この記事では「遠きに交わりて近きを攻む」について解説する。

端的に言えば「遠きに交わりて近きを攻む」の意味は「遠い国と親交を結び、近くの国を攻め取る」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や語源・使い方まとめ

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「遠きに交わりて近きを攻む」ということわざを聞いたことはあるでしょうか?このことわざに見覚えがなくても、「遠交近攻」と言い換えるとピンとくる人もいるかもしれませんね。

それでは早速「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「遠きに交わりて近きを攻む」の意味は?

「遠きに交わりて近きを攻む」には、次のような意味があります。

遠くの国と親しくして、近くの国を攻め取る。遠交近攻(えんこうきんこう)。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「遠きに交わりて近きを攻む」

一つひとつの漢字は、特に難しいものではありませんね。「交わる」とは、ここでは「交差する」ではなく「交際する、親しくする」という意味です。

「遠きに交わりて近きを攻む」の語源は?

「遠きに交わりて近きを攻む」は、中国の歴史書『史記』范雎(はんしょ)列伝の注釈に由来があります。范雎とは、古代中国の戦国時代・秦(しん)の国に仕えた政治家です。

范雎の主である昭襄王(しょうじょうおう)は、隣国と手を結んで遠方の国を攻めるという対外政策をとっていました。しかし遠国を攻め続けるのは難しく、このままでは隣国に力をつけさせることになってしまいます。范雎は「遠国と手を結んで隣国を攻めるべきだ」と訴え、昭襄王はその政策を採用しました。以後、范雎の進言に沿って昭襄王は自国の領土を拡大し、のちに秦の始皇帝が天下統一する礎を築いたのです。

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「遠きに交わりて近きを攻む」の使い方・例文

「遠きに交わりて近きを攻む」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.「遠きに交わりて近きを攻む」というし、ここはお互いに手を組んであの国を挟み撃ちしようじゃないか。
2.「敵の敵は味方」とも「遠きに交わりて近きを攻む」ともいう。彼にも気に入らないところはあるが、目の前のライバルを倒すためにも協力すべきだろう。

歴史シミュレーションゲームで遊んだことがある人は、例文1のシチュエーションに遭遇したこともあるのではないでしょうか。遠方の国と同盟を結び、隣接している国を共同で攻めるというやり方は、まさに范雎が進言した内容に通じますよね。

漫画やドラマなどで、ライバル同士が手を組むシーンを見たことはあるでしょうか?例文2のように、お互いの利害のために一時休戦して協力し合うことは、スポーツやビジネスの世界でもよく見られます。

「遠きに交わりて近きを攻む」の類義語は?違いは?

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次に、「遠きに交わりて近きを攻む」の類義語を見てみましょう。

その1「遠交近攻」

冒頭で言葉の意味を調べた際、「遠交近攻(えんこうきんこう)」と辞書にもありましたね。このように、「遠きに交わりて近きを攻む」は「遠交近攻」の四字熟語で言い表すこともあります。世界史の授業では、こちらの言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。

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中国の春秋戦国時代は様々な思想家が活躍した時代だ。合従連衡、遠交近攻…今にも伝わる故事成語がたくさん生まれている。

「合従連衡(がっしょうれんこう)」とは、強大な秦に対抗した他の6国がとった合縦策と、それに対して秦がとった連衡策とをあわせていう四字熟語です。「従」は「縦」と同じで、「合従」とは6国が南北に連合することをいいます。「連衡」とは、秦が6国と個別に同盟を結ぶことです。その時々の状況に応じていくつかの勢力が結び合うことや、その駆け引きを指して「合従連衡」と言われるようになりました。

その2「共同戦線」

「共同戦線(きょうどうせんせん)」とは、「二つ以上の団体が、当面する共通の目的のために協力体制をとる」という意味の四字熟語です。「遠きに交わりて近きを攻む」のような距離の指定はなく、他者と協力関係にある場合に使用できます。多くは「共同戦線を張る」という言い回しで使われますので、覚えておくと便利ですよ。

最近気になっている彼女には恋人がいるという。先輩とは恋敵だが、共同戦線を張って彼女と仲良くなるところから始めてみることにした。

「共同戦線」が使われる場面として、政治的な局面を連想する方も多いかもしれません。ですが、この例文のように何らかの課題についてライバルと一時的に手を組み共闘する、という場合にも使うことができます。

「遠きに交わりて近きを攻む」の対義語は?

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ここからは、「遠きに交わりて近きを攻む」の対義語を見ていきましょう。

\次のページで「「遠水は近火を救わず」」を解説!/

「遠水は近火を救わず」

「遠水(えんすい)は近火(きんか)を救わず」とは、中国の古い思想書『韓非子』に由来する慣用句です。文字通り解釈すると、「近場で起きた火事を消すために、遠方から水を運んできても間に合わない(すぐには火が消せない)」という意味になりますね。つまり、「遠くのものは急場の役に立たない」という教訓を表しているのです。あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、「遠水近火」という四字熟語で使われることもあります。

「遠きに交わりて近きを攻む」を使いこなそう

この記事では「遠きに交わりて近きを攻む」の意味・使い方・類語などを説明しました。今回は語源になっている古代中国を例に説明しましたが、世界史を学ぶと、様々な時代や国で採用された戦略だということがわかります。自国を有利に導くために多くの人が腐心してきた跡が、「遠きに交わりて近きを攻む」という慣用句として今も残っているのですね。

漢文由来の言葉は読み方が難しい、と感じる人もいるかもしれません。そのような時は語源を探してみてください。由来になった物語や記述を知れば、その言葉が指し示すものをイメージしやすくなります。「こういう意味だったのか」「だからこう読むのか」という理解にもつながりますので、ぜひやってみてください。

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国語言葉の意味

【ことわざ】「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や使い方は?例文や類語を校正者がわかりやすく解説!

この記事では「遠きに交わりて近きを攻む」について解説する。

端的に言えば「遠きに交わりて近きを攻む」の意味は「遠い国と親交を結び、近くの国を攻め取る」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や語源・使い方まとめ

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「遠きに交わりて近きを攻む」ということわざを聞いたことはあるでしょうか?このことわざに見覚えがなくても、「遠交近攻」と言い換えるとピンとくる人もいるかもしれませんね。

それでは早速「遠きに交わりて近きを攻む」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「遠きに交わりて近きを攻む」の意味は?

「遠きに交わりて近きを攻む」には、次のような意味があります。

遠くの国と親しくして、近くの国を攻め取る。遠交近攻(えんこうきんこう)。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「遠きに交わりて近きを攻む」

一つひとつの漢字は、特に難しいものではありませんね。「交わる」とは、ここでは「交差する」ではなく「交際する、親しくする」という意味です。

「遠きに交わりて近きを攻む」の語源は?

「遠きに交わりて近きを攻む」は、中国の歴史書『史記』范雎(はんしょ)列伝の注釈に由来があります。范雎とは、古代中国の戦国時代・秦(しん)の国に仕えた政治家です。

范雎の主である昭襄王(しょうじょうおう)は、隣国と手を結んで遠方の国を攻めるという対外政策をとっていました。しかし遠国を攻め続けるのは難しく、このままでは隣国に力をつけさせることになってしまいます。范雎は「遠国と手を結んで隣国を攻めるべきだ」と訴え、昭襄王はその政策を採用しました。以後、范雎の進言に沿って昭襄王は自国の領土を拡大し、のちに秦の始皇帝が天下統一する礎を築いたのです。

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