この記事では「裃を脱ぐ」について解説する。

端的に言えば裃を脱ぐの意味は「堅苦しい態度をやめて打ち解ける」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国立大学の国文科を卒業したあおやぎを呼んです。一緒に「裃を脱ぐ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/あおやぎ

幼い頃から本を数えきれないほど読んできた活字中毒。国立大学の文学部国文科に入学し、日本語について学ぶ。2人の子育て経験を生かし、分かりやすく言葉の使い方について解説する。

「裃を脱ぐ」の意味や語源・使い方まとめ

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「裃を脱ぐ」という言葉をご存知ですか?なかなか日常では耳にしないかもしれません。「かみしもをぬぐ」と読む慣用句です。それでは早速「裃を脱ぐ」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「裃を脱ぐ」の意味は?

「裃を脱ぐ」を辞典で調べると、次のような意味があります。

堅苦しい態度を捨てて打ち解ける。「―・いで、ひとつ無礼講でいきましょう」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「裃を脱ぐ」

「裃」というのは江戸時代の武士の正装とされています。裃を脱ぐということは、つまり緊張感あふれる公の場面から帰宅しほっとした気持ちになるということ。いかにも堅苦しい態度をやめて、心隔てのない態度で接するという意味になります。これは「誰かと会話したり、接する時の態度や心持ち」に対して使う表現で、一人自宅でくつろぐ時などには使いませんので注意しましょう。

「裃を脱ぐ」の語源は?

次に「裃を脱ぐ」の語源を確認しておきましょう。先ほども少し触れましたが「裃」は江戸時代の武士の礼装です。肩衣(かたぎぬ)と呼ばれる羽織と、同じ布でできた袴(はかま)のセットの装束で、現代風にいえばスーツのような感じでしょうか。スーツを着て会社にいる時と、スーツを脱いで自宅にいる時の緊張感の違いは良く分かりますよね。そこから相手に対しての緊張を解き、くだけた態度で接するという意味になったようです。

\次のページで「「裃を脱ぐ」の使い方・例文」を解説!/

「裃を脱ぐ」の使い方・例文

「裃を脱ぐ」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

1.アメリカからのゲストなので緊張していたが、フランクにプロフィール紹介をしてくれたので私も裃を脱ぎ番組収録に臨むことができた。

2.会員同士お互い裃を脱いで、コーヒー片手に意見を交換し合いましょう。

 

どちらも、緊張感や形式ばった態度をやめ、リラックスして相手と向き合う様子を表していますね。1.のように通常の形で用いることもありますが、2.のように相手に誘いかける形で使われる場合も多い表現です。

「裃を脱ぐ」の類義語は?違いは?

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「堅苦しい態度をやめ、打ち解ける」という意味の「裃を脱ぐ」ですが、類語にはどのようなものがあるでしょうか。ここではいくつか紹介します。

その1「忌憚なく」

「きたんなく」と読みます。遠慮なく、思ったままにという意味です。「忌憚」というのは遠慮してためらうという意味ですから、それを打ち消して「思っていることや意見を躊躇わずに言う」ということになります。「忌憚ない意見をお願いします」などと使われるのを目にすることも多いかもしれませんね。

\次のページで「その2「胸襟を開く」」を解説!/

その2「胸襟を開く」

「きょうきんをひらく」と読みます。「思っていることをすっかり打ち明ける」という意味です。「胸襟」とは「胸」と「襟」から心の内のことを指します。包み隠さずありのままに胸の内を見せるという表現です。

その3「城府を設けず」

「じょうふをもうけず」と読みます。「人と打ち解けた付き合いをすること」の例えとして使われる故事成語です。中国の歴史書である「宋史」から来た言葉で、昔の中国では都市の周囲を城壁で囲んでいたことが由来となります。城壁のような隔てを設けずに人と付き合うということですね。

「裃を脱ぐ」の対義語は?

「堅苦しい態度を解き、くつろいで接する様子」を表した「裃を脱ぐ」ですが、対義語にはどのようなものがあるでしょうか。実は、そのまま「裃を着る」という対義語があるんです。その他にも反対の意味になる言葉がありますので合わせて解説していきます。

その1「裃を着る」

「礼儀正しいさま、堅苦しいさま」「格式ばって堅苦しい態度を取る」という意味です。「裃を脱ぐ」の反対で分かりやすいですね。「裃をつける」ということもあります。

その2「鯱ばる」

「しゃちほこばる」「しゃちばる」「しゃっちょこばる」などと読みます。「鯱のようにいかめしく構えた態度を取る、緊張してかたくなる」といった意味です。「しゃちほこ(鯱)」といえば名古屋城の天守閣にある金の鯱が有名ですよね。

鯱は、体は魚、顔は虎の姿をしており、背中にとげがあるという想像上の動物です。火事除けの守り神として城や宮殿の屋根の棟の両端に取り付けられているのを目にしたことがある方も多いでしょう。

「裃を脱ぐ」の英訳は?

