今回は「蒸散」と「蒸発」という二つのキーワードに着目したい。

科学に限ったことではないが、学習中に”似たような用語”を見聞きしたとき、君はどうするでしょうか?その場で「聞いたことあるような言葉です…」としか考えないと、いざテストの時、別の”似たような言葉”を誤って書いてしまう可能性がある。
”似たような言葉”が登場したときは、似ている言葉どうしの意味や関連をしっかり確認することをおすすめしたのです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

蒸散と蒸発の意味

蒸散(じょうさん)」と「蒸発(じょうはつ)」…まずは、よく似たこの二つの言葉の意味をそれぞれ確認しておきましょう。

まず、「蒸散」とは、植物の葉や茎から空気中に水蒸気が放出される現象のことです。英語ではtranspirationといいます。生物学の授業では、植物の代謝について学習するとき言及される言葉ですね。

image by Study-Z編集部

一方で「蒸発」は、液体がその表面から気化していく現象を指します。英語ではevaporation。水に限らず、さまざまな液体に対して使われる言葉ですが、今回は水の蒸発に注目して考えていきましょう。

こちらの言葉は、日常生活でも使うと思います。学校の勉強では、生物学でも出てきますが、化学の授業でしっかり学習するはずです。

そうですね。字面も似ていますし、実際、この二つの言葉を混同してしまう生徒さんが多いんです。

蒸散と蒸発の違い

では、「蒸散と蒸発の違いは何か?」と聞かれたら、どうこたえるのがわかりやすいでしょうか?

ずばり、ポイントは「蒸散は植物が行う活動の一つで、ある程度調節することができる」という点です。

\次のページで「蒸散のしくみ」を解説!/

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そのとおりです。蒸発というのはあくまで物理的な現象。蒸発していく空間の温度(気温)や湿度、圧力を変化させなければ、蒸発の程度をコントロールすることはできません

一方で、蒸散は植物が能動的に調節することが可能です。その仕組みを理解するには、蒸散がどのようにして行われるのかを知っておかなくてはなりません。

蒸散のしくみ

では次に蒸発の仕組みに迫りましょう!

蒸散は気孔で行われる

蒸散は、植物の地上部…とくに葉の裏側で盛んにおこなわれることが分かっています。これは、葉の裏に気孔(きこう)がたくさん存在しているためです。

気孔は、孔辺細胞(こうへんさいぼう)とよばれる特殊な細胞に囲まれるようにして形成されている小さな”あな”。蒸散によって放出される水分のほか、光合成や呼吸のために出入りする酸素や二酸化炭素が、この気孔を通過します。

気孔は、植物が置かれている状態によって、開閉を調節することが可能です。孔辺細胞の形状を変化させることで、孔辺細胞の間にある気孔を閉じたり開いたりできます。

気孔の開閉のしくみ

種によってその形は多少違いますが、代表的な孔辺細胞は腎臓のような形状をした細胞で、2つが向かい合うように位置しています。向かい合った孔辺細胞の間にできるすき間が気孔です。

孔辺細胞は、その内部に水を取り込むことで膨らみ、それによって気孔は開きます

この仕組みが面白いんですよ!

まずは、気孔開閉の要である孔辺細胞の形をご覧ください。細胞壁の厚さに注目しましょう。気孔を形作る、内側の細胞壁が厚くなっています。気孔の反対側に位置する細胞壁は、内側ほどは厚くありません。

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孔辺細胞の内部に水分が流入すると、細胞内部から細胞壁を押す力(膨圧)が発生し、細胞は膨らもうとします。普通の細胞であれば、細胞全体が膨らむように変形するところですが…孔辺細胞の細胞壁には厚さが均等ではありませんでしたよね。細胞壁の薄い部分の方が、厚い部分より伸縮しやすいのです。

すると、孔辺細胞全体が外側に広がるように変形するのです。これによって、気孔がググっと開きます。

反対に、気孔を閉じるときには孔辺細胞から水分が抜け膨圧が低下、孔辺細胞の変形が元に戻る…これが、気孔の開閉する過程の一部です。

気孔が開くとき=水分が孔辺細胞に流入するときには、細胞から水素イオンが流出し、その代わりにカリウムイオンが細胞内に取り込まれることが分かっています。細胞内のカリウムイオン濃度が上昇すると、浸透圧により、水も流入してくるのです。

反対に、気孔が閉じるとき=水分が孔辺細胞から排出されるときには、カリウムイオンが細胞外へ排出され、それに伴って水も出ていきます。この機構には、アブシジン酸という植物ホルモンが寄与していることが知られていますね。

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突き詰めていくともっと複雑な話になるのですが…高校の生物学までであれば、これくらい知っておけば十分でしょう。

\次のページで「蒸散が盛んに起きる条件」を解説!/

蒸散が盛んに起きる条件

上記のような仕組みで、気孔は開閉します。蒸散が盛んに起きるときには気孔を開くわけですが、それはどんな条件だと思いますか?

その通りです!

例えば昼間、日光を十分浴びているような環境では、ガス交換の必要があり、多くの気孔が開きます。それに伴って蒸散量も増加するのです。

また、気温が高いときにも蒸散が盛んにおこなわれることが知られています。植物が体内の水分を蒸散させることは、熱を放散させることにもつながるのです。私たちが汗をかいて体温を下げるのと同じ仕組みなんですよ。

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反対に、土壌中の水分量が減少すると、気孔が閉じ気味になり、蒸散量は減少します。水不足の時には、無駄に水を発散させることは避けたいですからね。

このように、大気の状態や土壌中の成分の変化など、様々な要因によって気孔の開閉は調整され、蒸散量がコントロールされています。植物が生命をつなぐために備えた、素晴らしいシステムといえるのではないでしょうか。

「蒸散」も「蒸発」も、どちらも重要な現象!

「蒸散」と「蒸発」の違いが整理できたでしょうか?「蒸散」の方は、植物のからだがもつ機能の一つであることを忘れないようにしたいですね。

今回はあまり触れませんでしたが、もちろん「蒸発」の方も重要な現象です。液体が蒸発するからこそ、植物も体内の水分を気体として体外に放出できるのですから!

イラスト使用元:いらすとや

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体の仕組み・器官理科生物

似てる言葉に要注意!「蒸散」と「蒸発」の違いは?ポイントは気孔?現役講師がわかりやすく解説します

今回は「蒸散」と「蒸発」という二つのキーワードに着目したい。

科学に限ったことではないが、学習中に”似たような用語”を見聞きしたとき、君はどうするでしょうか?その場で「聞いたことあるような言葉です…」としか考えないと、いざテストの時、別の”似たような言葉”を誤って書いてしまう可能性がある。
”似たような言葉”が登場したときは、似ている言葉どうしの意味や関連をしっかり確認することをおすすめしたのです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

蒸散と蒸発の意味

蒸散(じょうさん)」と「蒸発(じょうはつ)」…まずは、よく似たこの二つの言葉の意味をそれぞれ確認しておきましょう。

まず、「蒸散」とは、植物の葉や茎から空気中に水蒸気が放出される現象のことです。英語ではtranspirationといいます。生物学の授業では、植物の代謝について学習するとき言及される言葉ですね。

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一方で「蒸発」は、液体がその表面から気化していく現象を指します。英語ではevaporation。水に限らず、さまざまな液体に対して使われる言葉ですが、今回は水の蒸発に注目して考えていきましょう。

こちらの言葉は、日常生活でも使うと思います。学校の勉強では、生物学でも出てきますが、化学の授業でしっかり学習するはずです。

そうですね。字面も似ていますし、実際、この二つの言葉を混同してしまう生徒さんが多いんです。

蒸散と蒸発の違い

では、「蒸散と蒸発の違いは何か?」と聞かれたら、どうこたえるのがわかりやすいでしょうか?

ずばり、ポイントは「蒸散は植物が行う活動の一つで、ある程度調節することができる」という点です。

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