今日は「腕足動物」をキーワードに、生物の学習をしていこう。

腕足動物という動物群について知識があるやつは、相当の”生物通”ではないでしょうか。あまり有名とは言えない生物ですが、一部の分野では非常になじみ深い存在です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

腕足動物とは?

腕足動物(わんそくどうぶつ)とは、動物の中の一分類群の名称です。少しかみ砕いた言葉でいえば”グループ名”でしょうか。いくつかの生物種が、腕足動物というグループでひとまとめにされています。腕足類(わんそくるい)という呼び方もよく聞きますね。

それもそうかもしれません。正直申し上げると、腕足動物は動物の分類群の中でもマイナーというか、あまり知られていないグループなんですよね。

image by iStockphoto

腕足動物に含まれている生物のうち、現在生息しているものは数がかなり限られています。じつは、太古の昔には今よりずっと多くの種類の腕足動物がいたんです。実際、化石として腕足動物がたくさん見つかっています。化石や絶滅した生物を研究対象とする古生物学の方面では、割となじみ深い存在です。

まずは、腕足動物というのがどんな特徴をもった生物群なのかを確認しましょう。

腕足動物の特徴

二枚貝に似た見た目

腕足動物は2枚の殻をもつ生物です。殻の内部にからだ本体を隠しています。

はじめて腕足動物をみた人は、十中八九、それを「のなかまだ」と思うことでしょう。実際、腕足動物はほとんど二枚貝のような見た目をしています。

しかしながら、貝類は軟体動物という、全く別の分類群の生物。腕足動物とは似て非なる生き物です。

いえいえ、大きな違いがあります!

生物の体の基本的な構造を”体制(ボディプラン)”というのですが、その体制の時点で腕足動物と二枚貝は異なっているんです。

私たちのように、顔や手足があるわけではないので少し分かりにくいのですが…二枚貝の場合、2枚の殻は体の左右に位置しています。ところが腕足動物の殻は、体制という観点で見ると、体の背側と腹側に位置しているのです。2枚の殻を背殻、腹殻と呼びます。

ちなみに、腕足動物の背殻と腹殻は異なる形をしているんですよ。

肉茎(肉柄)

二枚貝と腕足動物を区別する大きな違いに、肉茎(肉柄)というのもあります。

多くの腕足動物は、二枚の殻の接続部分あたりから、体の一部を外に出しているのです。これを肉茎(肉柄)とよびます。これにより、腕足動物は岩に付着したり、砂泥中に潜ることができるのです。

いいえ、残念ながら違うようなんです。腕足動物の名前の由来は、殻の内部にあります。

\次のページで「触手冠」を解説!/

触手冠

腕足動物の殻の中にあるからだ本体は”軟体部”とよばれます。この軟体部には、触手がたくさん生えた触手冠(しょくしゅかん)という器官があるんです。

触手冠は、海水中の有機物を捉えるために使われます。「餌をとる」ための器官ということです。

 

Haeckel Spirobranchia.jpg
エルンスト・ヘッケル - Kunstformen der Natur (1904), plate 97: Spirobranchia (see here,

腕足動物では、この触手冠がよく発達していて立派です。このため、腕足動物の触手冠は特別に「腕」とよばれることになりました。腕足動物という名称の”腕足”は、この触手冠からきているのです。

ちなみに、似たような触手冠をもつ生物群には、ほかにも箒虫動物(ほうきむしどうぶつ)や外肛動物(がいこうどうぶつ)がいます。触手冠のほかにも共通点がみられたことから、腕足動物と合わせてこれらを触手動物または触手冠動物というグループ名でよぶことがあったんです。

もっとも、最近はこのまとめ方について疑問を呈す研究結果も出てきているため、あまり使われなくなってきているんですけどね。

腕足動物の生態

基本的に腕足動物は海産。海中に生息している無脊椎動物なので、”海生無脊椎動物”の仲間です。

海中に漂う有機物やプランクトンを触手冠でとらえ、餌としています。

ほとんどは、個体によって雌雄が分かれている雌雄異体。有性生殖で子孫を増やします。

絶滅した腕足動物

はじめにも少し触れましたが、腕足動物は太古の地球で繁栄し、現在はその数を減らしてしまった生物です。とくに、古生代の地層からは非常に多くの種類の腕足動物が発見されています。

image by iStockphoto

だいたい、5億4000万年前から2億5000万年前ですね。この数字は資料によって多少前後します。

古生代の終わりごろ、生物の大量絶滅イベントが発生しました。ペルム紀(Permian period)と三畳紀(Triassic period)の境目であることから、P-T境界とよばれます。