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「裃を脱ぐ」は英語で表現することができるのでしょうか。もちろん「裃」は江戸時代の日本の装束ですから、そのまま直訳はできません。関連する意味合いの単語や慣用句を解説していきます。

\次のページで「その1「without ceremony」」を解説!/

その1「without ceremony」

「形式ばらずに、打ち解けて」という意味の連語です。「without」は「〜なしで」、「ceremony」は「儀式、式典、礼儀作法」という意味があります。儀式や式典のような堅苦しさをなくした状態ということですね。「without ceremony」は「いきなり、遠慮なしに、無造作に」という意味も取れる表現ですので、用いる際には少し注意しておきましょう。

Let’s talk about our business without ceremony.
私たちのビジネスについて形式ばらずに話し合おう。

 

Help yourselves without ceremony,you guys!
あなたたち、遠慮なく取ってちょうだいね!

その2「let one’s hair down」

「くつろぐ、楽にする、リラックスする」という意味の慣用句です。直訳すると「(誰かの)髪を下ろす」という意味ですね。これは、昔女性は人前では髪を結っておくべきとされていたことに由来します。人前から離れ、一人の時に髪をほどいて羽を伸ばすさまから「リラックスする」といった意味になったようです。元は女性についていう表現でしたが、今は性別を問わず使うことができます。「外での公式な姿から、私的な姿になる」という点で「裃を脱ぐ」と似た表現ですよね。

I really feel like letting my hair down. I need some moments with relaxing atmosphere.
本当に羽を伸ばしたいわ。くつろいだひとときが必要なの。

「裃を脱ぐ」を使いこなそう

この記事では「裃を脱ぐ」の意味・使い方・類語などを説明しました。「堅苦しい態度をやめ、心を開いて接すること」という意味の慣用句で類語には「胸襟を開く」「忌憚なく」などがありましたね。なかなか普段の会話では出てこない言い方ではありますが、使いこなすことができれば語彙力の向上に繋がるでしょう。この記事をヒントにしていただければ幸いです。

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国語言葉の意味

【慣用句】「裃を脱ぐ」の意味や使い方は?例文や類語を国文科卒ライターがわかりやすく解説!

この記事では「裃を脱ぐ」について解説する。

端的に言えば裃を脱ぐの意味は「堅苦しい態度をやめて打ち解ける」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国立大学の国文科を卒業したあおやぎを呼んです。一緒に「裃を脱ぐ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/あおやぎ

幼い頃から本を数えきれないほど読んできた活字中毒。国立大学の文学部国文科に入学し、日本語について学ぶ。2人の子育て経験を生かし、分かりやすく言葉の使い方について解説する。

「裃を脱ぐ」の意味や語源・使い方まとめ

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「裃を脱ぐ」という言葉をご存知ですか?なかなか日常では耳にしないかもしれません。「かみしもをぬぐ」と読む慣用句です。それでは早速「裃を脱ぐ」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「裃を脱ぐ」の意味は?

「裃を脱ぐ」を辞典で調べると、次のような意味があります。

堅苦しい態度を捨てて打ち解ける。「―・いで、ひとつ無礼講でいきましょう」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「裃を脱ぐ」

「裃」というのは江戸時代の武士の正装とされています。裃を脱ぐということは、つまり緊張感あふれる公の場面から帰宅しほっとした気持ちになるということ。いかにも堅苦しい態度をやめて、心隔てのない態度で接するという意味になります。これは「誰かと会話したり、接する時の態度や心持ち」に対して使う表現で、一人自宅でくつろぐ時などには使いませんので注意しましょう。

「裃を脱ぐ」の語源は?

次に「裃を脱ぐ」の語源を確認しておきましょう。先ほども少し触れましたが「裃」は江戸時代の武士の礼装です。肩衣(かたぎぬ)と呼ばれる羽織と、同じ布でできた袴(はかま)のセットの装束で、現代風にいえばスーツのような感じでしょうか。スーツを着て会社にいる時と、スーツを脱いで自宅にいる時の緊張感の違いは良く分かりますよね。そこから相手に対しての緊張を解き、くだけた態度で接するという意味になったようです。

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