昔から人気がある芍薬(シャクヤク)と牡丹(ボタン)は、どちらも大輪の花を咲かせ、豪華な美しさがあるな。ですが、そっくりな二種類の花の見分けがつかずに迷うことはないか?ポイントさえ押さえれば、簡単に見た目で区別できるようになるんです。それぞれの育て方のコツや薬用植物としての効果と合わせて、元華道部で生薬学を学んだ、アラノるかと一緒に解説していきます。

ライター/アラノるか

薬局の店頭に立つ現役薬剤師ライター。高校時代は華道部で花に親しみ、大学では薬用植物を扱う生薬学研究室に所属。患者さまへの説明同様、わかりやすい解説を心がけている。

1.芍薬と牡丹の違いって?

image by iStockphoto

芍薬牡丹は、どちらもボタン科ボタン属の植物。両方とも原産は中国で、古代から薬草としても用いられてきました。美しい大輪の花はそっくりで、英語では牡丹と芍薬を区別せず「peony(ピオニー)」と総称しているほど。近年では品種改良で種類が増え、色や形が多彩になっていることもあり、ますます見分けが難しくなっています

1-1.芍薬は草で、多年草

芍薬は実は、草の仲間。植え付けから何年も根が残り、冬に枯れても春に芽を出す多年草です。枝分かれはせず、一本に一輪の花がつきます。

1-2.牡丹は木で、落葉低木

牡丹は、寒くなると葉を落とす落葉低木横向きに枝分かれした先に花が咲きます。枝を見ると茶色くなっている部分があるため、木であることが納得しやすいです。

2.花はそっくり、芍薬と牡丹の見分け方

下の写真を見比べながら、芍薬と牡丹の違いを見ていきましょう。

写真から見る芍薬の特徴

image by iStockphoto

こちらが芍薬緑色ですっと伸びた茎ツヤのある葉です。高さは60cmから120cmで、バラに似た甘い香りがあり、花の色はピンクの他、赤、白、黄色などがあります。

\次のページで「写真から見る牡丹の特徴」を解説!/

写真から見る牡丹の特徴

image by iStockphoto

こちらが牡丹茶色の茎ツヤがなくギザギザの切り込みの入った葉です。園芸品種の高さは1~1.5mで、花の色はピンクの他、赤、赤紫、紫、薄紅、白、黄色などがあります。品種にもよりますが、一般に芍薬に比べて香りは弱いです。

2-1.開花時期と散り方で見分けよう

芍薬の開花時期は5月~6月で、牡丹の開花時期は4月~5月です。まず晩春に牡丹の花期がきて、少し遅れて初夏に芍薬が見頃を迎えることになります。

ちなみに、牡丹には上で説明した春咲き品種の春牡丹のほかに、4月上旬と10月~1月に花を咲かせる二季咲き品種寒牡丹や、春牡丹を1~2月に咲くように温室などで調整した、冬牡丹と呼ばれるものもあるのです。芍薬は初夏の時期にしか見られませんので、晩秋や冬に咲いているものは牡丹とわかります。

そして、芍薬と牡丹は花の散り方で見分けることも可能。芍薬は、開花した状態のまま花の頭ごとぼとっと落ちます。椿の花の落ち方を想像するとわかりやすいでしょうか。牡丹の花びらは1枚ずつ散っていくのですが、散り始めると日をまたぐことなく一気に散ってしまいます。芍薬も牡丹も、散る様子を「崩れる」と言い表すことがありますが、あっという間に花の形を失ってしまう様子をよく捉えた表現と言えるでしょう。

2-2.葉やつぼみの形で見分けよう

芍薬牡丹つぼみには、以下のような特徴があります。これらの点を踏まえて、試しに上の写真を見返してみてください。どちらがどちらか、見分けがつくようになってきたのではないでしょうか?

芍薬葉に厚みとツヤがあり、丸みを帯びて細長い。切れ込みはなしつぼみは球形で、つぼみからは蜜が出てべたつく。

牡丹葉は大きくてツヤがなく先が3つに分かれてフチに切れ込みありつぼみの先端はとがっていて、べたつくことはなし。

2-3.冬の越し方で見分けよう

草である芍薬は、根だけを残して枯れてしまい、翌春に土から新芽を出します。牡丹の場合は葉を落として枝だけで冬を越し、春に枝から新芽を出すのです。冬の姿を見れば、芍薬と牡丹の違いは一目でわかります。

3.芍薬と牡丹、育て方の違い

多年草の芍薬と、落葉低木の牡丹は、育て方にも大きな違いがあります。双方の特徴的な点について、要点を押さえて解説していきましょう。

\次のページで「3-1.株分けで増やせる?芍薬の育て方」を解説!/

3-1.株分けで増やせる?芍薬の育て方

芍薬の種は出回っていないため、秋に出回っている地上部分のない状態のポット苗を購入し、植えつけましょう。日当たりと水はけのよい場所で育てていきます。

何年も植えっぱなしにしていると花の付きが悪くなってくるので、9~11月に株分けを行いましょう。株も若返り、たくさんの芍薬を楽しめるようになりますよ。

3-2.芍薬に接ぎ木されている!牡丹の育て方

牡丹は種から育てると、栽培が難しく花がつくまで3~10年もかかってしまいます。そこで、生長の早い芍薬を台木として、牡丹を接ぎ木した苗から育てることで、早く開花させることができるのです。継ぎ目を地面の下になるように深く植え、牡丹そのものの根が出るようにします。根の部分からは芍薬の芽も出てくるので、牡丹が負けることのないよう、よく注意してこまめに摘み取りましょう。

牡丹は根が伸びるのが遅いため植え替えを好まず、地植えなら15年ほど1つの場所で生長を続けます。生長が悪くなったり、鉢植えで年数がたった時にのみ植え替えを行いましょう。

4.薬用植物としての芍薬と牡丹、広く使われるのはどっち?

