落窪物語を特徴づけるのは「分かりやすさ」
この作品の登場人物はとても分かりやすいキャラクター。なかでも、欲が深く無慈悲な「あこぎな」性格の継母が生き生きかつコミカルに描かれています。継母の言動は、悪役として誇張されていますが憎めないもの。思わず笑ってしまうような滑稽さがあります。
大衆小説のようなキャラクラター設定
継母は貴族階級の出身。つまり貴婦人です。そんな貴婦人が、落窪の姫に対して投げつける罵詈雑言(ばりぞうごん)は、読んでいる人を面白がらせたことでしょう。身分が高い人が、品のない言葉を使っていることが、逆にリアルだったかもしれません。彼女の激しい罵詈雑言は、陰湿さがないことも特徴。そのため、あまり反感を抱きません。むしろ正直な人間味さえ感じさせました。
ヒロインの母は皇族の出自。ヒロインは高貴な血を引いています。源氏物語の光源氏も皇族の血筋。つまり、どのような物語でも、主人公は高貴な血筋でありました。落窪の君は、美しく、優しく、純情可憐で、頭も良く、芸術的なセンスも抜群。さらには13弦の琴の弾き手としても名手でした。おまけに裁縫の腕も言うことなし。琴と裁縫が巧み、これは平安時代の理想の女性の典型でした。つまり落窪の姫君はまさに理想化された平安時代のヒロインなのです。
勧善懲悪(かんぜんちょうあく)の物語
意地悪な継母を懲らしめるのは姫君の夫道頼。愛する妻が止めるのもきかず、道頼は、徹底的に継母一家をやっつけます。そのやり方がまた滑稽。継母の最愛の娘の結婚相手に世間でも評判のダメ男を送り込む、清水寺を参詣する継母の一行を邪魔して散々な目に遭わせる、継母の自慢の種の婿を自分の妹の婿にして横取りするなどです。
仕返しの仕上げは三条邸と呼ばれる大きな屋敷を継母から取り戻したこと。元々、この屋敷は、姫が母親から相続したものでした。しかし、姫の父である中納言が継母にそそのかされ、自分の所有物にしようとしていました。いざ引越しのときに道頼が邪魔立て、見事に取り戻したのです。
落窪物語の背景にある平安時代の理想的な女性像
女性と言っても庶民と貴族では生活に雲泥の差。また貴族でもピンからキリまでありました。庶民の女性は生きるために必死。理想を追求する暇はありませんでした。そんな平安時代の女性の理想像について、裕福な豪族クラスに焦点を当てて解説します。
平安時代の女性は教養があるのが必須
当時の教養は、男性なら漢詩漢文、女性は琴や和歌でした。これはモテるうえでの最低限の条件です。平安時代は戦争のなかった時代。そのため、教養こそ出世する、そして玉の輿に乗るための武器でした。玉の輿というのは、男が、資産家で権勢のある家の婿になること。女は、優秀な男性を婿に迎えるために、ひたすら教養を磨いたのです。
女性が簾の奥にいて顔を見せないのが平安スタイル。琴の演奏の巧みさは、女性の価値と評判を高めるための最高の手段でした。屋敷の奥から漏れ聞こえ来る琴の音に惹かれ、男が女の屋敷に通うきっかけになることは多かったのです。つぎに筆文字が美しいこと。そして和歌の内容が素晴らしいこと。これらは今の偏差値と同じで、女性の優秀さのバロメーターになりました。
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