この記事では「灸を据える」について解説する。

端的に言えば灸を据えるの意味は「厳しく叱る、罰する」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
国立大学の国文科を卒業したあおやぎを呼んです。一緒に「灸を据える」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/あおやぎ

幼い頃から本を数えきれないほど読んできた活字中毒。国立大学の文学部国文科に入学し、日本語について学ぶ。2人の子育て経験を生かし、分かりやすく言葉の使い方について解説する。

「灸を据える」の意味や語源・使い方まとめ

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「灸を据える」という言葉を耳にしたことがありますか?「お灸を据える」「御灸を据える」とも言いますね。現代ではあまり馴染みのない「お灸」。なぜ「きつく叱る」といったような意味になるのでしょうか?

早速「灸を据える」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「灸を据える」の意味は?

「灸を据える」には、次のような意味があります。

1.灸で治療をする。
2. きつく注意したり罰を加えたりしてこらしめる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「灸を据える」

「灸」というのは漢方療法の一つです。体験したことがある方もいるかもしれませんね。身体のつぼと呼ばれる場所にモグサを置いて火をつけ、熱で刺激することで症状を改善しようとするものです。「灸を据える」には単にお灸での治療を行うという意味もあります。

しかし、2.の「きつく注意したり罰を加えたりして懲らしめる」という意味で使われることがほとんどといえるでしょう。悪いことをしたり、態度が悪かったりした者に対して厳しく叱り懲罰を与えることをいいます。子供や、自分と同等以下の立場の人に対して使われることが多い用語です。目上の人に対してはほとんど使いません。使うとかなり上から目線に捉えられてしまうので、注意が必要です。目上の人に抗議したり、反対するときには「物申す」「異議を唱える」「苦言を呈する」など他の言い方で表現した方が良いかもしれません。

「灸を据える」の語源は?

次に「灸を据える」の語源を確認しておきましょう。

「灸」(お灸)は皮膚上のつぼ、経穴に対しモグサを燃やして温熱刺激を与える治療法です。中国・チベット・モンゴルなどで発祥し、日本には遣隋使や遣唐使が伝えたとされています。「やいと」とも読み、「やいとを据える」と言われる場合も。

「お灸を据えて、病気を治そうとする」ことを「注意したり罰を与えて、悪い行いを改めさせる」例えに使ったとも考えられますが、お灸は熱く痛みを伴うため、昔から家庭で子供のお仕置きに使われていた歴史があります。そこから「懲らしめる、制裁を与える」といった意味が出てきたとも捉えることができますね。

しかし、1990年代には懲罰や粛正の比喩として「お灸を据える」と表現するのは不適切であるとの主張が日本鍼灸師会から出されました。広く使われている表現ではありますが、使う際には注意が必要かもしれません。

\次のページで「「灸を据える」の使い方・例文」を解説!/

「灸を据える」の使い方・例文

「灸を据える」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.腰痛について相談したら、お灸を据えることを勧められた。
2.彼女の書籍の内容は前作と見違えるようだ。編集者がしっかりとお灸を据えたに違いない。
3.彼のハラスメントは目に余るものがある。事務局からの懲戒というきついお灸が必要だね。

1.はそのまま、灸による治療を行うこと。2.はしっかり指導し、良くない点を改善するよう促すというニュアンスを含んでいます。3.は罰を与えるという意味ですね。また、「灸を据える」から転じて「お灸」だけでも厳罰や制裁という意味で使われることがあります。

「灸を据える」の類義語は?違いは?

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「きつく叱ったり、罰を与えて懲らしめる」という意味の「灸を据える」。同じような意味の言葉をご紹介します。

その1「油を絞る」

「灸を据える」の同義語としてあげられるのは、「油を絞る」です。菜種や大豆、ごまなどから油を作るときは、圧搾といってぎゅうっと押しつぶして絞ります。油を絞るように強く叱って締め上げる、ということで「人の過ちや欠点を厳しく叱って懲らしめる」という意味の慣用句になったのです。親から子、上司から部下、先生から生徒などの「しつけ、指導」のための理由があって叱る場合の表現になります。「こってり油を絞られた」「たっぷり油を絞られた」と油に関係する修飾詞がつくこともありますよ。

「油を絞る」は「灸を据える」と違い「油」だけでは「叱る・叱られる」意味を持つことはありません

\次のページで「その2「大目玉を食わす」」を解説!/

その2「大目玉を食わす」

こちらも目上の者が目下の者をこっぴどく叱る場合に使う慣用句です。目玉が大きく見えるほどかっと目を見開いた形相で叱る様子を表し、「大目玉を食う(くらう)」と受け身形で使われることも多いですね。こちらも立場が上の者から下の者へ、悪い行いや態度について叱責する場合に使われます。

「灸を据える」と同様、「大目玉」だけで「ひどく叱られる」という意味を表すことも多いです。

「灸を据える」の対義語は?

