この記事では「踵を回らすべからず」について解説する。

端的に言えば「踵を回らすべからず」の意味は「時間がない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元予備校校舎長で教育系ライターのみゆなを呼んです。一緒に「踵を回らすべからず」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「踵を回らすべからず」の意味や語源・使い方まとめ

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」の読み方は「かかと」、足の裏・背中側の部分のことですね。ただしこの慣用句では「くびす」と読んでいます。さて「踵を回らすべからず」とは、どういう意味でしょうか?踵を回してはいけない、という状況であることは分かりますが、どんなシチュエーションで使われる言葉なのでしょう。

今回は「踵を回らすべからず」の意味や由来・使い方を見ていきます。正しい用例を知り、ぜひ使いこなしてみてくださいね。

「踵を回らすべからず」の意味は?

「踵を回らすべからず」には、次のような意味があります。

かかとを回らすほどの時間もない意で、わずかな時間に急速に事をはこぶたとえに用いる。くびす返らず。

出典:精選版 日本国語大辞典「踵を回らすべからず」

「踵を回らすべからず」とは、わずかな時間に急にことが進む、すぐにある事態になってしまう、まったく時間がないという意味で使われる慣用句です。「踵を回す」様子を想像してみてください。ほんの一瞬で済むことですよね。しかし、その一瞬すらもないというたとえで、急に事が進むことを表現しています。

「踵を回らすべからず」の由来は?

「踵を回らすべからず」の由来は、はっきりとはわかっていません。「踵を回らすべからず」の元になっていると思われる「踵を回す」という言い回しは、中国の歴史書『史記』の「呉起伝」に登場します。どんな部分か、ちょっと見てみましょう。

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◆ 史記「呉起伝」より

呉起(ごき)は古代中国・戦国時代の軍人でした。位が高くなっても兵卒と侵食をともにし、部下からの信頼も厚い人物だったといいます。

ある日、呉起は一兵卒のできものを自ら吸ってあげました。人からその話を聞いて泣く兵卒の母に理由を聞くと、兵卒の父親もかつて呉起におできを吸ってもらったことがあると。将軍にそんなことをしてもらって感激した父親は、戦場で踵を返すこともなく戦い、死んだ。今度は息子が同じことをしてもらっている。あの子もまた同じ道をたどるのかと思うと、悲しくて泣くのだ、ということです。

この時、父親の「戦場で踵を返すこともなく」という行動が「其父戰不旋踵」、つまり「踵を回す」と表現されています。

呉起伝に書かれている「踵を回す」は、文字通り振り返ることなくという意味でした。

これがいつ・どんな変化を辿って「踵を回らすべからず(ほんの短い時間で)」という意味に変わっていったのかはわかりません。しかし、確かに「踵を回す」のは一瞬のこと。その一瞬もないくらい、急速にという意味になるのは、分かる気もしますね。

現代では「踵を回らすべからず」は、「かかとを回らすほどの時間もないくらい、わずかな時間に急速に事をはこぶ」ことの喩えに用いられていると押さえておきましょう。

「踵を回らすべからず」の使い方・例文

続いて「踵を回らすべからず」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.もし合戦を致さば、叡岳の滅亡踵を回らすべからず
2.いまの市場情勢のまま進めば、業界最大手2社の合併は踵を回らさず実現するだろう。

踵を回らすべからず」は古めかしい印象のある言い方です。そのため、現代語ではちょっと使いにくいかもしれませんね。同じ意味を持つ「踵を回らさず」の方が、いまでも使いやすいので工夫してみてください。

例文1は古文より引用しました。鎌倉時代に成立した『平家物語』です。「もし合戦をしなければ、叡岳(比叡山のこと)は間もなく滅びてしまうだろう」という意味になります。

例文2は「踵を回らさず」を現代語で使ってみた例です。現在の市場情勢のままだと、業界最大手2社はすぐに合併することになるだろう」ということを言いたいのですが、「踵を回らさず」を喩えとして使うことで事態の進行が非常に速いニュアンスが加わっていますね。

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「踵を回らすべからず」の類義語は?違いは?

