(二酸化炭素)が発生します。イースト菌を用いてのアルコール発酵の時と同様、炭酸ガスが発生することによって、生地がふくらむのですね。酸化剤が入っているので、重曹が酸化し生地が膨らみますが、では、どのタイミングで酸化するのか。

答えは、生地を作る際に水を加えると、グルテンの中和する働きが遮られ、酸化が起こるのですよ。下記は、炭酸水素ナトリウムに水を加えると炭酸ガス(二酸化炭素)が発生する化学式です。

2NaHCO₃→NaCO₃+CO₂+H₂O
NaCO₃→Na₂O+CO₂

イースト菌は食品の発酵にかかせない酵母菌

パンづくりやワイン製造に欠かせないイースト菌は、真核生物で、1倍体、2倍体で存在する細胞周期で存在する酵母菌です。

原材料や生産過程がそれぞれ違ってもパン、ケーキ、クッキーなどのふわふわした生地は炭酸ガスで膨らましていたのですね。イースト菌(出芽酵母)を使って、炭酸ガスを発生させる過程は、酵母菌が糖を分解し、アルコール発酵を行うことです。ワイン造りももちろんイースト菌によるアルコール発酵を利用していますよ。パン造りもワイン造りも自然由来の偶然の産物だったのですね。太古の昔よりほぼ製法も形も変わっていないこれらは、現代の私たちの生活に深く根付いていますね。

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理科生物

3分で簡単イースト菌!パンがふわふわな理由・ワイン製造方法についても医学系研究アシスタントがわかりやすく解説

イースト菌と言ったら、真っ先にパン生地の発酵を思い浮かべるのではないでしょうか。他にもビール、ワインを製造する際に欠かせないぞ。身近にありふれているイースト菌ですが、イースト菌がどのようなものか詳しく説明することはできるでしょうか。今回は、イースト菌について、生物に詳しいライター、mimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

イースト菌とは

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イースト菌=パン生地の発酵がまず思いつくかと思います。ビールを製造する時の発酵の過程でも必要ですよね。おうちでパンをつくるときに市販のもので、自然発酵する時間が短縮できる、ドライイースト(イースト菌を乾燥させたもの)も活用できますよ。ドライイーストは専門のショップに行かなくても、スーパーでも入手可能な商品ですよ。

適切に保管すれば日持ちもします。パン生地に加えるだけなので、パンづくり初心者でも割と簡単に自宅などでつくれますよ。

イースト菌はどのような菌なのか

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イースト菌とは何か。「菌」が名前につくから微生物ではあります。イースト菌=酵母菌です。酵母菌は聞いたことがある人は多いでしょう。酵母菌はいろいろなものに使われています。菌と言っても、細菌、真菌、古細菌、粘菌などがあるのですが、酵母菌は、酵母菌という1つのカテゴリーになりますよ。

天然の酵母菌は、樹液、花蜜、果実になど、環境中に多く存在していますよ。

酵母菌の種類

酵母菌についてお話しする前に、他の微生物の違いについて簡単にまとめておきますね。

細菌は、バクテリアとも呼ばれていて、原核生物です。原核生物は1つの細胞で生きていますよ。細菌には、乳酸菌、納豆菌、大腸菌などがいます。分裂して増えますよ。

真菌は、菌類とも言われていて、カビやキノコのことであり、胞子で増えます。こちらは真核生物になりますよ。

酵母菌は、菌類の仲間ではあります。分裂して増えたりするものもあれば、母細胞から出芽して増えるものもありますよ。(出芽酵母)

一口に酵母菌と言っても、さまざまな種類がありますよ。どのような種類があるか見てみましょうね。

出芽酵母

出芽酵母

image by Study-Z編集部

酵母には、出芽酵母分裂酵母カンジダアルカン資化酵母などがありますよ。出芽酵母は糖を代謝しアルコール発酵を行うので、それを利用して、パンやワイン造りに使用されます。出芽酵母はSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)とも呼ばれますよ。

そして、出芽酵母の細胞周期には、一組の染色体をもつ1倍体と二組の染色体を持つ2倍体の世代があります。この周期のことを生活環と言いますよ。

細胞周期と連動して出芽します。出芽する際、もとの細胞(母細胞)から出芽した新しい細胞(娘細胞)が大きくなって、母細胞と同じ大きさになったら、分裂しますよ。

上の図の細胞周期は、好条件下ではなんと2時間くらいで一周してしまうのですよ。

 

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