image by Study-Z編集部

アンモナイトやフズリナといった、古生代の海に大繁栄していた生物の大部分が姿を消したのです。このとき、腕足動物も極端に数を減らしました。

しかしながら、全てが絶滅したわけではなく、一部は細々と生き残り、現在私たちがみられる腕足動物も存在します。

現生の腕足動物

現在生き残っている腕足動物は、数百種類が知られています。シャミセンガイホオズキガイチョウチンガイといった仲間が有名です。

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いずれも、殻の形が由来でしょうね。もっとも、”貝”という言葉が入っているので、軟体動物の貝類と混同されやすいのですが…。

日本近海で見られる腕足動物の代表に、ミドリシャミセンガイがいます。国内では本州以南に確認されていますが、なかでも有明海に生息しているものが有名ですね。

Lingula anatina.jpg
Daiju Azuma - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 2.5, リンクによる

そうですね。砂泥地に生息し、からだを砂の中に隠しています。

じつはこのミドリシャミセンガイ、地域によっては食用にもなっているんです。おみそ汁の具にしたり、煮つけにしたりするのだそうですよ。私は食べたことがないのですが…いちど試してみたいものです。

「生きている化石」

ミドリシャミセンガイもふくめ、多くの腕足動物は「生きている化石(生きた化石)」として紹介されることがあります。化石として見つかる腕足動物とほとんど変わらない姿かたちの種が見つかっているためです。

太古の昔、恐竜が登場する前の地球の海に、今とあまり姿の変わらない腕足動物がたくさん生息していた…なんだか、すごい生き物に見えてきませんか?生物の進化に思いをはせながら、腕足動物についてより深く調べていってみると面白いですよ。

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理科生物生物の分類・進化

貝のようで貝じゃない!「腕足動物」とはどんな生き物?その分類と性質を現役講師がわかりやすく解説します

今日は「腕足動物」をキーワードに、生物の学習をしていこう。

腕足動物という動物群について知識があるやつは、相当の”生物通”ではないでしょうか。あまり有名とは言えない生物ですが、一部の分野では非常になじみ深い存在です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

腕足動物とは?

腕足動物(わんそくどうぶつ)とは、動物の中の一分類群の名称です。少しかみ砕いた言葉でいえば”グループ名”でしょうか。いくつかの生物種が、腕足動物というグループでひとまとめにされています。腕足類(わんそくるい)という呼び方もよく聞きますね。

それもそうかもしれません。正直申し上げると、腕足動物は動物の分類群の中でもマイナーというか、あまり知られていないグループなんですよね。

image by iStockphoto

腕足動物に含まれている生物のうち、現在生息しているものは数がかなり限られています。じつは、太古の昔には今よりずっと多くの種類の腕足動物がいたんです。実際、化石として腕足動物がたくさん見つかっています。化石や絶滅した生物を研究対象とする古生物学の方面では、割となじみ深い存在です。

まずは、腕足動物というのがどんな特徴をもった生物群なのかを確認しましょう。

腕足動物の特徴

二枚貝に似た見た目

腕足動物は2枚の殻をもつ生物です。殻の内部にからだ本体を隠しています。

はじめて腕足動物をみた人は、十中八九、それを「のなかまだ」と思うことでしょう。実際、腕足動物はほとんど二枚貝のような見た目をしています。

しかしながら、貝類は軟体動物という、全く別の分類群の生物。腕足動物とは似て非なる生き物です。

いえいえ、大きな違いがあります!

生物の体の基本的な構造を”体制(ボディプラン)”というのですが、その体制の時点で腕足動物と二枚貝は異なっているんです。

私たちのように、顔や手足があるわけではないので少し分かりにくいのですが…二枚貝の場合、2枚の殻は体の左右に位置しています。ところが腕足動物の殻は、体制という観点で見ると、体の背側と腹側に位置しているのです。2枚の殻を背殻、腹殻と呼びます。

ちなみに、腕足動物の背殻と腹殻は異なる形をしているんですよ。

肉茎(肉柄)

二枚貝と腕足動物を区別する大きな違いに、肉茎(肉柄)というのもあります。

多くの腕足動物は、二枚の殻の接続部分あたりから、体の一部を外に出しているのです。これを肉茎(肉柄)とよびます。これにより、腕足動物は岩に付着したり、砂泥中に潜ることができるのです。

いいえ、残念ながら違うようなんです。腕足動物の名前の由来は、殻の内部にあります。

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