この記事では「吸引反射」というキーワードを軸に、乳幼児にみられる反射反応について学んでいこう。

吸引反射は生まれたばかりの子どもにとって必要不可欠な運動を引き起こす反射です。その他の乳幼児にみられる反射も合わせて解説していく。生物学を学習する中高生はもちろんですが、子育て世代や乳児に関わるような仕事をしている人にも読んでほしい内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

吸引反射

吸引反射(きゅういんはんしゃ)とは、赤ちゃん(乳児)が舌を動かし、口に入ってきたものを強く吸う反射のことをいいます。

医学の本などであれば、吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)と書いてあることの方が多いかもしれません。少し難しい漢字ですが、”啜”は”啜る(すする)”と読める文字ですね。

image by Study-Z編集部

そのとおりです。吸引反射の場合、「口にモノが入ってくる」というのが”刺激”、それに対して”吸う”というのが生じた反応ですね。

「赤ちゃん」と書いた通り、この反射はまだ生まれたばかりの子どもで見られる反応です。生まれつき…誰かから習ったわけでもないのに、「口に入ったものを吸う」という動きができるのには、とても重要な意味があります。

吸引反射で”おっぱいを吸う”

乳児で吸引反射がみられるのは、”おっぱいを吸う”のに必要な反応だからです。口に母親の乳首が入ってきたとき、反射的にそれを吸う動作を行うことで、母乳(乳汁)を得ることができます。

おっしゃる通りです。

ただ、これは反射的な反応なので、乳首以外のモノが口に入ってきても、同じような動作を行います。指をくわえてちゅうちゅう吸っているのも、吸引反射によるものです。

逆に考えれば、口に入ってきたものをなんでも吸い込んでしまおうとするのは、注意しなくてはならない点ともいえます。異物の誤飲につながりかねませんからね。世の中のママやパパには、ぜひこのような行動を把握しておいてほしいと思います。

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私も調べてみたのですが、文献によって少し差があるようです。「生後3~4か月ほどで消失する」と書いてあるものもあれば、「生後5~6か月ほどまで続く」というものもありました。長くても半年くらいなのではないかな、と思います。

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ちなみに、赤ちゃんが母親の母乳を飲むのをやめる、いわゆる”卒乳”は、1歳6か月ごろまでに行うことが、厚生労働省から推奨されています。ということは、生後半年ほどたってからその先1年ほどは、すでに「反射」ではなく、自らの意志でおっぱいを吸っているということなんでしょうね。

まあそうですよね。機会があったら、自分のご両親に子どものころのことを聞いてみるのもいいかもしれません。大切な思い出として話してくれるでしょう。

さて、この吸引反射のように、新生児のころにしか現れない反射というのが他にもあります。そういった反射は、まとめて原始反射(げんしはんしゃ)とよばれているんです。

いろいろな原始反射

せっかくですから、ここから他の原始反射についてもご紹介していきましょう。

\次のページで「探索反射」を解説!/

探索反射

探索反射(たんさくはんしゃ)は、赤ちゃんの口やほほのあたりに何かが当たったとき、その刺激の方向に向かって頭を向けようとする動きです。口唇反射(こうしんはんしゃ)といわれることもあります。

この反射は、吸引反射と同じく母乳を飲むために必要な反応と考えられているんです。母親の乳房や身体が顔に触れたとき、そちらの方向を向かなければお乳にありつけませんからね。

モロー反射

モロー反射も、原始反射のなかではよく知られているものの一つです。赤ちゃんに大きな音や刺激を与えると、両腕を急に伸ばし、その後すぐに縮めて抱き着くような動きをします。

赤ちゃんがバランスを崩したり、驚かされたとき、母親の身体にとっさにしがみつくことができるのは、このモロー反射のおかげです。抱き着き反射や抱擁反射(ほうようはんしゃ)とよばれることもあるんですよ。

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新生児の発達をチェックする検査では、仰向けに寝かせている赤ちゃんの頭を少し持ち上げます。手の力を少し弱め、赤ちゃんの頭がすっと下に落ちるような状況をつくり出し、正常にモロー反射が起きるかを確認するのです。

把握反射(手掌把握反射、足底把握反射)

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赤ちゃんの手の平や足の裏にふれると、指や足全体をぎゅっと屈曲させる運動がみられます。それぞれ、手の方は手掌把握反射(しゅしょうはあくはんしゃ)、足の方は足底把握反射(そくていはあくはんしゃ)とよばれる反応です。

手の指をぎゅっと曲げるような反射は、手にあたったものを握る運動につながります。

歩行反射

乳児の足の裏を床につけると、もう一方の足を前の方に出し、まるで歩き出そうとするような行動を見せます。これは歩行反射(ほこうはんしゃ)とよばれる反応です。

生まれてきてすぐの新生児にこの反射がみられますが、生後数か月すると消失します。

\次のページで「原始反射によって脳の異常が分かる?」を解説!/

原始反射によって脳の異常が分かる?

以上のような原始反射は、中枢神経系のはたらきによって引き起こされる、文字通り”反射的”な反応です。成長が進み、脳(とくに前頭葉)が発達すると、原始反射は少しずつ消失していきます。

ところが、脳に何らかの異常があると、本来消失する時期になっても原始反射がのこることがあるのです。

逆に、新生児にも関わらず原始反射がみられないような場合にも、脳の障害が心配されます。

出産後には定期的な検診もありますから、心配なことがあればお医者様に相談・確認するのが一番でしょう。個人差もありますから、自分だけで判断せず、サポートを受けてくださいね。

また、大人になってからも脳に障害が起きることで原始反射がみられるようになることもあります。反射は自らの意志でコントロールできないものですから、病気の発見などにも使われるんですね。

原始反射は面白い!

吸引反射をはじめとする原始反射は、出産したばかりの赤ちゃんがいるご家庭でしか見る機会がないでしょう。すべての大人も乳児だったことがあるとはいえ、そのころの記憶がある人はほとんどいません。

原始反射について学ぶと、生まれたばかりの子どもが生きていくために必要な力強さを感じさせてくれます。ぜひ、他の原始反射についても調べてみてくださいね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 赤ちゃんの不思議「吸引反射」前頭葉との関係は?他の原始反射と合わせて現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

赤ちゃんの不思議「吸引反射」前頭葉との関係は?他の原始反射と合わせて現役講師がわかりやすく解説します

この記事では「吸引反射」というキーワードを軸に、乳幼児にみられる反射反応について学んでいこう。

吸引反射は生まれたばかりの子どもにとって必要不可欠な運動を引き起こす反射です。その他の乳幼児にみられる反射も合わせて解説していく。生物学を学習する中高生はもちろんですが、子育て世代や乳児に関わるような仕事をしている人にも読んでほしい内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

吸引反射

吸引反射(きゅういんはんしゃ)とは、赤ちゃん(乳児)が舌を動かし、口に入ってきたものを強く吸う反射のことをいいます。

医学の本などであれば、吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)と書いてあることの方が多いかもしれません。少し難しい漢字ですが、”啜”は”啜る(すする)”と読める文字ですね。

image by Study-Z編集部

そのとおりです。吸引反射の場合、「口にモノが入ってくる」というのが”刺激”、それに対して”吸う”というのが生じた反応ですね。

「赤ちゃん」と書いた通り、この反射はまだ生まれたばかりの子どもで見られる反応です。生まれつき…誰かから習ったわけでもないのに、「口に入ったものを吸う」という動きができるのには、とても重要な意味があります。

吸引反射で”おっぱいを吸う”

乳児で吸引反射がみられるのは、”おっぱいを吸う”のに必要な反応だからです。口に母親の乳首が入ってきたとき、反射的にそれを吸う動作を行うことで、母乳(乳汁)を得ることができます。

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