芍薬牡丹は、ともに薬用植物としても有名です。芍薬は生薬「芍薬」として根が利用され、牡丹は生薬「牡丹皮」として根の皮が使われます

花は美しく、根は薬になるなんて、一挙両得でうまい話だと思いますよね。けれど残念ながら、一株を花としても薬としても売るというのは困難です。多様な美しさを求めて品種改良を進める園芸の世界と、質が一定であることが望ましい薬品としての世界では、求められるものも変わってきます。芍薬も牡丹も、園芸用と薬用の品種が交配しないよう、分けて育てる努力がなされているのです。

配合されている漢方処方の種類は、芍薬の方が多く、広く使われていると言えるでしょう。

4-1.芍薬を使った漢方薬とその薬効

芍薬鎮痛、鎮痙(けいれんを抑える)薬として有名なほか、血液の循環を改善する効果があるため婦人科系の疾患にも用いられます。東洋医学では広く利用され、なんと60種以上の漢方処方に配合されているのです。

代表的な処方に、痛み止めやこむら返りに用いられる芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)や、月経困難や冷え性、不妊や産前産後・妊娠中の体調維持に用いられる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)があります。

4-2.牡丹を使った漢方薬とその薬効

牡丹皮では血液の循環を改善する作用や、消炎や鎮静・鎮痛作用が有名です。月経不順や無月経、生理痛の緩和などに用いられるほか、下腹部や下肢の炎症性の痛みにも効果があります。

処方としては、月経困難や便秘に用いられる大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)、生理痛や月経不順、めまいや肩こりにも用いられる桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が代表的です。桂枝茯苓丸には、牡丹皮とともに芍薬も入っています。

\次のページで「5.ことわざ「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」って?」を解説!/

5.ことわざ「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」って?

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……といえば、美人の姿や振る舞いを、花に見立てた言葉です。由来には諸説ありますが、代表的な3つの説を紹介します。

(1)花の特徴を女性の動きにたとえたもの。「立てば芍薬」は真上にまっすぐ伸びる芍薬、「座れば牡丹」は低い位置で咲く牡丹、「歩く姿は百合の花」は、柔らかい茎で風に吹かれて揺れる百合から来ている。

(2)花の鑑賞に適した姿勢を言い表したもの。咲き方の違いから、芍薬は立って見る、牡丹は座って見る、百合は歩きながら眺めるのが見やすく、一番美しいという。

(3)生薬として用いられる際の症状に当てはめたもの。イライラと気が立っている女性には芍薬、血の巡りが悪く座り込む女性には牡丹、心身が弱りふらふらと歩く女性には百合を用いると改善する、ということから。芍薬、牡丹、百合を使えば、健康的で美しい女性になれるという意味も。

どの説にも説得力があり、なるほどと頷きたくなりますね。

似て非なる芍薬と牡丹、それぞれの美を楽しもう

草である芍薬と、木である牡丹。美しい花を咲かせる両者ですが、見た目で区別できる点や育て方の違いに、植物としての性質の違いが表れています。

近縁種でありながら、薬効には異なる点もあるのが興味深いですね。

「立てば芍薬、座れば牡丹~」の言葉にも表される通り、日本人は昔から両者の違いをとらえつつも、それぞれの美を賞賛してきたのです。

" /> 芍薬と牡丹の違い、見分け方は?育て方から薬効までを元華道部の薬剤師がわかりやすく解説 – Study-Z
生き物・植物雑学

芍薬と牡丹の違い、見分け方は?育て方から薬効までを元華道部の薬剤師がわかりやすく解説

昔から人気がある芍薬(シャクヤク)と牡丹(ボタン)は、どちらも大輪の花を咲かせ、豪華な美しさがあるな。ですが、そっくりな二種類の花の見分けがつかずに迷うことはないか?ポイントさえ押さえれば、簡単に見た目で区別できるようになるんです。それぞれの育て方のコツや薬用植物としての効果と合わせて、元華道部で生薬学を学んだ、アラノるかと一緒に解説していきます。

ライター/アラノるか

薬局の店頭に立つ現役薬剤師ライター。高校時代は華道部で花に親しみ、大学では薬用植物を扱う生薬学研究室に所属。患者さまへの説明同様、わかりやすい解説を心がけている。

1.芍薬と牡丹の違いって?

image by iStockphoto

芍薬牡丹は、どちらもボタン科ボタン属の植物。両方とも原産は中国で、古代から薬草としても用いられてきました。美しい大輪の花はそっくりで、英語では牡丹と芍薬を区別せず「peony(ピオニー)」と総称しているほど。近年では品種改良で種類が増え、色や形が多彩になっていることもあり、ますます見分けが難しくなっています

1-1.芍薬は草で、多年草

芍薬は実は、草の仲間。植え付けから何年も根が残り、冬に枯れても春に芽を出す多年草です。枝分かれはせず、一本に一輪の花がつきます。

1-2.牡丹は木で、落葉低木

牡丹は、寒くなると葉を落とす落葉低木横向きに枝分かれした先に花が咲きます。枝を見ると茶色くなっている部分があるため、木であることが納得しやすいです。

2.花はそっくり、芍薬と牡丹の見分け方

下の写真を見比べながら、芍薬と牡丹の違いを見ていきましょう。

写真から見る芍薬の特徴

image by iStockphoto

こちらが芍薬緑色ですっと伸びた茎ツヤのある葉です。高さは60cmから120cmで、バラに似た甘い香りがあり、花の色はピンクの他、赤、白、黄色などがあります。

\次のページで「写真から見る牡丹の特徴」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: