今回は「茎のつくりと働き」をテーマにみていこう。

中学理科や高校生物では、植物や動物のもつ様々な器官について、そのつくりやしくみを学習していく。生物のからですがどんな構造になっているのかは、普段あまり意識して観察しないものです。だからこそ、ここでしっかりと基本的な内容を押さえておきたいな。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

植物の”茎”とは?

「植物の”(くき)”ってなに?」と聞かれたら、皆さんはどのように説明するでしょうか?よく知っている言葉ほど、いざその意味を聞かれると答えるのが難しかったりしますよね。

image by iStockphoto

まず、「茎は維管束植物がもつ器官の一つ」と表現することができます。

維管束植物(いかんそくしょくぶつ)は、文字通り維管束をもつ植物をひとまとめにした呼び名です。種子をつける種子植物に加え、胞子で繁殖するシダ植物がふくまれます。

そうですね。被子植物には、私たちが普段目にする植物の多くが含まれています。裸子植物の代表例は、イチョウやマツ、ソテツなど。胚珠が子房に包まれていない植物です。

さて、植物の”器官”といわれても、ピンとこない方もいるでしょう。植物がもつ器官というのは、といったものです。中学校の理科では、それぞれの器官のつくりや働きを学習すると思います。

\次のページで「茎のつくり」を解説!/

茎のつくり

ではここから、茎のつくりについてみていきましょう。

茎のもっとも外側は表皮(ひょうひ)がおおっています。内側には維管束(いかんそく)とよばれる柱状の組織がありますが、これが茎のはたらきを果たすうえで重要な役割を果たしているのです。

維管束の周囲は基本組織とよばれる組織が存在します。若い茎であれば、表皮に近い細胞に葉緑体をもち、光合成をおこなうものもありますね。緑色をしている茎がそれです。

維管束は木部と師部からなる

一般的な維管束は、木部(もくぶ)と師部(しぶ)とよばれる二種類の組織からなります。

木部は、根から水分を吸い上げる管などの集まり。師部は葉でつくり出した養分などを植物体のほかの部分へ運ぶための管などの集まりです。それぞれ重要なので、少し詳しく見ていきます。

木部

木部は、根から吸い上げた水分などを通す道管(どうかん)や、それを支える木部柔組織木部繊維組織などが集まった組織です。

道管は、分厚い細胞壁(二次細胞壁)からなる細胞がいくつも連なってできている管。一つ一つの細胞は、すでに死んでしまったものです。その内部には細胞質基質などが存在していません。空っぽの筒のようになった細胞で、一つ一つの細胞の間には穴の開いた”隔壁”があります。隔壁の穴=穿孔(せんこう)を通して水分は移動することができるんです。

道管要素 (右, vessel element) と仮道管 (左, tracheids; 隔壁が斜めになっている) それぞれの連結部模式図. 道管要素の間は穿孔 (perforation) を介して連続している (図は階段穿孔). 仮道管の間は壁孔 (pit) を通じて通道している.
Kelvinsong - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

なお、前述のような道管をもつのは、基本的に被子植物です。裸子植物やシダ植物では、少し構造の異なる仮道管(かどうかん)という管を使って、水分が運ばれています。

仮道管は、道管を構成するものよりも細く長い細胞からなる点や、細胞間に穿孔がなく、二次細胞壁が形成されていない部分を通して水分を移動させる点が異なるのです。

\次のページで「師部」を解説!/

師部

師部は、葉でつくった有機物などを運ぶための管である師管(しかん)や、それを支える師部繊維組織師部柔組織などからなる部分。

師部や師管の”師”には、本来”篩”という漢字をあてます。”篩”は「ふるい」と読み、これが師管の構造をよく表しているのですが、常用漢字でないことから、教科書などでは”師”の方を使うことになっているんです。

Elemento de tubo crivado com células companheiras - Cucurbita maxima.jpg
(biophotos) - Flickr: Elemento de tubo crivado com células companheiras - Cucurbita maxima, CC 表示 2.0, リンクによる

道管とおなじように、師管も複数の細胞が連なってできています。一つ一つの細胞は細長い形ですが、道管と違うのは、それらが生きている細胞だという点です。細胞内に物質がのこっていますが、その多くは退化し、物質が通過しやすくなっています。

