今回は「表皮組織」というキーワードに注目していこう。

ぱっと見ではそれほど難しくなさそうに見える用語ですが、生物の体に関係する言葉には表皮組織以外にも「表皮」「上皮組織」「真皮」…など、よく似たものが多い。それぞれの言葉はどのように使い分ければいいのでしょうか?一緒に確認していこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

表皮組織とは?

表皮組織(ひょうひそしき)とは、多細胞生物の組織のうち、からだのもっとも外側を覆っている組織を指す言葉です。

動物と植物では、どちらかといえば植物の組織について使われる用語になります。後ほどふれますが、動物では”表皮組織”という言い方はあまり使われないようです。

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そもそも組織とは?

具体的なお話に入る前に、まずは生物学における”組織”という言葉について確認しておきたいと思います。

生物の体にみられる組織とは、同じような形・はたらきをする細胞の集まりです。細胞が集まって組織をつくり、組織が集まって器官をつくり、器官が集まって一つの個体ができている…というのが、生物のからだの一つの”見方”になります。

これは、動物でも植物でも共通する考え方です。

動物の組織

動物の場合は、全身の組織を大きく「上皮組織」「筋組織」「神経組織」「結合組織」の4つに分けて考えることが多いです。

ご覧いただいてわかる通り、”表皮組織”という言葉は出てきませんよね。動物では皮膚の最も外側の層が、ただ単に「表皮」とよばれます。そして、この表皮は「上皮組織」によって構成されているのです。

文献によっては動物でも「表皮組織」という言葉が使われていることもあるかもしれませんが、その数は少ないように感じられます。

\次のページで「植物の組織」を解説!/

植物の組織

植物の場合は、動物よりも少し複雑です。いろいろな「〇〇組織」という言葉が存在していて、どんな観点で植物を考えるかによって使い分けなくてはなりません。

一番わかりやすいのは、植物の組織を「分裂組織」「永久組織(または成熟組織)」に大別する考え方でしょう。植物のからだの中でも、盛んに細胞分裂をしている組織が分裂組織、成熟し細胞分裂をしなくなった組織が永久組織とよばれます。

image by Study-Z編集部

分裂組織は、それが植物のどこに位置しているかによって、さらに「頂端分裂組織」と「形成層」に分けられます。

また、永久組織はその位置や形状・機能によって「表皮組織」「通道組織」「機械組織」「柔組織」に分けられているんです。

植物の「表皮組織(表皮系)」

植物で表皮組織というと、植物体の表面を覆っている組織をまとめて指す言葉となります。

ですが…実際のところ、表皮組織よりも表皮系(ひょうひけい)という言葉が使われることの方が多いんです。

組織をいくつかまとめたものは”組織系”とよばれることがあるんですよ。表皮組織も組織をまとめたものであることから、表皮系という言葉の方が、実態をよく表せているように感じませんか?

さて、植物の表皮組織(表皮系)には、植物体の保護や、物質の出入りを調節する機能があります。

どんな細胞からなるのか、みていきましょう。

表皮細胞

表皮組織の大部分を占めているのが、表皮細胞という細胞です。

表皮細胞はさまざまな形をしており、たがいに密着して存在します。植物体の表面全体を覆うように、すき間なく並んでいるんです。

\次のページで「孔辺細胞」を解説!/

Medium scale diagram of leaf internal anatomy
By Zephyris - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

一般的に、表皮細胞には植物におなじみの葉緑体は存在しません。葉や茎が緑色に見えるのは、表皮細胞より内側にある、葉肉の細胞が葉緑体をもっているからなんです。

そのとおりです。海綿状組織やさく状組織は、「表皮組織」ではなく「柔組織」に分類されます。柔組織の中でも、光合成という同化反応を担うため、「同化組織」というグループに細分されますね。

孔辺細胞

表皮組織には、表皮細胞だけでなく、孔辺細胞(こうへんさいぼう)という細胞も含まれます。孔辺細胞は2個が対になって存在し、その間には気孔(きこう)という開口部がつくられるのです。

そうですね。光合成や呼吸のために必要なガス交換をする役割があります。酸素や二酸化炭素を出し入れできるのは、気孔のおかげです。また、植物の内部から水蒸気が放出される蒸散も、気孔を通して行います。

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植物の葉の表面にはクチクラ層という層があるため、孔辺細胞のつくる気孔が物質のやりとりに重要な役割を果たすのです。

毛状突起

表皮細胞の中には、突起や毛のように、少し変わった形になるものがあります。そういった特殊な形態や機能をもつものは、毛状突起(もうじょうとっき)とよばれるんです。

根にみられる根毛や、食虫植物がもつような感覚毛、綿毛などがこれにあたります。

\次のページで「動物の「表皮」」を解説!/

動物の「表皮」

前述の通り、動物で「表皮」という言葉を使うときは、皮膚(肌)のもっとも外側の層であり、上皮組織からできている「表皮」を指すことになります。

表皮はさらにいくつかの層に分けられており、その中でももっとも外側(=皮膚の一番表面)にあるのは角質層(かくしつそう)です。古くなった角質層が剥がれ落ちるのが、いわゆる”垢”ですね。

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表皮の層の中で最下層に位置する層は基底層(きていそう)。基底層では盛んに細胞分裂が行われ、新しくできた細胞は上(角質層の方向)へと押し上げられていくのです。

そして、表皮の基底層のすぐ下には、真皮(しんぴ)とよばれる層が広がっています。真皮や、さらにその下の皮下組織(ひかそしき)は上皮組織ではなく「結合組織」で構成されているんです。

紛らわしい用語には要注意!

最後に桜木先生もおっしゃっていましたが、紛らわしい用語・似ている言葉には注して学習する癖をつけましょう。

今回の「表皮組織」や「表皮系」、「表皮」という言葉たちも、なんとなく『生物の体の一番外側』というイメージが共通しています。しかし、人間の体の話で「表皮系」という言葉を使ったりすると、とても違和感を感じるのです。

一つ一つの言葉の意味を大切にし、的確に使えるようになることは、科学のみならず、色々な学習の中で必要なテクニックの一つだと思います。

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体の仕組み・器官理科生物

植物の「表皮組織」とはどんな組織?「上皮組織」との違いは?動物との違いについても現役講師がわかりやすく解説します

今回は「表皮組織」というキーワードに注目していこう。

ぱっと見ではそれほど難しくなさそうに見える用語ですが、生物の体に関係する言葉には表皮組織以外にも「表皮」「上皮組織」「真皮」…など、よく似たものが多い。それぞれの言葉はどのように使い分ければいいのでしょうか?一緒に確認していこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

表皮組織とは?

表皮組織(ひょうひそしき)とは、多細胞生物の組織のうち、からだのもっとも外側を覆っている組織を指す言葉です。

動物と植物では、どちらかといえば植物の組織について使われる用語になります。後ほどふれますが、動物では”表皮組織”という言い方はあまり使われないようです。

そもそも組織とは?

具体的なお話に入る前に、まずは生物学における”組織”という言葉について確認しておきたいと思います。

生物の体にみられる組織とは、同じような形・はたらきをする細胞の集まりです。細胞が集まって組織をつくり、組織が集まって器官をつくり、器官が集まって一つの個体ができている…というのが、生物のからだの一つの”見方”になります。

これは、動物でも植物でも共通する考え方です。

動物の組織

動物の場合は、全身の組織を大きく「上皮組織」「筋組織」「神経組織」「結合組織」の4つに分けて考えることが多いです。

ご覧いただいてわかる通り、”表皮組織”という言葉は出てきませんよね。動物では皮膚の最も外側の層が、ただ単に「表皮」とよばれます。そして、この表皮は「上皮組織」によって構成されているのです。

文献によっては動物でも「表皮組織」という言葉が使われていることもあるかもしれませんが、その数は少ないように感じられます。

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