

端的に言えばけしうはあらずの意味は「そう悪くはない」だが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
元大手予備校校舎長で現在は教育系ライターのみゆなを呼んだ。一緒に「けしうはあらず」の意味や例文、類語などを見ていくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。
ライター/みゆな
元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。
「けしうはあらず」の意味や語源・使い方まとめ

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「けしうはあらず」を見て、古めかしい言い回しだなあと感じましたか?それもそのはず、「けしうはあらず」は古文で使われる表現です。日常会話や現代語で使う頻度は高くありませんが、小洒落た言い回しとして知っておいて損はないですよ。
今回は「けしうはあらず」を品詞分解しつつ、意味や使い方を詳しく解説していきます。それでは早速始めましょう。
「けしうはあらず」の意味は?
「けしうはあらず」は「けしう+は+あら+ず」という4つの品詞に分解できます。意味の中心となっている「けしう」は「怪しう/異しう」と表記し、次のような意味を持つ語句です。それぞれの要点を見てみましょう。
1.程度のはなはだしいさま。非常に。
2.(あとに打消しの語を伴って用いる)たいして。それほど。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「けしう」
「けしう」を漢字で書き表すと「怪しう/異しう」となりますが、「怪しい」という意味はなく程度を表す言葉であることに注意しましょう。肯定文では「とても」、否定文では「それほどでも」というニュアンスになります。
「けしうはあらず」を文法的に見てみましょう。
● 形容詞「けし」(シク活用)の連用形「けしく」がウ音便になったもの→「けしう」
● 係助詞「は」
● 動詞「あり」(ラ行変革活用)の未然形「あら」
● 助動詞「ず」
最後の「ず」は打消しの助動詞です。「けしう」は否定文では「たいして、それほどでも」という意味になるのでしたね。したがって「けしうはあらず」とは、「そんなに悪くはない、対して劣ってはいない、まあまあ良い」という意味をあらわします。
「けしうはあらず」の使い方・例文
「けしうはあらず」は古文で使われる表現です。ここでは実際に「けしうはあらず」が使われている古文を引用し、用法や使われるシーンを解説していきましょう。
1.むかし、若き男、けしうはあらぬ女を思ひけり。(伊勢物語)
2.中の品のけしうはあらぬ、選り出でつべきころほひなり。(源氏物語)
3.『何のわきまへか侍らん』とはいひながら、けしうはあらず、あへなんと思ふ気色なれば。(増鏡)
「けしうはあらず」は文脈によって、さまざまな程度を表現します。
例文1は「伊勢物語」の第40段に書かれている一節です。解釈すると「むかし、ある男が容姿が悪くはない女を愛した」となります。例文2は「源氏物語」の『帚木』の章より、「(役人の地位にも細かい等級があるなかで)中流の身分で、まあ悪くはない者を選び出せる世の中だよ」という意味ですね。例文3は「増鏡」ですね。聞き手が老婆に昔の話をしてほしいと頼んだところ、老婆は「昔のことは忘れてしまったよ、と言いながらもまんざらではない様子だった」という場面です。
このように「けしうはあらず」は容姿や身分、相手の様子、場の雰囲気など、いろいろなことに対して「悪くはない」と言いたいときに使えます。

例文の最後に紹介した「増鏡」は平安時代に成立した歴史物語だ。タイトルに「鏡」とつく他の3つと合わせて「四鏡(しきょう)」と呼ばれているが、他の3つは押さえているだろうか?
「四鏡」とは、「増鏡」のほかに「大鏡」「今鏡」「水鏡」があるぞ。入試問題で出ることもある、しっかり確認しておこう。
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