細胞の表面には師孔(しこう)とよばれる構造があり、この部分から細胞間で物質を移動させるんです。これが「ふるい」の穴のように見えるんですね。

木部と師部、維管束の位置

維管束を構成する木部と師部は、ある程度の規則をもって配置しています。

まず、木部と師部であれば、木部の方が植物の内側、師部の方が植物の外側(表面に近い側)になるよう配置されているのです。

また、維管束の位置にも注目しましょう。被子植物のなかでも、双子葉植物と単子葉植物では、維管束の配置が大きく異なります。

image by Study-Z編集部

双子葉植物では、維管束が環状に配置しているのに対し、単子葉植物の茎では維管束はばらばらと散在しています。ですが、一つ一つの維管束の木部を師部とみると、やはり木部が内側(図の水色の部分)、師部が外側(図のオレンジ色の部分)に位置しているんですね。

茎のはたらき

つぎに、茎のはたらき・役割をみていきたいと思います。代表的な3つの役割をご紹介しましょう。

1.からだを支える

茎には、植物のからだを支える役割があります。地下にある根から地上にのび、葉や花を支えるのです。

基本的に、植物が生きていくには葉で光合成をしなくてはなりません。二酸化炭素と水から、養分である炭水化物と酸素をつくりだします。

茎が折れずにしっかりと支えることは、植物はそのからだを立ち上がらせ、日光をあびるために重要といえるでしょう。

\次のページで「2.水や養分の通り道になる」を解説!/

2.水や養分の通り道になる

地下の根で吸収した水分や、葉で光合成によりつくり出した養分を別の器官に送るとき、茎を通過します。茎は、根や葉など全身の器官をつなぐ道路のようなもの、といってしまってもいいかもしれません。

先ほどふれたように、水分や養分は維管束の道管や師管を通して運ばれます。木部や師部の配置は、中学校の理科ではよくテストの問題にも出題されるので、しっかり覚えておきたいですね。

3.養分の貯蔵やからだの固定

これは忘れがちなのですが、茎の中には養分の貯蔵やからだを固定する役割を果たしているものもあります。地上部ではなく、地下に発達する地下茎(ちかけい)でよく発達しているはたらきです。

地上茎と地下茎

私たちは植物の茎と聞くと、地上にすっと伸びた茎=地上茎を思い浮かべることがほとんどです。しかしながら、地下にのびている地下茎も忘れてはいけません。

地下茎は根とよく似ているため間違われやすいですが、よく根にみられる根毛や根冠といった構造がないことから、区別できます。

ジャガイモや玉ねぎ、サトイモなどの野菜は、栄養をたっぷり蓄えた地下茎にほかならないのです。

image by iStockphoto

地下茎はその形状・構造やはたらきによって、根茎(こんけい)、球茎(きゅうけい)、塊茎(かいけい)、鱗茎(りんけい)などに分けることができます。

前述のように、養分を蓄えているほか、根のように地面の下をはってからだを固定しているものがあったり、切り離されて新しい個体となる(栄養生殖)ものもあるんです。

茎に着目して植物を見ると…

植物というと、花や葉の形が真っ先に思い浮かぶ人が多いでしょう。茎に着目して植物を観察する、という人は少ないかもしれません。ですが、からだを支え、色々な成分の通り道になっている茎は、植物の重要な構成要素の一つです。私たち人間に置き換えてみれば、骨や血管などの機能を担っていることになるのですから。

地下茎など、面白い茎もたくさんあります。ぜひ、色々な植物の茎に着目してみてくださいね。

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体の仕組み・器官理科生物

3分で茎のつくりと働きをおさらいしよう!植物の器官について現役講師がわかりやすく解説します

今回は「茎のつくりと働き」をテーマにみていこう。

中学理科や高校生物では、植物や動物のもつ様々な器官について、そのつくりやしくみを学習していく。生物のからですがどんな構造になっているのかは、普段あまり意識して観察しないものです。だからこそ、ここでしっかりと基本的な内容を押さえておきたいな。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

植物の”茎”とは?

「植物の”(くき)”ってなに?」と聞かれたら、皆さんはどのように説明するでしょうか?よく知っている言葉ほど、いざその意味を聞かれると答えるのが難しかったりしますよね。

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まず、「茎は維管束植物がもつ器官の一つ」と表現することができます。

維管束植物(いかんそくしょくぶつ)は、文字通り維管束をもつ植物をひとまとめにした呼び名です。種子をつける種子植物に加え、胞子で繁殖するシダ植物がふくまれます。

そうですね。被子植物には、私たちが普段目にする植物の多くが含まれています。裸子植物の代表例は、イチョウやマツ、ソテツなど。胚珠が子房に包まれていない植物です。

さて、植物の”器官”といわれても、ピンとこない方もいるでしょう。植物がもつ器官というのは、といったものです。中学校の理科では、それぞれの器官のつくりや働きを学習すると思います。

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