このページでは「ラポポートの法則」という用語について学んでいきたい。

ラポポートの法則は、生物の分布域に関する法則の一つです。このサイトでは他にもそういった法則を紹介しているが、ラポポートの法則とはどんな内容のものなんでしょうか?ほかの法則の内容も合わせて学習していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ラポポートの法則とは?

ラポポートの法則は、生物地理学や生態地理学という分野で登場する、生物の分布に関する法則の一つ。

「動物や植物は一般的に、高緯度でその分布範囲が広く、低緯度ではせまい傾向がある」という内容の法則です。

高緯度…つまり赤道からなはれた寒冷な地域ほど、同じような生物が広い範囲で見られる、という意味でとらえてください。反対に、赤道に近い低緯度では、それぞれの生物が狭い範囲に生息している傾向があるといいます。

image by iStockphoto

これを少し言い換えてみましょう。ラポポートの法則が成立するのであれば、同じ面積を考えたとき、高緯度地域よりも低緯度地域のほうがたくさんの生物種が生息している可能性がある、ということです。

つまり、低緯度の環境で高い生物の多様性がみられる一つの理由が、このラポポートの法則なのでは、と言われることがあるんですね。

\次のページで「ラポポートの法則はどこまで成り立つのか?」を解説!/

たしかに、私たちのもつ「イメージ」に、ラポポートの法則はよく当てはまるように感じます。実際に、ラポポートの法則どおり、高緯度ほど分布域が広くなる生物が複数確認されているんです。

しかしながら、この法則には否定的な意見をもつ科学者もいるんですよ。

ラポポートの法則はどこまで成り立つのか?

ラポポートの法則については、多くの生物学者がその妥当性を検証してきました。前述の通り、ラポポートの法則に当てはまる分布をしている生物もいます。

しかしながら、これ当てはまらない生物というのも少なからず見つかっており、「この法則が正しいのか」「どれ程成り立つものなのか」というのは長年議論の的になっているのです。

そうであっても、「法則(rule)」という言葉を使うのはすこし強すぎかな…と、私は感じます。「法則」というのは、普遍的に成り立つものであって、例外だらけの現象に使う言葉ではないと思うのです。

とはいえ、研究者によってこの法則に対する立場(意見)は違いますし、これからラポポートの法則を補強、もしくは否定するような研究、文献が出てくるかもしれません。これからの生物地理学の発展に期待したいですね。

ラポポートの法則の提唱者は?

ラポポートの法則は、ジョージ・G・スティーブンスという研究者によって命名されました。1989年に発表されたスティーブンスの論文にも、「Rapoport's rule」という言葉が使われているのが分かります。

名前の由来となったのは、生物の分布と緯度の関係を研究した研究者エドゥアルド・H・ラポポートです。

image by iStockphoto

ラポポートは1927年にアルゼンチンで生まれ、大学で教鞭をとりました。生物地理学のほか、土壌の生物について研究したり、都市の生物を調べたりと、幅広い研究成果を残した人物です。2017年にこの世を去りましたが、「ラポポートの法則」に名前が冠されていることで、彼のことを知る人も多いでしょう。

\次のページで「生物地理学・生態地理学とは」を解説!/

生物地理学・生態地理学とは

「どんな生物が世界のどんな場所に生息しているのか」、「なにがその生息域(分布域)を決める要因になっているのか」、「過去どのように生物の分布が変化してきたのか」…そのような、生物と地理的な分布の関係を探る学問が生物地理学という学問分野です。

そのなかでも、生物の生態と地理的条件に着目した研究を行うのが、生態地理学。ここでいう生態とは、生物の暮らし方、生き方、他の生物との関係などです。

image by iStockphoto

高校の生物学では、生態学の基本的なところを学習します。その際に、いくつかの有名な生態地理学の法則を学習するでしょう。残念ながら、今回のテーマであるラポポートの法則は紹介されない場合が多いのですが…。