「灸を据える」の対義語にはどんなものがあるのでしょうか。「厳しく叱る、罰を与える」の反対の意味といえば、「褒め称える、褒美を与える」などが考えられます。

「拍手喝采」

「手を叩きながら、大声で褒め称えること」という意味です。拍手というのはもちろん、手を叩くこと。喝采はどっと褒めはやすことです。ぱっと思い浮かぶ光景はコンサートなどでのスタンディングオベーションでしょうか。その他にも良い行いをした人に周囲が「拍手喝采」したり、素晴らしい成果をあげた人にも「拍手喝采」することがありますね。

「拍手喝采」には大勢の人が一人を褒め称えるというイメージがあります。一人が一人を褒める場合に使うのも間違いではありませんが、「大勢に感じるほど派手に喜び褒め称えた」光景が受け手に伝わるでしょう。

「灸を据える」の英訳は?

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「灸を据える」を英語で表すとどのようになるのでしょうか。

「give a lesson for ○○」

○○には対象となる人や物が入ります。直訳では「○○にレッスンを与える」という意味ですが、この「lesson」は「授業」という意味ではなく「教訓」という意味です。「○○に教訓を与える」つまり「今の状態ではいけないということを教える」ということになり、誰かを叱ったり、罰を与えて行動の改善に働きかけるという意味になります。

「lesson(授業)」に似た意味を持つ単語として「lecture(講義)」がありますが、「lecture」には教訓という意味はありません。ただ、動詞として使うと「小言を言う」という意味になりますよ。

\次のページで「「灸を据える」を使いこなそう」を解説!/

「灸を据える」を使いこなそう

この記事では「灸を据える」の意味・使い方・類語などを説明しました。日常でも良く耳にしたり、使うことがある慣用句だと思いますが、誰かに対して使う場合は上からの言い方になってしまうため、注意が必要です。また、鍼灸治療に携わる方には気分の良い表現ではないかもしれません。配慮が必要な表現といえますので、気をつけながら使っていけると良いですね。

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【慣用句】「灸を据える」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「灸を据える」について解説する。

端的に言えば灸を据えるの意味は「厳しく叱る、罰する」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
国立大学の国文科を卒業したあおやぎを呼んです。一緒に「灸を据える」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/あおやぎ

幼い頃から本を数えきれないほど読んできた活字中毒。国立大学の文学部国文科に入学し、日本語について学ぶ。2人の子育て経験を生かし、分かりやすく言葉の使い方について解説する。

「灸を据える」の意味や語源・使い方まとめ

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「灸を据える」という言葉を耳にしたことがありますか?「お灸を据える」「御灸を据える」とも言いますね。現代ではあまり馴染みのない「お灸」。なぜ「きつく叱る」といったような意味になるのでしょうか?

早速「灸を据える」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「灸を据える」の意味は?

「灸を据える」には、次のような意味があります。

1.灸で治療をする。
2. きつく注意したり罰を加えたりしてこらしめる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「灸を据える」

「灸」というのは漢方療法の一つです。体験したことがある方もいるかもしれませんね。身体のつぼと呼ばれる場所にモグサを置いて火をつけ、熱で刺激することで症状を改善しようとするものです。「灸を据える」には単にお灸での治療を行うという意味もあります。

しかし、2.の「きつく注意したり罰を加えたりして懲らしめる」という意味で使われることがほとんどといえるでしょう。悪いことをしたり、態度が悪かったりした者に対して厳しく叱り懲罰を与えることをいいます。子供や、自分と同等以下の立場の人に対して使われることが多い用語です。目上の人に対してはほとんど使いません。使うとかなり上から目線に捉えられてしまうので、注意が必要です。目上の人に抗議したり、反対するときには「物申す」「異議を唱える」「苦言を呈する」など他の言い方で表現した方が良いかもしれません。

「灸を据える」の語源は?

次に「灸を据える」の語源を確認しておきましょう。

「灸」(お灸)は皮膚上のつぼ、経穴に対しモグサを燃やして温熱刺激を与える治療法です。中国・チベット・モンゴルなどで発祥し、日本には遣隋使や遣唐使が伝えたとされています。「やいと」とも読み、「やいとを据える」と言われる場合も。

「お灸を据えて、病気を治そうとする」ことを「注意したり罰を与えて、悪い行いを改めさせる」例えに使ったとも考えられますが、お灸は熱く痛みを伴うため、昔から家庭で子供のお仕置きに使われていた歴史があります。そこから「懲らしめる、制裁を与える」といった意味が出てきたとも捉えることができますね。

しかし、1990年代には懲罰や粛正の比喩として「お灸を据える」と表現するのは不適切であるとの主張が日本鍼灸師会から出されました。広く使われている表現ではありますが、使う際には注意が必要かもしれません。

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