この記事では「瓜田の履」について解説する。

端的に言えば瓜田の履の意味は「疑われやすい行動」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「瓜田の履」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「瓜田の履」の意味や語源・使い方まとめ

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「瓜田(かでん)の履(くつ)」という慣用句を聞いたことはあるでしょうか?ことわざに詳しい人なら、ピンとくるかもしれませんね。今回はこの「瓜田の履」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「瓜田の履」の意味は?

「瓜田の履」には、次のような意味があります。

よそのウリ畑で、くつをはきなおすこと。疑われやすい行動について言う。瓜田にくつをいれず。

出典:三省堂国語辞典(三省堂)「瓜田の履」

「瓜田」とは「ウリの畑」のこと、「履」は「くつ」のことです。ウリは地面に這うように実がなるため、ウリ畑の中でくつを履き直そうと屈んでしまうと、ウリを盗もうとしているのだと誤解されるおそれがあります。「瓜田の履」には、紛らわしい行為はしないようにという戒めが含まれているのです。

「瓜田の履」の語源は?

「瓜田の履」は、「君子行(くんしこう)」という「古楽府(こがふ)」の一節が由来になっています。古楽府とは中国の古い詩のことで、かつては楽曲に合わせて歌われていたそうです。多くの詩人が「君子行」をはじめとする様々な詩題に沿って、詩を詠んでいました。

\次のページで「「瓜田の履」の使い方・例文」を解説!/

君子は未然に防ぎ、嫌疑の間(かん)に処(お)らず。
瓜田に履を納(い)れず、李下(りか)に冠(かんむり)を正さず。
嫂叔(そうしゅく)は親(みずか)ら授けず、長幼は肩を比(なら)べず。

君子たるもの、事が起こる前に防止に努め、他人から疑われるような場には身を置かないこと。
ウリの畑ではくつを履き直さず、スモモの木の下では冠を整えたりしない。
兄嫁と小舅の間では直接ものを手渡さず、年上の者と年下の者とは肩を並べて歩かない。

出典:『文選』巻27「君子行」

「君子行」は、南北朝時代の南朝・梁(りょう)の昭明太子(しょうめいたいし)が編纂した詩文集『文選(もんぜん)』に収録されています。その内容は、冒頭で「君子として守るべき態度や行為」について述べ、「瓜田に履を納れず」から「長幼は肩を比べず」までの4句で実例を挙げ、古代の聖人君子の行いを称賛するものです。

「人から疑われるようなことをしない、男女の別・長幼の順をわきまえるべきだ」という戒めは、現在の私たちの教訓としても通用するのではないでしょうか。

「瓜田の履」の使い方・例文

「瓜田の履」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.瓜田の履というだろう、満員電車では両手で吊り革を掴んで乗るようにしているんだ。
2.瓜田の履という言葉もあるというのに、確認を怠った君が悪い。もっと自分の立場を考えて行動すべきだよ。

例文1は、社会人あるあるかもしれませんね。満員電車に乗った際に女性が近くにいると、痴漢と間違われないように両手を下ろさず吊り革を掴んでいるという人も少なくないようです。

例文2では、何か面倒な事件に巻き込まれた人に対して注意をしています。

\次のページで「「瓜田の履」の類義語は?違いは?」を解説!/

「瓜田の履」の類義語は?違いは?

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次に、「瓜田の履」の類義語を見ていきましょう。

その1「李下に冠を正さず」

「李下に冠を正さず」は、先ほど語源の説明でも出てきましたね。「瓜田に履を納れず」と対になっており、「疑われやすい行いはしないほうがよい」というたとえです。「瓜田の履」という言い方と対比して「李下の冠」といわれることもあります。

「李」とはスモモのことです。スモモは木に実がなるので、手を上にのばして取らなくてはいけません。つまり、スモモの木の下で冠をかぶり直す(=頭に手をやる)ということは、スモモを盗んでいるように勘違いされるおそれがあるということです。

その2「君子危うきに近寄らず」

「君子危うきに近寄らず」という慣用句を聞いたことがある人も多いでしょう。「君子はいつも身を慎んでおり、危険なことはおかさない」という意味です。いかにも漢語風の言い回しですが、出典ははっきりしません。