せっかくですので、よく知られている、覚えておきたい生態地理学の法則をいくつか確認しておきたいと思います。

有名な生物地理学・生態地理学の法則たち

ベルクマンの法則

「恒温動物では、寒い地域に生息しているものほど大型化する傾向がある」というのがベルクマンの法則です。

下の図を参考にしていただきたいのですが、一般的に体のサイズが大きくなるほど、相対的に表面積が小さくなります。これが「体温の維持がしやすい」という利点につながり、寒冷地では大型種の恒温動物が生息しやすくなるのだと考えられているのです。

image by Study-Z編集部

反対に、日中の気温が非常に高くなる地域では、表面積が広いほど熱を逃がしやすくなるため、小型の生存に有利になると考えられます。実際に、熱帯域にみられる恒温動物では、近縁な種で寒冷地に住むものと比較して小型の種が多いのです。

\次のページで「アレンの法則」を解説!/

アレンの法則

アレンの法則は、「寒冷な地域に住む恒温動物ほど、突出部が小さくなる傾向にある」という内容の法則です。ここでいう”突出部”というのは、耳や鼻先、手足といった、からだから出っ張っている部分のことを言います。

この法則でも、やはり気候と生物の形の関係が示されていますね。突出部が大きいほど、そこから体温を奪われてしまいます。寒冷地では、突出部の小さな個体の方が熱を奪われにくく、生存に有利だったのかもしれません。

グロージャーの法則

グロージャーの法則は、「ある種の恒温生物では、寒く乾いた地域に生息するものほどメラニン色素が少なく白っぽい体色になる」ということをのべた法則です。

image by iStockphoto

反対に、暖かく湿った地域、たとえば赤道直下などの地域では、暗い色や極彩色といえるような派手な色をした個体が多く見られるといいます。

これは、暖かく湿った地域の方が強い日光にさらされるため、メラニン色素を多くもち、からだを守る必要があることなどが要因となっているのではないか、といわれているんです。

フォスターの法則

フォスターの法則は、大陸から島に移った生物のサイズが変化することに言及した法則です。

大陸に生息していた小型の動物は、島では天敵が少ないため大型化し、大型だった動物は餌資源の制限により大陸にいたときよりも小型化する傾向がある、といわれます。

これは、島に生息する生物にみられる変化であるため、島嶼化(とうしょか)ともよばれるのです。

ラポポートの法則は、ややマイナー

最後に紹介した4つの法則は、高校の生物学の教科書・資料集に掲載されている可能性があります。その一方で、本記事のメインテーマである「ラポポートの法則」については、ほとんど見かけることがありません。やはり、例が多く議論が続いていることが要因の一つではないかと思います。

今後、新しい生物地理学の法則が見つかることもあるかもしれません。興味を持った方、ぜひ研究に携わってみませんか?

" /> 生態地理学の法則の一つ「ラポポートの法則」とは?現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
理科生態系生物

生態地理学の法則の一つ「ラポポートの法則」とは?現役講師がわかりやすく解説します

このページでは「ラポポートの法則」という用語について学んでいきたい。

ラポポートの法則は、生物の分布域に関する法則の一つです。このサイトでは他にもそういった法則を紹介しているが、ラポポートの法則とはどんな内容のものなんでしょうか?ほかの法則の内容も合わせて学習していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ラポポートの法則とは?

ラポポートの法則は、生物地理学や生態地理学という分野で登場する、生物の分布に関する法則の一つ。

「動物や植物は一般的に、高緯度でその分布範囲が広く、低緯度ではせまい傾向がある」という内容の法則です。

高緯度…つまり赤道からなはれた寒冷な地域ほど、同じような生物が広い範囲で見られる、という意味でとらえてください。反対に、赤道に近い低緯度では、それぞれの生物が狭い範囲に生息している傾向があるといいます。

image by iStockphoto

これを少し言い換えてみましょう。ラポポートの法則が成立するのであれば、同じ面積を考えたとき、高緯度地域よりも低緯度地域のほうがたくさんの生物種が生息している可能性がある、ということです。

つまり、低緯度の環境で高い生物の多様性がみられる一つの理由が、このラポポートの法則なのでは、と言われることがあるんですね。

\次のページで「ラポポートの法則はどこまで成り立つのか?」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: