この記事では「ミステリー」と「サスペンス」の違いについて見ていきます。どちらも映画や小説で不動の人気を誇るジャンルですが、その線引きは非常に難しい。それぞれの定義を確認しつつ、その違いやおすすめ作品をミステリーオタクのおとのと一緒に解説していきます。

ライター/おとの

シャーロック・ホームズシリーズを足がかりに、現在に至るまで150冊以上の推理小説を読み漁ったミステリオタク。何冊読んでも犯人が当たった例がない。

ミステリーとサスペンスの違いは?

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ミステリーは「謎解き」という登場人物の行動が主軸となり、サスペンスは「緊張・不安」という視聴者や読者の心理状態に重きを置いています。1つの物語のなかに、これらが共存しているのは至って自然なこと。ミステリーとサスペンスはそれぞれ確立したジャンルに思えますが、実はその境界線は非常に曖昧なのです。

ミステリーとサスペンスの定義は?

ミステリーといえば、まず何を思い浮かべるでしょうか。探偵、密室、消えた凶器。解明されていない歴史の謎に興味がある方もいるかも知れません。では、サスペンスといえば何でしょう。筆者は迫りくる殺人鬼が頭に浮かびました。しかし、事件があったという点では筆者の想像はミステリーにも当てはまるはず。この項ではそれぞれの意味に着目しながら、ミステリーとサスペンスの定義について解説します。

ミステリーは謎解きがメイン

まずはミステリーの定義を確認するために、その意味を辞書で引いてみましょう。

ミステリー【mystery】の解説
1 神秘的なこと。不可思議。謎。怪奇。「だれがやったか、それは今もミステリーなのです」
2 推理小説
3 秘跡劇。聖史劇。

(出典:デジタル大辞泉/ 小学館)

ミステリーを語る際に、もっとも重要なキーワードは「謎」です。必ずしも、探偵や刑事が頭をひねるような難事件がなくとも構いません。ある出来事の5W1Hのどれかに不可解な部分があれば、それはミステリーなのです。

ミステリー小説や映画はこの謎を解明する物語を指します。一般的なのは「フーダニット」と呼ばれる、誰が犯人なのかを暴いていく過程を楽しむもの。他にもアリバイやトリックを崩す「ハウダニット」や、犯行の動機を探る「ホワイダニット」等、内容は多岐に渡ります。最後に思いもよらない展開が待ち受けるどんでん返しや、作者が読者を騙す叙述トリックなどの手法が用いられるものも人気です。

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サスペンスは心理状況がメイン

サスペンスについても、まずはその意味を確認しましょう。

サスペンス【suspense】 の解説
《未解決・不安・気がかりの意》小説・ドラマ・映画などで、筋の展開や状況設定などによって、読者や観客に与える不安感や緊張感。また、その小説・ドラマ・映画など。「サスペンスドラマ」

(出典:デジタル大辞泉/ 小学館)

サスペンスの語源はラテン語で「吊るす」の意味をもつsuspensusです。そこから気持ちの置きどころがなく、心が宙ぶらりんになったような不安感や緊張感が持続する物語も、サスペンスと呼ぶようになりました。

ハラハラする感情がメインとなる以上、その内容はシリアスであることが大前提。「非力な主人公の家に強盗が押し入ってくる」という大筋が一緒でも、強盗との危険な心理戦や緊迫感を描いた『パニック・ルーム』(デヴィット・フィンチャー監督)はサスペンスですが、主人公の少年が知恵と機転で強盗をコテンパンにやっつける『ホーム・アローン』(クリス・コロンバス監督)はコメディ映画として有名です。

ミステリーとサスペンスの種類

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ミステリーやサスペンスについて興味は出てきましたか?もともと好きという方も、もっと沢山のミステリー小説やサスペンス映画に触れたいと思っているのではないでしょうか。しかし一言でミステリーやサスペンスといっても、これらの物語はさまざまな要素が組み合わさっているだけに、たくさんの種類があります。以下で解説しますので、ぜひ自分のお気に入りを探すヒントにして下さい。

ミステリーの種類

明智小五郎や金田一耕助などの名探偵が、天才的な頭脳で難事件を解決する「本格ミステリ」を始めとして、ミステリーには様々な種類があります。「新本格ミステリ」は凝ったトリックがありつつも、本格ミステリよりも軽快な書き味が特徴です。怖い話や残酷な話が苦手な方には「日常ミステリ」がオススメ。ほのぼのとした雰囲気の話も多いので読みやすいですよ。「青春ミステリ」や「学園ミステリ」で思春期の主人公の成長を見守るのも良いでしょう。そのほか、ファンタジーと融合されたものやコメディチックなものまで、幅広く展開されているのがミステリーの魅力の一つですね。

自分で推理を楽しみたいという方は、ぜひリアル脱出ゲームや水平思考クイズで遊んでみて下さい。気が付けば、ミステリーの面白さから抜け出せなくなっていますよ。

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サスペンスの種類

サスペンスもミステリー同じく、多くの種類があるジャンルです。狂人や快楽殺人鬼など、常識が通用しない人間に襲われる恐怖を描く「サイコサスペンス」。日本語でも「人怖系」といった呼び方がありますね。「SFサスペンス」は近未来を舞台としていることが多く、人造人間やタイムトラベルのような現在にはない技術が登場します。不条理な恐怖が待ち構える世界で生死をかける「サスペンスホラー」。恐怖の対象は未知の怪物や悪霊の他、デスゲームや逃れられない残酷な死の運命などバラエティ豊かです。『羊たちの沈黙』『セブン』に代表される「クライムサスペンス」は犯罪を扱っているだけに、ミステリーとの区分が最も曖昧な種類と言えます。

ミステリーとサスペンスのおすすめの作品は?

ぜひ読んでほしい、または観てほしいミステリーとサスペンスのオススメ作品をミステリーオタクの筆者が独断で厳選しました。小説は作者によって作り出す世界観や得意とする手法に特徴があります。映像化されたものも多いので、気になる作品はぜひ手に取って実際に楽しんで下さいね

おすすめのミステリー作品5選

1.十角館の殺人(綾辻 行人)
新本格ミステリーの金字塔である『館シリーズ』。そのなかでもシリーズ1作目の「十角館の殺人」はミステリー好きなら必読の一冊です。奇妙な形をした館で起こる連続殺人事件の真実は、現代でも新鮮な驚きを味わえますよ。

2.先生と僕(坂木 司)
日常ミステリーの魅力がこれでもかと詰め込まれています。ホームズ役は頭脳明晰で眉目秀麗な中学生。ワトソン役の優しいけれど怖がりな大学生とコンビを組んで、日常に潜む謎を解決します。

3.ラッシュライフ(伊坂 幸太郎)
『動くばらばら死体』『新興宗教』『泥棒』など、触指が動く単語が満載。物語内には謎解きをする探偵役は存在しません。しかし謎と伏線が散りばめられた5人の主人公たちの物語が、ラストに向けて急速に集結していく様は圧巻です。

4.暗黒女子(秋吉 理香子)
上流階級の才能あふれるお嬢様たちが、文学サークルの豪奢な部室で闇鍋。語るのは亡くなった前会長の死の真実。その設定のアンバランスさだけでも惹かれてしまいませんか?とても読みやすい文章で、ラストはゾクっとさせられます。

5.白鳥とコウモリ(東野 圭吾)
フーダニットとホワイダニットが混じり合った傑作。殺された被害者と自白した加害者の背景を探る物語です。悪とは何か、罪とは何か。やがて明かされる切なすぎる真実に、筆者は思わず泣きました。

おすすめのサスペンス作品5選

1.激突!(スティーブン・スピルバーグ監督)
ただ追い抜いただけのトレーラーに執拗に追いかけられる恐怖。1971年の古い映画ですが、スリリングな興奮は現代でも色褪せません。危険運転が問題視されている今こそ一見の価値ありです。

2.告白(湊 かなえ)
生徒に娘を殺された女教師が仕掛けた壮絶な復讐。淡々とした語り口が緊迫感を醸しだしています。一人称視点で描かれますが、語り手が変わると不思議とそれぞれに感情移入してしまうのです。松たか子主演で映画化されました。

3.ゴールデンスランバー(伊坂 幸太郎)
首相暗殺の濡れ衣を着せられた主人公の逃亡劇。目の前に立ちはだかるとてつもなく大きな謎と陰謀に、主人公は成す術もなくただ逃げるのみです。その息の詰まるような緊張感と臨場感はこの作品でしか味わえません。堺雅人主演で映画化。

4.悪の教典(貴志 祐介)
生徒から絶大な人気と信頼を得ている高校教師が、実は目的のためならば殺人さえ厭わないサイコパスだったら。伊藤英明主演で映画化された名作サスペンスホラー。

5.連続殺人鬼カエル男(中山 七里)
猟奇的連続殺人の恐怖に躍らせれる群集心理が非常にリアル。ただ一つご注意いただきたいのは、描写が軍を抜いて残酷でグロテスクなことです。トラウマを作ることを覚悟でご覧下さい。

ハラハラするけどホラーとの違いは?