「瓜田の履」は「疑われやすい行動」をさします。一方「君子危うきに近寄らず」の場合は、そのような行動も含めて「危険」な場面をさすと解釈できるでしょう。幅広いニュアンスで用いることができる便利な言葉です。

その3「火のないところに煙は立たぬ」

噂話などをしていて、「火のないところに煙は立たぬ」という慣用句を聞いたことはありませんか?この言葉は「まったく根拠がなければ噂は立たない」つまり「噂が立つからには、何らかの根拠があるはずだ」ということを示しています。

意味を見ると「噂以外のニュアンスでは使えないのかな?」と思うかもしれません。実際には、噂や言い伝えなどが背景にあって、「そういう話を聞いたこともあるから、案外ありえないことではないのでは?」というニュアンスで用いられることも多いようです。

「瓜田の履」の対義語は?

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ここからは、「瓜田の履」の対義語を見ていきましょう。「疑わしい行動」の対義語と考えると、少しわかりにくいかもしれませんね。ここでは「疑わしい行動や危険をおかさない」というニュアンスと対比する言葉を取り上げてみました。

その1「火中の栗を拾う」

「火中(かちゅう)の栗を拾う」という慣用句は、フランスの詩人ラ-フォンテーヌの寓話が由来になっています。「自分の利益にならないのに、他人のために危険をおかすこと」のたとえです。また、「危険を承知で、あえて問題や責任のある立場を引き受けること」のたとえにも使われます。

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わざわざ火中の栗を拾うようなことをしなくてもよかったのに、どうしてそんな危険な方法を選んだんだ?

その2「虎穴に入る」

「虎穴(こけつ)に入らずんば虎子(こじ)を得ず」という慣用句を聞いたことはあるでしょうか。「虎穴」とは「虎が住んでいる穴」のことです。「虎穴に入る」ということは虎の巣穴に入ることで、すなわち危険な行為をさします

君は止めようとするけれど、ここはあえて虎穴に入るような危険をおかしてでもやらなきゃいけないと思うんだ。

「瓜田の履」を使いこなそう

この記事では「瓜田の履」の意味・使い方・類語などを説明しました。人から疑われるようなことは、誰でもしたくないというのが本音ですよね。「瓜田の履」の場合、ウリがどのように畑になるのかがわかれば、ウリの畑でくつを履き直す行為の紛らわしさも想像がつきやすくなります。そうすれば、慣用句の意味もすんなり頭に入ってくるのではないでしょうか。

「瓜田の履」という表現で用いられるよりも「瓜田に履を納れず」という慣用句でおなじみの言葉ですが、語源が同じ「李下の冠」「李下に冠を正さず」とセットで使われることも多い言葉です。類義語も含め、合わせて覚えておくと便利に使えるのでおすすめですよ。

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【慣用句】「瓜田の履」の意味や使い方は?例文や類語を校正者がわかりやすく解説!

この記事では「瓜田の履」について解説する。

端的に言えば瓜田の履の意味は「疑われやすい行動」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「瓜田の履」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「瓜田の履」の意味や語源・使い方まとめ

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「瓜田(かでん)の履(くつ)」という慣用句を聞いたことはあるでしょうか?ことわざに詳しい人なら、ピンとくるかもしれませんね。今回はこの「瓜田の履」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「瓜田の履」の意味は?

「瓜田の履」には、次のような意味があります。

よそのウリ畑で、くつをはきなおすこと。疑われやすい行動について言う。瓜田にくつをいれず。

出典:三省堂国語辞典(三省堂)「瓜田の履」

「瓜田」とは「ウリの畑」のこと、「履」は「くつ」のことです。ウリは地面に這うように実がなるため、ウリ畑の中でくつを履き直そうと屈んでしまうと、ウリを盗もうとしているのだと誤解されるおそれがあります。「瓜田の履」には、紛らわしい行為はしないようにという戒めが含まれているのです。

「瓜田の履」の語源は?

「瓜田の履」は、「君子行(くんしこう)」という「古楽府(こがふ)」の一節が由来になっています。古楽府とは中国の古い詩のことで、かつては楽曲に合わせて歌われていたそうです。多くの詩人が「君子行」をはじめとする様々な詩題に沿って、詩を詠んでいました。

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