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「踵を回らすべからず」と同じ意味を持つ、ほかの表現を見てみましょう。

「急転直下」

急転直下(きゅうてんちょっか)」という四字熟語は、皆さんも聞いたことがあるでしょう。「物事の事態や情勢が突然に変化して、解決・結末に向かうこと」という意味で使われています。

「踵を回らすべからず」は単に事態の進行スピードが速いことを表しますが、「急転直下」は進行した結果、解決に向かうときに使う点に違いがありますので注意してくださいね。

「踵を回らすべからず」の対義語は?

「踵を回らすべからず」と対義になる言葉を見てみましょう。四字熟語とことわざを1つずつご紹介します。

その1「悠悠閑閑」

悠悠閑閑(ゆうゆうかんかん)」は急がず、のんびりゆっくりと構えている様子や、事態の進行をゆったり見守るさまを表す四字熟語です。「悠」はゆったり、悠久という意味で、「閑」はすることがなくてひま、のんきという意味になります。

その2「急がば回れ」

急がば回れ」ということわざは、とても有名ですね。「早く着こうと思うなら、危険な近道より遠くても安全確実な方法をとったほうが早く目的を達することができる」というたとえをしています。急げばいそぐほど、危険や障害があらわれて結局時間がかかってしまうと、急ぐことを戒めるときにも使われますね。

「踵を回らすべからず」の英訳は?

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「踵を回らすべからず」を直訳しても、英語圏の方に言いたいことは通じません。ここでは「事態が急に進む」という意味を持つ英語表現をみてみましょう。

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「suddenly」

suddenly」は急に、突然という意味を持つ副詞です。物事の進行が急速である、という場面でも使えますし、突然何かが起きたという場合にも使える、とても幅広い用法を持っています。

同じ意味で「all of a sudden」「all at once」なども使えますので、あわせて押さえておきましょう。

「踵を回らすべからず」を使いこなそう

この記事では「踵を回らすべからず」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「踵を回らすべからず」はかかとを返す時間もないほど、急に物事が展開するというたとえに使われるのでしたね。現代はなにかとスピードが速い時代。史記の時代に由来がさかのぼるこの慣用句も、また使える場面が多いかもしれませんよ。

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【慣用句】「踵を回らすべからず」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校校舎長がわかりやすく解説!

この記事では「踵を回らすべからず」について解説する。

端的に言えば「踵を回らすべからず」の意味は「時間がない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元予備校校舎長で教育系ライターのみゆなを呼んです。一緒に「踵を回らすべからず」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「踵を回らすべからず」の意味や語源・使い方まとめ

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」の読み方は「かかと」、足の裏・背中側の部分のことですね。ただしこの慣用句では「くびす」と読んでいます。さて「踵を回らすべからず」とは、どういう意味でしょうか?踵を回してはいけない、という状況であることは分かりますが、どんなシチュエーションで使われる言葉なのでしょう。

今回は「踵を回らすべからず」の意味や由来・使い方を見ていきます。正しい用例を知り、ぜひ使いこなしてみてくださいね。

「踵を回らすべからず」の意味は?

「踵を回らすべからず」には、次のような意味があります。

かかとを回らすほどの時間もない意で、わずかな時間に急速に事をはこぶたとえに用いる。くびす返らず。

出典:精選版 日本国語大辞典「踵を回らすべからず」

「踵を回らすべからず」とは、わずかな時間に急にことが進む、すぐにある事態になってしまう、まったく時間がないという意味で使われる慣用句です。「踵を回す」様子を想像してみてください。ほんの一瞬で済むことですよね。しかし、その一瞬すらもないというたとえで、急に事が進むことを表現しています。

「踵を回らすべからず」の由来は?

「踵を回らすべからず」の由来は、はっきりとはわかっていません。「踵を回らすべからず」の元になっていると思われる「踵を回す」という言い回しは、中国の歴史書『史記』の「呉起伝」に登場します。どんな部分か、ちょっと見てみましょう。

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