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ミステリーとサスペンスは区別が難しく、両者とも作中で自然に混じり合っているものであることは先に解説しましたね。

では、同じようにハラハラする要素を含んだホラーと区別することはできるのでしょうか

\次のページで「ホラーの定義」を解説!/

ホラーの定義

ホラーの意味を辞書で引くと以下のように載っています。

ホラー【horror】 の解説
恐怖。戦慄 (せんりつ) 。「ホラー映画」

(出典:デジタル大辞泉/ 小学館)

小説や映画のホラーは人間の恐怖心を煽ることを目的としたジャンルです。人間は死という未知の世界に恐怖を感じ、死を連想させるものを忌避しようとします。その感情を逆手にとって、死や未知のものに対する好奇心を刺激するのが、ホラーの役割なのです。

ホラーとの違いは?

ホラーもサスペンスも、読者や観客の感情を重視しているという点で共通しています。恐怖を感じる状況は緊張や不安も伴いますから、サスペンスとホラーは作品中で複合されることも多く、共助共演の関係にあるのです。

ミステリーは謎解きが主題であるため、その内容には合理的かつ現実的な推論が求められます。ホラー要素が残忍な殺人鬼など現実に存在するものであればミステリーとホラーも同時に成立しますが、幽霊や悪魔などのオカルト的なものであれば、ジャンルとしてはホラーとなるでしょう。

映画や小説はジャンルの坩堝!

ミステリーとサスペンスはお互いに干渉し合い、混ざり合って物語を形成しています。さらにそこに派手なアクションや切ない恋愛要素、おぞましいホラーな展開が介入してくることも多々あるのです。小説や映画は、たった1つのジャンルで成り立つことはまずありません。多種多様な要素を詰め込んだ、ジャンルの坩堝なのです。

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趣味雑学

混同されやすいサスペンスとミステリーの違いは?定義や推理の流れ・おすすめの作品もミステリーオタクが5分でわかりやすく解説!

この記事では「ミステリー」と「サスペンス」の違いについて見ていきます。どちらも映画や小説で不動の人気を誇るジャンルですが、その線引きは非常に難しい。それぞれの定義を確認しつつ、その違いやおすすめ作品をミステリーオタクのおとのと一緒に解説していきます。

ライター/おとの

シャーロック・ホームズシリーズを足がかりに、現在に至るまで150冊以上の推理小説を読み漁ったミステリオタク。何冊読んでも犯人が当たった例がない。

ミステリーとサスペンスの違いは?

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ミステリーは「謎解き」という登場人物の行動が主軸となり、サスペンスは「緊張・不安」という視聴者や読者の心理状態に重きを置いています。1つの物語のなかに、これらが共存しているのは至って自然なこと。ミステリーとサスペンスはそれぞれ確立したジャンルに思えますが、実はその境界線は非常に曖昧なのです。

ミステリーとサスペンスの定義は?

ミステリーといえば、まず何を思い浮かべるでしょうか。探偵、密室、消えた凶器。解明されていない歴史の謎に興味がある方もいるかも知れません。では、サスペンスといえば何でしょう。筆者は迫りくる殺人鬼が頭に浮かびました。しかし、事件があったという点では筆者の想像はミステリーにも当てはまるはず。この項ではそれぞれの意味に着目しながら、ミステリーとサスペンスの定義について解説します。

ミステリーは謎解きがメイン

まずはミステリーの定義を確認するために、その意味を辞書で引いてみましょう。

ミステリー【mystery】の解説
1 神秘的なこと。不可思議。謎。怪奇。「だれがやったか、それは今もミステリーなのです」
2 推理小説
3 秘跡劇。聖史劇。

(出典:デジタル大辞泉/ 小学館)

ミステリーを語る際に、もっとも重要なキーワードは「謎」です。必ずしも、探偵や刑事が頭をひねるような難事件がなくとも構いません。ある出来事の5W1Hのどれかに不可解な部分があれば、それはミステリーなのです。

ミステリー小説や映画はこの謎を解明する物語を指します。一般的なのは「フーダニット」と呼ばれる、誰が犯人なのかを暴いていく過程を楽しむもの。他にもアリバイやトリックを崩す「ハウダニット」や、犯行の動機を探る「ホワイダニット」等、内容は多岐に渡ります。最後に思いもよらない展開が待ち受けるどんでん返しや、作者が読者を騙す叙述トリックなどの手法が用いられるものも人気です。

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